持続可能な開発とは「将来の世代の欲求を満たし、かつ現在の世代の欲求も満足させるような開発」です。
今や人間が豊かに暮らすために続けてきた開発によって資源は枯渇し、地球環境は大きな影響を受けています。
“持続可能”な開発を行うことは、現在の世代の責務であり、今こそ取り組まなければならない課題と言えるでしょう。
今回は持続可能な開発について以下の通りご紹介します。
- 持続可能な開発目標(SDGs)の概要
- 持続可能な開発目標(SDGs)における日本政府の取り組み
- 持続可能な開発目標(SDGs)における海外における取り組み
- 持続可能な開発に関する今後の課題
本記事がお役に立てば幸いです。
1、持続可能な開発とは
まずは「持続可能な開発」そのものの概要についてご説明します。
時代が進むにつれて人間が叶えてきた豊かな暮らしの対価として、地球環境は大きな影響を受けました。
豊富にあると思われていた石油や石炭などの資源に限界値があると知られたのは、それほど昔でのことではありません。
持続可能な開発は、ここ40年くらいで議論され始めたテーマです。
国際連合では、1972年にストックホルムで開催された「国連人間環境会議」において初めて「経済開発と環境の劣化との関係」が国際的な議題とされました。
1983年には元「世界環境開発委員会(World Commission on Environment and Development)」の取り組みによって、未来を見据えた“新しいタイプの開発=持続可能な開発”の必要性が高まったのです。
自由な経済成長を優先した“今までの開発”では、海洋汚染や森林伐採など、どうしても地球環境に影響を及ぼす事態が起り得る状況でした。
この時点で、緊急性と共に「持続可能な開発」という新しい概念が認知されたのです。
1992年にはブラジル・リオデジャネイロで地球サミットが開催され、持続可能な開発を人権、人口、社会開発、人間居住の問題と結びつけて議論が行われています。
このような流れを経て、持続可能な開発に関わる今日に至るまでの取り組みがスタートしました。
参考:持続可能な開発
2、持続可能な開発目標(SDGs)とは
続いて「持続可能な開発目標(SDGs)」の概要をご紹介します。
昨今ニュースなどで見聞きすることが多い言葉なので、聞いたことがある方も多いのではないでしょうか。
「SDGs」は“Sustainable Development Goals”の略称です。
そもそもは、2015年9月に国連で開かれたサミットにおいて、国際社会共通の目標として定められたものです。
サミットでは2015年から2030年までの長期的な開発の指針として、「持続可能な開発のための2030アジェンダ」が採択されました。
この文書の中核である「持続可能な開発目標」を「SDGs」と呼んでいます。
具体的には、貧困・健康・環境などの分野に関わる計17の目標が定められています。
- 貧困をなくそう
- 飢餓をゼロに
- すべての人に健康と福祉を
- 質の高い教育をみんなに
- ジェンダー平等を実現しよう
- 安全な水とトイレを世界中に
- エネルギーをみんなにそしてクリーンに
- 働きがいも経済成長も
- 産業と技術革新の基盤をつくろう
- 人や国の不平等をなくそう
- 住み続けられるまちづくりを
- つくる責任つかう責任
- 気候変動に具体的な対策を
- 海の豊かさを守ろう
- 陸の豊かさも守ろう
- 平和と公正をすべての人に
- パートナーシップで目標を達成しよう
参考:SDGs(持続可能な開発目標)とは何か?17の目標をわかりやすく解説|日本の取り組み事例あり | 朝日新聞 2030 SDGs
3、持続可能な開発の具体例
続いて「持続可能な開発」の具体例を、日本と海外の取り組みに分けてご紹介します。
(1)日本政府の取り組み
まずは日本政府の取り組みをご紹介します。
日本において政府レベルで取り組んでいることとしては、主に2つあげられます。
①持続可能な開発目標推進本部
1つ目は、持続可能な開発目標推進本部による活動です。
2015年にSDGsが採択されたあと、政府がまず取り組んだのは国内の基盤整備です。
その基盤として設置されたのが「持続可能な開発目標推進本部(SDGs推進本部)」でした。
国内における施作の実施と国際協力の両面において、取りまとめる体制を整えたのです。
具体的には総理大臣と官房長官が本部長を、外務大臣が副本部長を務め、そして全閣僚が構成員となりました。
更にSDGs推進本部とは別で、幅広いステークホルダーによって構成される「SDGs推進円卓会議」が設置されました。
構成員は行政、民間セクター、NGO・NPO、有識者、国際機関、各種団体などを含みます。
このSDGs推進円卓会議とSDGs推進本部による対話を経て、2015年12月に日本における取り組みの指針となる「SDGs実施指針」が決定しました。
実施指針に合わせて各種取り組みが進められています。
指針を定めてから数年が経ちましたが、2017年と2021年の2回に渡って自発的国家レビュー(VNR:Voluntary National Review)を発表するなど、活動は継続されています。
参考:日本政府の取組 | JAPAN SDGs Action Platform
②SDGsアクションプラン
