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財産権とは?財産権が制限される状況や判例と共に解説

投稿日2020.3.26
最終更新日2020.06.15

財産権とは、財産に関する権利の総称のことです

憲法第29条には「財産権は、これを侵してはならない」と書かれています。
他人の財産(家、現金、私物、著作物)を、侵害してはいけないということです。

財産権の理解は、「公共の福祉」という概念が絡んでくると難しくなります。
侵害してはいけないと憲法で規定されているのにも関わらず、財産権が制限されるパターンがあるためです。

そこで本記事では

  • 財産権とは具体的に何なのか
  • 判例
  • 問題点

などについてご紹介いたします。

1、財産権とは


財産権とは、経済的利益に関する権利でありその中には

  • 所有権(物権)
  • 債権
  • 著作権
  • 知的財産権
  • 特許権

など個別の権利を多数含んでいます。
財産権を理解する上で重要な概念について以下では見ていきましょう。

(1)私有財産制度の保障

例えばA君がアルバイトをして1万円を得たら、A君はその1万円に関する権利を獲得するので、ゲームを買いました。
財産権がどれほど重要であるかは、「財産権がない場合」を考えると理解できます。

もし財産権がなければ、A君の財布のなかのその1万円札は誰のものでもないので、B君がA君を脅してその1万円札を手に入れても問題になりませんし、誰かがA君の買ったものを盗んでも問題になりません。

これでは社会が混乱します。
社会を安定させるためにも、国民1人1人に財産権を認める必要があります。

財産を取得して保持する権利を国が認めることを「私有財産制度」といい、日本は資本主義の下、私有財産制度を保障しています。

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(2)財産権の不可侵

財産権は不可侵でなければなりません。
不可侵とはその権利を侵害してはいけないということです。
A君がアルバイトで得た1万円を、誰かが勝手に盗めば犯罪です。

2、憲法による財産権の保障

財産権は今でこそ当たり前のものと思えてしまいますが、昔はそうではありませんでした。
地位の弱い人の財産は、地位の強い人に簡単に奪われていました。

財産権が明確に保障されたのは18世紀のフランスで行われた人権宣言です。
そこには「所有権は神聖で不可侵の権利」と書かれています。

日本国憲法では、財産権は第29条に記されており、その全文は次のとおりです。

憲法29条

第1項:財産権は、これを侵してはならない

第2項:財産権の内容は、公共の福祉に適合するように、法律でこれを定める

第3項:私有財産は、正当な補償の下に、これを公共のために用いることができる
(引用 日本国憲法

詳しく見ていきましょう。
第1項はすでに説明した内容になります。
「個人の財産上の権利の保障」と「私有財産制度の保障」を、短い言葉で表しています。

第2項のポイントは「公共の福祉に適合するように定める法律」です。
つまり、憲法は国に対して「国民の財産権を公共の福祉に適合させるために法律をつくりなさい」と求めているわけです。

これは、財産権を制限するルールです。
「財産権を制限する」とは、権利を弱めることです。
財産権は不可侵なものなのですが、公共の福祉のためであれば制限されます。

ここで言う「公共の福祉とは別の人の人権を守ること」を指します。
「私」の財産権が保障されるのであれば、「私以外の誰か」の財産権も保障されなくてはなりません。

また権利である以上、そこには要求と要求の衝突の可能性が十分に考えられます。
こういった個人の権利の衝突が起きた際の調整が公共の福祉なのです。
具体的な例は「4、財産権をめぐる判例」にて示したいと思います。

また、こういった権利の衝突における調整は回り回って国民全体の利益に繋がります。
なぜなら自分の財産権の不可侵性も強く保障されるからです。
こうした経緯を経て公共の福祉は社会全体の利益と言えます。

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第3項のポイントは、私有財産であっても「国が」公共のために用いることができ、そのとき「国は」私有財産の持ち主に正当な補償をします。
第3項には「誰が」とは書かれていませんが、主語は「国、政府」と考えることができます。

国は、公共のために必要な場合に限り、正当な補償をすれば、個人の財産権を侵害できます。
ただし学説ではこの第三項に関してプログラム規定説という議論があります。

プログラム規定説とは規則はあくまで指針であり、その規則を元にして具体的な権利の主張はできないということです。
つまりこの場合保障をしなくても良いのではないか?という考え方です。

具体例を挙げると、新しく道路を拡張するにあたりCさんの土地を少し削ってしまうことになったとします。
その際憲法の通りであれば国はCさんに何らかの埋め合わせを行い、工事が行われます。

しかしプログラム規定説が適用されるのであれば補償は不要ということです。
ただしこの場合の適用に対して判例(過去の裁判例)は否定的です。

このプログラム説についての議論は以下の関連記事で詳しく行なっておりますので是非ご覧下さい。

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3、財産権の侵害が争われた判例


財産権の侵害が争われた判例を紹介します。

(1)森林法違反事件

森林法違反事件(森林法共有林事件ということもあります)は、父親から山林の生前贈与(自分が生きている内に財産を相続させること)を受けた兄弟が対立したことが発端になっています。

