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政治ドットコム政治用語自動車関税とは何か?アメリカ政府による動きや日本の車業界への影響をわかりやすく解説

自動車関税とは何か?アメリカ政府による動きや日本の車業界への影響をわかりやすく解説

投稿日2025.4.13
最終更新日2025.04.13

米国トランプ政権が2025年4月3日、自動車の25%追加関税を発動しました。これにより日本の主要産業の一つである自動車産業に大きな影響を与えています。その狙いやトランプ政権が進める経済戦争について、わかりやすく解説します。

なにが変わる?自動車関税の狙いや影響は

米国のトランプ政権は日本時間の4月3日、自動車関税において25%の追加関税措置を発動しました。日本を含むすべての国や地域から輸入される自動車が対象です。日本では乗用車が2.5%、トラックが最大25%の関税がかかっていましたが、さらに25%が上乗せされ、乗用車は27.5%、トラックは最大50%となります。

また、エンジンなどの主要な部品についても5月3日までに25%の追加関税を課すとしています。

①理由は非課税障壁?

トランプ大統領は理由として、日本の「非関税障壁」を挙げており、「米国産の車が日本市場で売れないのは、米国の安全基準を日本が完全に受け入れていないからだ」などと主張しているほか、「不当に価格が安い車が大量に輸入されることでアメリカ国内の工場や雇用が国外に流出している」と強調しており、今回の関税は恒久的な措置になる可能性があります。

トヨタ自動車やホンダ、日産などアメリカに多くの車や部品を輸出する日本の自動車産業への打撃となるだけでなく、世界経済に大きな影響を与えることが懸念されます。

➁米国は日本やEUとEPAを結んでいない

日本の自動車貿易の歴史が始まったのは1965年のことです。乗用車の輸入を自由化し、関税も段階的に引き下げられました。1978年には自動車・自動車部品の関税を撤廃し、現在では米国に限らず、全ての国からの輸入に対して関税を課していません。

では、世界の他の国々ではどうでしょうか。米国を含む主要国では、自動車輸入に対して関税を課しています。例えば、米国では乗用車に2.5%(追加関税前)、EUは10%、中国は15%の関税率です。

一方で、日本は2019年にEUとEPA(経済連携協定)を発効させました。EU側は日本が輸出する自動車部品の9割以上の関税を即時撤廃しており、乗用車は発効から8年目に撤廃する予定となっています。

他方、米国は日本に加え、EUや中国との間にもEPAを結んでおらず、貿易における関税について撤廃や削減の対象とはなりません。今後も関税率を引き上げることができるほか、関税を他国との交渉材料として扱うことができます。

トランプ政権の貿易戦争、自動車関税や日本の車業界の行く末は

トランプ関税は、トランプ政権の目指す「アメリカ・ファースト」の治療薬という位置づけです。トランプ大統領は相互関税発動後、世界的な株価の急落を受け、「何も下がってほしくないが、時には何かを治すために薬を飲まなければならない」と述べました。

①貿易赤字を解消して、自国産業を守る

米国には1兆ドルの貿易赤字があります。外国が米国製品を買ってくれないことや、アメリカ人が海外の製品ばかりを多く使っていることが背景です。貿易にはバランスが必要ですが、今はそれがない状態といえ、関税を発動させることで価格を調整し、米国製のものを優遇することが目的です。

また、関税で米国内の製造業を活性化させ、社会や雇用、景気の行方を左右する製造業を守り、経済成長を目指しています。

➁関税を他国との交渉材料に、自国での雇用拡大を目指す

日本と米国の関税交渉では、1980年代の自動車の例があります。当時、米国の自動車メーカーは日本車の輸入の急増で苦境に立たされていました。そこで当時のレーガン政権は、関税を切り札に、日本と交渉しました。すると日本の自動車メーカーがすぐに米国に工場を建て、サプライチェーンにも巨額投資を始めました。現在では、(日本の自動車メーカーが)米国で研究開発を行っており、何百億ドルの投資や何十万人の雇用など米国内に新たな産業の繁栄がもたらされました。

③トランプ大統領の自動車産業への思惑、日本は価格転嫁の回避ができるか

トランプ大統領は、米国では自動車産業をはじめメーカーの工場を人件費が安いメキシコなどに移す動きが広がり、雇用が失われてきたと主張しています。この状況は、国外から価格の安い車が大量に輸入されれば、続くことになります。そこで、自動車への追加関税で、海外からの輸入を減らすとともに米国内での生産を増やし、国内の自動車産業を再び活性化させるのが狙いです。実際に、韓国の現代自動車グループは、2025年から2028年までの4年間で、米国に210億ドルの投資をする計画を明らかにしています。

一方で、日本の主要産業である自動車業界への影響は深刻です。日本にとって米国は最大の輸出相手国であり、輸出額の30%が自動車です。今回の自動車追加関税により、25%の追加関税分が新車の販売価格にそのまま転嫁される場合、米国での販売価格は約8%上昇します。その結果、消費者の購買意欲が減少すれば、米国での新車販売台数は減少するとみられます。日本の自動車メーカーは販売価格の上昇を抑えるため、部品メーカーなどと協力しコスト削減を目指すことが必須となりそうです。

まとめ

今回の自動車追加関税では、部品や素材など多くの自動車関連産業への影響が懸念されており、中小企業も含め、生産や設備投資、雇用にも広がる恐れがあります。一部では日本のGDPを0.2%押し下げるという民間の試算もあり、その影響は大きいものです。

トランプ大統領は「我々は、中国やEUなどとの貿易赤字の問題を解決したい。話し合いには応じるつもりだ」と説明していますが、「彼らは取引を切望しているが、各国に対する貿易赤字は作らないと伝えた」と、一連の関税政策を撤回しない意向を示しています。

関税発動後に行われた石破首相とトランプ大統領の電話会談では、今後の対応について、日米双方が交渉の窓口となる担当閣僚を置き、率直かつ建設的な協議を続けることで一致していますが、未だどのくらいの譲歩の余地があるのかは不透明といえそうです。

引用・参考

日本経済新聞・読売新聞

NHK=オレン・キャス氏インタビュー

この記事の監修者
秋圭史(株式会社PoliPoli 渉外部門)
慶應義塾大学法学部政治学科卒業後、東京大学大学院に進学し、比較政治学・地域研究(朝鮮半島)を研究。修士(学術)。2024年4月より同大博士課程に進学。その傍ら、株式会社PoliPoliにて政府渉外職として日々国会議員とのコミュニケーションを担当している。(紹介note:https://note.com/polipoli_info/n/n9ccf658759b4)

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