「少子高齢化」は、日本社会にとって最も深刻な問題の1つです。
人口減少や労働力不足、年金や介護問題など、社会全体に大きな影響を与えています。
地方の過疎化も進行し、地域格差も広がっています。
これらの課題を解決するためには、働き方改革や子育て支援策など多岐にわたる対策が必要でしょう。
今回は以下の内容についてわかりやすくご紹介します。
- 少子高齢化の概要
- どんな影響を私たちの生活に与えるのか
- これから出来る対策
1、少子高齢化とは
少子高齢化(しょうしこうれいか)とは「子どもが減少し(少子化)、高齢者が増加(高齢化)する社会」を示します。
ここで、日本の少子化と高齢化について詳しく見てみましょう。
(1)少子化とはどのような状態か
まず、「少子化」ってどういう状態なのの?と疑問に感じる人もいると思うので、少子化の判断方法から解説したいと思います。
少子化かどうかは合計特殊出生率を割り出し、水準と比較することで判断できます。
この合計特殊出生率とは女性が一生の間に生む子どもの数を指します。人口維持に必要な水準(日本では2.08前後)を長い期間下回ると「少子化」と呼ばれる状態になります。
ちなみに2021年の日本の合計特殊出生率は1.30となっていて、人口維持に必要な水準を大きく下回っています。
つまり人口維持ができないため総人口が減少してしまいます。
(2)高齢化とはどのような状態か?
一方で「高齢化」は65歳以上が社会の何割を占めているのかで高齢化を計ります。
全体の7%を超えると高齢化社会、14%を超えると高齢社会、21%を超えると超高齢化社会とされ、2022年の日本の高齢化率は29.1%なので超高齢化社会といえます。
2、少子高齢化の原因
ここでは少子高齢化の具体的な原因を見ていきましょう。
(1)少子化の原因
少子化の原因には大きく3点に分けられます。
- 「女性のライフスタイルの変化」
- 「女性の社会進出」
- 「社会経済の悪化」
以上の3点が挙げられます。
女性のライフスタイルの変化とは、子作りは結婚とセットで行われることが一般的です。
近年、未婚化、晩婚化が進み少子化の要因になっています。
また女性が社会進出を果たし、企業などで重要な役職に就くケースが年々増加しています。
その一方で子供を作るためには一度産休などの制度を使い職場を離れなくてはなりません。
また、産休や育児休暇を取得できても女性1人に育児の負担が集中するワンオペ育児になることが多いです。
そのため、産後に復職することが可能であっても子育てと働くことの両立は大変困難なことです。
この女性の社会進出が未婚化や晩婚化の1つの要因となっていることは否めません。
実際に日本の出生率のターニングポイントともいえる1970年~80年代を見てみると、1985年に男女雇用機会均等法の成立し、その後バブル崩壊、デフレなどの社会背景とともに現在まで続く出生率・出生数の落ち込みが発生しています。
引用:内閣府 少子化の変遷
(2)高齢化の原因
高齢化の原因には医療の進歩による平均寿命の上昇が挙げられます。
国のデータによる1947年の平均寿命は50歳前後でしたが、2021年には男性が81歳、女性は87歳と著しく伸びています。
さらに人生100年時代と言われているくらい今後もさらに寿命が延びることが予想されています。
また少子化の進行により、全体人口を占める高齢者の割合が増えていることも高齢化の原因として挙げられます。
3、現在の日本の状況
現在の日本の人口分布を国のデータで見てみると、2022年で高齢者と呼ばれる65歳以上の割合は全体の29%、15歳~64歳は59.4%、15歳以下はたったの11.6%。50年後の2065年ではさらに若者が減少し、高齢者が増加することもわかっています。
参照:総務省統計局
4、少子高齢化の何がまずい?
