日本は、国土が狭い割に、周囲がすべて海に囲まれているため、海洋の影響を大きくに受けてしまいます。
そのため海洋汚染による被害は、海外のどの国より深刻になりかねません。
そこで政府は、
- 環境省
- 気象庁
- 海上保安庁
- 防衛省
などの国の機関に、海を保護する仕組みを構築しています。
海は今どれくらい汚れていて、どのような対策が取られているのでしょうか。
生活にも経済にも深く関わる海洋汚染について、詳しく解説します。
また、世界の海洋汚染対策も紹介します。
本記事がお役に立てば幸いです。
1、海洋汚染とは
海水浴場に沖から流されてきたプラスチック廃棄物があると、「海が汚れている」と感じるのではないでしょうか。
また、サンゴ礁の「死の一歩手前」とされる「白化」は、海水に淡水が混ざったり、土砂が流入したりすることで起こります。
これらは見える海洋汚染といえます。
その一方で、見えない海洋汚染もあります。
それは、有害化学物質による海の汚染です。
その例として農薬やシロアリ駆除に使われる成分が、海から検出されることがあります。
また、猛毒ダイオキシンが検出されることもあります。
これらは大規模な海洋調査を行わないと見つけることができません。
2、海洋汚染の原因
海は、ゴミや生活排水を捨てたり、原油や化学物質が流出したりして汚染されていきます。
国立環境研究所によると、有害化学物質による海洋汚染のルートは3つあります。
(1)河川
1つめのルートは河川です。
工場や家庭からの排水や、農地からの農薬は、まずは河川に流されます。
すべての川は海につながっているので、それらはいつか必ず海に届いてしまいます。
(2)大気
2つめのルートは大気です。
農薬などに含まれる成分の中には、軽いために空気中に浮遊するものがあります。
それが風によって海まで流され、海水に溶け込んでしまいます。
(3)船舶
3つめのルートは、航行中の船舶からのものです。
船舶からの排水に化学物質が混ざっていることもありますが、船舶自体も海を汚すことがあります。
船底の塗料が溶けたりはがれたりして、海を汚します。
3、海洋汚染による人への悪影響
海洋汚染による人への悪影響を考えるとき、決して忘れてはならないのが水俣病です。
これは工場が、熊本県水俣市の水俣湾に水銀を含む廃水を垂れ流したことにより発生した一連の健康被害を指します。
水銀はまず、魚を汚染しました。
その魚を食べた人の体内に水銀が蓄積していきました。
体内に取り込まれた水銀は、肝臓、腎臓、脳にたまっていきます。
蓄積された水銀が一定量を超えると
- 感覚障害
- 小脳失調
- 視野障害
- 聴覚障害
を引き起こします。
妊婦が水銀を取り込んでしまうと、生まれてくる子供が脳性麻痺や知能障害といった重い病気を負うことになります。
参考:東京都福祉保健局
4、日本の取り組みと|海洋汚染防止法の概要
日本が行っている海洋汚染対策を解説します。
また、海洋汚染防止法の概要も紹介します。
(1)環境省、気象庁、海上保安庁、防衛省の4つの省庁の取り組み
日本では、環境省、気象庁、海上保安庁、防衛省の4つの省庁などが、海洋汚染対策に従事しています。
環境省は例えば、海洋プラスチック問題を調査しています。
海には、漁具、ポリタンク、洗剤容器といった大型のプラスチックの他に、5ミリ以下のマイクロプラスチックも大量に漂流しています。
日本に漂着する廃ペットボトルでは、太平洋側では日本製のものが多く、東シナ海と日本海側では中国製や韓国製が多いことがわかっています。
環境省では、海岸漂着物処理推進法に基づく海洋環境の保全や、循環型社会形成推進基本計画に基づく施策、海洋漂着物等地域対策推進事業などに取り組んでいます。
環境省の海洋環境モニタリング調査については、後述します。
参考:環境省ホームページ
気象庁は、海洋気象観測船を海に走らせ、浮遊汚染物質の観測を「目視」で行っています。
浮遊汚染物質を発見したら、
- 日時
- 位置
- 種類
- 形状
- 大きさ
- 個数
を記録します。
こうして問題の現状を正確に把握しているのです。
気象庁によると、毎年300万トンもの油分(石油系炭化水素)が、家庭や工場から海に流れ込んでいるそうです。
参考:気象庁ホームページ
海上保安庁の「海洋汚染の現状」によると、2019年の1年間の汚染確認件数は432件で、前年より18件増えています。
参考:海上保安庁ホームページ
また、防衛省が管轄する防衛大学校には、地球海洋学科があります。
自衛隊が活動する場の1つに海上があるので、将来の幹部自衛官には、海洋汚染や地球温暖化などの環境問題の知識が求められます。
この4省庁以外にも、国土交通省は海運や船舶への規制の観点から、海洋汚染を監視しています。
国の機関では、国立環境研究所が、国内フェリーを使って海中の有害化学物質をとらえる調査を長年行っています。
