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特定外来生物とは?海外由来の侵略的外来種その実態と悪影響について

投稿日2021.7.3
最終更新日2021.07.06
この記事の監修者
政治ドットコム 編集部
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「特定外来生物」とは、生態系、人の生命・身体、農林水産業に被害を及ぼすまたは及ぼすおそれのある外来生物のうち、規制・排除の対象として指定された生物のことです。

具体的な個体名については「特定外来生物による生態系等に係る被害の防止に関する法律」に指定されています。

今回は特定外来生物について以下の通りご紹介します。

  • 特定外来生物の概要
  • 特定外来生物と外来種の違い
  • 特定外来生物と外来種が及ぼす悪影響
  • 日本と世界の外来生物対策

本記事がお役に立てば幸いです。

1、特定外来生物とは?

特定外来生物
まずは特定外来生物の概要をご紹介します。
特定外来生物は、以下全ての条件に当てはまる生物です。

  • 海外由来の外来種(人間によって日本に持ち込まれた種)
  • 侵略的外来種(生態系、人の生命・身体、農林水産業に被害を及ぼす種、または及ぼすおそれがある種)
  • 外来生物法により指定された種

個体だけではなく卵、種子、器官なども含まれます。

種類も哺乳類、鳥類、爬虫類、両生類、魚類、昆虫類、クモ形類、植物、甲殻類など様々です。
具体例としてはタイワンザル、アライグマ、ヒアリ、カミツキガメなどが挙げられます。

