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アナキズムとは?思想の変遷やアナキストの共同体を簡単解説

投稿日2020.6.15
最終更新日2020.09.07

「アナキズム」とは無政府主義を掲げる思想のひとつで、無支配・無権力という意味を持つギリシャ語のアナルコス(α’ναρχο)に由来します。

一見難しそうな言葉ですが、権力者の支配が無くなればみんなが自由に暮らせて幸せだよね!という思想がアナキズムであり、その思想を持つ人をアナキストと呼びます。

今回は、

  • アナキズムの定義
  • アナキストの歴史
  • 日本におけるアナキズム

についてわかりやすくご紹介します。

1、アナキズムとは

アナキズム
アナキズムとは「国家のような支配権力は有害であり、何にも縛られない個人の自由が最も尊い」と考える思想です。
この思想は無政府主義とも呼ばれ、ルールのない無秩序な世界には過激な印象があり、反社会的なものを連想する人も多いかもしれません。

確かに過激な思想を持つ方もいるかもしれませんが、支配がなくてもみんなで社会は作れるという平和的な思想を持つアナキストもいます。

アナキストは個人主義的アナキストと社会的アナキストに分かれます。
それぞれの違いをくわしく見てみましょう。

(1)個人主義的アナキスト

アナキストの中でも社会や集団に属さず、個人によって個人が統治されることを望む考え方を個人主義的アナキストと呼びます。

人と人が手を取り合う社会ではなく、個人が各々の問題を自ら解決する社会をゴールとします。
人々のために権力を嫌う者が社会的アナキストである一方で、個人主義的アナキストに社会に対する大義名分はありません。

また、社会的アナキストは権力によって搾取される利益を平等に分配することを理想としますが、個人主義的アナキストは市場に基づいた厳密な分配システムを望み、自分の財産は自分だけのものであるという考えを持ちます。

個人主義的アナキストは自己以外によってもたらされる制限や支配を徹底的に嫌うため、相互扶助の社会から見れば、非協力的で過激に見られやすいこともあるようです。

(2)社会的アナキスト

支配されない個人の自由を理想とする点では、社会的アナキストも個人主義的アナキストもゴールは同じです。

ただし、社会的アナキストは相互扶助や共同体など、人同士の協力関係の中で個人の自由が実現されるべきだと考えます。

また、個人主義的アナキストと社会的アナキストの最大の違いは私有財産を認めないこと。
社会的アナキストは財産の個人所有は社会不平等の元凶と考え、特に生産手段は個人が所有するべきではないとします。

この考えに基づき、社会的アナキストは「社会主義者無政府主義」と呼ばれることもあります。

2、アナキズムを主張した人々について

ここではアナキズムを主張した人々及びアナキズムの変遷を辿りましょう。

(1)無政府主義の出現

アナキズムは権力を嫌う無政府主義であることから、その思想は“人による人への統治支配”が始まった頃から出現し、古代中国やギリシャでは

  • 老子
  • 荘子
  • ソクラテス

などの哲学者によって早い段階でアナキズムが説かれていました。

まずは、中国の老子と荘子が説いたアナキズムを見てみましょう。
老子と荘子は紀元前に存在したとされる古代中国の哲学者で、道教という宗教を広めた人物でもあります。
2人の思想は老荘思想と呼ばれ、「無為(むい)」を重要視します。

この「無為」とは、あるがままの無為自然のことで、計画的・意図的に統治が行われることを否定します。
老荘思想は日本人に馴染み深い「禅」の思想にも影響を与えているので悟りをイメージすると理解しやすいかもしれません。

次にアナキズムの語源にもなった古代ギリシャを見てみましょう。

古代ギリシャでは国家の起源となる「ポリス」という共同体が生まれ、人が人を支配することによって新たな不平等が生まれていました。
これをきっかけに権力や支配、国家の存在を否とする思想がギリシャ哲学として誕生します。

