「天皇」とは、私たちにとってどのような存在でしょうか?
2019年、上皇陛下の退位とともに年号が平成から令和に変わり、皇太子様の新天皇即位が記憶に新しい人も多いと思います。
天皇は代々引き継がれていく位ですが、皇室の少子高齢化及び男女平等という概念の発展にともない、女性天皇の議論が活発化しています。
今回は
- 天皇の定義から歴史
- 仕事内容
- 女性天皇の議論
について詳しく解説していきます。
1、天皇とは
天皇とは、日本国憲法によって日本国民統合の「象徴」とされ、象徴としての地位は国民の総意に基づいて維持されています。
天皇を国の最高権力と考える人も多いかもしれませんが、国政に対する権力はなく、原則的に憲法で決められた国事行為のみを行います。
天皇について記されている日本国憲法の条文を見てみましょう。
第1条 天皇は、日本国の象徴であり日本国民統合の象徴であつて、この地位は、主権の存する日本国民の総意に基く。
第4条 天皇は、この憲法の定める国事に関する行為のみを行ひ、国政に関する権能を有しない。
引用:日本国憲法 衆議院
国の最高法規である日本国憲法では基本的人権尊重、平和主義とならんで国民主権が明記されているため、国の最高主権は天皇ではなく国民となります。
そのため、日本国憲法第1条でも「地位は主権を持つ国民の総意に基づく」と説明され、天皇という地位が国民の気持ちによって保たれているということがわかります。
2、天皇という立場の変化
天皇は、第1代神武天皇(じんむてんのう)からはじまり、令和の徳仁天皇陛下で第126代目となります。
天皇の歴史を見ていきましょう。
古代の天皇は君主というより祭祀を仕切る司祭のような立場でしたが、外国からの日本への接触が始まった頃から天皇を頂点とする国づくりがはじまります。
その後、武士の出現により天皇の権力は弱まるものの、天皇制改革(明治維新)や明治政府による神道国教化により、天皇の力は一気に強化されました。
また、明治政府は大日本帝国憲法で天皇により強い権力を持たせ、天皇大権と総攬者(そうらんしゃ)の立場を付与しました。天皇は軍隊を動かせるほどの強力な権力も持ち始めます。
そして、日本は第二次世界大戦に突入し敗戦。
その後昭和天皇は「天皇は神ではなく人間である」という「人間宣言」を発表しました。
同年に日本国憲法が制定され、天皇は「君主」から「象徴」へと立場が変化したのです。
3、天皇の仕事内容
日本の象徴としての天皇ですが、具体的に仕事はどのようなものなのでしょうか?
天皇の仕事として挙げられる国事行為と一般公務(公的行為)についてご紹介したいと思います。
(1)国事行為
国事行為とは名前の通り、国の運営に関する行為を指します。
天皇が行う13の国事行為を見てみましょう。
- 内閣総理大臣の任命
- 最高裁判所長官の任命
- 憲法改正、法律、政令及び条約の公布
- 国会の召集
- 衆議院の解散
- 総選挙の施行の公示
- 国務大臣その他の官史の任免、全権委任状及び大使公使の信任状の認証
- 栄典の授与
- 批准書その他の外交文書の認証
- 外国の大使、公使の接受
- 儀式
これらの国事行為を見ると天皇が象徴以上の力を持っているように見えますが、国事行為には国民の代表である内閣の助言と承認が必要であり、天皇が独断で行動することはできません。
(2)一般公務(公的行為)
天皇の仕事内容は国事行為よりも一般公務の方が多く、その範囲は多岐に渡ります。
たとえば、両陛下主催の園遊会のような、功績を挙げた国民に対するねぎらいを目的とした行事は令和元年だけでも年間約150件です。
また、国際親善を目的とした国賓や要人との食事会やご引見など、国内にとどまらず公務は海外にまで広がり、令和元年は海外からの親電だけでも439件にのぼっています。
上記に加えて
- 被災地への訪問
- 各授賞式への参加
- こどもの日、敬老の日など祝日に合わせた行事の参加
- 全国植樹祭
- 国民体育大会の参加
など、数えきれない一般公務をこなし、多忙な毎日を過ごされています。
(3)その他
国事行為でも一般公務でもないその他の仕事には「宮中祭祀」が含まれます。
宮中祭祀とは宮中三殿(賢所、皇霊殿、神殿)で行われる祭祀のことで、国家の安泰と国民の幸せを祈る儀式が行われます。
この儀式は古くから伝わるもので、日本書紀にも天皇による儀式の記載を見ることができます。
宮中祭祀には宗教的な面もあるため、日本国憲法に基づき(政教分離の原則)、国事行為や一般公務には当てはまらない私的行為として位置づけられています。
4、皇位継承問題
ここからは天皇制度に関する課題を見ていきましょう。
皇室のあり方を決める皇室典範(こうしつてんぱん)では、女性に継承権はなく、皇位継承者は皇統に属する男系の男子と決められていますが、皇室の少子高齢化が進み、「継承者に女性を入れてはどうか」という議論が高まっています。
現在の皇室典範の条文を見てみましょう。
皇位は、皇統に属する男系の男子たる皇族が、これを継承する(憲法第2条、皇室典範第1条・2条)
引用:皇位継承 宮内庁
皇室典範とは?旧皇室典範との違いも簡単解説
この皇位継承問題は小泉政権が2004年に「皇室典範に関する有識者会議」を設置したことで関心が高まり、当時は皇位継承資格を女性へ拡大する動きも見られましたが、2006年の秋篠宮妃紀子様のご懐妊により議論は見送られました。
しかし、上皇陛下の孫世代にはいまだに悠仁様しか生まれていないため、天皇の血を途絶えさせないためにも、皇位の安定継承について引き続き議論がなされています。
5、女系天皇と女性天皇の違い|議論について
皇位継承問題で混同されやすい「女系天皇」と「女性天皇」ですが、この2つの意味はまったく異なります。
まずはそれぞれの言葉の定義を見てみましょう。
- 女系天皇
母親からのみ天皇の血を継ぐ天皇、両親のどちらから天皇の血を引いているのかが判断基準のため男女は問わない
- 女性天皇
父親から天皇の血を継ぐ女性の天皇
つまり、女系天皇と女性天皇の違いは、両親のどちらから天皇家の血を引き継いでいるのかということになります。
「どちらにせよ、両親の片方は天皇家だからいいのでは?」と思った人もいるかもしれませんが、ここで問題になるのは引き継がれる染色体です。
遺伝子にはY染色体という男性から男性にしか受け継がれない染色体があり、女性の皇族が一般人と結婚して子どもを産めば、その子どもが男性であっても染色体は母親の時点で途切れてしまうため、天皇家の血は途絶えることになります。
過去には10代8人の女性天皇が存在していましたが、全員が独身を貫き、男系天皇の中継ぎ的役割を果たしていました。
女系天皇と女性天皇の議論は単純な女性差別ではなく、「天皇の血筋をどうやって残すのか」ということが問題であることがお分かりいただけたと思います。
まとめ
今回は「天皇」について解説しました。
天皇陛下の日常生活を知ることはできませんが、日本の安泰と国民の幸せのために毎日忙しく公務に取り組まれています。
皇位継承権で女性天皇(または女系天皇)を容認するかが議論されていますが、私たち国民は慎重な議論を重ねる必要があります。