(2)環境省の海洋環境モニタリング調査
環境省は8年かけて日本周辺海域を一巡する「海洋環境モニタリング調査」を行っています。
底質(水底の表層の土壌の様子)と海洋生物を調査することで、海洋環境を把握する狙いがあります。
2017年度は、房総沖と伊豆沖で、廃棄物の海洋投入処分汚染をモニタリングしました。
その結果、水質調査と生物群集調査では、投入処分による影響は見られませんでした。
底質調査で投入処分の影響が見られましたが、環境基準を下回るものであり「問題なし」のレベルでした。
参考:環境省ホームページ
(3)海洋汚染防止法の概要
海洋汚染防止法(正式名称、海洋汚染等及び海上災害の防止に関する法律)は、海洋汚染につながる行為を直接的に規制する内容になっています。
同法が規制する項目は以下のとおりです。
- 船舶、海洋施設及び航空機から海洋に油、有害液体物質等及び廃棄物を排出すること
- 船舶から海洋に有害水バラストを排出すること
- 海底の下に油、有害液体物質等及び廃棄物を廃棄すること
- 船舶から大気中に排出ガスを放出すること
- 船舶及び海洋施設において油、有害液体物質等及び廃棄物を焼却すること
この法律に違反すると、10年以下の懲役などが科されます。
参考:海洋汚染防止法
5、海外の海洋汚染対策
海外の海洋汚染対策として、インドネシアとパラオの事例を紹介します。
(1)インドネシア
インドネシアのEvowareという会社が、海藻を材料にした代替プラスチック「Seaweed-Based Packaging」を開発しました。
これを包装紙にすれば、海洋投棄されても、海藻が海に戻るだけなので、汚染する心配はありません。
しかもこの代替プラスチックは食べることができます。
「Seaweed-Based Packaging」は熱湯をかけると溶けるので、カップラーメンの調味料の包装紙に使えば、包装紙と麺の両方に熱湯をかけて食べる事が可能です。
インドネシアのバリ島の会社も、キャッサバという芋を原料にした代替プラスチックを開発しました。
キャッサバはタピオカの原料として知られています。
キャッサバに含まれるデンプンを粒状にして、それを熱で薄く延ばして袋をつくります。
これでレジ袋をつくれば、海洋投棄されても溶けて自然に還ります。
ただ、キャッサバ・レジ袋の価格は1枚5円ほどで、プラスチック製レジ袋の5倍になります。
さらに水に弱く、水気のある製品をキャッサバ・レジ袋に入れると短時間で溶けてしまう性質があり、まだ改良の余地がありそうです。
また、インドネシアは中国と並び、プラスチック類の海洋投棄が多い国とされています。
しかしインドネシアと中国が大量のプラスチックゴミを排出していることは、両国だけのせいと言い切れない面があります。
例えば日本は、世界第3位の廃プラスチック輸出国で、2017年の輸出量は143万トンに達しています。
その最大の受け入れ国は中国でしたが、中国は2017年末に廃プラスチックの輸入を禁止しました。
そして日本の廃プラスチックは今も、東南アジアや台湾などが受け入れています。
先進国にとって廃プラスチックはゴミですが、それ以外の国ではリサイクル資源になっているのです。
それでも中国が禁輸に踏み切ったのは、廃プラスチックによる海洋汚染が深刻化してきたからです。
日本を含む先進国は、自国内で廃プラスチックを再利用したり、プラスチックゴミの排出量を減らしたりする取り組みが必要になるでしょう。
(2)パラオ
パラオ共和国は、フィリピンやインドネシアの隣国であり、太平洋の美しい島々で構成されています。
パラオ政府は、同国を訪れる外国人観光客たちに「パラオ誓約」に署名するよう求めています。
これは、世界初となる環境保護を目的に「入国・国民法」で定められました。
パラオの次世代と将来のパラオ人のために、パラオの島々の生態系を乱さないことを誓う内容になっています。
パラオ誓約の全文と、その日本語訳は以下のとおりです。
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引用:パラオ誓約
そしてパラオの観光客には、具体的に以下の事が禁止、推奨されています。
- 海洋生物を採取しない
- 地元のビジネスやコミュニティを支援する
- 魚やサメにエサをやらない
- 海で泳ぐときは、足につけるフィンでサンゴを傷つけないようにする
- サンゴに触ったり傷つけたりしない
- 地元の人たちが守っているマナーを真似る
- 庭の果物や花を採らない
- 地元の文化や地元の人たちについて学ぶ
- 野生の生物に触ったり、それらを追ったりしない
- ゴミを捨てない
- 禁煙地域で喫煙しない
まとめ
海に直接ゴミを捨てている方は少ないかもしれません。
しかし直接海を汚していない人でも、間接的に海を汚染している可能性はあります。
海に囲まれ生活している日本では特に海を綺麗に保つ努力が必要です。