2021年度の日本のエネルギー自給率は13.3%となり、福島第一原子力発電所事故以降、20%を割り込んでいます。生成AIの普及などにより電力需要の増加が見込まれる一方、国際情勢の不安定化が重なり、エネルギー安全保障の重要性も高まっています。今回のインタビューでは、元経済再生担当大臣である山際大志郎議員に、電力の安定供給と脱炭素、経済成長を同時に実現するために必要な現実的な政策についてお伺いしました。
(前回インタビュー:https://say-g.com/interview-yamagiwa-daishiro-7660)
(取材日:2024年7月11日)
(聞き手・文責:株式会社PoliPoli 秋圭史)
山際大志郎(やまぎわ だいしろう)議員
1968年生まれ。東京大学大学院修了後、獣医師や動物病院の経営を経て、
2003年に衆議院選挙に初当選(6期)。
経済再生担当大臣や衆議院内閣委員長などを歴任。
好きなものは炊き立ての白いご飯。
エネルギー政策は不確実性が高い。だからこそあらゆる選択肢をテーブルに乗せた議論を。
ー山際議員の今年の注力分野はエネルギー政策とお伺いしました。その背景にある問題意識を教えてください。
初当選以来、エネルギー問題にはずっと関心を持って取り組んできました。エネルギーはすべての経済活動の基盤です。そのエネルギーが安定供給されなければ私たちの生活は成り立ちません。社会を支えるすべての基盤にこそ政治家として取り組む価値があると考え、この分野に取り組んできました。
今年は3年に1度の「エネルギー基本計画」が改定される年です。その改定の議論を通じて、現在政府が推進する政策をレビューしながら、2050年のカーボンニュートラル(※)を実現するための知恵を絞らなければなりません。その中でも足下で電力需要が急激に伸びていることに対して危機感を持っています。このことを一年前に予想できた人はいませんでした。日本は人口が減少しているのだから、電力の消費量も減少していくだろう。これが大方の見方でした。しかし生成AIやそれに伴うデータセンターの設置など、新たなテクノロジーが浸透することによって、V字を描くように電力消費量が増加しているのです。新たな技術の登場によって、それを支えるエネルギー政策も大きな影響を受けます。その一方、エネルギーはリードタイムが長い分野です。例えば火力発電所を建設することにしても実際に稼働するまでは数年がかかる。そのような背景もあり、これからを見据えたエネルギー政策に改めて注力しようと考えたのです。
(※)カーボンニュートラルとは、温室効果ガスの排出量と吸収量を均衡させること。2020年、政府は2050年までに温室効果ガスの排出を全体としてゼロにする、カーボンニュートラルを目指すことを宣言した。
ー現在のエネルギー政策をどのように評価していますか。
現在、岸田政権ではこれまで取り組むことができなかった政策に取り組んでいます。それは原子力発電の利活用に踏み込むことです。脱炭素に向けた動きが全世界的に進む中、原子力発電の活用はそれを実現する上での確実な方法です。
ただ日本では東日本大震災に伴って発生した福島での原発事故を通じて、原子力発電や放射能に対する恐怖感が国民の中に浸透しました。安全性の確保は絶対的に重要ですから、国民の中に広がる不安感とバランスを取らなければなりません。ただここ数年で国民の中にも脱炭素への取り組みを進めることへの必要性が浸透してきた結果、岸田政権では原発を利活用する方向に舵を切ることができたのだと思います。
ー原子力発電をめぐっては再稼働賛成が反対を上回る世論調査も出始めました。
原発事故から13年が経過する中で、特に西日本地域では原子力発電を通じて、安定的に電力が供給されてきた実績があります。十数年かけて原子力規制委員会が改善を続けてきた安全性の審査プロセスに対しても信頼感を持ってもらえてきたのではないでしょうか。
その上今年の夏もとても暑く、電力を大量に必要としています。国民一人一人が、本当にこのまま二酸化炭素を排出し続けてよいのか、環境への意識が高まっているなかで、原子力発電も含めてあらゆる手段をフラットに議論できる環境が整いつつあります。政治がその状況を正確に認識した上で、誤魔化すことなく現実的に何ができて何ができないのかを国民のみなさんの前に示す必要があります。