少子高齢化はどのような悪影響を及ぼすのでしょうか。詳しく見ていきましょう。
(1)労働力不足|経済への影響
少子高齢化は若者の数が減り、高齢者の割合が増える社会を指します。
つまり、働き手である若者が少なくなることで深刻な労働力不足を引き起こします。
高齢者でも若者の代わりに働けるものの、後継者の育成や肉体労働は厳しくなります。
後継者育成ができなければ日本のモノづくり文化を消滅させてしまう可能性もあります。
また、介護や建設など肉体労働が必要とされる業種は社会の土台を支えているため、特定の業界での人手不足は社会全体の崩壊にも繋がりかねない事態を引き起こします。
また、労働力人口は2014年の6,587万人から2030年には5,683万人へと減少(内閣府調べ)していくことから働き手よりも支えられる人の方が多くなり、国内の生産性・成長率が止まり、日本経済が停滞する恐れもあります。
ちなみにこの労働力不足が外国人労働者の受け入れを拡大する方針へと繋がっています。
外国人労働者とは?外国人労働者の受け入れ拡大と注意点について
(2)若年層への負担増(社会保険料の負担の増大など)
少子高齢化は若年層の負担も増加させます。
身近な例でいえば、親の介護です。
寿命が伸びたことで長期間の介護が必要になり、少子化によって1人の子どもが親の介護を担わなければいけない状態が予想されます。
また、高齢化が進めば国が負担する医療費も膨らみます。
私たちは病院に行って医療費の3割を支払っていますが、残りの7割は税金が使われています。
高齢化が進めば病院にかかる人数も多くなり、全体の寿命は延びるものの、延びれば延びるほど、そこに支出される税金を満たすために若年層の税金が増えるという負のスパイラルも発生します。
(3)年金制度の崩壊
毎月給料から社会保険料が引かれている人、自営業であれば毎月年金を収めている人もいるでしょう。
「年金」とは社会全体で支えあう国の制度のことで、私たちが支払っている年金は将来の老後のために積み立てているものですが、同時にそのお金は現在の高齢者の年金に支出されています。
つまり、私たちが高齢者になった時は同じように働き手が収める年金から積み立てた分のお金をもらうことができます。
少子高齢化が進めば進むほど年金を受け取る人は増加し、必要な年金額は増えていきます。
しかし、働き手は少子化によって減るため、この年金制度のバランスが崩れていきます。
これが少子高齢化による年金制度の崩壊と危惧されているものです。
5、少子高齢化対策
それではここから少子高齢化対策について詳しく見ていきましょう。
(1)少子化対策
社会システムの崩壊を招きかねない少子高齢化を止める最善策は、少子化対策を行って未来の日本を担う子どもを増やしていくことです。
国の少子化対策は1995年のエンゼルプランから始まります。
きっかけは1990年の1.57ショックで、「丙午」(ひのえうま)という60年に一度巡ってくる災いの迷信が国民に広まったことであり、合計特殊出生率が1.57と過去最低を記録しました。
エンゼルプランは女性の仕事と子育ての両立支援、子どもの生み育てやすい環境づくりを文部、厚生、労働、建設の4大臣合意のもとに10年間促進するもので、「女性は働かず子育てをする者」という概念が覆された機会にもなりました。
エンゼルプランにはじめ、従来の少子化対策は「結婚後・出産後」に焦点を当てたものが多かったことに比べ、近年の少子化対策では結婚新生活支援事業など「結婚前」の支援も含まれていることが特徴的で、出産後の支援についても控除や支援金にかぎらず、待機児童の解消(2013年)や放課後子ども総合プラン(2014年)など環境面の整備にも注力されています。
また男性の育児休暇取得を国は推奨しています。
これは子供を育てる際にかかる負担が女性一人に集中する「ワンオペ育児」解消のためです。
男性が育児休暇を取得しやすくなる環境作りが進む(具体的には企業が男性に対して育児休暇を認めることなど)ことで安心して次の子供を作れるようになると考えられているのです。
そのため男性の育児休暇を義務化すべきという声も上がっています。
(2)高齢者増加に対する対策
高齢者増加に対する国の政策は、健康・年金・労働の3つの柱で構成されています。
高齢者の健康維持を支援し、労働できる環境を提供し、年金を給付しなくてもより長く社会活動をしてもらえるような一連の流れが作られています。
たとえば健康面では、介護予防・日常生活支援総合事業による要介護者の増加予防(2015年)、労働面では雇用保険法等の一部を改正する法律(2017年)による高齢者の再就職の促進などが挙げられます。
特に最近注目が集まっているのは2020年3月に国会に提出され、4月に施行予定の年金改正法案です。
この法案では厚生年金の適用者の拡大、年金受給後に就職した場合の在職老齢年金制度の見直し、受給開始年齢の選択肢の拡大など、それぞれの高齢者のライフスタイルに合わせた年金制度の見直しが始まっています。
また、この改正案にはiDeCo(イデコ・個人型確定拠出年金)の加入年齢引き上げも含まれています。
聞きなれないiDeCoですが、20歳以上60歳未満が加入できる年金制度のひとつで、通常の年金と違って自分で積み立てた掛け金を定期預金、保険、投資信託で運用することができます。
今回の新しい年金改正法案では65歳未満に加入年齢が拡大されます。
上記に加えて、中小企業向けの企業年金制度(DC、iDeCoプラス)の対象拡大、iDeCoの加入要件緩和なども施行予定です。
これによって高齢者にとどまらず社会全体での年金制度の活発化の狙いが伺えます。
まとめ
深刻な「少子高齢化」を解決していくためには、少子化対策と高齢化対策を並行して行う必要があります。
ライフスタイルが多様化する中で、従来のような「国のために働く」「国のために子どもを産んでもらう」考え方からそれぞれの国民の豊かな暮らしを実現させるための新しい考え方が少子高齢化を解決する鍵となるでしょう。
少子高齢化は後戻りのできない社会問題です。
平均寿命が伸びたから高齢者を負担として考えるのではなく、「より社会で活躍してもらえるためにはどうすればいいのか」、「子どもが少ないからこそ子どもを産みたいと思えるような希望のある環境をどうやって作っていくのか」という明るい展望が今後の日本の少子高齢化対策には必要かもしれません。