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水銀とは?毒性・汚染問題の事例・魚介類に含まれる水銀について解説

投稿日2021.6.30
最終更新日2024.06.17

水銀とは、亜鉛族元素の1つです。亜鉛族元素とは、亜鉛・カドミウム・水銀の3元素を指します。水銀は食物連鎖の過程で、魚介類に蓄積されやすいとされています。

水銀は人体に有毒な金属として知られていますが、具体的にどのような危険性を持っているのでしょうか。

本記事では、以下について解説します。

  • 水銀とは
  • 水銀の有毒性について
  • 水俣病とは
  • 世界の水銀汚染問題

本記事がお役に立てば幸いです。

1、水銀とは

水銀
水銀とは、亜鉛族元素の1つです。

亜鉛族元素とは、

  • 亜鉛
  • カドミウム
  • 水銀

の3元素を指します。

水銀は、常温で固まらない唯一の金属元素です。
その特性から、温度計や気圧計などに利用されています。

2、水銀の有毒性について

水銀は人体に有毒のため、取り扱いには注意が必要です。

水銀には、

  • 金属水銀
  • 無機水銀
  • 有機水銀

の3種類があります。

特に注意が必要な水銀は、

  • 「金属水銀」
  • 有機水銀の1種である「メチル水銀」

です。

金属水銀とメチル水銀について、解説していきます。

(1)金属水銀

金属水銀は、温度計に使われる身近な水銀です。
金属水銀は気化しやすく、「水銀蒸気」になると強い毒性を持つようになります。

水銀蒸気は、肺に入り込むと脳の中枢神経まで到達し、「水銀イオン」に変化します。
水銀イオンは、「腐食作用」を持つため、接触部の細胞をただれさせるのです。

このため、高濃度の水銀蒸気を人間が吸い込むと、呼吸器系・神経系に悪影響を及ぼします。
呼吸困難、短期記憶障害などの症状が代表的です。

参考:水銀に係る健康リスク評価について 環境省

(2)メチル水銀(有機水銀)

メチル水銀は、種の消毒や水虫の治療に使われていた水銀です。有機水銀の中で最も毒性が強いとされてます。

メチル水銀は微生物によって作られ、食物連鎖の過程で魚介類に蓄積されることが多いです。メチル水銀を含んだ魚介類を人が食べてしまうと、水銀中毒となり、体内でたんぱく質の機能が阻害されます。

胎児期に中毒を起こすと、以下を発症する傾向があります。

  • 脳性まひ症状
  • 知能障害

また成人期に中毒を起こすと、以下を発症する場合があります。

  • 感覚障害
  • 小脳失調
  • 視野障害
  • 聴覚障害

通常の場合、魚介類に含まれる微量の水銀を食べても健康に害を及ぼしませんが、厚生労働省は妊婦に向けて以下の魚を多量に食べることを控えて欲しいと呼びかけています。

【水銀濃度が高い魚介類】

  • バンドウイルカ
  • コビレゴンドウ
  • キンメダイ
  • メカジキ
  • クロマグロ
  • メバチ(メバチマグロ)
  • エッチュウバイガイ
  • ツチクジラ
  • マッコウクジラ
  • キダイ
  • マカジキ
  • ユメカサゴ
  • ミナミマグロ
  • ヨシキリザメ
  • イシイルカ
  • クロムツ

参考:メチル水銀中毒の症状は? 水銀と健康 東京都福祉保健局
参考:厚生労働省

3、水俣病とは

水銀
水銀汚染と関係のある水俣病の概要と原因について解説します。

(1)水俣病の概要

水俣病とは、1956年に熊本県と新潟県で発生した、メチル水銀の集団中毒を指す病名です。

最初の発生が、熊本県の水俣湾周辺で起きたことから、水俣病と呼ばれています。
水俣病の症状は

  • 手の感覚がわからない(感覚障害)
  • 言葉が不明瞭になる(講音障害)
  • まっすぐ歩けない(運動失調)
  • 力が入りにくい(運動障害)

