TPPとは、「環太平洋経済連携協定(Trans-Pacific Partnership Agreement)」の略称です。
加盟国間での関税の撤廃などにより、自由貿易の促進・拡大を図ること目的としています。
2016年当時、トランプ大統領による離脱発表が話題になりましたが、「内容についてはよく知らない」という方も多いでしょう。
そこで今回の記事では
- TPP の概要
- TPP のメリット・デメリット
- TPPによる国内産業への影響
などについて、わかりやすく解説します。
本記事がお役に立てば幸いです。
1、TPP とは
TPPは、環太平洋経済連携協定(Trans-Pacific Partnership Agreement)の略称で、「アジア太平洋地域の自由貿易協定(FTA)」の一種です。
Trans-Pacific Partnershipの頭文字をとって、「TPP」と呼ばれています。
(1)TPPの目的
TPPの目的は、環太平洋における経済活動を活発化することです。
その対象はモノだけでなく、
- 知的財産
- サービス
- 投資
などのさまざまな分野にわたります。
ちなみに「環太平洋」とは、太平洋とその周辺にある国や地域を指しています。
(2)TPPが始まった流れ
TPPの始まりは、2005年に署名された「環太平洋パートナーシップ協定の原協定(TPSEP)」です。
TPSEPの参加国は、
- シンガポール
- チリ
- ニュージーランド
- ブルネイ
の4ヶ国でした。
この協定に
- アメリカ
- オーストラリア
- ベトナム
- ペルー
が2010年から参加し、交渉の拡大が行われました。
日本も2008年ごろから参加を検討していたものの、実際に参加したのは自公連立政権になった2013年でした。
2016年2月には、上記の国々に加えて
- カナダ
- マレーシア
- メキシコ
が参加し、加盟国は計12カ国となりました。
しかし2016年10月、アメリカのトランプ元大統領が就任直後に離脱を表明します。
その後アメリカを除く11カ国で新たに協議が行われ、2018年に「TPP11協定」が11ヶ国で署名されました。
2、TPPの4つのポイント
TPPの特徴的なポイントである
- 関税撤廃・削減による貿易の促進
- サービスや投資の自由化
- 知的財産の保護
- 海外企業の参入の容認(ラチェット条項)
をご紹介します。
(1)関税撤廃・削減による貿易の促進
TPP最大のポイントは、広い分野でのグローバル化を目指すために「原則的に例外のない貿易の自由化(輸入関税の100%撤廃)」を目標としている点です。
関税全廃のスケジュールは品目ごとに異なります。
日本では工業製品については、その大半がすでに関税を撤廃しています。
また農林水産品については、
- 米
- 麦
- 牛肉
- 豚肉
- 乳製品
の5品目を重要項目とし、これらについては関税の即時撤廃はしない、としています。
(2)サービスや投資の自由化
TPPでは、企業の海外展開を拡大させるために、サービスや投資の自由と保護を定めています。
たとえば、
- 電気通信料への外資規制緩和
- ビジネスにおける滞在可能期間の延長
などです。
また、他国政府への訴訟(ISD条項)も導入されています。
これは他国の市場に進出した企業や投資家が、その国の政策によって損害を被った場合、その他国政府を訴えることができるというものです。
ISD条項には、手続きの透明性を図るための規定もあります。
(3)知的財産の保護
TPPでは、知的財産に関して世界貿易機関(WTO)よりも厳格な規制があります。
著作権などの知的財産権については、原則として各国の法律に依りますが、より安心した経済活動を行うために、TPPの加盟国間でも規定が設けられているのです。
もし加盟国間での規定が無ければ、コピー製品を自由に作れる他国が先に利権化し、元の国が販売できないといった事態になる可能性があります。
知的財産権とは?著作権などの3種類の権利をわかりやすく解説
(4)海外企業の進出の容認(ラチェット条項)
ラチェット条項とは、貿易に関する条件に一度合意したら、後からその条件を法律で規制することを原則禁止するというものです。
自国の産業を守るために、外資系企業の参入を一部制限している国もあります。
ラチェット条項により、そうした国における外資系企業に対する不平等を是正できるのです。
ただデメリットとして、狂牛病などの健康被害が生じても、輸入禁止や国内での海外製品の規制ができないという点があります。
参考:協定の主な内容 内閣官房
3、TPP のメリット・デメリット
