憲法審査会とは、国会の衆議院と参議院に設置された、憲法改正原案と憲法改正の発議を審議する機関です。
この審議はどのような過程を経て行われるのか疑問を持つ方も多いと思われます。
そこで今回は
- 憲法審査会の概要
- 運営方法
- 具体的な業務
などについてご紹介します。
本記事がお役に立てば幸いです。
憲法9条について詳しく知りたい方は以下の記事もご覧ください。
憲法9条とは?戦争の放棄と3つの憲法改正案について簡単解説
1、憲法審査会とは
憲法審査会が具体的に何をしていて、どのように運営されているのか見ていきましょう。
また憲法審査会で使われている関係資料も紹介します。
(1)憲法審査会は何をしているのか
憲法審査会は2007年に各議院に設置された常設の機関です。
憲法審査会の業務は以下のとおりです。
- 憲法や憲法関連の法律に関する調査
- 憲法改正原案や憲法改正の発議、国民投票に関する法律案の審査及び提出
日本国憲法は、制定後一度も改正されたことがありません。
憲法第96条には、憲法を改正する方法が規定されています。
これによると
- 国会で衆参各議院の総議員の3分の2以上の賛成を得る後
- 国民投票で過半数の賛成を得る
という2つの要件が満たされないと憲法を改正することはできません。
憲法を改正することのハードルの高さがお分かりになると思います。
それ程重要な法規と考えられているため、憲法審査会という特別な機関を設置することで、憲法を審査しているのです。
参考:衆議院
(2)憲法審査会はどのように運営されているのか
憲法審査会を運営しているのは、委員です。
委員は衆参それぞれの国会議員が就任し、衆議院及び参議院の憲法審査会にそれぞれ50人ずついます。
各会派の所属議員数の比率によって委員数が決まり、それぞれの会派で委員を選任します。
また委員のトップは会長で、委員たちの中から選ばれます。
委員の人数は会派の議員数と比例するので、会長は与党から選ばれる傾向にあります。
そのため、会長代理は野党第一党から選ばれることが多いようです。
会長は、憲法審査会の運営を協議する幹事会を開くことができます。
憲法審査会は、国会の会期中も閉会中も開会することができ、会議は原則公開されます。
また、憲法審査会は公聴会を開いたり、委員を調査に派遣したりすることができます。
ちなみに、憲法改正原案に関わる議案の場合は公聴会を開かなければなりません。
参考:憲法審査会の運営
公聴会とは?国家予算策定時に公聴会を開く重要な理由を簡単解説
(3)関係資料について
憲法審査会には事務局が設置されていて、事務局員たちは委員たちの審査に必要な資料を作成しています。
衆議院憲法審査会の資料のことは「衆憲資」と呼ばれ、例えば次のようなものがあります。
「新しい人権等」に関する資料(衆憲資第94号)
- 憲法第14条などで人権を規定しているが、これらは歴史的に国家権力によって侵害されることの多かった重要な権利・自由を列挙したもので、すべての人権を網羅的に掲げたものではない
- 社会の変革にともない「新しい人権」を憲法上保障される人権と解するのが妥当
- その根拠となるのが、憲法第13条の幸福追求権である
- 新しい人権には、環境権、プライバシー権、知る権利・アクセス権、犯罪被害者の保護、知的財産権、生命倫理がある
この資料は誰でも閲覧することができます。
(4)憲法審査会と「国民投票法」及び「国会法」について
憲法審査会は、2007年に成立した国民投票法を受けて設置されました。
同法の正式名称は「日本国憲法の改正手続に関する法律」といいます。
国民投票法の趣旨は以下のとおりです。
「日本国憲法第96条に定める日本国憲法の改正について、国民の承認に係る投票(国民投票)に関する手続を定めるとともに、あわせて憲法改正の発議に係る手続の整備を行うもの」
引用:国民投票法
ただ、国民投票法そのものが憲法審査会について定めているわけではありません。
憲法審査会設置の根拠になっている法律は国会法です。
同法102条の6には以下のように書かれてあります。
「日本国憲法及び日本国憲法に密接に関連する基本法制について広範かつ総合的に調査を行い、憲法改正原案、日本国憲法に係る改正の発議又は国民投票に関する法律案等を審査するため、各議院に憲法審査会を設ける」
引用:国会法
2、憲法審査会と憲法調査会の違い
憲法審査会は2007年にできた比較的新しい機関です。
憲法審査会ができるよりも以前には、
- 憲法調査会
- 憲法調査特別委員会
という2つの機関がありました。
憲法調査会は、憲法一般について、広範かつ総合的な調査を行っていました。
また、憲法調査特別委員会は、国民投票法について議論する場でした。
参考:衆議院・憲法調査会
3、会議の記録