ギリシャ哲学ではアナキズムにも似た「自然法」という考えも生まれ、ソクラテスやプラトン、アリストテレスなど有名な哲学者を輩出しました。

古代中国やギリシャにおいて、人が人を支配する文明の発達がアナキズムの形成に大いに役立ったことは言うまでもありません。

(2)19世紀フランスにおいて

古代中国やギリシャで哲学的な教えとして広まったアナキズムは、18世紀~19世紀で市民運動として発展していきます。

特に19世紀のフランスはアナキズムの黄金期とされ、「無政府主義の父」と呼ばれる社会主義者のピエール・ジョゼフ・プルードンも出現しました。

フランスのアナキズム運動は1789年のフランス革命の市民活動にさかのぼり、貧困家庭に生まれたピエール・ジョゼフ・プルードンはフランス革命を支持、1840年に出版した『財産とは何か?』で財産とは盗みであるという辛辣な表現で有名になりました。

同時代を生きたマルクス主義で有名なカール・マルクスはプルードンとは対立関係にあり、プルードンが書いた『貧困の哲学』に対して『哲学の貧困』という本を執筆し批判しています。

このように歴史的に見てもアナキズムはひとつの意味にとどまらず、プルードンとマルクスのように同じ社会主義に見えても、過程や重要視するポイントに違いがあることがわかります。

3、日本におけるアナキズム|日本アナキズム連盟

日本におけるアナキズムの始まりは江戸時代。医師でもあり、哲学者でもある秋田藩の安藤 昌益(あんどうしょうえき)は『孔子一世弁記』や『自然真営道』など、いくつかの本を執筆し、農業を中心とした身分差のない平等な社会を理想に掲げ、封建社会への批判を発表しました。

その後、明治から大正時代にかけてアナキズムの運動が活発化。

明治天皇の暗殺を企て幸徳事件を起こした幸徳秋水(こうとくしょうすい)やアナ・ボル論争の渦中にあった大杉栄(おおすぎさかえ)などが出現しますが、幸徳秋水も大杉栄も国によって死刑・殺害され、アナキズムの個人的な運動の勢いは弱まります。

その後、日本無政府共産党や農村青年社などアナキストが組織化しますが当時の治安維持法によって解散させられています。

そして、第二次世界大戦後には「日本アナキスト連盟」という政治集団が設立されました。
権力・支配への反対を掲げて活動していましたが1970年代に解散。
その意志は「麦社」などの団体に継がれたものの、現在はその団体もありません。

4、実在したアナキストの社会

歴史の長いアナキズムですが、実際にアナキストたちが暮らすアナキズム・コミュニティが現在もあります。

その場所はデンマークの首都コペンハーゲンにあり、「クリスチャニア」と呼ばれ、観光地としても人気があります。

クリスチャニアはもともと軍の所有地だった土地が解放された地域で、自由主義の人々などが集まり、アナーキスト(アナキストの別名)の共同体として生まれ変わりました。

デンマーク内にありつつ独自の自治を行い、国旗や国歌もあります。
また、一部のエリアではデンマークで違法とされる大麻も販売されていて、過去にはデンマーク政府との衝突も経験しています。

ここまで説明するとクリスチャニアはルールのない無法地帯のように感じるかもしれませんが、住民たちは最低限のルール(実際に大麻以外のハードドラックは禁止という独自のルールもあります)の中で人々が助け合い、独立して自由に暮らす社会を目指しています。

まとめ

今回はアナキズムとアナキストについて解説しました。

国家に反発するイメージの強かったアナキズムの中にも、クリスチャニアのように支配なく穏やかに暮らしたい人々の希望が垣間見えたと思います。

無政府主義とは秩序のないカオスな世界ではありません。
アナキズムとはルールのない自由の中でいかに人間が道徳的に独立し、お互いを助け合いながら社会を形成できるかということに終結するでしょう。

感染症対策で個人の行動が国によって制限されたこともありましたが、制限下の中でどうやって生きていくのかという課題は、アナキズムが描く独立した個々の生活に通じる部分もあるかもしれません。