兄弟はその山林を、持ち分2分の1ずつで共有することになりました。
共有とは「兄弟がひとつの山林を一緒に所有すること」です。

ところが山林経営で意見の食い違いが生じ、弟が兄を被告として、山林の分割請求を求めて訴訟を起こしました。

民法第256条では「共有物の分割請求」が認められています。
弟は民法のこの規定を根拠にして、ひとつの山林をふたつに「分割」して、兄弟でそれぞれ所有することを求めました。

しかし、森林法第186条で、持ち分が2分の1しかない共有者では分割できないことになっていました(現在第186条は削除されています)。

弟は森林法第186条では、憲法第29条で認められている財産権を侵害していると主張しました。
最高裁判所は、森林法第186条は憲法第29条に違反し、無効であると判断しました。

ただ最高裁は、森林法第186条は、森林の細分化を防止することで森林経営を安定化させようとしているので「公共の福祉に合致しない、とまではいえない」としました。

つまり、森林法第186条の「持ち分が2分の1の共有者によって分割させない」ルール自体は問題ない、としたのです。
しかし最高裁は、森林法が、分割を許さない森林の範囲や期間について定めていないことを問題視しました。
それでは規制が強すぎて財産権を侵害してしまう、だから森林法第186条は憲法第29条に違反する、と結論付けました。

この最高裁判決から、公共の福祉の性質が見えてきます。
法律で定めたルールが公共の福祉に合致するときでも、手続きや方法が不明瞭であれば、「財産権を不当に侵害している」と認定されるわけです。

いくら公共の福祉のためとはいえ、簡単には財産権の侵害は許されません。

(2)奈良県ため池条例事件

奈良県ため池条令事件の背景はこのようなものでした。
以前からため池を使っていた農家が、奈良県の条例でため池の使用を禁止されたあとも使用し続けたため、同条令で罰金刑を受けました。

これを不服とした農家は、ため池を使う権利を財産権としてとらえ、同条例が憲法第29条の財産権を侵害していると訴えました。

ため池とは、農業用水を確保するためにつくられた、人工の池のことです。
この農家は、そのため池の共有者でした。

最高裁は、農家の主張を退けました。
最高裁は、同条例を「ため池の破損や決壊などによって、災害が引き起こされるのを未然に防止するために定められた」と認定しました。

農家がため池を使い続ければ、破損したときなどに大きな災害が起きてしまいます。
それで最高裁は、農家の財産権がほぼ全面的に制限されても、この場合は公共の福祉を優先させて、農家は「当然に受忍(我慢)」しなければならない、としました。

「当然に」とは「当たり前のこと、誰が考えてもそうであると言うこと」という意味です。
この場合の公共の福祉とは、災害の防止や災害の被害を受けないこと、になります。
最高裁はさらに、農家は「当然に受忍」すべきなので、農家は、憲法第29条第3項の「正当な補償」も受けられない、としました。

災害が起きる可能性が高い行為をやめさせるときに補償は必要ない、という考え方のようです。

(3)土地収用補償事件

土地収用補償事件(土地収用法事件ということもあります)では、都市計画に基づいて行う土地収用において、建築制限のある土地の補償額は、「建築制限を受けている土地」としての価格でよいのか、という点が争われました。

「土地収用」とは、国や地方自治体が、民間の土地を強制的に取得する手法で、その際、土地の所有者は補償(土地代)を受けることができます。

「建築制限」とは、法律や条例によって、特定の土地に特定の建物を建てさせないルールです。
建築制限を受けている土地は利用価値が低くなるので、土地の価格も下がります。

土地収用補償事件では、土地の所有者は、土地収用されることに反対したわけではありません。
補償額(土地の買取価格)が安すぎる、と主張しました。

補償額が「建築制限を受けている土地」(価値が低い土地)として算定されたため、建築制限を受けていない土地の補償額より安くなっていたのです。

最高裁は、建築制限を考慮して補償額を決めるべきではないとして、土地所有者の主張を認めました。
この裁判は憲法第29条の解釈について争ったわけではありませんが、憲法第29条第3項の「正当な補償」を重くみた判決といえそうです。

まとめ

財産権を定めた憲法第29条は、3つの項目で構成されているところがポイントです。

第1項で「財産権の不可侵」を明確に示したうえで、第2項で「公共の福祉」によって財産権に制限をかけて(財産権の力を弱めて)います。

不可侵の財産権は国民にとって当然の権利ですが、社会を安定させるには公共の福祉を優先させることも必要になります。
そのせめぎ合いを、第1項と第2項で調整しようとしています。

そして第3項において、公共の福祉を優先させて財産権を制限するのであれば、「単なる補償」ではなく「正当な補償」が必要である、としました。

せめぎ合いの調整方法を、具体的にしましたわけです。
憲法第29条は、とても合理的な構成と言えるでしょう。