2つ目は、SDGsアクションプランです。
SDGsアクションプランのご説明の前に、SDGs実施指針で掲げられた「8つの優先課題」に関して箇条書きでご紹介します。
8つの優先課題は以下の通りです。
- 1 あらゆる人々が活躍する社会・ジェンダー平等の実現
- 2 健康・長寿の達成
- 3 成長市場の創出、地域活性化、科学技術イノベーション
- 4 持続可能で強靱な国土と質の高いインフラの整備
- 5 省・再生可能エネルギー、防災・気候変動対策、循環型社会
- 6 生物多様性、森林、海洋等の環境の保全
- 7 平和と安全・安心社会の実現
- 8 SDGs 実施推進の体制と手段
SDGsアクションプランは、この8つの優先課題に対する具体的な取り組み内容のことです。
以下で一例をご紹介します。
- 男女共同参画基本計画に基づき、女性活躍推進に向けた取り組みを加速化
- テレワークなどの働き方改革を通じた、ワーク・ライフ・バランスの実現
- 強靭かつ包摂的な保健システムの構築、感染症に強い環境整備
- 世界的な栄養改善に向けた取り組みの推進
- 持続可能なまちづくりが優れた地方公共団体の取り組みを「SDGs未来都市」として選出
- デジタルトランスフォーメーションの推進による、誰もがデジタル化の恩恵を受けられる体制の整備
- 安全・安心な国土・地域・経済社会の構築に向けた「国土強靱化」の推進
- 「質の高いインフラ投資に関するG20原則」を踏まえた、質の高いインフラ投資
- グリーン社会の実現に最大限注力することによる、2050年カーボンニュートラルの実現
- 「食品ロスの削減の推進に関する基本的な方針」に基づく施策の推進
- 2050年までにゼロにすることを目指す「大阪ブルー・オーシャン・ビジョン」の実現
- 「SATOYAMAイニシアティブ」を始めとした国際協力を通じた、生物多様性の保全と持続可能な利用に向けた取り組みの強化
- 世界的な法の支配に基づく地域の平和と繁栄の礎である「自由で開かれたインド太平洋」を推進
- DV・性暴力対策の強化や、児童虐待や子供の性被害の防止のための取り組みの推進(国内・国際の両面)
- SDGs推進本部の下、関係府省庁が一体となった国内外のあらゆる分野の関係者との連携強化
- 「日メコンSDGsイニシアティブ」をはじめ、SDGs達成に向けた取り組みの強化
(2)日本企業の取り組み
続いて、日本において企業レベルで取り組んでいることについて、ここでは2社を例にあげてご紹介します。
①ITO株式会社の例
1社目はITO株式会社の例です。
ITO株式会社では、具体的に以下の内容に取り組んでいます。
- 環境に優しい製品の販売
- インフラ技術の普及
- 防災・減災関連製品の販売
- 外国人技能実習生の受け入れ
- 工場全体での働きやすさ改善のための取り組み
- SDGs委員会の設置
内容を具体的にご説明すると、ITO株式会社ではエネルギーを通じて美しく住みよい地球を築くため、環境に優しい製品を販売しています。
独自技術製品である「空温式べーパーライザー」はCO2の排出がゼロであるだけではなく、災害に強く、またリサイクルも可能です。
また、多くの海外関連法人において、優れた低炭素・脱炭素技術を提案するだけではなく、エネルギー転換・脱炭素化と気候変動対策を支援しています。
また、防災・減災事業を通じた社会貢献や、全てのグループ社員が働きやすい環境づくりもしています。
あわせて、SDGs委員会を設置することで、社員教育の実施や個人レベルでの目標策定も行っています。
参考:|- 企業情報 – 会社概要 -|- I・T・O 株式会社 WebSite -|- ガス供給機器・調整器のエキスパート -| ITO アイティーオー ITO
②IDECグループの例
2社目はIDECグループの例です。
IDECグループでは、事業を通じたSDGsへの貢献を目指しています。
新たな経済的・社会的価値を生み出すことによって、日本国内だけではなくグローバルベースで安全と環境に寄与しようと試みているのです。
具体的には6つの事業分野に対応する主要製品の開発・販売によって社会的価値を生み出そうとしています。
例えばHMIソリューション事業に対応する「非常停止用押ボタンスイッチ」については、安全性と使いやすさを追求しています。
また、オートメーションソリューション分野の「プログラマブルコントローラ」については、医療機関における高度管理の実現に寄与しています。
あわせて、環境負荷軽減に貢献できるよう、環境を念頭においた事業活動を目指しているのです。
事業を通じた活動とあわせて、SDGsに対する社員の認知度と理解を高める活動も行っています。
具体的には、役員・部門長・リーダーレベルの社員向けにCSRについての社内セミナーを定期的に開催したり、新入社員から執行役員まで世代の壁を超えたメンバーが参加するSDGsワークショップの開催など、ユニークな取り組みを実施しています。
なお、その他の企業の取り組みについても、以下のリンクからご確認いただけます。
あわせて参考にしてください。
参考:取組事例 企業 | JAPAN SDGs Action Platform
(3)各国における取り組み
ここからは、海外諸国におけるSDGsに関する取り組みについて、デンマーク、スウェーデンの順にご紹介します。
