
現在、日本ではリモートワークや時短勤務など、働き方の多様化を促進し、地方創生を推進していく政策が進められています。一方で、スポットワークやギグワーカーといった新しい働き方も登場しており、社会の仕組みの整備が追いついていない状況です。
今回のインタビューでは、自由民主党雇用問題調査会事務局長を務める田畑裕明議員に、働き方の多様化に対する考えや、今後必要な政策などについてお話を伺いました。
(取材日:2025年4月15日)
(文責:株式会社PoliPoli 大森達郎)
田畑裕明(たばた ひろあき)議員
1973年生まれ。富山県出身。
獨協大学経済学部卒業後、地元の銀行勤務等を経て、2003年に富山市議会議員選挙で初当選。2012年衆議院議員選挙で初当選(現在5期)。
厚生労働大臣政務官や総務副大臣を歴任。現在、自民党雇用問題調査会事務局長などを務める。
経済による地域貢献から、政治による地域貢献へ
ー田畑議員は地元の銀行勤務等を経て、政治家の道を選ばれました。どのような問題意識・ビジョンがあったのでしょうか。
大学時代、進路を決める際に「生まれ育った場所で地域に貢献したい」という思いが強く、地元に戻ることを選びました。そして、進路としては地域密着の銀行に進みました。これは30歳を目途に地域課題の解決を目指し、起業も視野に入れていたため、お金の流れや地域経済の動きを肌で感じたいと考えていたからです。
銀行での業務として町役場を担当したことが、政治の道に進む大きなきっかけとなりました。町の財政担当者と仕事に取り組む中で、行政の仕組みが地域社会に与える影響の大きさを実感すると同時に、町おこしや地域事業への関心が高まりました。29歳の時に「地元をより良くしたい」という一心で、市議会議員選挙に立候補しました。
ー地方議会議員を経て、衆議院議員になられました。当時の課題感と国政を目指したきっかけを教えてください。
地方議会議員として活動していた当時、現代と比べて情報の入手源は限られていました。現在では、情報はインターネットを通じて容易にアクセスできますが、私が政治家の道を歩み始めた2000年頃は、スマートフォンすら普及していない時代です。そのため、議員として政策提言を行う際も、基礎となる前提資料の公開が不十分であったり、どのようなアプローチで政策作りを行うのかさえ掴めないという課題がありました。同時に、行政の閉鎖的な側面も感じていました。
自治体の政策について、情報をオープンにして、住民がもっと行政や政策にアクセスしやすい環境を整備する必要性を感じましたし、行政側としても、政策の方向性を明確に示すべきだと考え、議員活動に取り組んでいました。
転機となったのは、自民党が野党であった2012年です。当時の自民党は、非常に厳しい状況にあり、国政へ挑戦する人はなかなかいませんでした。そのような中、富山県議会議員として駆け出しだった私が、多くの仲間の協力を得て、手を挙げさせていただき、当選することができました。
ー13年間の国会議員生活で、特に印象に残っている政策は何ですか。
衆議院議員2期目に、厚生労働省の政務官に任命されました。以前から労働政策や雇用に関心があり、特に2018年成立の「働き方改革関連法案」においては、担当政務官として労働基準法や時間規制などの改正に力を入れて取り組みました。現代社会における雇用・労働政策の重要性をこの時改めて認識しました。現在でも、雇用政策立案や労働問題に関する活動を続けています。
変化をチャンスに。新しい働き方を支援
ー雇用問題調査会事務局長として、ポストコロナ時代の新しい働き方をどのように捉えていますか。
若い世代が、自己実現のために多様な働き方を選択できることは非常に良い傾向だと考えています。ただし、働き方を選ぶ際には、将来設計も視野に入れることが大切です。つまり、明確な目的意識を持つことが重要になります。
この点において、国としての責任も大きいと感じています。中学生・高校生の段階から、どのような職業が存在するのか、それにはどのようなスキルが求められるのか、キャリアをどのように設計していくのかといった、社会との関わり方について考える機会をキャリア教育として設ける必要があると考えています。