参考:どんな法律なの? | 日本の外来種対策 | 外来生物法

2、外来種と特定外来生物の違い|未判定外来生物と特定外来生物の違い

続いて、特定外来生物とよく似た言葉についてご説明します。
それぞれ言葉の定義が微妙に異なるので注意してください。

(1)外来種と侵略的外来種について

まずは「外来種」と「侵略的外来種」の違いからご説明します。
そもそも「外来種」とは、人間の活動によって他の地域から入ってきた生物のことを指します。

“もともとその地域にいなかったにも関わらずそこにいる生物”と聞くと、渡り鳥などをイメージするかもしれませんが、自然の力で移動する生物は外来種に当たりません。

あくまでタイワンザルなど、人間によって海外やその他地域から新たな地域に持ち込まれた生物を指します。

ここで注意したいのが、外来種には海外由来の外来種だけではなく国内由来の外来種もあるという点です。

例えば台湾から日本に持ち込まれた生物はもちろん外来種に当たりますが、沖縄にしか生息していなかった生物が北海道に持ち込まれた場合も外来種に当たるのです。

このような外来種の中でも、特に自然環境に大きな影響を与える種を「侵略的外来種」と呼びます。

より具体的に説明すると、生態系、人の生命・身体、農林水産業に被害を及ぼす種、または及ぼすおそれがある種です。

例としては

  • 沖縄本島に持ち込まれた「マングース」
  • 小笠原諸島に入ってきた「グリーンアノール」

などが侵略的外来種に当たります。

特定外来生物に該当するのは「海外由来の外来種」のうち、「侵略的外来種」なのです。

参考:侵略的な外来種 | 日本の外来種対策 | 外来生物法

(2)未判定外来生物について

「未判定外来生物」とは、特定外来生物と似ていますが、定義上は別の生物です。
海外由来の外来種である点は同じです。

ただし、生態系、人の生命・身体、農林水産業に被害を及ぼすおそれがあるが「実態がよく分かっていない種」である点に違いがあります。

未判定外来生物は輸入できますが、事前に主務大臣に対して届け出なければなりません。

参考:どんな法律なの? | 日本の外来種対策 | 外来生物法

3、特定外来生物や外来種が及ぼす悪影響

特定外来生物
続いて、特定外来生物や外来種が及ぼすと考えられる3つの悪影響についてご説明します。

(1)生態系への悪影響

1つ目は生態系への悪影響です。

特定外来生物と外来種が入ってきた場合にまずリスクとして考えられるのは、在来種(もともとその地域にいる種)への悪影響です。

在来種の数を減らしてしまったり、場合によっては絶滅に追いやってしまったりする可能性さえあります。

また、在来種と交雑することで雑種を産み、在来種の遺伝的な独自性が損なわれる場合もあるのです。

「小笠原諸島」を例に挙げると、どの大陸とも陸続きになったことがないという特徴から独自の進化を遂げてきた生態系が外来種によって変化しました。

小笠原諸島のみに生息する固有の生物が多く生息しているのですが、希少な昆虫類が外来種「グリーンアノール」に捕食されています。

個体数が激減している種もあるため、大きな問題となっています。

(2)人への悪影響

2つ目は人への悪影響です。
生物は人間にとって無害な生物ばかりではありません。

種によっては毒を持っていますので、そのような生物との接触があれば病気になる可能性もあります。

本来であれば日本や日本の特定の地域には存在しなかった生物が新たに入ってくることで、新たな病気の発症・感染リスクが高まる可能性があります。

2014年に東京都でも発見された「セアカゴケグモ」を例に挙げると、咬まれた場合にその強い毒性から全身症状に苦しめられる場合があります。

(3)農林水産業への悪影響

3つ目は農林水産業への悪影響です。

新たな生物が入ってくることによって、すでにその地域にある農作物を食べたり、畑を踏み荒らしたりするなど直接的な影響がある可能性もあります。

また、産業それ自体の対象となる生物を捕食してしまったり、危害を加えたりする可能性もあります。

特定外来生物や外来種だけに限ったことではありませんが、考えられる悪影響の一つとしては抑えておくべきでしょう。

近年の東京の例で言うと、特定外来生物であるアライグマなどが原因で農作物に被害が出た、という都民の相談が増加しています。

実際に有害鳥獣として捕獲される数も増加しました。

被害は糖度の高い果物や野菜類を中心とした農作物だけではなく、生態系や住居などの生活環境にも及んでおり、引き続き注視していく必要がある状況です。

参考:外来生物が及ぼす被害|東京都環境局「気をつけて!危険な外来生物」

4、海外起源の外来種はどのようにして日本にやって来たのか

日本に存在する海外起源の生物は、わかっているだけでも約2,000種あります。

そもそも海外起源の外来種は、どのようにして日本にやって来たのでしょうか。
明治以降、人間の移動や物流が活発になったことで、多くの動物や植物が様々な目的で輸入されるようになりました。

展示用、飼育用、食用、研究用など目的は様々です。
一方で、貨物や乗り物に紛れ込んだり、付着したりして意図せず持ち込まれてしまったものもあります。

持ち込まれた外来種に共通しているのは、人間の活動に伴って日本にやって来たという点です。
農作物や家畜、ペットなども含みますので、今私たちの生活に欠かせない外来種も多くあります。

しかし、ここで知っておくべきことは「絶妙なバランスで生態系は保たれている」という点です。
生活を豊かにするために日本にやってきた外来種が、必ずしも良い影響だけを与えてくれるとは限りません。

新たな種であるからこそ悪影響が起き得るという点も、私たちは理解しておかなければなりません。

参考:外来種はどうして日本にやってきたの?

5、日本の取り組み

外来種が及ぼす様々な悪影響がわかったところで、ここで外来種に対する日本の取り組みについてご紹介します。

(1)特定外来生物や海外起源の外来種対策

まず、海外から持ち込まれた外来種に対する対策をご紹介します。

①外来生物法について

「外来生物法」は正確には「特定外来生物による生態系等に係る被害の防止に関する法律」のことです。

特定外来生物による生態系、人の生命・身体、農林水産業への被害を防止することを目的として制定され、2005年に施行されました。

生物の多様性を守り、人の生命・身体を保護し、農林水産業の健全な発展に寄与することで、国民生活の安定・向上を目指しています。

問題を引き起こす海外起源の外来生物を「特定外来生物」として定義し、具体的な個体名を指定しています。

特定外来生物に指定された生物は、飼養、栽培、保管、運搬、輸入といった取り扱いにおいて規制がかけられています。

法律で規制することで、特定外来生物の防除を行っているのです。

参考:どんな法律なの? | 日本の外来種対策 | 外来生物法

②外来種被害予防三原則の国民への周知

外来種による被害を予防するために重要なことは3つあります。

  • 入れない(悪影響を及ぼすおそれがある外来種を「入れない」)
  • 捨てない(飼養・栽培する外来種は適切に管理して「捨てない」)
  • 拡げない(既にいる外来種を他の地域に「拡げない」)

