「新自由主義」とは、簡単に言うと政府の社会への介入は最小限にすべきと考える立場を指します。
今回の記事では、
- 新自由主義の概要
- 新自由主義のメリットとデメリット
- 実施された新自由主義政策
についてわかりやすく解説していきます。
1、新自由主義とは?
新自由主義はネオリベラリズムとも呼ばれ、冒頭でも説明したように、政府による市場または個人への介入を最小限とする思想です。
「政府の介入を最小限にするってどういうこと?」とイメージが湧きにくい人もいるかもしれません。
簡単な例を挙げてみましょう。
政府が積極的に社会や市場に介入し、貧困層の人々に対して「社会保障」という網をしっかりと作っておけば、極端な貧富の差や貧困は生まれづらくなります。
ただし、政府が主に市場などに制限をかけることになり、経済は停滞しやすくなります。
また、政府の機能が大きく求められるため、税金や社会保障費などの国民の負担も大きくなります。
このように積極的な介入を行う政府のことを「大きな政府」と呼びます。
一方で政府の介入を最小限にすれば、企業は活発に競争を行い、消費者の選択肢も広がります。
国の機能も少ないため国民の負担も軽減できますが、保証が少ない分、格差や貧困が生まれやすくなります。
このように最小限の介入に留まる政府のことを「小さな政府」と呼びます。
新自由主義の定義は難しいものの、歴史の流れとともに大きな政府では立ち行かなくなり、従来の自由主義(小さな政府)を現代向けに改良したものが新自由主義といえます。
2、新自由主義のメリット
新自由主義のメリットとしては、
- 市場の制限が緩和され経済が活性化する
- 自由競争の結果、より安く質の良いサービスが提供される
- 国の仕事が減るので税金が安くなる
- 公務員を削減できる
- 民営化により国の税収入が潤う
などが挙げられ、身近な例でいえば日本電信電話公社の民営化によるNTTグループ、日本国有鉄道の民営化によるJRグループの誕生などがあります。
3、新自由主義のデメリット
新自由主義のデメリットとしては、
- 自由競争に付いていけない人々は貧困に陥る
- 実力主義のため、持てる者と持たざる者の格差が広がる
- 社会保障が少ない
- 競争が激化すればデフレのリスクが高まる
- 感染症や大規模災害のような緊急事態に対応しづらくなる
などが挙げられ、
身近な例でいえば、コロナウィルス下での保健師不足も新自由主義的政策による地方行財政改革による保健所の削減が関係していると言われることがあります。
4、新自由主義の理念の下で行われた政策
新自由主義は1980年代から盛んになった理念です。
戦前から主流だった経済学者ケインズの経済理論(大きな政府)は、1960年から70年にかけて発生したオイルショック、労働運動、スタグフレーション(不景気とインフレ)に対応できず、緊急的な代替案として新自由主義が誕生しました。
1970年代からイギリス、アメリカ、日本が行った新自由主義政策を見てみましょう。
(1)サッチャリズム
「サッチャリズム」はイギリスのマーガレット・サッチャー首相が行った経済政策です。
第二次世界大戦後、イギリスは「イギリス病」という経済停滞に陥ります。
イギリス病とは大きな政府を推進するあまり、
- 市場の競争力低下
- 国の税収入の減少
- 労働運動の活発化による企業の疲弊
などを引き起こした状態で、不況と物価上昇が同時に起きるスタグフレーションが起きました。
サッチャー首相はサッチャリズムにより、社会保障面では大きな政府の路線を維持したまま、
- 電気、ガス、水道、通信、交通の基本インフラの民営化
- 経済規制の緩和
- 労働組合の活動と権利の制限
などを実施しました。
その結果、
- 労働組合の暴走の停止
- インフレの抑制
- 生産性の改善
など、経済を立て直すことはできたものの、今度は「経済格差の拡大」、「失業率の増加」などの問題も浮上しました。
ただし、この革新的なサッチャリズムは従来まで主流だったケインズの理論をくつがえし、アメリカのレーガン大統領や日本の中曽根首相、小泉首相に影響を与えることとなりました。
(2)レーガノミクス
「レーガノミクス」とはアメリカの大統領ロナルド・レーガンが行った経済政策のことで、アベノミクスの語源にもなった言葉としても有名です。
レーガノミクスでは、
- 規制撤廃による自由競争の促進
- 大幅な減税(個人所得税の減税、企業減税、最高税率の引き下げ)
- 政府の支出削減
- インフレ率を低下させるマネーサプライ(通貨供給量)
など4つの政策が行われ、安定した金融政策下で規制の緩和と減税を同時に行うことで経済を活発化させ、それらの税収によって国の経済を回復させる狙いがありました。
また、レーガン大統領は軍事支出の増額も実施し、「強いアメリカを復活させる」というテーマがレーガノミクスにはありました。
「かつての強靭なアメリカをもう1度」というテーマは、現在のトランプ大統領の考え方に通じるものがあります。
(3)中曽根政権による行政の民営化
日本における新自由主義のスタートとされる中曽根内閣(中曽根康弘首相:1982年〜1987年)では「行政の民営化」が大きく推進されました。
具体的には
- 日本専売公社(現JT)
- 日本国有鉄道(現JR)
- 日本電信電話公社(現NTT)
- 日本航空(現JAL)
などの民営化が挙げられ、活発な市場競争を生み出すだけではなく、ストライキや赤字で問題になっていた国鉄の立て直しにも成功しました。
また、中曽根首相は新自由主義政策を行っていたアメリカのレーガン大統領、イギリスのサッチャー首相とも親密な関係を築いていたことでも有名です。
(4)小泉政権による聖域なき構造改革
小泉内閣(小泉純一郎首相:2001年〜2006年)では、「聖域なき構造改革」という経済政策のスローガンを掲げ、小泉構造改革を行いました。
具体的には、
- 郵政民営化
- 三位一体改革
- 医療制度改革
などが挙げられ、国の郵便事業が民間に託された郵政民営化が記憶に新しい人も多いと思います。
三位一体改革では「地方にできることは地方に」という地方分権の理念の下、
- 国庫補助負担金改革
- 税源移譲
- 地方交付税の見直し
が行われ、
- 国が地方公共団体に出す補助金等のスリム化
- 所得税と住民税の税率変更
- 国から地方自治体に交付するために徴収する税金の見直し
が実施されました。
5、新自由主義が生み出す貧富の格差について
新自由主義は、
- 自由な競争と活発な経済
- 税収の向上と税金の軽減
など多くのメリットがありますが、貧富の格差を生むリスクというデメリットもあります。
自由競争が行き過ぎれば強者が弱者を搾取する社会構造になりかねません。
最近のニュースで「自己責任」という言葉をよく聞きますが、この言葉は新自由主義の性質をよく表しています。
政府のセーフティーネットが小さく、社会保障が少ない新自由主義では、実力重視の資本主義の性格が強まる傾向にあるようです。
まとめ
今回は「新自由主義」について解説しました。
いつの時代も政府のあり方は「大きな政府」と「小さな政府」の間で揺れ動きます。
日本は中曽根首相から小泉首相、安倍首相まで新自由主義の流れが受け継がれてきたからこそ、自由主義に傾きすぎないブレーキが肝心かもしれません。
政府がどのように国民を守り、支援するだけではなく、その背中を押していけるのかが注目されています。