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一国二制度とは?歴史的背景やメリット・デメリットを簡単解説

投稿日2021.3.1
最終更新日2021.03.01
この記事の監修者
山口和史
20年にわたって法律、税務、経営等の業界専門誌の編集長を歴任。
2020年から政治ドットコムの理念「政治をもっと身近に。」を実現するため、編集長に就任。
独自の視点と切り口で、政治にまつわる最新情報を発信する。

一国二制度とは、“中国の一部である香港”に、中国本土とは異なる制度が存在することを指します。
代表的な違いで言えば、香港では中国本土では認められない言論・集会の自由が認められています。

今回は一国二制度について、以下のとおりご紹介します。 

  • 一国二制度の歴史的背景
  • 一国二制度のメリットとデメリット
  • 香港国家安全維持法施行の経緯とリスク

本記事がお役に立てば幸いです。

1、一国二制度とは

一国二制度
一国二制度とは、“中国の一部である香港”に、中国本土とは異なる制度が存在することを指します。
中国が香港・マカオの主権を回復し、台湾との統一を実現するために作った仕組みです。

香港の制度における、中国本土との大きな違いは、中国本土では認められない言論・集会の自由が認められていることが挙げられます。

また、独自の通貨やパスポートの発行権もあります。

そうした違いから、外国から見た時に「香港は一つの国なのか、中国の一部なのか」という疑問が浮かぶほどの違いがあると言えるでしょう。 

2、一国二制度の歴史的背景

一国二制度となった背景には、香港がかつてイギリスの植民地であった歴史が関係します。
1842年、中国の清朝がアヘン戦争に負けた際、香港はイギリスの植民地になりました。

以降、香港の人々はイギリス流の資本主義経済や言論の自由がある社会で暮らして来たのです。
 一方で中国本土は、社会主義経済であり、言論の自由も制限されています。 

香港が1997年7月に英国から返還された際、中国は香港に対して「外交・防衛を除く分野で高度の自治を50年間維持する」という約束をしました。 

その約束によって、香港は特別行政区として

  • 独自の行政
  • 立法権
  • 司法権

などを有することになったのです。
しかし実際、行政については制限があり、完全な民主主義とは言えない状態という意見もあります。

それでも一国二制度のおかげで、香港はアジアの

  • 貿易港
  • 観光地

として発展を遂げました。

3、一国二制度のメリット・デメリット

一国二制度
そもそも一国二制度のメリット・デメリットは何なのでしょうか。
以下で順に確認していきましょう。 

(1)一国二制度のメリット

香港の人々にとっては、中国本土とは異なり、様々な「自由」が保障されていることが最大のメリットでしょう。 

言論・集会の自由があるので、デモを行うことができ、数千人単位であれば各国にも報道されます。
世界中に影響を与えられる行動を市民自身が取れることは、大きな意義があると言えます。

また、一国二制度によって実現した

  • 資本主義経済であること
  • 英語と中国語のどちらの言語も利用できること
  • 中国の一部であること

により、経済的に大きく発展した側面もあると言われています。 

(2)一国二制度のデメリット

一国二制度のデメリットとしては、一国にある立場の異なる両者の溝があると言われています。
中国本土としては、経済的に大きな発展を遂げている香港を「完全統治したい」と動いているという意見があります。

一方香港では、独自の制度でうまくいっている部分も大いにあるので、このままでありたいと願う人が多くいるのも自然なことと言えるかもしれません。

実際に、後に述べる「香港国家安全維持法」の施行において、両者の溝はより深く大きくなっていきます。

4、香港とは異なる、中国と台湾の関係

香港やマカオと同じく、中国本土とは少し異なる立場に「台湾」があります。
台湾は1895年から1945年までの50年間、日本の統治下にありましたが、太平洋戦争後に中国へ返還されました。 

その後中国では、蒋介石率いるの中国国民党と、毛沢東率いるの中国共産党の内戦が起きました。
1949年に毛沢東の中国共産党が勝利をおさめ、現在の中国が成立しました。