外来生物法では上記を「外来種被害予防三原則」として掲げ、国民への周知活動を行っています。

外来種は「人間が持ち込む」という特徴から、生活と密接に関わりを持つことが多いです。

私たちの暮らしと密着した問題だからこそ、一人ひとりの理解と適切な対応が重要であり、三原則は日頃から意識すべき原則と言えるでしょう。

参考:侵略的な外来種 | 日本の外来種対策 | 外来生物法

(2)国内由来の外来種対策

続いて、国内由来の外来種に対する対策をご紹介します。

こちらは以下の通り、自然公園法など既存の法令を活用した規制の強化などが例として挙げられます。

  • 自然公園法および自然環境保全法の改正(「生物の多様性の確保」を目的規定に追加)
  • 海域における保全施策の充実(海域公園地区制度の創設、海域における利用調整地区制度の創設)
  • 生態系維持回復事業の創設
  • 特別地域などにおける動植物の放出などに関わる規制の強化
  • 地方公共団体の条例による国内由来の外来種などの規制

なお、外来種被害予防三原則は国内由来の外来種対策についても重要であり、例えば登山者の増加に伴う外来植物の分布拡大対策でも取り入れられています。

具体的には、

  • 外来植物の防除を目的にした事業の導入
  • 生態系に悪影響を及ぼす可能性がある外来植物の除去
  • 外来植物種子除去マットの設置

などの取り組みを行っています。

参考:8 国内由来の外来種対策の現状と課題(1) 8 国内由来の外来種対策の現状と課題(2)

6、世界の外来生物対策

最後に、世界の外来生物対策についてご説明します。

(1)生物多様性条約

国際社会において、外来種問題はすでに10年以上前から深刻な環境問題として認識されています。

1993年には、世界の環境保全を目的とした国際条約「生物多様性条約」が発効されました。
第8条において、外来種の侵入防止・駆除などの対策の必要性が明記されています。

生物多様性条約では、批准国に「生物多様性国家戦略」の作成が義務づけられています。
外来種問題に対する姿勢と方針を打ち出すだけではなく、具体的な政策の実施まで行わなければなりません。

なお、日本も上役の締結国ですので、1995年に最初の「生物多様性国家戦略」を策定済みです。

2003年には改訂版となる「新・生物多様性国家戦略」を作成しています。

(2)レッドリストについて

1948年位設立されたIUCN(国際自然保護連合)は、”自然を尊び、保全する公正な世界”を目指す、国際的な自然保護ネットワークです。

自然が持つ本来の姿とその多様性を保護しながら、自然資源の公正かつ持続可能な利用を確保することを目的に活動しています。

約1,200の組織(200を超える政府・機関、900を超える非政府機関)が会員となり、構成されているネットワークです。

国際的には、このIUCNが「レッドリスト=絶滅のおそれがある野生生物の種のリスト」を作成しています。

2000年には「外来侵入種によって引き起こされる生物多様性減少防止のためのIUCNガイドライン」を採択しました。

また、「世界の侵略的外来種ワースト100」の発表を行うなど、世界中で深刻な問題を引き起こす侵入種をリストアップすることによる問題提起も行っています。

まとめ

今回は特定外来生物について詳しくご紹介しました。

特定外来生物と外来種の概要に加えて、特定外来生物と外来種が及ぼす悪影響や、日本と世界の外来生物対策についてもおわかりいただけたのではないでしょうか。

人間の活動が原因で持ち込まれた外来種が、自然環境や私たちの暮らしを脅かす可能性があることを、恐ろしく感じた方もいらっしゃるでしょう。

生活と密接に関わる分野だからこそ、正しい知識を得て必要な行動を取りたいものです。

本記事が少しでもあなたのお役に立てば幸いです。