日本維新の会代表選挙が11月17日に告示され、12月1日に投開票が行われます。『政治ドットコム』では代表選挙に立候補する各候補者の政策にフォーカスし、長期的な国家ビジョンや若者世代へのメッセージを伝えるインタビュー記事をお届けします。
今回のインタビューでは、日本維新の会代表選挙への立候補を表明した松沢しげふみ参議院議員に、日本維新の会のこれからのビジョンとその実現のために注力したい政策をお伺いしました。
(取材日:2024年11月22日)
(本記事は「政治ドットコム」YouTubeチャンネルのインタビュー動画を元にしたものです。本編動画はこちらからご覧ください)
松沢 成文(まつざわ しげふみ)議員
1958年神奈川県川崎市生まれ。1984年に米国連邦下院議員のスタッフとして活動。
神奈川県議会議員や衆議院議員(3期)で活動後、2003年神奈川県知事に就任(2期)。2013年参議院議員に初当選(2期目)。
座右の銘は「運と愛嬌、破天荒力」。
豊富な政治経験を維新再建に活かしたい
ー長い政治経験をお持ちですが、政治家への関心はいつからお持ちでしたか?
私の政治の原点は学生時代に抱いた日本の政治への疑問です。大学生の頃、リクルート事件など政治腐敗が次々と明るみに出て、「この国の政治を何とかしたい」と強く思うようになりました。大学卒業後、松下政経塾に入塾し、その後、アメリカに単身で渡って下院議員の秘書になり、アメリカの民主政治を現場で徹底的に勉強しました。
政治家を目指すことを決め、帰国後、地方議員にチャレンジ。神奈川県議会議員を2期務めた後、国政に転進しました。新党ブームの中で羽田孜さんと小沢一郎さんにぜひ一緒に国政をやらないかとお誘いを受け、幸運なことに衆議院議員になることができました。
衆議院議員議員を3期10年務めた後、ご縁をいただき、地元・神奈川県知事選挙に出馬。2期8年を務めました。権力を長く持っていると必ず腐敗します。在任中に多選禁止条例を作ったことと、高校で日本史を必修にしたことは大きな改革だったと自負しています。
特に、高校の日本史必修化は学校現場やPTAからも大反対されたのですが、人間教育のためにはしっかり自国の歴史を学んでいなければならないとの信念でやり切りました。参議院議員になってからもこの問題には取り組み続けるなどライフワークになっています。
神奈川県知事退任後は、都知事選への出馬見送りや落選、政界再編などを乗り越えて今に至ります。今の維新の会の中では、様々な政治経験を持っているほうだと思います。今回の代表選挙ではこの経験を活かし、ぜひ関東の代表として出馬してほしいという声をたくさんいただいたので、覚悟を持ってチャレンジすることにしました。
今は国政政党として国家ビジョンを示すべきとき
(代表選立候補にあたって発表した政見パンフレット:日本維新の会代表選特設ページ、https://o-ishin.jp/convention2024/candidate/matsuzawa.htmlより)
ー維新が他の政党と大きく異なる点や、特に優れている点はどのようなところだとお考えですか?
維新の最大の特徴は、地方と国政をつなぐ力にあります。他の政党が中央集権的な体制を取る中で、維新は知事や地方議員を経験した議員も多く、地方自治の経験を活かした政策立案が得意です。たとえば、私のように地方自治の長を経験している議員が国政にも参加することで、地方行政の課題を具体的に解決する提案ができる。これは他党にはない維新の強みだと思います。
ー今回の代表選挙で特に力を入れて訴えたい政策について教えてください。
今回の代表選挙は「誰を代表にするか」を決めることが主たる目的ですが、私はより大きなビジョンを訴えるべきだと思います。維新は国政政党になりました。しかし国民に訴えるものがない。その結果、勢いもなくなっています。
「大阪都構想」はあくまで大阪の統治機構改革ですから、関東・東京の人は関係ない。国政政党として今、国民に対して国家ビジョンを示す必要があるんです。
そこで私はこの代表選挙で「関西奠都(てんと)」と「首相公選制」を訴え、国民的な議論を喚起するきっかけを作りたいと思っています。
「関西奠都」は明治維新をきっかけに東京に移られた天皇陛下を関西にお迎えし、関西を文化的な中心地として再整備しようとする考え方です。これは東京一極集中の状況を打破するためのアイデアです。権威の象徴である天皇陛下は関西に、権力の中心は東京に、ということで、関西と東京の両軸で日本を引っ張る体制を築きたいと思います。歴史観や国家観を見据えて、東京一極集中を打破し関西を活性化するための維新らしい提案だと思っています。
もうひとつ訴えたい政策は「首相公選制」です。アメリカの大統領選挙を見ても、候補者についての議論が家庭や職場で行われるほど、政治が身近です。これは自分の1票で大統領を選べるからこそだと思います。
日本でも国民が首相を直接選べる仕組みを作りたい。日本は議院内閣制を採用しているので、国民が直接首相を選ぶことはできません。憲法改正が必要との理由から反対の声も大きいですが、現行憲法の枠内で実現可能な法改正による首相公選制を提案しています。
ー改革を進める上で意識しているポイントはなんでしょうか?
