政治ドットコム憲法労働基本権とは?公務員に適用されるのか?

労働基本権とは?公務員に適用されるのか?

投稿日2020.3.25
最終更新日2020.06.15

あなたの労働環境を守る「労働基本権」について知っていますか?
労働基本権とは憲法第28条で定められた“労働者の基本的権利”を指し、これは国の最高法規である憲法に記された重要な労働者の権利です。

国は誰が動かしているのでしょうか?
それは労働者であるひとりひとりの“国民”です。
国民が働くことによって国は豊かになります。

そこで国民が安心して働けるように国が定めた権利が「労働基本権」です。でも、これだけだとわからないですよね。
そこで今回は公務員の労働基本権に関する問題も含め『労働基本権』を分かりやすく解説します。

1、労働基本権|労働三権

労働者
労働基本権は、団結権・団体交渉権・争議権の3つの権利から構成されています。実際に労働基本権が記されている憲法28条を見てみましょう。

『第28条 勤労者の団結する権利及び団体交渉その他の団体行動をする権利は、これを保障する。』
(引用 日本国憲法

この条文は「労働者が団結して雇い主に対して交渉してもいいよ」ということを定めています。
そんなこと当たり前では?と思う人もいるかもしれませんが、過去の歴史では労働者が団結して交渉することは認められていませんでした。

例えばあなたが同僚と一緒に雇い主に対して「もっと時給を上げてくれないと生活できない」と伝えたとします。
そこで「文句を言うなら全員クビ」と解雇されるのは立派な法律違反です。

また、基本的な労働条件については第27条の勤労の権利でも定められています。

『第27条 すべて国民は、勤労の権利を有し、義務を負う。賃金、就業時間、休息その他の勤労条件に関する基準は、法律でこれを定める。児童は、これを酷使してはならない。』(引用 日本国憲法

つまり、極端な低賃金や長すぎる労働時間は憲法に背く重大な法律違反です。
次に労働基本権を構成する3つの権利について詳しく見てみましょう。

(1)団結権

団結権とは、労働者が対等な立場で雇い主と話し合うために、労働組合を結成することや自主的に組合に加入できる権利を指します。

雇い主が組合を解散させ、組合に参加している労働者に嫌がらせ行為を行うことは『不当労働行為』として労働組合法第7条で禁止されています。

万が一、この不当労働行為を受けた場合は『不当労働行為救済制度』という国からの支援を受けることもできます。
また労働組合法とは1945年に制定された法律で、

  • 『労働者が使用者との交渉において対等の立場に立つことを促進することにより労働者の地位を向上させること』
  • 『労働者がその労働条件について交渉するために自ら代表者を選出すること』
  • 『その他の団体行動を行うために自主的に労働組合を組織し、団結することを擁護すること』
  • 『使用者と労働者との関係を規制する労働協約を締結するための団体交渉をすること及びその手続を助成すること』

を目的としています。

労働組合法 第1条の2では

『いかなる場合においても、暴力の行使は、労働組合の正当な行為と解釈されてはならない』

と決められているため、雇い主に不満があっても暴力行為は避けるようにしましょう。

(2)団体交渉権

団体交渉権とは、労働組合が雇い主と交渉できる権利を指します。

団結権が「団結できる権利」ならば「団体交渉権」は交渉できる権利を指し、実際に交渉の中で交わされた労働者と使用者の間の合意は“労働協約”として効力を持たせることができます。

つまり使用者が協約に違反すれば、法律違反として問えるのです。

(3)争議権

争議権(そうぎけん)とは、労働環境の改善を求めてストライキができる権利を指します。

ストライキとは仕事を放棄することで、このストライキは“個人ではなく団体で行うことが前提”で事前に労働委員会と厚生労働大臣又は都道府県知事に通知する必要があります。

ここまで労働者の権利とその権利を主張できる根拠についてご紹介してきましたが、その権利が制限されることがあります。
その代表例についてみていきましょう。

2、公務員と労働基本権について

公務員の労働基本権についてわかりやすく解説したいと思います。

労働者の基本権な権利が守られている労働基本権ですが、公務員については制限があります。
特に

  • 警察職員
  • 消防職員
  • 海上保安庁職員
  • 自衛隊員
  • 刑務所職員

には労働三権すべてが適用されません。

そうはいっても、全ての公務員の全ての権利が制限されているわけではありません。

また、公務員に労働三権が認められていない代償措置(代わりに権利が与えられています)として措置要求制度が設けられ、人事院、人事委員会、公平委員会を設置することによって公務員の労働環境を守っています。

より詳しく見ていきましょう。

(1)範囲について

まず、公務員と労働基本権(労働三権)の関係は、“国家公務員なのか、地方公務員”なのかで分けられます。

国家公務員とは国家公務員試験に合格し、各省庁など国を運営する機関に所属している公務員のことで、

  • 霞が関で働く各省庁職員
  • 裁判官
  • 国会議員
  • 自衛官
  • 刑務官

などが含まれています。
一方で、地方公務員は消防士、市役所職員などが含まれます。

国家公務員 霞が関で働く各省庁職員、裁判官、国会議員、自衛官、刑務官など国の運営に関わる職業
地方公務員 消防士、市役所職員など地域の暮らしの運営に関わる職業
勤務先、階級によって異なるもの 警察官、教員、医師など勤務形態によって呼称が変わる職業

