2024年6月に世界経済フォーラムが公表した「ジェンダー・ギャップ指数」では、日本は146か国中118位と、前年の125位から7ランク順位をあげたものの、先進国主要7か国では最下位が続いています。
男女共同参画社会の実現に向け、ジェンダー平等政策の重要性はますます高まっている中で、なぜ、なかなか改善されないのか。立憲民主党「ジェンダー平等推進本部 女性候補者支援チーム」事務局長を務める桜井周議員に、ジェンダー平等のための取り組みについてお伺いしました。
(取材日:2024年8月27日)
(聞き手・文責:株式会社PoliPoli 井出光)
桜井周(さくらい しゅう)議員
1970年兵庫県伊丹市出身。米ブラウン大学大学院環境学修士課程修了。
国際協力銀行、特許事務所を経て、2011年より伊丹市議会議員を2期務める。
2017年衆議院議員選挙初当選(2期)。趣味はマラソンと献血。
子育てで何度も壁にぶつかり政治家へ
ー桜井議員は大学・大学院で農学を修められています。農学部出身の国会議員は珍しい印象があるのですが、政治家を目指す前のキャリアについて教えてください。
もともと環境問題に関心があり、京都大学では農学部に進み、大学院時代は滋賀県の琵琶湖の水質維持について研究していました。就職活動では、環境政策に携わりたいとの思いで初めは環境省に入省しようと考えていました。
しかし、せっかくだからとさまざまな業種を受けていた中で、日本だけではなく、アジアの環境問題に関心を持つようになりました。急速に経済発展するアジアでは、過去の日本のような環境汚染や人への健康影響が課題となっています。日本から国際援助を通じてアジアの環境課題を解決できるなら、と国際協力銀行に就職しました。
ーその後、政治家を目指したきっかけは何だったのでしょうか。
きっかけは大きく2つあります。
1つ目は、日本の財政に疑問を持ったこと。
1997年、アジア通貨危機が起こりました。私はその時国際協力銀行でフィリピンやインドネシアの円借款(開発途上国に対して低利で長期の緩やかな条件で開発資金を貸し付けることで、開発途上国の発展を促す仕組み)を担当していて、アジア通貨危機の影響をものすごく感じました。
日本は各国に財政健全化を求め、その結果インドネシアは財政健全化が進みました。しかし足元を見ると、日本は自国の財政健全化が全然進んでいない。他国にあれこれ指図する割に、自国の財政健全化が進んでいないことにもやもやしました。
2つ目は、自分が子育てする際にいくつもの壁にぶつかったからです。
まず、産院を予約できない。妊娠がわかり地元の産院で分娩予約をしようとしたら「もう予約がいっぱいです」と断られてしまって。別の産院でも断られました。産科医の数が少なくなり地方では分娩できる病院がどんどん減り、自分が「出産難民」当事者となったことで「これではいけない」と強く感じました。
次に直面したのは保育園不足の壁。我が家は共働きで、子どもが生まれる前から「保活(保育園見学などの入園準備)」もしていたものの、保育園に入れず子どもが待機児童になってしまいました。少子化で子どもの数は減っているのに、なぜ保育園が足りないのか。共働きで夫婦で税金を納めれば国の財政も潤うはずなのに、なぜ保育園を増やさないのか。「自分が議員になってこうした世の中を変えていくべきだ」とふと思ったんです。まずは地方議員から、と思い統一地方選挙への立候補を決めました。
ー国際協力銀行から地方議員への転職は、海外から国内へと仕事内容がガラリと変わったのではないでしょうか。
ちなみに妻は「当選するかどうかわからないのに」と立候補に猛反対でしたね。結果的には妻の反対を押し切る形で2011年に伊丹市議会議員選挙に立候補し、当選することができました。伊丹市議会議員を2期務めました。それまで海外向けの仕事ばかりだったので、市議会議員になってからは日本の制度のことを改めて勉強する機会になりました。
一方で、市議会議員の仕事は国際協力銀行の仕事とも通ずるものがあると気づきました。国際協力銀行では、プロジェクトごとに予算を検証し、各事業がうまくいくようにマネジメントしていくのですが、市議会議員も一つ一つの事業が本当に市民のためになるのかという目でしっかり精査していくのが仕事です。国際協力銀行での経験はしっかり活きていると思います。
ー2017年には衆議院議員選挙に立候補されています。国政を目指したのはどのような思いがあったのでしょうか。
日本では地方の裁量で変えられることが限られていると感じたからです。
制度が凝り固まっていて、なにか新しいことをやろうとすると「これが国の基準です」と言われたり、逆に、国にリーダーシップを持って決めてほしいことがなかなか決まらなかったり。だったら国政に行ってやろうと、2017年に衆議院議員選挙にチャレンジしました。
なぜ東大に女子学生が少ないのか 日本のジェンダー格差
