ナショナルトラストとは、国民が自らのお金で歴史的名所や自然的景勝地を買い取って守るなどして次の世代に残す運動のことです。
素晴らしい活動ではありますが、一方で「歴史的名所や自然的景勝地の保護は国が行うのでは?」と疑問を持つ方もいらっしゃるかもしれません。
今回はナショナルトラストについて以下の通りご紹介します。
- ナショナルトラストの概要
- 日本におけるナショナルトラスト及びトラスト活動
- 日本ナショナルトラストの事業内容
本記事がお役に立てば幸いです。
1、ナショナルトラスト
まずは言葉自体の意味についてご説明します。
もともと「ナショナルトラスト」とは、歴史的建築物の保護を目的として1895年にイギリスで設立されたボランティア団体を指す言葉でした。
この団体の主な活動内容は「トラスト活動」です。
トラスト活動とは「大切な自然環境という資産を寄付や買い取りなどで入手し、守っていく」などの自然環境保全活動のことを指します。
当時の団体の設立目的は、以下の3つです。
- 国民のために、美しい、または歴史的に意味のある土地や資産を永久に保存するよう促すこと
- 土地については、実行可能な限りその土地本来の要素や特徴、動植物の生態を保存すること
- 土地や資産の所有者から歴史的建造物や景勝地の寄贈を受け、国民のために信託財産として保持すること
単なる環境保護に留まらず、国民のための財産として保持する点にも重きを置いています。
このイギリス組織による活動は次第に有名になり、2015年では424万人の会員を抱える組織となりました。
現在では、同じような趣旨で活動する運動や理念そのものを「ナショナルトラスト」と呼ぶようになっています。
2、日本におけるナショナルトラスト及びトラスト活動
続いて、日本におけるナショナルトラスト及びトラスト活動についてご紹介します。
日本では1960年代の鎌倉を発端に、全国各地でトラスト活動が広がっていきました。
2021年現在、トラスト活動を行う団体は日本各地にありますが、今回は「日本ナショナルトラスト協会」の活動についてご説明します。
(1)日本ナショナルトラスト協会
「日本ナショナルトラスト協会」の前身となる組織が設立したのは1980年代です。
1983年に結成された「ナショナル・トラストを進める全国の会」がきっかけでした。
その後、全国の会が1992年に法人化され「社団法人日本ナショナル・トラスト協会」となり、2012年には公益社団法人へと移行し、現在に至ります。
設立当初は、組織自らが歴史的名所や自然的景勝地を獲得・所有することはせず、あくまで全国組織としての役割を務めていました。
具体的には、各地のトラスト団体への情報提供や全国大会の開催、国民への普及啓発やロビーイングなどの活動を行っていたのです。
その後公益団体への財産の遺贈・寄贈への関心の高まりも追い風となり、協会自らが積極的に土地を取得することも視野に入れて、保護活動を続けることになりました。
(2)日本ナショナルトラスト協会の活動指針
日本ナショナルトラスト協会の活動指針は4つあります。
- 全国のトラスト団体と連携して、日本のナショナルトラストを推進
- 国民に向けて、ナショナルトラストへの参加を広く呼びかける
- 法制度の充実に向けて、議会への働きかけを行う
- 遺産のナショナルトラストへの活用を進める
まず第一に、日本の各地で活動するトラスト団体と連携をとり全国組織としての役割を果たす必要があります。
情報発信や助成制度の制定、全国大会の開催などを通じて、各地のトラスト団体を支援し、連携を図っています。
また、トラスト団体だけではなく、地域の自然を楽しみ利用する国民自体の意識を高める活動も行います。
国民一人ひとりの参加はもちろん、企業や行政、研究者などとの連携も自然保護の観点ではとても重要です。
多くの人や団体がトラスト活動に参加するよう、広く呼びかける活動をしています。
あわせて、税制などの法制度の充実が必要な時には、議会への働きかけも行っています。
なお、トラスト活動が広まりを見せる中で、国民が「遺産の寄付」を希望するケースも増えました。
今日では信託銀行と連携するなどしてスムーズに寄付を受けられるように、受け入れ態勢の準備も進めています。
参考:協会の紹介/公益社団法人 日本ナショナル・トラスト協会
3、日本ナショナルトラスト協会の事業について
続いて、日本ナショナルトラスト協会の事業について具体的に6つご紹介します。
(1)トラスト活動の実施や援助
