「アナキズム」とは無政府主義を掲げる思想のひとつで、無支配・無権力という意味を持つギリシャ語のアナルコス(α’ναρχο)に由来します。
一見難しそうな言葉ですが、権力者の支配が無くなればみんなが自由に暮らせて幸せだよね!という思想がアナキズムであり、その思想を持つ人をアナキストと呼びます。
今回は
- アナキズムの定義
- アナキストの歴史
- 日本におけるアナキズム
についてわかりやすくご紹介します。
1、アナキズムとは
アナキズムとは「国家のような支配権力は有害であり、何にも縛られない個人の自由が最も尊い」と考える思想です。
この思想は無政府主義とも呼ばれ、ルールのない無秩序な世界には過激で、反社会的なものを連想する人も多いかもしれません。
確かに過激な思想を持つ方もいるかもしれませんが、支配がなくてもみんなで社会は作れるという平和的な思想を持つアナキストもいます。
アナキストは、大きく「個人主義的アナキスト」と「社会的アナキスト」に分かれます。
それぞれの違いをくわしく見てみましょう。
(1)個人主義的アナキスト
アナキストの中でも、共同体などの集団ではなく個人によって個人が統治されることを望む考え方を個人主義的アナキストと呼びます。
個人が各々の問題を自ら解決する社会をゴールとします。
社会的アナキストは共同体によって集められた利益を平等に分配することを理想としますが、個人主義的アナキストは自由市場に基づいた厳密な分配システムを望み、自分の財産は自分だけのものであるという考えを持ちます。
自分独自の生産手段を持ち、その生産による財産を自由に他者と交換するのです。
個人主義的アナキストは、国家や資本主義よってもたらされる制限や支配を避ける傾向にあるため、現代の社会システムから見れば、非協力的で過激に見られやすいこともあるようです。
(2)社会的アナキスト
国家に支配されない個人の自由を理想とする点では、社会的アナキストも個人主義的アナキストもゴールは同じです。
ただし、社会的アナキストは必要な共同体の中で個人の自由が実現されるべきだと考えます。
また、個人主義的アナキストとの最大の違いは、生産手段の私有化を認めないことです。
社会的アナキストは、個人的な財産は個人の所有とするが、個人的な財産を生み出す生産手段は集団による所有をすべきと考えます。「あなたの時計はあなたのものだけど、時計工場はみんなのもの」と考えるのです。
この考えに基づき、社会的アナキストは「社会的無政府主義」と呼ばれることもあります。
参考:アナキズムFAQ
参考: 個人主義アナキズムの法秩序
2、アナキズムを主張した人々について
ここではアナキズムを主張した人々及びアナキズムの変遷を辿りましょう。
(1)無政府主義の出現
アナキズムは国家権力を嫌う無政府主義であることから、その思想は“人による人への統治支配”が始まった頃から出現し、古代中国やギリシャでは
- 老子
- 荘子
- ソクラテス
などの哲学者によって早い段階でアナキズムが説かれていました。
まずは、中国の老子と荘子が説いたアナキズムを見てみましょう。
①古代中国のアナキズム
老子と荘子は紀元前に存在したとされる古代中国の哲学者で、道教という宗教を広めた人物でもあります。
2人の思想は老荘思想と呼ばれ、「無為(むい)」を重要視します。
この「無為」とは、あるがままの自然な状態のことを指します。
こうした無為の考えから、人間による計画的・意図的な統治が行われることを否定します。
老荘思想は日本人に馴染み深い「禅」の思想にも影響を与えています。
次にアナキズムの語源にもなった古代ギリシャを見てみましょう。
②古代ギリシャのアナキズム
古代ギリシャでは国家の起源となる「ポリス」という共同体が生まれました。
このポリスの出現により、人が人を支配するといった不平等な構造が生まれていました。
これをきっかけに権力や支配、国家の存在を否とする思想がギリシャ哲学として誕生したのです。
