政治ドットコム日本国憲法基本的人権労働基本権とは?概要や公務員に適用されるのか簡単解説

労働基本権とは?概要や公務員に適用されるのか簡単解説

投稿日2021.1.19
最終更新日2021.06.28
この記事の監修者
山口和史
20年にわたって法律、税務、経営等の業界専門誌の編集長を歴任。
2020年から政治ドットコムの理念「政治をもっと身近に。」を実現するため、編集長に就任。
独自の視点と切り口で、政治にまつわる最新情報を発信する。

労働基本権とは、労働者の立場を守り、健全な労働環境を維持するための基本的な権利です。

労働基本権は国の最高法規である憲法によって定められています。
しかし、これだけでは、労働基本権がどんな権利なのかわからないですよね。

そこで今回は

  • 労働基本権を支える3つの権利
  • 公務員と労働基本権
  • ILO(国際労働機関)条約との関係

について分かりやすく解説していきます。
本記事がお役に立てば幸いです。

1、労働基本権|労働三権

労働者
労働基本権は、労働者の立場を守るための権利です。

実際に労働基本権が記されている憲法28条を見てみましょう。

『第28条 勤労者の団結する権利及び団体交渉その他の団体行動をする権利は、これを保障する。』

引用:日本国憲法

この条文は「労働者が団結して雇い主に対して交渉してもいいよ」ということを定めています。

そんなこと当たり前では?と思う人もいるかもしれませんが、過去の歴史では労働者が団結して交渉することは認められていませんでした。

また、基本的な労働条件については第27条の勤労の権利でも定められています。

『第27条 すべて国民は、勤労の権利を有し、義務を負う。賃金、就業時間、休息その他の勤労条件に関する基準は、法律でこれを定める。児童は、これを酷使してはならない。』

引用:日本国憲法

つまり、極端な低賃金や長すぎる労働時間は憲法に反する行為と言えます。

また、1945年には労働組合法が制定され、

  • 労働者と使用者の立場を対等に保つこと『労働者が使用者との交渉において対等の立場に立つことを促進することにより労働者の地位を向上させること』
  • 労働者が労働条件について交渉できること『労働者がその労働条件について交渉するために自ら代表者を選出すること』
  • 労働者が『その他の団体行動を行うために自主的に労働組合を組織し、団結できることすることを擁護すること』
  • 労働者の『使用者と労働者との関係を規制する労働協約を締結するための団体交渉の助けとなることをすること及びその手続を助成すること』

などを目的としています。

労働者基本権は

  • 団結権
  • 団体交渉権
  • 争議権

の3つの権利から構成されています。

労働基本権を構成する3つの権利について詳しく見てみましょう。

(1)団結権

団結権とは、労働者が対等な立場で雇い主と話し合うために、労働組合を結成することや自主的に組合に加入できる権利を指します。

雇い主が組合を解散させ、組合員に嫌がらせすることは『不当労働行為』として労働組合法第7条で禁止されています。

万が一、この不当労働行為を受けた場合は『不当労働行為救済制度』により、国からの支援を受けることもできます。

(2)団体交渉権

団体交渉権とは、労働組合が雇い主と交渉できる権利を指します。

実際に交渉の中で交わされた労働者と使用者の間の合意は、“労働協約”として効力を持たせることができます。

つまり使用者が協約に違反すれば、法律違反として訴えることができるのです。

(3)争議権

争議権(そうぎけん)とは、労働環境の改善を求めてストライキができる権利を指します。

ストライキとは労働環境などの改善を求めて、団体で仕事を放棄することです。
ストライキをする場合は、事前に労働委員会と厚生労働大臣又は都道府県知事に通知する必要があります。

労働基本権は全ての労働者に適応されますが、公務員は例外的に労働基本権が制限されています。

公務員と労働基本権の関係についてみていきましょう。

2、公務員と労働基本権について

労働者の基本権な権利が守られている労働基本権ですが、公務員については制限があります。

特に

  • 警察職員
  • 消防職員
  • 海上保安庁職員
  • 自衛隊員
  • 刑務所職員

には労働三権すべてが適用されません。

そうはいっても、公務員の労働者としての権利が認められていないわけではありません。

公務員は労働三権が制限されている代わりに、人事院、人事委員会、公平委員会によって労働者としての立場を確保できます。

より詳しく見ていきましょう。

(1)国家公務員と地方公務員による違い

まず、国家公務員か地方公務員かで、労働基本権との関係に違いがあります。
以下の表は、公務員の役職や業種に対応した、労働基本権の適用範囲を示しています。

【公務員と労働三権の適用範囲】

  団結権 団体交渉権 争議権
国家公務員(非現業職員)

(団体協約を締結する権利はない)

×
国家公務員(現業及び特定独立行政法人職員) ×
地方公務員(公営企業、特定地方独法及び技能労務職員) ×
地方公務員(公営企業、特定地方独法及び技能労務職員以外) △(団体協約を締結する権利はない) ×