など、メチル水銀中毒による神経障害が代表的です。

参考:水俣病のあらまし(メチル水銀中毒と神経系)水俣病情報センター 環境省

(2)水俣病の原因

水俣病の原因は、化学工場の排水です。

工場排水に含まれたメチル水銀が魚に蓄積し、その魚を食べた住民がメチル水銀中毒を起こしました。

妊婦が、汚染された魚を食べたことで、子どもにも水俣病が発症したケースもあります(胎児性水俣病)。

参考:9 胎児性水俣病とは 水俣病資料館

(3)水銀に関する水俣条約

水銀に関する水俣条約とは、水銀の人体と環境へのリスクを低減するために定められた条約です。

2013年に採択され、2017年に発効されました。
水銀に関する水俣条約では

  • 水銀の採掘
  • 水銀の貿易
  • 水銀添加製品や製造工程での水銀の利用
  • 大気への排出や水、土壌への放出
  • 水銀廃棄物

などに関する規制が定められています。

参考:水銀に関する水俣条約 経済産業省

4、世界の水銀汚染問題

水銀汚染は、国内に限らず、世界的にも問題となっています。
各国の水銀汚染問題の事例についてご紹介します。

(1)カザフスタン

カザフスタンでは、アセトアルデヒド製造工場の排水による、水銀汚染が確認されています。

水銀汚染は、

  • 河川堆積物
  • 河岸土壌
  • 下流域

まで拡大しているようです。

これに対処すべく、該当河川周辺では、国際協力機構(JICA)による、水銀モニタリングが実施されました。

参考:(和)ヌラ川流域水銀環境モニタリングプロジェクト 技術協力プロジェクト JICA

(2)モンゴル

モンゴルでは、金の採掘に伴う水銀汚染が懸念されています。
鉱石から金を取り出すためには、精錬施設が必要になります。

しかし近年、精錬施設を持たない、手掘りの個人採掘者が増加傾向にあるのです。

手掘りの採掘は、

  • 作業者
  • 周辺地域

への水銀汚染の危険性が高いため、問題視されています。

参考:モンゴル国のスモールスケールマイニング調査報告 公益社団法人 日本アイソトープ協会

(3)中国貴州省

中国の貴州省では、アセトアルデヒド製造工場における、水銀汚染の恐れが問題となっていました。

これに対処するため、貴州省環境保護局は、日本に調査団派遣を依頼しました。1997年には、環境省と国立水俣病研究センターから調査団が派遣され、水銀の測定調査が行われたのです。

その後、有償資金協力によって製造工程が変更されました。

参考:中国水銀汚染事件 中国における水銀問題と中国政府の動き 環境省

(4)インドネシア

インドネシアでは、金の精錬に水銀を使用したことで、大気や水質汚染が深刻化しました。

2015~2016年に、アメリカのNGOは、インドネシアの鉱山や工業地帯に住む女性の水銀調査を実施。

その結果、67人中65人が、健康被害になり得る水銀量を日常的に摂取していたことが判明しました。

参考:基準値超える水銀摂取 金鉱山のイ人女性労働者 調査対象67人の97%  国際環境団体 胎児の発育に影響 じゃかるた新聞

(5)スロベニア

スロベニアには、世界で2番目に大きい水銀鉱山があり、周辺地域の水銀汚染が問題視されていました。

ただ1994年には、水銀鉱山であるイドリア鉱山は閉山。

しかし、スロベニアから北アドリア海へ流れ込む「ソサ川」では、いまだに高濃度の水銀が検出されることがあります。

参考:水俣湾における水質動態と水銀濃度変化との関連性について 公益社団法人 土木学会

(6)ニカラグア

ニカラグアでは、苛性ソーダ工場の排水による、水銀汚染が問題となりました。

1967~1992年までの操業で、約40トンの金属水銀および無機水銀を、ソロトラン湖へ流出させていました。

参考:ニカラグア共和国水銀調査・分析能力向上プロジェクト 事業完了報告書 JICA

(7)タンザニア

タンザニアでは、金の選鉱用施設から排出された水銀が問題となりました。

タンザニアとケニアの国境沿いにあるマラ川で、水銀が検出されたのです。

そのためタンザニアでは、国際協力機構(JICA)が「水資源管理・開発計画策定支援プロジェクト」を実施しました。

参考:タンザニア連合共和国 ワミ・ルブ流域水資源管理・開発計画 策定支援プロジェクト 国際協力機構(JICA)

(8)ブラジル

ブラジルでは、金の精錬で排出された水銀による、アマゾン川流域の汚染が問題となりました。

流出した水銀が、魚に蓄積し、魚を食べた住民に健康被害が出たのです。
日本政府は、1992年のリオデジャネイロ環境サミットで、アマゾン地域の水銀問題に取り組むことを表明しました。

その後、JICA(国際協力機構)は

  • 水銀分析技術者の育成
  • 保健監視能力向上のための人材育成のプロジェクト

を実施しました。

参考:継続は力なり−ブラジル・アマゾン川流域での水銀健康被害防止の20年 独立行政法人 国際協力機構

まとめ

本記事では水銀について解説しました。

水銀は人体に有害な金属です。世界でも、水銀鉱山・金の精錬・化学工場の排水等に含まれる、水銀の処理が大きな問題となっています。

水俣病のような集団中毒を起こさないためにも、水銀に対する慎重な取り扱いが求められています。

この記事の監修者
政治ドットコム 編集部
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