不逮捕特権とは、国会会期中は国会議員が逮捕されることが無いという特権のことです。
昨今、国会議員による政治資金の不適切流用や贈収賄などで逮捕される事件がメディアでも取り上げられていますが、一方で国会議員には「不逮捕特権」が憲法50条で認められています。
本記事では不逮捕特権について詳しく解説します。
お役に立てば幸いです。
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1、不逮捕特権とは|議員権限
不逮捕特権とは国会会期中に国会議員が逮捕されることが無く、会期前に逮捕された場合は、その議員の要求があれば逮捕した議員を釈放しなくてはならない(会期中)という特権のことです。
不逮捕特権が存在する理由は政府が反抗する議員を不当に拘束できない様にするためです。
この制度の成立には、歴史的に君主や政府に反抗した議員が不当に逮捕されていたという背景があります。
そういった状況では国会議員が民意を反映させるための活動を充分に行うことができず、政府に賛同するものが常に優勢となります。
結果的に政府が恣意的な法を制定しそれを執行する状況に陥りかねません。
その防止策として不逮捕特権は存在しています。
そのため不逮捕特権は国会議員の身体の自由を確保し、審議への参加を主な目的にしています。
ちなみに不逮捕特権は地方議員には認められていません。
市議会議員などが議会開催中に公職選挙法違反や贈収賄の罪などに問われた場合は、議会開会中においても逮捕されるのです。
また国会議員は不逮捕特権以外にも
- 免責特権
- 歳費などを受ける権利
という2つの権利を職務遂行のため保持しています。
(1)免責特権
免責特権とは国会議員は議院外において、議院での発言、討論、表決に関しての責任を問われないということです。
こちらも憲法第51条に定められた権限です。
国会議員が議院において自由に発言を行うことができないと、その本来の使命を果たすことが困難になります。
そのためこの制度の目的は、院内においての言論の自由を特に保障することによって議員の自由な活動を確保するとともに議会制度の適正性を保つことです。
(2)歳費などを受ける権利
歳費とは給与などの議員報酬のことを指し、議員活動を可能にする経済的基盤として、国会議員は国から歳費を受ける権利があると憲法第49条に定められています。
この権利には歳費(給与)の他に旅費や公設議員秘書を雇う人件費、通信費などが含まれます。
2、不逮捕特権の具体的内容
不逮捕特権が認める国会議員の権利の内容について更に詳しくみていきましょう。
不逮捕特権が及ぶのは国会の「会期」であるため
- 通常国会
- 臨時国会
- 特別国会
- 常会
を含み、約150日間になります。
継続審査(会期中に決まらなかった議題を次の会期で引き続き審査すること)については会期中とはいえず、不逮捕特権は行使できません。
参議院の緊急集会は会期ではありませんが、会期中に準じて扱われ不逮捕特権が適用されます。
また不逮捕特権における「逮捕」という言葉には、刑事訴訟法上の逮捕・勾引・勾留のほか、行政上の措置である警察官職務執行法第3条による保護措置や精神保健福祉法第29条による措置入院等による身柄の拘束も含まれます。
国会そのものについてより詳しく知りたい方は是非こちらの記事をご覧下さい。
国会の種類とは?4つの種類をわかりやすく解説
3、逮捕される理由|逮捕されたケース
憲法50条では「法律の定める場合を除いては」という一文があり、その例外が認められています。
国会議員が逮捕される事由について詳しくみていきましょう。
(1)院外の現行犯逮捕
国会外での現行犯(刑事訴訟法第212条)の場合には、基本的に犯罪の事実が明白で、不当逮捕のおそれがないことから逮捕しうる事由となります。
なお、院内の現行犯については議院の自律性の下で国会法114条の規定に従って、議長の議院警察権に服することとなり各議院の自主的措置に委ねられることになっています。
(2)議院の許諾がある場合
国会議員を現行犯以外で国会の会期中に逮捕する場合は、所属する議院の許諾(許可)があれば可能となります。
裁判所が議院に逮捕許諾請求をして、内閣を通じて所属する議院において議決をとり、許諾された場合、会期中の現職国会議員を逮捕できるのです。
(3)国会の会期外
憲法では国会の「会期中」に不逮捕特権を認めていて、閉会中においてはその権限が及ばないことから、国会閉会中の逮捕が行われています。
(4)国会議員の逮捕事例
そんな不逮捕特権を有する現職国会議員の逮捕は稀ではありますが、いつ、なぜ逮捕されたのかを中心に紹介していきます。
①IR汚職事件
2019年12月、カジノを含む統合型リゾート(IR)事業を巡り、贈収賄の罪で元自民党の衆院議員らが国会会期後に逮捕された事件です。
②陸山会事件
2010年1月現職の衆議院議員が小沢一郎氏の秘書時代、収支報告書に土地取引をめぐる4億円の収入を記載しなかったという政治資金規正法違反で、臨時国会終了後に逮捕された事件です。
4、法の下の平等との関係
憲法第14条では
「すべて国民は、法の下に平等であって、人種、信条、性別、社会的身分又は門地により、政治的、経済的又は社会的関係において、差別されない。」
引用:日本国憲法
と定められているので、国会議員であっても一国民として、法律に基づいて罪があれば裁かれる義務が当然にあります。
しかし先にも述べたように、議員の身体の自由を保障することと議院での審議を可能にすることを目的に限定的に法の下の平等の例外として扱われているのです。
不逮捕特権に関するQ&A
Q1.不逮捕特権とは?
不逮捕特権とは、国会会期中は国会議員が逮捕されることが無いという特権のことです。
Q2.不逮捕特権は地方議員にも認められているのか?
地方議員には不逮捕特権は認められていません。
市議会議員などが議会開催中に公職選挙法違反や贈収賄の罪などに問われた場合は、議会開会中においても逮捕されます。
Q3.国会議員の逮捕事例はある?
あります。2件紹介します。
①IR汚職事件
2019年12月、カジノを含む統合型リゾート(IR)事業を巡り、贈収賄の罪で元自民党の衆院議員らが国会会期後に逮捕された事件です。
②陸山会事件
2010年1月現職の衆議院議員が小沢一郎氏の秘書時代、収支報告書に土地取引をめぐる4億円の収入を記載しなかったという政治資金規正法違反で、臨時国会終了後に逮捕された事件です。
まとめ
いかがでしたでしょうか。
国会議員に与えられた権利の中で逮捕されない権力をもつ意味と、逮捕される理由について取り上げてご紹介させて頂きました。
このことを意識した上で日々のニュースなどを見ると、国会議員が逮捕されることが、重大事件として取り扱われる理由がおわかりになると思われます。
衆議院と参議院の違いについて詳しく知りたい方は以下の記事もご覧ください。