夜警国家とは政府が人々への干渉を最低限にとどめた政治のあり方を指します。
国の言いなりになりたくない・・・
もっとひとりひとりが自由に暮らせたらいいのに!
こんな風に考えたことはありませんか?
もしあなたがそう考えているなら貴方は夜警国家(やけいこっか)を理想としているかもしれません。
しかし国の権力が少ない夜警国家はメリットが多いようにも思えますがデメリットも存在します。
今回は夜警国家(小さな政府)に焦点を当てて解説していきたいと思います。
1、夜警国家とは
夜警国家(やけいこっか)は1862年にドイツの革命家フェルディナント・ラッサールによって生み出された言葉で、ラッサールは政治学者、社会主義者などさまざまな顔を持ち、労働運動を指導していた人物でもありました。
当時のドイツではブルジョワジーと呼ばれる裕福な資産家が強い権力を持ち、政府は彼らの財産が盗まれないように警備するガードマン(夜警)のような存在でしかなく、ラッサ―ルは皮肉を込めて当時の政府を「夜警国家」と呼びました。
小さな政府が最小限に権力を弱めた状態を夜警国家、大きな政府が力をより強く使った状態を福祉国家と呼びます。
夜警国家の同義語には「自由主義国家論」という言葉もあり、国家からの自由な解放によって個人が自由に暮らせることを意味します。
“自由”に焦点を置くと夜警国家の方が良いような気がしますが、ラッサールが指摘したように国の権力が弱まれば裕福な市民階層の力が強くなることも懸念されます。
実際に夜警国家(小さな政府)がどのような歴史を歩んできたのかもう少しくわしく見ていきましょう。
2、変遷(歴史)
小さな政府を夜警国家と呼び始めたのはドイツの革命家フェルディナント・ラッサールですが、小さな政府という概念をもたらしたのは18世紀のスコットランドの経済学者のアダム・スミスです。
アダム・スミスは国富論という本の中で「神の見えざる手」という理論を提案しました。
神の見えざる手とは、国が市場へ介入しなくても人々は自由に行動し、自己の利益を求めて動いたとしても自然と市場と社会は豊かになるという理論で神によって自然と導かれるというキリスト教の思想にも影響を受けています。
アダム・スミスは市場に介入しない小さな政府を推奨したものの、国の防衛と安全保障、司法、公共事業は国が役割を果たすべきと考え、人々の自由な行動は違法性のないルール内であることを前提としていました。
しかし、アダム・スミスの国富論はルールを守らない資本家の盾に使われたり、モラルのない企業によって独占や情報の非対称性(消費者と売り手の情報の差による被害)が起こるなどさまざまな障害も起こりました。
これは市場の失敗と呼ばれ、自由主義経済のリスクでもあります。
「神の見えざる手」という言葉がキリスト教に影響を受けている通り、アダム・スミスの国富論には人間の理想的な姿と現実の姿にギャップがあるのかもしれません。
しかし、アダム・スミスの死去後も多くの学者が彼の思想を継承し小さな政府と自由主義市場の可能性を提案しています。
3、夜警国家のメリット・デメリット
自由だからこそイノベーションが生まれやすい小さな政府ですが、夜のガードマンの役割しか果たさない夜警国家にデメリットは付きものです。
夜警国家のメリットとデメリットをくわしく見てみましょう。
(1)メリット
夜警国家の最大のメリットは、税金が安いことです。
毎月の社会保険料や所得税に悩んだ経験はありませんか?
夜警国家では公共事業以外のサービスをすべて民間が行うため、国の支出が少なくなります。
国の支出の財源は税金であり、支出が少なくなれば税金も安くなります。
また、民間が担うサービスが増えれば企業同士の競争も発生しやすくなります。
競争によって品質の高い商品が生まれる可能性も高まり、自由に企業が動けるので市場も活発化し、経済効率も上がります。
(2)デメリット
夜警国家の最大のデメリットは、治安の悪化などが挙げられます。
国の権力が少ないがゆえに犯罪を取り締まる母体も小さくなるのです。
また、小さな政府では格差が広がりやすく社会保障が少ないことも治安悪化の原因に挙げられます。
夜警国家では実力主義の社会が基本です。
弱者を救う社会保障が少ないために一部の成功者以外は生活が困窮しやすいというデメリットがあり、国の監視が少ないため、低所得者が犯罪に手を染めやすい環境も生まれます。
ラッサールが皮肉したように「国」という権力が弱まれば「金」という新しい権力が台頭する恐れもあるのです。
これらの夜警国家のデメリットは大きな政府のメリットにも通じます。
大きな政府のスウェーデンでは消費税25%という高い税金があるものの、医療費・教育費無料など福祉国家特有の社会保障の充実が実現されています。
4、夜警国家としての日本
日本は小さな政府、大きな政府、どちらに当てはまるのでしょうか?
目安のひとつである公務員数で見てみましょう。
日本の公務員数は2018年の段階で約332.8万人。そのうち国家公務員は約58.3万人、地方公務員は約274.4万人となり、全体の82.5%を地方公務員が占めています。
数字で見ると公務員って意外と多くない?
と感じるかもしれませんが、日本は先進国の中でも特に公務員が少ない国でもあります。
日本と先進国の公務員数の比較データを見てみましょう。
グラフを見ると日本は他国と比べて公務員数が少なく、小さな政府と呼ばれるアメリカでも日本より公務員数が多くなっています。
次に、国がどれだけ社会に関わっているのかを測る目安になる政府の支出規模を見ていきましょう。
下記のグラフでは先進国が参加しているOECD(経済協力開発機構)の中での日本の位置づけがわかります。
日本の一般政府支出規模はGDP比約37%、ヨーロッパ諸国より低く、アメリカ(約36%)よりもやや高く、大きな政府で知られるスウェーデンの支出規模は他の国と比べても断トツで高いこともわかります。
引用:OECD諸国の一般政府支出の規模(対名目GDP比)(2004年)内閣府
次に日本が小さな政府としてどこに支出をしているのかを見てみましょう。
引用:主要国の政府支出の内訳(対名目GDP)(2002年)内閣府
上記の表を見ると、日本の政府支出は経済・公共への支出が高く、一般サービス・治安、保健・社会保障、文化・教育は比較的少ないことがわかります。
小さな政府とはいえ経済への関与に重きを置いていることがわかりますね。
以上のことから日本は小さな政府としての特徴を持っていることが分かりました。
ただし、気になるデータもあります。
下記のデータは潜在的国民負担率を表したグラフです。
日本の潜在的国民負担率は比較的少ないものの、内訳を見ると財政赤字対国民所得比が他先進国よりも高いことがわかります。
財政赤字対国民所得比とは、国が抱えている赤字を将来国民が負担する割合を指し、今後、人口減少とともに政府の支出が増加し財政赤字が国民の生活を圧迫すれば、日本政府が大きな政府へと変化する可能性もあるでしょう。
まとめ
今回は夜警国家(小さな政府)について解説しました。
日本は医療費の3割負担や社会保険料、年金など大きな政府のイメージがあるものの、小さな政府であることがわかったと思います。
小さな政府の中でも支出が多いのが経済・公共ということもあり、今後の少子高齢化とともにどのように支出が変わっていくのかも気になるところ。
小さな政府と大きな政府のメリットとデメリットを見比べながらバランスの良い国を実現していきたいですね。