ギリシャ哲学では、「自然法」という考えが生まれました。
「自然法」とは、あらゆる時代を通して変わらずに認められる自然的な法則や道徳のことです。
例えば、「怒りや欲望は人の心を乱す」といったものです。自然法の対義語は「実定法」で、人によって決められた法律などがあたります。
こうした自然法を重視するギリシャ哲学は、ソクラテスやプラトン、アリストテレスなど有名な哲学者を輩出しました。
古代中国やギリシャにおいて、人が人を支配する文明の発達によってアナキズムの形成なれたと言えます。
(2)19世紀フランスにおいて
古代中国やギリシャで哲学的な教えとして広まったアナキズムは、18世紀~19世紀には市民運動として発展していきます。
特に19世紀のフランスはアナキズムの黄金期とされ、「無政府主義の父」と呼ばれる社会主義者のピエール・ジョゼフ・プルードンも出現しました。
フランスのアナキズム運動は、1789年のフランス革命までさかのぼります。
貧困家庭に生まれたピエール・ジョゼフ・プルードンはフランス革命を支持し、1840年に出版した『財産とは何か?』で財産とは盗みであるという辛辣な表現で有名になりました。
同時代を生きたマルクス主義で有名なカール・マルクスは、プルードンとは対立関係にあり、プルードンが書いた『貧困の哲学』に対して『哲学の貧困』という本を執筆し批判しています。
このように歴史的に見てもアナキズムは議論を呼ぶ思想のひとつであり、平等を訴える市民運動にも大きな影響を与えてきた考え方です。
3、日本におけるアナキズム|日本アナキズム連盟
日本におけるアナキズムの始まりは江戸時代です。医師でもあり、哲学者でもある秋田藩の安藤 昌益(あんどうしょうえき)は『孔子一世弁記』や『自然真営道』など、いくつかの本を執筆し、農業を中心とした身分差のない平等な社会を理想に掲げ、封建社会への批判を発表しました。
そして、アナキズムの運動が活発化したのは、明治から大正時代にかけてです。
明治天皇の暗殺を企て「幸徳事件」を起こした幸徳秋水(こうとくしゅうすい)やアナ・ボル論争の渦中にあった大杉栄(おおすぎさかえ)などが出現します。
しかし、幸徳秋水も大杉栄も国によって死刑・殺害され、アナキズムの個人的な運動の勢いは弱まりました。
その後も日本無政府共産党や農村青年社など、アナキストによる組織が誕生しますが当時の治安維持法によって解散させられています。
しかし、第二次世界大戦後には「日本アナキスト連盟」という政治集団が設立されました。
権力・支配への反対を掲げて活動していましたが1970年代に解散します。
その意志は「麦社」などの団体に継がれたものの、現在はその団体もありません。
4、実在したアナキストの社会
上記のようなアナキズムですが、まさにアナキストたちが暮らすアナキズム・コミュニティが存在します。
その場所はデンマークの首都コペンハーゲンにあり、「クリスチャニア」と呼ばれる地区で、観光地としても人気があります。
クリスチャニアは、もともと軍の所有していた土地が解放された地域で、自由主義の人々などが集まり、アナーキスト(アナキストの別名)の共同体として生まれ変わりました。
デンマーク国内にありますが、独自の自治を行い、国旗や国歌もあります。
また、一部のエリアではデンマークで違法とされる大麻も販売されていて、過去にはデンマーク政府との衝突も経験しています。
このように聞くと、クリスチャニアはルールのない無法地帯のように感じるかもしれません。
しかし、住民たちは最低限のルール(実際に大麻以外のハードドラックは禁止という独自のルールもあります)の中で人々が助け合い、独立して自由に暮らす社会を目指しています。
まとめ
今回はアナキズムとアナキストについて解説しました。
こちらの記事をお読みの方が「アナキズムとは何か?」と理解するための参考になれば幸いです。