①デンマークの例
デンマークでは、SDGsの取り組みが進んでいます。
2020年7月に国連が発表した「SDGsの17目標別の世界での達成度を点数化したランキング」において、1位と僅差で2位を獲得しているほどです。
もともと、サスティナブルフードであるオーガニック食材の使用率が高いことや、LGBTの平等などジェンダーギャップが年々縮まっていることなど、SDGsに先駆けた動きがある国でした。
数字として結果が出ていることとしては、SDGsの中でも特に問題視されている「食品ロス」に関するデータがあります。
なんとデンマークは5年間でデンマーク全体の食品ロスに25%削減しています。
それも、一部の女性たちの声が発端となって取り組まれた結果と言うので驚きです。
また、「UN17Village」というSDGsの17つ全ての目標達成を目指すエコプロジェクトを発足させています。
2030年までに持続可能なエコビレッジを作り、2023年にはコペンハーゲン南部に広さ35,000平方メートルのビレッジが完成する計画もあります。
日本でもソーラーパネルの設置など自然エネルギーの活用は進みつつありますが、「村単位」という発想は先進的と言えるのではないでしょうか。
②スウェーデンの例
スウェーデンは、先ほどデンマークの例でご紹介した「SDGsの17目標別の世界での達成度を点数化したランキング」において、1位を獲得しています。
スウェーデンの特徴は、企業や団体、自治体などよりも“政府自身”が最も真剣にSDGsに取り組んでいる点です。
ゴミを100種類にも分別したり、男女平等大臣という役職を設けるなど、独自の取り組みを行っています。
また、スウェーデンではSDGsの目標に基づく3つの原則があり、教育や企業活動、法律などは、
- 自然にかえせる量の資源しか取らない
- 地下より地上のエネルギーを選ぶ
- 生物の多様性を保護する
という3つの原則に沿って整備されています。
なお、日本でも有名なスウェーデン企業であるIKEAでもSDGsに関する取り組みが行われています。
具体例は以下の通りです。
- 家庭で90%以上の節水を可能にする製品を開発して、健康的でサスティナブルな暮らしを提供する商品を積極的に販売
- 現時点で商品の60%以上が再生可能素材であり10%にリサイクル素材を使用しているが、2030年までにそれぞれを100%にするという目標を設定
- 東南アジアでの、若年労働者のスキル習得支援
参考:SDGs世界ランキング1位 スウェーデンの取り組みとは
4、今後の課題
最後に、持続可能な開発における今後の課題を2つご紹介します。
ここで取り上げる課題は一例に過ぎませんが、課題認識の参考になれば幸いです。
(1)南北問題
1つ目は南北問題です。
南北問題とは先進国と発展途上国との経済格差問題のことです。
南北問題を解決するためには途上国が貧困から抜け出す必要がありますが、なかなか貧困から抜け出せていないのが現状です。
教育格差やインフラ格差など、すでに格差がある部分が大きな足かせとなっているからです。
しかし2030年を目処に17の開発目標を達成するためには、大前提として途上国の経済発展が求められています。
途上国と先進国が一体となり相互に協力する必要があります。
特に先進国は積極的な協力が必要とされ、発電所、道路、水道、ICTなどのインフラの質を高めて整備したり、資金援助をしたりなど、求められる役割が大きいのです。
(2)気候変動問題
2つ目は気候変動問題です。
気候変動問題の中でも特に地球温暖化は深刻な問題です。
持続可能な開発目標にも「気候変動に具体的な対策を」とする具体的なテーマがあります。
そもそも18世紀の産業革命以降、石炭や石油などの化石燃料を燃やしてエネルギーを得るようになった結果、大気中の二酸化炭素が急速に増加しました。
このことが地球温暖化を引き起こす主な原因と考えられています。
結果として現在までに、世界の平均気温は産業革命前よりも1度上昇しています。
このまま気温が上昇すると海面が上昇し、多くの島国が沈んでしまいます。
すでに過去約100年で世界の平均海水面は16cm上昇していますが、近年の方が上昇率が高いというデータもあります。
また、暮らしへの直接的な変化はもちろんのこと、生態系への影響も大きいです。
何より地球全体のパワーバランスが崩れるため、気候変動問題は大きな課題なのです。
2015年のパリ協定では「世界的な平均気温上昇を産業革命前に比べて2℃以下に抑えることを目標とし1.5℃以下に抑制することを努力目標とする」と定められました。
まとめ
今回は「持続可能な開発」について詳しくご紹介しました。
持続可能な開発の概要に加えて、持続可能な開発目標(SDGs)の具体的な取り組み内容や全世界的な課題についてもおわかりいただけたのではないでしょうか。
地球環境が大きく変化してきた今、未来の世代の地球環境を見据えた活動は急務です。
地球は、今を生きる現代の世代である私たちのためだけものではありません。
子供や孫、その下の世代……と人間が生きていく限り、地球環境とうまく付き合っていく必要があります。
「持続可能な開発」を自分のこととして捉えて理解し、小さなことから意識して活動していきたいものですね。
本記事が少しでもあなたのお役に立てば幸いです。