先ほど、衆議院憲法審査会で使われている資料「衆憲資」が公開されていると案内しましたが、それ以外にも誰でも見ることができる資料には以下の2つがあります。
<憲法審査会ニュース>
憲法審査会ニュースは、各憲法審査会事務局が発行しています。
憲法審査会が開かれたことを知らせたり、会議の内容や意見窓口「憲法のひろば」の状況などを報告したりしています。
参考:憲法審査会ニュース
<会議日誌・会議資料>
会議日誌・会議資料は、会議に使われた資料を掲載しています。
例えば以下のような資料を閲覧することができます。
- 日本国憲法及び日本国憲法に密接に関連する基本法制に関する件(憲法改正国民投票法を巡る諸問題)
- 会長の辞任、幹事の補欠選任
- 憲法改正国民投票に係る有料広告の自主規制の検討状況について
- 一般社団法人日本民間放送連盟配付資料、国民投票運動CMなどの取り扱いに関する考査ガイドライン
- 日本国憲法の改正手続に関する法律の一部を改正する法律案に関する参考資料
参考:会議日誌・会議資料
こうした資料を閲覧することで、憲法に関する国会の動向が見えてくるかもしれません。
4、憲法審査会に付託された議案・請願
ここでは実際に憲法審査会に付託された議案と請願の一部を紹介します。
(1)議案の具体例
実際に憲法審査会に付託された議案の例として「第196回国会 日本国憲法の改正手続に関する法律の一部を改正する法律案」の概要を紹介します。
議案の具体的な内容は以下のとおりです。
- 投票人名簿等の縦覧制度の廃止及び閲覧制度の創設
- 「在外選挙人名簿」への登録の移転の制度(出国時申請)の創設に伴う国民投票の「在外投票人名簿」への登録についての規定の整備
- 共通投票所制度の創設
- 期日前投票関係
- 洋上投票の対象の拡大
- 繰延投票の期日の告示の期限の見直し
- 投票所に入ることができる子供の範囲の拡大
また、「第186回国会 日本国憲法の改正手続に関する法律の一部を改正する法律案」にて審議された事柄は以下のとおりです。
- 選挙権年齢等の18歳への引下げ関係~国民投票の投票権年齢に係る経過措置規定等の削除及び検討条項の再規定
- 公務員の政治的行為に係る法整備関係~純粋な勧誘行為及び意見表明についての国家公務員法等の特例並びに組織的勧誘運動の企画等に係る検討条項
- 国民投票の対象拡大についての検討関係~憲法改正問題についての国民投票制度に関する検討条項の再規定
- 施行期日等
(2)請願の具体例
請願とは議会などに要望を伝えることであり、国民の権利として憲法に保障されています。
参考:憲法16条
実際に憲法審査会に付託された請願には以下のようなものがあります。
- 憲法審査会における改正内容の審議促進に関する請願
- 憲法9条を変えず、憲法の平和、人権、民主主義を生かす政治の実現を求めることに関する請願
- 改憲発議に反対することに関する請願
- 緊急事態に対応できる憲法の早期発議に関する請願
- 憲法改悪反対に関する請願
- 憲法を守り、生かすよう求めることに関する請願
- 立憲主義の原則を堅持し、憲法九条を守り、生かすことに関する請願
- 日本国憲法の全条項を守り生かすことに関する請願
- 憲法の改悪反対、9条を守ることに関する請願
- 今後想定される国家の緊急事態に対応できる憲法の早期発議に関する請願
参考:衆議院・請願
5、傍聴について
憲法審査会は
- 国会議員による紹介
- 会長の了承
この2つの要件を満たせば誰でも傍聴することができます。
傍聴を希望する人は、国会議員を通じて申し込むことになります。
なお国会では、障害を持った人でも傍聴できるよう、さまざまな配慮をしています。
具体的には
- 手話通訳者
- 要約筆記者
- 通訳
などが挙げられ、以上のようなサービスは介助者が同伴しない際に議員事務局で手配します。
盲導犬や聴導犬、介助犬を同伴した傍聴も可能です。
参考:衆議院
憲法審査会に関するQ&A
Q1.憲法審査会は何をしている?
憲法審査会の業務は以下のとおりです。
- 憲法や憲法関連の法律に関する調査
- 憲法改正原案や憲法改正の発議、国民投票に関する法律案の審査及び提出
Q2.憲法調査会とは?
憲法調査会は、憲法一般について、広範かつ総合的な調査を行っています。
また、憲法調査特別委員会は、国民投票法について議論する場でした。
Q3.会議の記録は見れる?
以下の2つは誰でも見ることができます。
- 憲法審査会ニュース
- 会議日誌・会議資料
まとめ
憲法審査会は、憲法について検討する重要な機関といえます。
そのため憲法審査会では、会議で使った資料や会議そのものの記録を国民に開示しています。
国民から信頼されるような憲法審査会であるためにも、オープンな会議を行うことが必要になります。