ーエネルギー政策に関する議論で留意すべきポイントは他にもありますか。
供給側も需要側も非常に不確実性が高いことです。先ほど、生成AIが電力需要を増やしたことを述べましたが、これが将来にわたって続くかどうかは不透明です。将来的には、消費電力を抑える技術革新が起こる可能性もあります。このため、何がどの程度電力を消費するのかを考慮して、エネルギー基本計画に盛り込むのは非常に難しい問題なのです。
エネルギー政策を考える上では、取り得るすべての選択肢をテーブルの上に載せた上で議論をする必要があります。これまでは原子力発電という非常に有力な選択肢について曖昧な表現や態度をしてきました。ただこれは今までの政権が悪かった、という単純な話ではありません。私たちの国は民主主義国家ですから。国民が受容しないものを政府が推進することはできません。
ただ原子力も使わざるを得ないと思う人が徐々に増えてきたことで、選択肢が増えたことはエネルギー政策全体にとっても前向きなことだと思います。エネルギーを確保するために必要な手段もさまざまでそれぞれに特徴があります。どのようなバランスで何を活用するのかは複雑な連立方程式を解くようなもので、しかも答えは一つに決まっているわけでもない。だからこそエネルギー基本計画でも幅を持たせるような形で着地させる必要があるでしょうね。ただエネルギー政策に魔法の杖はありません。だからこそ精緻な議論をしないといけない。その一方で不確実性が高いから政治が一生懸命考えても全部成功するとは限りません。柔軟性が何より重要だと思います。
ー「柔軟性が大切」とのことですが、政治・行政は大きな組織なので小回りが効かない印象もあります。
それはその通りです。とはいえ、現場レベルで柔軟な対応をするためには逆に野心的な目標を設定することが重要なのです。エネルギー政策はさっきも言ったようにリードタイムが長い分野ですから、もう2030年の絵姿はだいたい想像がつく。
なので次のターゲットは2040年です。2040年を迎えたとき、どのようなエネルギーミックスを実現するのか。そのための議論が必要です。それでも技術は日進月歩だから、すべてを織り込んだ議論はできません。例えば、今は太陽光発電も既存のソーラーパネルから建物の壁面に貼り付けることができるとても薄い素材の「ペロブスカイト」と呼ばれる技術も出てきました。フュージョンエネルギー(※軽い原子核を高温・高圧で融合させて重い原子核に変わる際に放出される「核融合エネルギー」のこと)についても、これまでは実用化は2100年ごろと予想されていましたが、2030年代には発電ができる状況になるかもしれないという予想も出てきました。これは当初の予想を大幅に前倒しするスケジュールですよね。
このような技術はエネルギー政策を作る上での議論を根本から変える可能性があります。なぜならエネルギー政策はリードタイムが長いというこれまでの前提を変えてしまうからです。長期的な視野に立って、不確実性を織り込んだ議論をしなければならないのがエネルギー政策の難しいところです。
日本を真に自立した国にするために
ーエネルギー政策の先に見据える政策分野はありますか。
新しいモビリティの形に注目しています。自動運転技術を含めて、モビリティの世界には100年に一度の大変革期が到来しています。これまでの自動車会社は自動車を製造して売ることが仕事だったところ、移動することの付加価値をどう提供するのかにゲームが変わりつつあります。
モビリティの世界がどう変革するかの全体像は誰も描けていないと思いますが、ゲームチェンジャーとなるようなバッテリー技術の実用化も予想でき、ボラティリティ(不確実性)が非常に大きい。もちろんエネルギー政策はモビリティをはじめとする私たちの経済社会のすべての基本ですから、これからも注力していきます。
ーエネルギー政策を通じて実現したい社会の形はどのようなものですか。
エネルギーはとにかく日本のアキレス腱です。現在、日本はエネルギーを確保するために自分たちが一生懸命稼いだお金を海外に流出させてしまっています。日本が本当に自立した国になるためには、エネルギーの自立がとにかく必要です。だからどんなに批判を受けても自立した国を目指すという目標に向かって、ブレずに突き進んでいきたいと思います。意思があるところに道が開ける。その姿勢で次の世代に対して責任を果たしていきます。