
労働組合とは、労働者の待遇改善を使用者(会社、経営者)に求めることができる組織です。
しかし最近は、労働組合の実態を「よく知らない」労働者が少なくありません。
そこで本記事では
- 労働組合の基礎知識
- 法的な位置づけ
- 入るメリットやデメリット
などをご紹介します。
1、労働組合とは
労働組合は労働組合法で
「労働者が主体となって自主的に労働条件の維持改善その他経済的地位の向上を図ることを主たる目的として組織する団体又はその連合団体」(労働組合法2条)
と定義されています。
具体的には
- 「給与体系の改善」
- 「休みを増やす」
- 「時間外労働の削減」
などを使用者の側に求める組織ということです。
なぜこのような仕組みが必要かというと、労働者は使用者と比較して弱い立場にあり、それを保護しなければならないと考えられているからです。
詳しく見ていきましょう。
(1)特徴
労働組合は会社の組織ではありません。
しかし、多くの労働組合は会社の人たちだけでつくり、会社のなかに事務所があります。
そのため、労働組合を会社の一部署だと思っている方がいるかもしれませんが、それは正しくありません。
労働組合は、法律上は「単なる労働者の集まり」です。
つまり、労働組合を組織したからといって、どこかに届け出る必要はないです。
しかし労働組合は「憲法で組織することが保障されている団体」でもあります。
憲法は最も優先される法律ですので、労働組合は「強い組織」といえます。
実際、労働組合は多くの権利を有しています。
ちなみに社内に労働組合が存在しない、あるいは存在するが機能していないという場合にはユニオンという労働組合に加入することができます。
ユニオンとは、ある会社内の労働組合ではありません。
1つの企業の枠を超えて労働者が加入している労働組合のことです。
そのため日本全国から加入できるユニオンもあり、正社員でなければいけないなどの加入制限も基本的にありません。
(2)会社とはどのような関係なのか
労働組合は、会社に対して賃金を上げるよう要求したり、長時間労働を改善するよう求めたりします。
会社がその要求に応えなければ、労働組合はストライキ(職務放棄)をすることができます。
昔は、労働組合は会社を「敵視」していました。
しかし、現代の労働組合と会社は、それほど対立しません。
むしろ、会社と「仲がよい」労働組合も多く存在します。
ただ労働組合と会社が「仲よく」できるのは、日本の経済情勢が比較的穏やかに推移しているからです。
戦前、戦中、戦後直後のように経済が大混乱に陥れば、再び労働組合と会社は敵対するかもしれません。
(3)憲法は第28条で労働組合を規定している
会社は強く、労働者は弱い存在です。
例え労働者が何人集まっても、会社と敵対すれば、労働者は簡単に負けてしまうでしょう。
そこで憲法は、労働者に強い権力を与えています。
労働者および労働組合について定めた憲法の条文は第28条で、全文は以下のとおりです。
憲法第28条
勤労者の団結する権利及び団体交渉その他の団体行動をする権利は、これを保障する。
(出典 日本国憲法)
短い条文ですが、これだけで労働組合に
- 「団結権」
- 「団体交渉権」
- 「団体行動権」
を認めています。
この労働三権(労働基本権)は、労働組合に関する知識のなかで最も重要なものなので、ひとつずつ詳しく解説します。
①団結権とは
団結権は、労働者が労働組合を組織する権利です。
労働者は弱い存在なので、団結権を認めることで、集団で会社に対峙(たいじ)することができるようになります。
また団結権のなかには、労働者が労働組合に入る権利も含まれています。
昔は、労働組合をつくることが違法扱いにされたり、特定の労働者が労働組合に入ることを会社が妨害したりすることもありました。
団結権によって、労働組合を違法にすることも、労働組合への加入を妨害することも許されなくなりました。
②団体交渉権とは
団体交渉権とは、労働組合が会社と、労働条件などについて交渉する権利のことです。
会社は、労働組合からの交渉要請を断ることができません。
また、労働組合は会社に対し、団体交渉(協議)で取り決めたことを文書にするように求めることができます。
③団体行動権とは
団体行動権とは、ストライキをする権利です。
ストライキとは、仕事を放棄することです。
多人数で組織する労働組合がストライキすれば、社内の業務が回らなくなるので、会社が労働組合の要求を応諾するかもしれません。
ただし公務員などがストライキを起こせば社会的な混乱が予想されます。