参考:公務員の労働基本権 厚生労働省

※ 前述の通り、警察職員・消防職員・海上保安庁職員・自衛隊員・刑務所職員は、国家公務員(非現業職員)または地方公務員(公営企業、特定地方独法及び技能労務職員以外)に当てはまるものの、労働三権のすべてが適用されません。

国家公務員とは国家公務員試験に合格し、各省庁など国を運営する機関に所属している公務員のことで

  • 霞が関で働く各省庁職員
  • 裁判官
  • 国会議員
  • 自衛官
  • 刑務官

などが含まれています。

一方で、地方公務員は消防士、市役所職員などが含まれます。ただ以下の職業は階級や勤務先によって呼称が変わります。

  • 警察官
  • 教員
  • 医師

警察官は警視庁勤務の職員と警視正以上が国家公務員となり、巡査から警視までは地方公務員になります。

また、教員は公立学校の場合は地方公務員、国立はみなし公務員、私立は公務員には当てはまりません。

医師も教員と同じく、勤務先によって呼称が変わります。

国家公務員 霞が関で働く各省庁職員、裁判官、国会議員、自衛官、刑務官など国の運営に関わる職業
地方公務員 消防士、市役所職員など地域の暮らしの運営に関わる職業
勤務先、階級によって異なるもの 警察官、教員、医師など勤務形態によって呼称が変わる職業

公務員の労働三権の適用範囲は

  • 国家公務員は「非現業職員なのか」「現業及び特定独立行政法人職員なのか」
  • 地方公務員は「公営企業、特定地方独法及び技能労務職員なのか」「それ以外なのか」

で異なります。

以下は労働三権に基づく公務員の区別表です。

国家公務員(非現業職員) 権力的な性格を持つ業務に就いている者

例:警察官、刑務官、海上保安庁職員など

国家公務員(現業及び*特定独立行政法人職員) 権力を持たない、公権に携わらない業務(非現業)に就いている者

例:運転手、整備士、清掃員など

地方公務員(公営企業、特定地方独法及び技能労務職員) 業務が民間と似ているもの、単純労務に就いている者

例:水道事業等の公営企業職員、技能労務職員と言われる清掃員、学校給職員など

地方公務員(公営企業、特定地方独法及び技能労務職員以外) 上記以外の全ての地方公務員

例:一般行政職、教員、消防士、警察官

*特定独立行政法人とは:国際協力機構(JICA)、造幣局、国立科学博物館、理化学研究所、国立がん研究センターなど独立行政法人通則法第2条第1項に規定された法人のこと。

参考:地方公務員の区分について 総務省

(2)公務員の労働基本権が制限されている理由

公務員の労働基本権が制限されている主な理由は、安心できる国民生活を確保するためです。

もし公務員がストライキを起こし、仕事を放棄してしまうと、公共サービスに支障が出るかもしれません。

公共サービスに問題が起き、十分に機能しないと、国民の生活にも悪影響が出る恐れがあるのです。

例えば、家の周囲で火災が発生した際に、警察官や消防士がストライキをしていたら、火災の被害が拡大してしまいます。

そういった事態に陥らないためにも、公務員の労働基本権は制限されているのです。

(3)公務員の労働基本権に関する判例

1973年に起きた「全農林警職法事件」では“公務員に憲法28条が適用されるのか”という問題が激しく議論されたことがあります。

全農林警職法事件とは、全農林労働組合の役員が警職法改正案への抗議のため、農林省職員たちにデモ活動への参加を求めた事件です。

全農林労働組合の役員がデモを主催することも、公務員に参加を促すことも国家公務員法では認められていません。

しかし、憲法は国民全てに適用されるものであって、そこに公務員が含まれるのか否かが議論されました。

最高裁の判決では、憲法28条の対象に公務員は含まれるものの、憲法は国民全体の利益が最優先とされました。

これにより、国民の日常を乱すような公務員による争議行為は禁止されるべきという結論が出ています。

3、ILO条約との関係

消防士

私たちの労働環境は、国際機関であるILO(国際労働機関)によっても守られています。
ILOとは、国連の機関で、国際基準に満たしていない労働環境が発覚すれば批准国に対し注意をします。

日本はILOの条約に批准しているものの、公務員である消防職員の団結権については認めていません。

しかし、ILOの条約では消防職員にも労働基本権を認めるべきとしています。

今まで、ILOの条約では軍隊・警察には例外が認められるとされていたため、日本の消防職員も同様であると解釈されてきました。

しかし、ILOの再調査により日本の消防職員は軍隊・警察のどちらにも当てはまらないとされ、再度勧告を受けています。

参考:消防職員の団結権 主要国中 日本だけいまだ認めず 東京新聞

まとめ

今回は労働基本権と公務員の労働三権に関する問題について解説しました。

公務員における、労働三権が制限されている理由は、国民に安心して生活を送ってもらうためです。

ただし、他の先進国では同職種に基本的な労働権が認められていることもあり、今後の日本における労働基本権の在り方について注目していきたいですね。