サプライチェーンとは、ある製品が原材料から生産され、消費者の手元で消費されるまでの一連の流れを指します。
そのため、サプライチェーンが「いかに機能するか」は物流の要です。
そこで今回の記事では、
- サプライチェーンの概要と流れ
- サプライチェーン・マネジメントの概要
- サプライチェーンに対する政策
などについて分かりやすく解説します。
本記事がお役に立てば幸いです。
1、サプライチェーンとは
サプライチェーンとは、製品の生産からの消費までの一連の流れを指します。
「Supply(供給)」と「Chain(鎖)」を組み合わせた造語です。
多くの製品はメーカー(製造業者)によって作られていますが、メーカーだけで原材料の生産から消費者への販売までを行っているわけではありません。
基本的には、「原材料の調達→製造→在庫管理→配送→販売→消費」という一連のプロセスがあり、各工程で様々な企業が連携しています。
このようにそれぞれの工程が「供給の連続」によって成り立っている様を、鎖に見立てて「サプライチェーン」と呼ぶのです。
2、サプライチェーンの流れ
サプライチェーンは、大きく
- 購買物流
- 組み立て・製造
- 出荷物流
の3つの流れに分けられます。
ここからは具体的に「セーター」を例に取り上げ、どのようにして購入まで至っているのか確認していきましょう。
(1)購買物流
サプライチェーンの中で、原材料の調達から製造に進むまでの工程を「購買物流」といいます。
セーターの素材を得るためには、まずは羊などの動物の毛を刈ったり、農家が綿花を育てたりしなければなりません。
そして、それらを紡績工場に送って糸を作ります。
このように、製品の原材料を獲得し、加工工場へ送るまでの段階が購買物流です。
(2)組み立て・製造
サプライチェーンの中で、原材料を製品にするために加工する工程が「組み立て・製造」です。
購買物流によって送られてきた糸を編み上げ、「セーター」という製品を作る工程にあたります。
そして、製造されたセーターは、衣服店の需要に応じて製造・出荷されます。
(3)出荷物流
サプライチェーンの中で、加工した製品を消費者の元に届ける工程が「出荷物流」です。
工場から出荷されたセーターを衣服店が陳列し、消費者が購入することで、手元に届けられます。
このように、私たちがセーターを購入するまでには、さまざまな工程があるのです。
3、サプライチェーン・マネジメントについて
「サプライチェーン・マネジメント」とは、モノの流れやお金の流れを情報と結び付けて、全体の共有・最適化を目指す経営管理方法です。
日本では、2000年ごろからサプライチェーン・マネジメントに対する取り組みが行われてきました。
ここでは、サプライチェーン・マネジメントの
- 目的
- 導入メリット
について見ていきましょう。
(1)サプライチェーン・マネジメントの目的
複雑化した今日のサプライチェーンでは、各企業がバラバラに作業や判断をしてしまうと、多くの時間・お金の無駄が発生する可能性があります。
そこで、企業の壁を越えて、それぞれの作業の最適化を図ることで、全体的な利益を生み出していくことが、サプライチェーン・マネジメントの大きな目的です。
(2)サプライチェーン・マネジメントの導入メリット
サプライチェーン・マネジメントを企業が導入するメリットは、大きく分けて以下の3つが挙げられます。
- 在庫の最適化
- スピーディーな市場供給
- 人材の有効活用
それぞれについて解説していきましょう。
①在庫の最適化
原材料の仕入れから在庫管理、出荷にわたる物流を把握することで、過剰在庫による赤字の発生リスクを抑えることが期待できます。
「在庫をいかにバランスよく管理するか」という点は、多くの企業が抱える課題の1つです。
サプライチェーン・マネジメントによって、工程の全体像を把握し、最適な意思決定を行うことで、在庫数を効率よく管理することが可能になります。
②スピーディーな市場供給
サプライチェーン・マネジメントにより、リードタイムを効率化することで、製品をスピーディに市場へ供給できます。
リードタイムとは、作業のスタートから終了までの時間です。
流通においては、仕入れリードタイム・販売リードタイムなど、様々なリードタイムが存在します。
参考:情報流通機能|TOHAN
③人材の有効活用
サプライチェーン・マネジメントによって、工程ごとの人材の無駄も解消できます。
全体の工程を見直し、必要な場所に必要な人材を配置することで、限られた労働力を効率よく活用することができるのです。