現在の日本の働き方の主流はメンバーシップ型であり、新卒一括採用や同じ会社で長く働き続けることが一つの価値観となっています。しかし、ポストコロナの時代において、この価値観が本当に社会に合致しているのか、時代の変化に対応できているのかについては、常に疑問を持ち、政策立案に取り組んでいます。
ー「月例経済報告等に関する関係閣僚会議資料」で、スポットワークが取り上げられました。このような新しい働き方については、どうお考えでしょうか。
スポットワークは、2020年頃からコロナ禍を契機に生まれた働き方です。若者の空いた時間を有効活用したいというニーズに合った働き方だと思います。また、事業主側にとっても、必要な時に必要な労働力を合理的に確保できるという点で、双方にメリットがあると言えるでしょう。
一方で、留意すべき点もあります。スポットワークはアルバイトや非正規労働としての需要が高いということです。働く側がどのような目的でこの働き方を選んでいるのかを考える必要があります。たとえば「長期的な就労は避けたい」「当面の生活費を稼ぎたい」といった安易な理由で選択している場合は注意が必要です。
スキルを必要としない仕事が多い傾向にあるため、労働力の使い捨てにならないよう配慮も求められます。
もちろん、職業選択の自由は大前提です。自民党としては、人手を必要とする産業とその賃金水準などを常に調査・分析し、国民に情報を提供しながら、必要な政策を講じています。また、資格や技能検定など、仕事における「評価の見える化」をしっかりと進めていくことも重要です。
今後は、スキルや経験をこれから積み重ねていく若い世代をはじめとする働く人々に対して、「賃金の見える化」に取り組み、彼らが主体的に将来を見据えて働くことができる環境を整備していく必要があると考えています。具体的には職業情報提供サイト「job tag」を大幅リニューアルすることを検討しています。
ー雇用問題調査会として、今後注力する内容や取り組まれる活動はどのようなものですか。
カスタマーハラスメント対策を企業に義務付ける労働施策総合推進法などの改正案を、今国会に向けて提言しました。これは、社会規範として許容できない誹謗中傷やクレームに対して、直接的な罰則を設けるものではありませんが、社会に警鐘を鳴らすことを目的としたものです。
また、日本では10年〜20年後に深刻な労働力不足が予測されています。需要と供給のギャップに関する様々な研究が行われており、このままでは2035年には約400万人の労働力が不足するというデータもあります。雇用問題調査会としては、働く人々のスキル向上をいかに支援できるか、労働生産性を最大限に高めるためにどのような政策が必要かを検討しています。特に、デジタル技術の進化を踏まえた産業のDX(デジタルトランスフォーメーション)は重要な取り組みだと考えています。
DXで未来を拓く。人材育成とスキルアップを推進
ーここ最近で注目している課題やトピックと、今後の展望について教えてください。
先にも述べましたが、仕事の効率化は喫緊の課題であり、そのための産業のDXに力を入れていきたいと考えています。私たちの仕事を見ても、デジタル化やAIの活用によって、労働力を補完できる場面はまだまだ多く存在すると感じています。
富山県は医薬品製造の拠点地域です。製薬工場の現場を例に挙げると、医薬品製造には高い安全基準順守が求められますが、過去のデータを蓄積していくことで、どのような場合に不良品や規格外の製品が発生しやすいかの統計を把握できます。これを分析・解析することで、供給量の安定化に繋げることが可能です。また、設備や原材料に不具合が発生した際、AIを活用することでリアルタイムに異常を検知し、製造の遅延を防ぐとともに、原因調査や影響範囲の特定を迅速に行うことができます。AIなどのデジタル技術の導入は、生産性を向上させ、ひいてはそこで働く人々の幸福にも繋がる重要な取り組みであり、早急に進める必要があります。
これは製薬工場に限らず、医療・介護、そして行政などあらゆる分野に応用が可能です。必ずしも人が行う必要のない業務を機械化やAIに代替することで、人々の負担を軽減できると考えています。そして、スキルアップの機会を提供することで、人々がそれぞれの能力を発揮できる社会を実現したいと考えています。