ここで注意したいのは、

  • 警察官
  • 教員
  • 医師

など階級や勤務先によって呼称が変わる職種です。

警察官は警視庁勤務の職員と警視正以上が国家公務員となり、巡査から警視までは地方公務員になります。
また、教員は公立学校の場合は地方公務員、国立はみなし公務員、私立は公務員には当てはまりません。
医師も教員と同じく、勤務先によって呼称が変わります。

ここからさらに公務員の労働三権の適用範囲は、国家公務員は“「非現業職員なのか」、「現業及び特定独立行政法人職員なのか」”、地方公務員は“「公営企業、特定地方独法及び技能労務職員なのか」、「それ以外なのか」”で分けられていきます

【労働三権に基づく公務員の区別表】

国家公務員(非現業職員) 権力的な性格を持つ業務に就いている者
例:警察官、刑務官、海上保安庁職員など
国家公務員(現業及び*特定独立行政法人職員) 権力を持たない、公権に携わらない業務(非現業)に就いている者

例:運転手、整備士、清掃員など

地方公務員(公営企業、特定地方独法及び技能労務職員) 業務が民間と似ているもの、単純労務に就いている者
例:水道事業等の公営企業職員、技能労務職員と言われる清掃員、学校給職員など
地方公務員(公営企業、特定地方独法及び技能労務職員以外) 上記以外の全ての地方公務員
例:一般行政職、教員、消防士、警察官

*特定独立行政法人とは:国際協力機構(JICA)、造幣局、国立科学博物館、理化学研究所、国立がん研究センターなど独立行政法人通則法第2条第1項に規定された法人のこと。

参考:地方公務員の区分について 総務省

それではここからどんな役職の人にどの権利が認められているのか、を見ていきましょう。

【公務員と労働三権の適用範囲】

団結権 団体交渉権 争議権
国家公務員(非現業職員)
(団体協約を締結する権利はない)
×
国家公務員(現業及び特定独立行政法人職員) ×
地方公務員(公営企業、特定地方独法及び技能労務職員) ×
地方公務員(公営企業、特定地方独法及び技能労務職員以外) △(団体協約を締結する権利はない) ×

参考:公務員の労働基本権 厚生労働省

※ 前述の通り、警察職員・消防職員・海上保安庁職員・自衛隊員・刑務所職員は、国家公務員(非現業職員)または地方公務員(公営企業、特定地方独法及び技能労務職員以外)に当てはまるものの、労働三権のすべてが適用されません。

(2)公務員に労働基本権が認められていない理由

公務員にはなぜ憲法で定められた労働基本権が認められていないのでしょうか?その理由は労働基本権が定められた第二次世界大戦後までさかのぼります。

戦前、日本では労働者の権利が法律できちんと決められていませんでした。
そこで敗戦を機に日本に上陸したGHQによって労働基本権の枠組みが作られることになりました。

しかし、戦前の治安維持法が廃止されたことで国民の中で労働運動が激化します。

日本国政府とGHQの間の話し合いで労働基本権が決められたものの、公務員を強く統制しなければストライキが次々と勃発し国がまとまらなかった当時の状況から、公務員には厳しい制限が課されました。

(3)判例

1973年に起きた「全農林警職法事件」では“公務員に憲法28条が適用されるのか”という問題が激しく議論されたことがあります。

全農林警職法事件とは、全農林労組の役員複数名が警察官職務執行法(警職法)改正案への抗議のため農林省職員たちにデモ活動への参加を求めた事件です。

全農林労組の役員がデモを主催することも、公務員に参加を促すことも公務員の労働権の中では違反になります。
しかし、憲法は国民全てに適用されるものであって、そこに公務員が含まれるのか否かが議論されました。

つまり、国家公務員法は憲法に違反しているのかもしれないということです。
最高裁の判決では、憲法28条の対象に公務員は含まれるものの、憲法は国民全体の利益が最優先とされることから、国民の日常を乱すような公務員による争議行為は禁止されるべきという結論が出ています。

3、ILO条約との関係

消防士
私たちの労働環境は憲法と国際機関であるILO(国際労働機関)によっても守られています。
ILOは国連の機関で、国際基準に満たしていない労働環境が発覚すれば批准国は注意を受けます。

日本はILOの条約に批准しているものの、公務員である消防職員の団結権については認めていません。
しかし、ILOの条約では消防職員にも労働基本権を認めるべきとしています。

今まで、ILOの条約では軍隊・警察には例外が認められるとされていたため、日本の消防職員も同様であると解釈されてきたものの、ILOの再調査により日本の消防職員は軍隊・警察どちらにも当てはまらないとされ、再度勧告を受けています。

参考:消防職員の団結権 主要国中 日本だけいまだ認めず 東京新聞

まとめ

今回は労働基本権と公務員の労働三権に関する問題を解説しました。

国会では公務員の労働基本権について話し合いがされているものの進展はありません。
国家の安全に関わりの深い公務員に労働三権が認められない理由は、国民の安全を守るため仕方ない部分もあります。

ただし、他の先進国では同職種に基本的な労働権が認められている背景もあり、憲法で定められている労働基本権が私人間をどこまで守れるかという点も含め、時代に見合った公務員の基本的な労働権利の改善が今後国内外から求められることは必須といえるでしょう。