
SNSを通じて若者を巻き込む「闇バイト」の犯罪が急増しています。高額報酬や匿名性をうたう甘い誘いに乗った結果、犯罪に加担してしまうケースが後を絶ちません。政府は緊急対策として、違法な求人の取り締まりや「雇われたふり作戦」などの新たな捜査手法を導入。闇バイト問題の現状と対策について詳しく解説します。
なぜ若者たちは闇バイトに手を出すのか、その現状
警察庁がまとめた2024年の犯罪統計によると、特殊詐欺やSNS型詐欺の被害額は1989.5億円と過去最悪を記録しました。詐欺の認知件数は24.6%増の5万7324件、被害額は89.1%増の3075億円で、オレオレ詐欺などの特殊詐欺の被害額は前年比269億円増の721.5億円だったほか、SNSを利用した非対面型の投資詐欺・ロマンス詐欺は同821.8億円増の1268億円といずれも過去最悪となっています。
こうした犯罪の背景には、暴力団や匿名・流動型犯罪グループ(トクリュウ)が関与していたり、短時間で高額なアルバイトを装って若者らを集める「闇バイト」で、犯行を実行させたりするケースが多くあります。詐欺の犯行動機としては「生活困窮」が39.9%で最も大きく、その割合は増加傾向にあるのが現状です。
①軽い気持ちと甘い誘い文句で「捨て駒」に、若者たちのSNS利用
いわゆる「闇バイト」が関係した強盗事件などは各地で相次いでおり、中には未成年が逮捕される事件も発生するなど非常に深刻です。闇バイトに応募して犯人グループに利用され、犯罪を犯せば加害者となります。犯罪の被害者だけでなく、犯人グループに利用された加害者も、双方の人生を台無しにする犯罪行為です。
犯人グループは、SNS上で甘い誘い文句を用いて、「捨て駒」となる実行役を募っています。主なSNS上での募集文言は「高額バイト」「高額現金」「即日即金」など高額報酬をアピールするものや、「リスクなし」「ホワイト案件」「国対応」など安全性をアピールするものなど様々です。中には「叩き(強盗)」や「UD(受け子・出し子)」といったものや、「SIM案件」「海外リゾートバイト」など、怪しさを感じても一目では判断できないものもあります。
②匿名性の高いメッセージアプリで追跡を回避
「闇バイト」に応募すると、犯人グループからは匿名性の高い通信アプリ「Telegram」や「Signal」などをインストールするよう指示があり、以降、証拠を残さないために指示をされた通信アプリを通してやりとりを行うことになります。
政府は、申込時に匿名性の高いアプリのインストールを求められる場合は、闇バイトの可能性があることを周知し、怪しいと思ったら友人や家族、警察に相談するよう促しています。
③一度はまると抜けられない落とし穴
さらに、詳細な仕事内容等を尋ねても、犯人グループは「まずは仕事を行うために身分確認が必要」などと言葉巧みに唆し、「運転免許証」や「マイナンバーカード」、「学生証」などの身分証明書を撮影した画像を送るよう誘導します。把握した個人情報は、応募者が犯行を躊躇したり、グループから離脱しようとした際に利用し、「家に行く」「家族に危害を加える」などと脅しをかけて服従させることで、闇バイトに応募した若者などを、特殊詐欺の受け子や出し子、強盗などの実行役として繰り返し犯罪に加担させます。
警視庁では、闇バイトに申し込んでしまった場合、すぐに最寄りの警察署や警視庁総合相談センター、ヤング・テレホン・コーナーに相談するよう促しています。
政府は緊急対策会議を開催、匿名などの募集は違法に
こうした中、政府は昨年12月にSNSの「闇バイト」による強盗事件が、東京、千葉、神奈川など各地で相次いだことを受け「犯罪対策閣僚会議」を開き、緊急対策を決定しました。
①求人者名や業務内容など記載ない募集は違法に
緊急対策では、職業安定法に基づき求人者の名称や連絡先、業務内容、就業場所などの表示がない募集は違法と明確化しました。事業者に違法な労働者募集の削除も促し、労働者をSNSや広告で募集する事業者が、それぞれ策定している投稿削除基準にも盛り込むよう求める方針です。
また、単発のアルバイトの仲介業者などに対しては事前審査を厳格化するよう指導し、闇バイトに絡む求人情報が自社サイトに掲載されることを防ぐよう促します。
②新しい捜査手法「雇われたふり大作戦」の導入
さらに、緊急対策の柱では、捜査員が架空の人物の運転免許証などを使って闇バイトに応募し、犯行グループに接触する「仮装身分捜査」を早期に行う決定をしました。警察庁では「仮装身分捜査」を取り入れた捜査手法を「雇われたふり作戦」と名付けて犯罪の取締りや抑止につなげたい考えで、政府はその捜査のあり方を検討し、運用指針を策定した上で、早期に実施するとしています。
警察庁によると、捜査員であることを隠して、闇バイトに応募するという捜査自体はこれまでも行われていましたが、本人証明書の提示を求められることが多くなったため検挙につながるケースはほとんどありませんでした。本人証明書の提示に関して、運転免許証などの証明書を偽造することは公文書偽造などの罪に問われる恐れがあります。
刑法では「法令または正当な業務による行為は罰しない」と規定されているため、警察庁は、闇バイトによる犯罪の捜査に限った運用にするなど、現行法の範囲内で対応を可能にする考えです。
まとめ
SNSや広告において求人情報の掲載に関して違法性を明確化したことは、若者たちが犯罪グループへ繋がるのを回避する上で最初の一歩と言えます。
犯罪グループの摘発については、仮装身分捜査が闇バイト摘発の切り札として期待される一方、導入には慎重な意見も出ています。
一つは、捜査員や一般国民の安全性の確保です。犯行グループに接触する捜査員の身の安全をどう担保するか、実行犯の検挙だけにとどまらず、指示役にまでたどりつけるかが問われるほか、一般国民が捜査協力者として巻き込まれる危険性についての指摘もあります。
ほかにも、なし崩し的に他の犯罪に対してもこの捜査手法が使われることにより、社会全体が疑心暗鬼に陥るのではないかという指摘もあります。
仮装身分捜査は「潜入捜査」とも呼ばれ、捜査員が二重生活となるストレス性の高い捜査手法です。日本で現在も行われる薬物や銃器の取引の際の「おとり捜査」では、身分証の偽装はしないほか、能動的に働きかける手法のため大きな違いがあり、非常にイレギュラーな捜査方法といえます。
闇バイトに対する緊急対策政策について、その実効性と安全性を確保できるかが重要です。
引用・参考
NHK:首都圏NEWS WEB
読売新聞
犯罪対策閣僚会議(第41回)資料