説得を諦めないということでしょうか。実は公共の場を禁煙にする動きは私が神奈川県で始めた受動喫煙防止条例が始まりなんですね。そこから兵庫県が後に続き、オリンピックをきっかけに東京にも広がり、厚生労働省が全国的に取り組むようになりました。神奈川での私の改革がなければ推進されなかった改革だと思います。ただこれにはすごい抵抗がありました。喫煙者の方からも飲食店からも、業界団体からも。ただ世論調査とアンケートの結果では、7割から8割がこの条例に賛成だったんですよ。3年間で絶対説得し切る必要があると思って、やり切りました。
ー維新の会が掲げる「身を切る改革」について、今後どのようなアップデートが必要なのでしょうか?
維新が掲げる「身を切る改革」の一番の売りは、議員が議員報酬を1-2割削減して、福祉団体や医療団体、被災地に届けることなんです。ただ本当にやっているのか知られていない。しかも、その「身を切る改革」が党勢縮小の一因にもなっているんです。政令市の議員以上は報酬が高水準なので1-2割を取られても生活することはできる。ただ一番困るのは小さな市町村の議員さんで、議員報酬は300万-400万円ほど。そこに議員報酬の削減が加わると生活費が厳しい。「どうにかしてくれ」という悲鳴がたくさん上がっており、このことを理由に離党者も続出しています。当選後の負担が大きいなら立候補者も集まりません。この制度を変えなければ党がどんどん縮小してしまいます。
それに加えて国会議員の任期制限も必要な政策です。維新内でも大きな議論のある政策ですが、例えば24年で後進に譲るような仕組みを作れば、長老支配がなくなり、若い人が挑戦しやすくなる。維新は庶民による改革政党だというイメージもつきやすくなると思います。これが実現したら私もあと3-4年でこの制限に引っかかります。ただそれを否定していたら既得権を守る既存政党と同じです。自分もルールを守るから今までにない改革を一緒にやろう。そういうベンチャーマインドのある政党に維新をもう一度戻したいんです。
ー国会議員として特に力を入れたい他の分野はありますか?
私が国会議員になった一つの原点は憲法改正なんです。日本国憲法が抱える最大の欠陥は、国家安全保障と国家緊急事態の条項が定められていないことです。安全保障とはどのような軍隊を持ち、どのような同盟を組み、国民はどのような努力をして自分たちの国を守るのか。この方法論を憲法の中に定めることです。それが今の日本にはない。
加えて、大きな災害が頻発する日本にあって、緊急事態条項が定められていない点は深刻です。例えば、緊急事態下にあっては公権力が人命救助や復旧・復興のために個人の財産権を侵害することもあり得ます。今の憲法のままでは政治がそのために超法規的な措置をとることになってしまう。そうならないように憲法に基本的なことを書き込んで、自衛隊の役割を明記し、国家緊急事態の対応を定めておく必要があります。ただこの憲法改正の動きに公明党は慎重ですし、立憲民主党や共産党は反対しています。このままでは平行線の議論が続いてしまい、国民を守るために必要な動きができません。だからこそ、これを維新が先導したい。
維新は大阪に基盤があるから簡単には潰れない。ただ大阪一極集中だからなかなか全国政党にはなることができない。このパラドックスを抱えているんです。私たちは支持母体はなく地方との連携が強い政党。是々非々でいいものがあれば一緒にやる。
企業団体献金の廃止のような自民党が絶対反対する政策に関しては立憲民主党と国民民主党と一気に一緒にやる。そのような動きの先に第三極から第二極へと進化することができ、最後は自民党と政権をかけた勝負をすることができる。私は維新をそういう政党へと発展させていきたいんです。
東西の両軸で日本を前に進めるための政党にしていきたい
ー首都圏・関東圏でしっかり戦っていくために必要だと考えることはなんでしょうか。
まずは関東でも勝負することですね。今年の1月、私はなぜ維新は東京都知事選挙をやらないんだと、じかに執行部に訴えました。現執行部は現職の小池さんが強すぎるという理由で、立候補を見送ったんです。ただ私に言わせれば、勝てなくても勝負すべきでしたね。関東において勝てる首長選挙なんて最初からできません。首長選挙って一番難しい選挙ですからね。最初は投資でいい。勝てなくても選択肢を示さないといけなかった。
結局、都知事選挙は既存政党をぶった斬って、圧倒的支持を集めた石丸さんが出てきた。もし維新が候補者を出していたら石丸さんが出てくることもなかったかもしれません。石丸さんが受けたあの期待を維新の候補者が受けた可能性だってある。だからこれからは関東でももっと勝負しないといけません。
ー最後に、若い世代に対するメッセージをお願いします。
若者の政治参加は、日本の未来を築く上で欠かせません。私は神奈川県知事時代に「模擬投票制度」を導入し、高校生に実際の選挙を模倣した体験を提供しました。この取り組みを通じて、若者に政治の意義を伝えることができたと思います。
また、次のステップとして、18歳被選挙権の導入を進め、若い人が自ら候補者となって政治に参加できる社会を目指します。若い人が投票するだけではなく、自ら議員として政治に参加することで、自らの未来を切り開くことができる。そんな国にしていきます。