ここからは、TPPのメリットとデメリットについてみていきましょう。
(1)TPPのメリット
TPPのメリットには、
- 経済活動規模の拡大
- 経済成長率の高い国との貿易
- 輸出品に対する国際競争力の向上
- 輸入品の価格低下
- 労働人材の流動性の増加
などが挙げられます。
TPPの最大のメリットと言われるのが、世界最大の貿易圏の誕生とも名高い、その「経済規模の大きさ」です。
アメリカの離脱により規模は少し縮小しましたが、それでもASEANの約4倍にあたる巨大な貿易圏です。
関税撤廃により、消費者は海外のものをより安く買えるようになります。
さらに輸出入している企業ではコストが下がることで、利益アップが見込めます。
こうしたTPPのメリットにより、政府は
- GDP:年間7.8兆円増加
- 雇用:約46万人増加
につながる見通しを示しています。
TPP発効、5億人の経済圏誕生 日本のGDP年7兆8000億円押し上げ 産経新聞
(2)デメリット
TPPのデメリットには
- 食の安全確保の難しさ
- 食料自給率の低下
などがあります。
遺伝子組み換え作物や大量の防カビ剤が使われている安価な海外食品などが増えることで、食における安全性が下がるのではという声があります。
また食料自給率の低下も指摘されています。もともと日本は食料自給率が諸外国と比べて低く、2019年度の食料自給率は約38%です。
TPPによって安価な海外食品が大量に輸入されれば、さらに自給率が下がるかもしれません。
参考:TPPの日本農業への影響と今後の見通し – 農林中金総合研究所
食料自給率とは?日本の食料自給率の現状と課題を徹底解説
4、TPP による国内産業への影響
TPPへの参加によって、多くの国内産業が影響を受けるとされています。
- 農業
- 畜産業
- 飲食業
における、具体的な影響について見ていきましょう。
(1)農業
TPPによる影響が特に大きいと考えられているのが「農業」です。
メリットとしては、関税や検疫、流通費といったコストがかかる農産物の輸出が、関税の撤廃によって、今までより安く販売できる点です。
近年の世界的な日本食ブームも追い風となって、日本の農林水産物のさらなる輸出増加が期待されています。
一方で、関税が撤廃により、安い外国産の農産物が日本に大量に入ってくる可能性もあります。
「攻めの農林水産業への転換」を実現すべく、政府は競争力を高める取り組みを行っていますが、高齢化により競争力の強化も簡単ではありません。
小規模で競争力の低い農家の離農が進み、さらなる食料自給率の低下を招くのではとも言われています。
総合的なTPP等関連政策大綱に基づく 農林水産分野の対策 農林水産省
(2)畜産業
TPP発効から、牛豚肉の輸入量は増加傾向にあります。
財務省が発表した2019年の品目別貿易統計によると、カナダ産が約4万2900トンと前年比の約2倍になり、加えてニュージーランド産やメキシコ産からの輸入も伸びています。
また豚肉に関しては、2019年の輸入量は前年比約4%増となり、95万8,963トンでした。特にカナダ産は約5%増の輸入量となるなど、勢いを増しています。
2021年時点では、牛肉・豚肉・一部の乳製品は関税の即時撤廃の対象ではありません。
しかし、安価な牛豚肉などの輸入増加に伴い、国内産全体の価格が下落する可能性があるといわれています。
日本の畜産業は生産・環境コストが他国と比べると高く、価格競争が激化すると、零細農家が多い日本の畜産農家には大きな痛手となるでしょう。
また生産者だけでなく、食肉処理場の運営や飼料などを扱う関連産業にも大きな影響を及ぼすことが懸念されています。
19年の食肉輸入、シェア変動 米豪が縮小、伸びるカナダ 日本経済新聞
(3)飲食業
飲食業への大きな影響としては、より安価に仕入れができるようになる点が挙げられます。
サービスで使う食材をより安く仕入れられれば、その分利益が確保しやすくなります。
一方で、「食の安全性」について懸念の声も上がっています。
政府は輸入食材の安全性に、何ら問題はないとしていますが、不安を感じる消費者も多くいます。
そのため今後、国産食材に対する価値が上がり、国産の食材を扱う飲食店がブランド化することも考えられます。
まとめ
今回は、TPPについて解説しました。
TPPは、貿易の拡大などによる新たな経済成長が見込める一方で、さまざまな分野への影響が大きいという点もあります。
TPPはまだ発行したばかりであり、世界情勢などに合わせて今後も調整が続いていきます。
引き続き、TPPについて注目していきたいですね。