ー桜井議員は国会でジェンダー平等にも取り組まれています。日本のジェンダーギャップ指数は先進国でも低い水準ですが、どのような課題を感じていますか。
ジェンダーギャップ指数については、世界ランキングだけではなく、指数の中身を見ていくことが大切です。
実は、日本も義務教育まではジェンダーギャップはあまりないんです。世界では、女の子であれば中絶してしまう、生まれても十分に世話をしない、学校に通わせずに家の手伝いをさせる、という国もありますが、日本では子どものうちは男女平等に育てられています。
日本においてジェンダーギャップが生まれてくるのは大学以降です。文部科学委員会に所属しているときに林芳正大臣(当時)に、「大臣の二つの出身大学の男女比について、東京大は8:2に対してハーバード大は5:5、この差はどうしてなのでしょうか?」と質問しました。みなさんにもぜひ考えてほしいと思っています。
さまざまなデータから考察すると、そもそも国立大学では理系と文系の定員では理系の方が多いのですが、理系学部に進学する女子が少なく、結果として全体で女子比率が押し下げられる。また女性が浪人することや、地方から上京することが忌避される傾向があります。
理系学部に進学する女性が少ないのは、実はアメリカでも見られる傾向です。はっきりとした理由はわかりません。受け入れ体制が整っていないのか、そもそも興味を持ちづらいのか。「理系=男性」という固定概念があるのかもしれませんね。このことにもしその国の文化や価値観が関わっているのだとしたら簡単に変えられるものではありません。
ただ政策によって変えられる部分もあると思うんです。たとえば地方出身の学生が、都会の大学に安心して通えるように学生寮を整備する。ただ「ジェンダーギャップ指数が悪い」で話を終わらせてしまうのではなく、具体的にどこに問題があってどう解決するのかを考えていく必要があるのです。
ー政治分野における女性活躍も進んでいるとは言えません。桜井議員は立憲民主党「ジェンダー平等推進本部 女性候補者支援チーム」事務局長を務めていますが、現状についてどのように感じていますか。
日本の人口が男女半々である以上、国民を代表する国会議員も男女半々が望ましいと考えています。しかし、実態はかなりかけ離れていて、女性議員の割合は衆議院で約10%、参議院で約27%です。
女性の方が長生きなので、有権者は女性の方が多いんです。それでもなお女性議員の割合がこんなに低いのはなぜなのか。私は、まず女性候補者が少ないことに課題を感じ、現在、立憲民主党内で女性候補者を増やす取り組みを行っています。
地域を丹念にまわり、問題意識を持って活動している方に地道に声をかけていますが、やはりリスクをとることに躊躇される方も多いですね。選挙って、そもそも普通の人には敷居が高い。「よくわからないから自分に政治家は無理だ」と思いこんでいる人も多いので「選挙ってこうやって戦うんだよ」「こうすれば当選が見えてくるよ」と道筋を示していくことが大切だと感じています。
2017年に衆議院議員になって以来、地道に活動を続けた結果、兵庫6区の立憲民主党の地方議員は男女半々になっています。私が過去に立候補を勧めたある女性も、現在地方議員として活躍されています。
「選択的夫婦別姓」は早く進めるべき 一人ひとりが才能を発揮できる社会を
ー女性が力を発揮できる社会の実現を考える上で「選択的夫婦別姓」の議論も今活発です。桜井議員はどのようにお考えでしょうか。
「選択的夫婦別姓」は早く進めるべきだと考えています。
反対する方は、「選択的夫婦別姓」について誤解があるのではないかと思います。「同姓」か「別姓」かを選択できる制度であって、全員が「別姓」になるわけではないんですよね。
また、「戸籍上の名前は夫婦同姓とし、普段の生活では通称使用でいいじゃないか」という反論もよく目にするのですが、それでは困る場面が多くあります。たとえば、海外で仕事をする際、通称では理解されないので、パスポートの名前と仕事上の名前が違うことでセキュリティを通れないとか、旧姓では銀行口座が作れないので事務手続きが煩雑になってしまったりとか。名前を変えることで誰に迷惑をかける訳でもないのに、なぜ選択的夫婦別姓は導入できないのだろうと思います。
ーどのような思いでここまでジェンダー平等に取り組まれているのでしょうか。
それぞれが本来持っている力を発揮してほしい、という思いからです。
性別にかかわらず、本人がやりたいことを存分に、その力を発揮してもらうことが社会にとっても、本人にとっても最良です。
今はまだ、ジェンダーに限らず、さまざまな理由で自分の才能が発揮できていない方も多くいらっしゃいます。そうした方々が自分の力を発揮できるような環境を作っていきたいと思っています。そうして一人一人が充実した人生、幸せな人生を送ることが社会全体の幸せに繋がると信じています。