4、バリューチェーンとの違い
サプライチェーンと似たような言葉として、「バリューチェーン」というものがあります。
バリューチェーンとは、生産から消費者に届くまでの各工程で、価値(バリュー)が加わる一連の流れを指します。
例えば、スタートの価値を0、最後の価値を100として、どの工程でどのように価値が加わっていくのか、といったことに注目するのです。
それら一連の流れを通じた付加される価値について、競合他社と比較することで、企業の強みや弱みの分析などに活用するのです。
ただし、サプライチェーンとバリューチェーンは混同して使われることも少なくありません。
5、サプライチェーンに対する政策
政府はデータ共有を通じて、生産・運送・販売におけるサプライチェーンの更なる効率化により、生産性の向上を目指しています。
経済産業省が具体的に取り組んでいる
- 電子タグの導入
- 電子レシートの導入
- Computer Vision(カメラ)の活用
について詳しく見ていきましょう。
参考:IoT等を活用したサプライチェーンのスマート化|経済産業省
(1)電子タグの導入
電子タグとは、製品に付属する電波を受けて働く小型の電子装置で、非接触による製品データの自動識別などに活用されています。
「いつ、どこで、どんな商品が、どのように流通しているか」のデータを効率良く収集し、サプライチェーン全体で共有・分析することが可能になります。
具体的には、電子タグの利用によって
- 検品
- 棚卸し業務の高速化
- 万引きの防止
- 消費・賞味期限情報の管理
- 生活者の購入状況
など様々な場面での効率化が期待されます。
また政府は、サプライチェーンにおける情報の共有方法の1つとして「EPCISデータ連携ガイドライン」を策定しました。
EPCISとは、サプライチェーン可視化のために、モノの移動情報をコンピューターサーバ上で共有するサービスのことです。
今まで個々の企業で管理されていた情報を、同じフォーマットで管理することで、企業の壁を越えた情報を共有しようという考え方に基づいています。
参考:個品(商品)への電子タグ貼付に関するガイドライン|経済産業省
(2)電子レシートの導入
経済産業省は、従来紙で発行されていたレシートを電子化した「電子レシート」にも力を入れています。
買い物時の情報が電子データとなり、会計後にスマートフォンなどの端末のアプリで受け取れることができます。
これにより消費者は、自分の購入履歴などの管理がしやすくなります。
また、電子化されたレシートは貴重なデータ資産となり、購買履歴を分析すればマーケティングにも十分活用できる情報となります
実際に、東京都では経済産業省主導のもと、電子レシートの実証実験が行われました。
この実験参加者の約9割から「今後も電子レシート受け取りたい」という回答を得たこともあり、新たな成長戦略の1つとして政府は積極的に推進しています。
参考:【60秒解説】電子レシートが資産価値を持つ時代へ|経済産業省
参考:電子レシートの標準仕様を検証する実験を行いました|経済産業省
(3)Computer Vision(カメラ)の活用
Computer Vision(カメラ)を用いた、店舗の可視化や欠品の管理も、サプライチェーンのさらなる効率化を図る政策の1つです。
空間的な情報を自動で管理できるようになることで、
- 業務効率化
- 売り上げアップ
- 顧客分析
などにつながると期待されています。
一方で、個人情報やプライバシーへの適切な配慮が課題としてあります。
そこで経済産業省は、配慮すべきポイントなどをまとめた「カメラ画像利活用ガイドブックve2.0」を策定しました。
適用されるケースは、
- 店舗内に設置したカメラ(属性の特定・人の行動履歴の生成や分析)
- 屋外に向けたカメラ(人物形状の計測・写り込み発生の可能性がある風景の取得)
- 駅構内に設置したカメラ(人の流れの把握)
などです。
参考:「カメラ画像利活用ガイドブックver2.0」を策定しました|経済産業省
まとめ
今回は、サプライチェーンについて解説しました。
製品の原材料の調達から消費までの一連の流れを指す「サプライチェーン」は物流そのものであり、私たちの暮らしを支える重要な仕組みです。
近年のグローバル化によって、日本のサプライチェーンの形態も進化しています。
より安全で効率的な物流を図るためにも、サプライチェーン・マネジメントの重要性はより増していくかもしれません。