そこで公務員の労働基本権には制限がかけられています。
以下の関連記事では「公務員と労働基本権の制限」というテーマで詳しい解説を行っています。
労働基本権とは?労働三権の概要や公務員に適用されるのかわかりやすく解説
2、労働組合に加入するメリット
労働者が労働組合に加入するメリットは多くあります。
労働組合は「会社のなか」にもありますが、「会社の外」にある労働組合も存在します。
1社の労働者だけでつくる労働組合は、企業別組合といいます。
一方、同じ業界内の労働者でつくる労働組合や、同じ職業の労働者でつくる労働組合は、産業別組合や職業別組合と呼ばれるのです。
企業別組合(会社のなかの労働組合)に労働者が加入すると、労働組合が勝ち取った労働条件を享受することができます。
労働組合が経営者と賃金交渉をして、その結果、会社が賃金を上げることを約束すれば、労働組合員の賃金は上昇します。
勤務先の会社に企業別組合がない場合、その労働者が産業別組合や職業別組合に入れば、自分の労働者としての地位を守ってもらえます。
産業別組合や職業別組合の人たちは「労働者の社外の仲間」となるからです。
労働組合はブラック企業対策にもなります。
例えばあるブラック企業の経営者が、法の網をくぐって自社内に企業別組合をつくらせないようにしたとします。
その会社の従業員が産業別組合や職業別組合に入れば、経営者にブラックな行為をやめさせることができるかもしれません。
例えば、不払いの残業代を取り戻すことができるかもしれません。
3、労働組合に加入するデメリット
労働組合に加入するデメリットは、組合費を負担しなければならないことです。
企業別組合がある会社だと、給料から組合費が天引きされます。
また、「労働組合といっても、結局は会社の言いなりではないか」と指摘する人もいます。
例えば、労働組合が賃上げを要求しても、経営者が「会社が儲かっていないから、賃上げする環境にない」と答えれば、それで交渉が終わってしまうことは珍しくありません。
ストライキをする労働組合は、今はほとんど存在しません。
また、ブラック企業に企業別組合がある場合、ブラック経営者が、露骨に労働組合員を差別することがあります。
もちろん、そのような行為は違法の可能性が高くなりますが、ブラック経営者を法的に問い詰めることは簡単なことではありません。
労働組合がブラック経営者と闘えば、労働者は相当疲弊するでしょう。
相当ブラックな企業の場合、労働組合だけでは太刀打ちできないかもしれません。
その場合、労働基準監督署に是正を求めたり、裁判に訴えたりすることになります。
4、労働組合への加入が義務である時
労働者は、労働組合に加入することも、加入しないこともできます。
また、一度労働組合に加入しても、あとで脱退できます。
そういった意味では、労働組合に入ることは義務ではありません。
ただし、会社と企業別組合が「ユニオン・ショップ」という約束(協定)を交わしていると、その会社の従業員は、その労働組合(企業別組合)に必ず入らなければなりません。
つまり、労働組合への加入が、その会社に入社する条件になります。
そしてユニオン・ショップ協定が結ばれている会社では、経営者は、組合員でない者を解雇しなければなりません。
まとめ
冒頭で、「労働組合は会社の組織ではない」と紹介しました。
そして、労働者のなかには、労働組合を「会社の一部署」と勘違いしている人もいる、と解説しました。
これは事実なのですが、しかし「労働組合は会社の一部署のようなもの」という現実もあります。
労働組合の役員を経験すると社内で出世できたり、会社と対立したくない労働組合の役員がいたり、労働者より会社の利益を守る労働組合があるのは事実です。
こうした労働組合は、一見すると「労働組合の精神」に反するように感じるかもしれませんが、会社と労働組合(=労働者)が友好関係にあれば会社の利益が上がり、労働者たちの賃金も上がります。
そのため「会社と喧嘩するだけが労働組合の役割ではない」とする考え方は、あながち間違いともいえません。
しかし、労働組合員数は、1990年ごろと比較して2019年には20%以上減りました。
労働組合の組織率も、1940年代は50%を超えていましたが、2019年は16.7%にまで激減します。
労働組合の存在意義は、なくなってはいませんが、薄れていることは間違いなさそうです。
「労働組合を知らない労働者」がいるのはそのためです。
労働組合は今、「その存在意義」と「組合員数を増やす取り組み」という、大きな2つの課題を抱えています。