一方で、敗れた蒋介石が率いる中国国民党は、現在の台湾へ逃れ、統治を始めました。
こうして中国と台湾は、分裂することとなったのです。

当初、国連において台湾が中国の代表権を持っていましたが、中国の発展に伴い代表権は中国に移りました。

そして台湾は国連を脱退することになりました。
現在でも台湾と外交関係にある国は15か国のみであり、中国も含めて「外交関係」が結ばれた国はとても少ないです。

5、香港国家安全維持法施行の経緯とリスク

 一国二制度にひずみが出た原因であると言われている、2020年6月30日に施行された「香港国家安全維持法」の経緯とリスクについてご紹介します。

(1)香港国家安全維持法の経緯|香港民主化デモ

「香港国家安全維持法」が施行される前、2019年にも大きな出来事がありました。
それは2019年7月1日に起きた、数十万人が参加したという香港民主化デモです。

このデモは表面上、犯罪容疑者の中国本土への引き渡しを認める「逃亡犯条例の改正案」に反対する目的で行われていました。

しかし実際は、中国本土による

  • 自由へ介入
  • 見せかけの民主化

という2点に脅威を感じた香港の人々によるデモでした。
「自由に介入」については、以下のような事実をもとに人権団体は批判していました。

  • 香港で中国政府に批判的な本を扱う「銅鑼湾書店」の書店員が次々と失踪
  • 高等法院による民主派議員の議員資格剥奪
  • 香港独立を目指す活動家を招くイベントの司会者の、香港入国拒否

また「見せかけの民主化」については、以下のような事実が取り上げられていました。

  • 立法を司る70人の議員全員が、香港の有権者に直接選ばれていない
  • 議席の大部分は親中派の議員が占めている

このような事実から、香港の人々は声をあげ、大きなデモへと発展したのです。 

(2)香港国家安全維持法の施行

香港国家安全維持法は、上記のような香港での反政府的な運動を取り締まるために、中国が制定した法律です。

香港の中国返還から23年となる2020年7月1日を前に、6月30日の夜11時ごろ施行されました。
違反者には、最高で無期懲役が科されるという重い内容となっています。

なお、香港に住んでいない人も起訴される可能性があります。
以下は法律内容の一部になります。

  • 中国政府は香港に独自の治安機関を設置する
  • 国家からの離脱(分離独立)を目指す行為は犯罪とみなされる可能性がある
  • 香港に介入する外国勢力との結託や、中央政府の権力・権限を揺るがす行い(反政府行為)は犯罪とみなされる可能性がある
  • 公共交通機関の施設を損傷する行為はテロリズムとみなされる可能性がある
  • 有罪となった者は公職に立候補できない
  • 安全保障に関わる事件の裁判の場合は、香港の行政長官が裁判官を指名できる
  • 国家安全保障委員会の決定に対し、法的な異議申し立てはできない
  • 一部の裁判は非公開で行う 

ただし2020年6月30日の施行以前の行為については、適用されません。

参考:「香港国家安全維持法」が施行 最高刑は無期懲役 – BBCニュース

(3)香港国家安全維持法のリスク

香港国家安全維持法によって、司法権の独立や表現の自由が損なわれる危険性が懸念されています。
例えば、安全保障に関わる事件の裁判の場合は、香港の行政長官が裁判官を指名できます。

裁判官を選べるという点で、司法権の独立とは言えなくなる可能性があります。

また、この法律は外国人にも適用される可能性があるため、中国・香港以外の人にとっても自由な発言や行動が制限される恐れがあるのです。

あわせて、国際法に抵触する可能性があるという指摘もあります。

香港国家安全維持法の国家分裂罪の記載には「国家の分裂、国家の統一破壊を狙う行為の一つを組織・画策・実施、または実施に加わったときには犯罪となる」とあります。

 つまり「武力を使っていない場合」でも国家分裂罪が適用される可能性があるのです。 

まとめ

今回は一国二制度について詳しくご紹介しました。

香港と中国という日本にとっても関係の深い地域において、難しい問題があることをおわかりいただけたのではないでしょうか。

今回ご紹介した一国二制度の概要、歴史的背景、メリット・デメリットを参考に、ニュースを紐解くヒントにしていただければ幸いです。