1つ目は「トラスト活動の実施や援助」です。
環境を保護するために、協会自体が自然地や歴史的な環境を買い取ることがあります。
原資となるのは寄付金で、寄付金を利用して豊かな自然や美しい風景、また開発の危機にある自然地などの取得を進めています。
日本では、政府レベルでも自然保護のために国立公園などの保護区制度が設けてありますが、国土のわずか数%に過ぎません。
どんなに素晴らしい自然でも、国が所有している土地以外は個人の所有物であり、所有者が変われば開発されてしまう可能性があります。
そこで、行政の活動を補完する意味でも、寄付を資源に「国民の財産」として重要な土地の取得を試みているのです。
また、全国組織として、日本各地のトラスト団体の活動を援助することも事業の1つです。
金銭面の援助では、トラスト活動に必要な資金について2005年に助成制度を設立しました。
2021年度の助成制度を例に挙げると、
- 土地所有状況調査助成:1件あたり上限30万円
- 活動実践助成:1〜2件を目処に最大400万円(全体総額)
などが申請によって利用できるように設定しています。
あわせて、金銭面以外の援助では、訪問相談や電話相談への対応を行っています。
「トラスト活動により守りたい自然があるが、方法がわからない」といった相談についての相談窓口を設けています。
(2)調査研究
2つ目は「調査研究」です。
ナショナルトラストの発祥の地がイギリスであることからもわかるように、世界でもナショナルトラストの動きは進んでいます。
日本に存在しない制度や成功事例の研究はもちろん、日本において保護すべき環境の調査などを行うことで、トラスト活動に役立てています。
具体的には、必要に応じて国民や企業に提案したり、政府に改革を求めたりしています。
(3)寄付などについて
3つ目は「寄付などについての対応」です。
ナショナルトラストへの関心やトラスト活動をする協会の知名度の高まりにあわせて、財産を寄贈や遺贈したいという国民の申し出も増えてきました。
現金の寄付は比較的手続きが簡易ですが、家族以外の人に財産を譲る寄贈や遺贈をするためには、両者の合意だけではなく様々な手続きが必要となります。
信託銀行や弁護士などの専門家と協力して、寄贈や遺贈を受け入れる体制を作ることも重要な事業の1つとなっています。
なお、土地については条件によっては寄付を受け入れること自体が難しい場合もあります。
個別の相談に応じて、協会が取得すべき財産か否かを判断しています。
(4)企業とのパートナーシップ
4つ目は「企業とのパートナーシップ構築」です。
企業とのパートナーシップ構築によって、金銭面や広報面での支援を得ています。
金銭面での支援で言うと、継続的なものでは団体賛助会員(企業・法人)の制度を設けています。
年会費は1口100,000円です。
寄付に関してはお金だけではなく物品提供も受け付けています。
また、イベントを行う際のスポンサーやチャリティー事業の企画、広告掲載など、直接的な支援以外の協力が得られる企業とのパートナーシップを築いています。
(5)ネットワークづくり
5つ目は「ネットワークづくり」です。
国内外を問わず、各地のトラスト団体との交流や情報交換、相互協力を行っています。
国内の活動例としては、ナショナルトラスト全国大会の開催が挙げられます
全国大会はおよそ年1回のペースで開催されており、複数のトラスト団体が活動報告や自然を守るための人づくり・地域づくりの取り組みについて発表した回もあります。
2021年は新型コロナウイルスの影響もありオンラインでの開催となりましたが、このような状況下でも活動が継続されています。
(6)普及啓発活動
6つ目は「普及啓発活動」です。
ナショナルトラストについて、国民に広く知ってもらうための普及啓発を進めています。
印刷物の発行や展示活動など一般的な広報活動はもちろん、全国の研修会や学習会へ講師派遣も行っています。
具体的な内容としては、自然を守る方法、環境への取り組みのヒントなど、様々なテーマに対応しています。
また、中高生の研修や学生インターンの受け入れも行っています。
参考:公益社団法人 日本ナショナル・トラスト協会 ホームページ 協会の紹介
まとめ
今回はナショナルトラストについて詳しくご紹介しました。
ナショナルトラストの概要に加えて、日本におけるトラスト活動の目的や、日本ナショナルトラスト協会の事業内容についてもおわかりいただけたのではないでしょうか。
本記事が少しでもあなたのお役に立つことを願います。