国内外で発生するさまざまな異常気象による災害の理由として、温室効果ガスによる気候変動が指摘されています。そこで政府は、温室効果ガスの排出を全体としてゼロにする「カーボンニュートラル」を2050年までに目指すことを宣言しました。
このカーボンニュートラルを実現する上でいま注目を集めているのが「合成燃料」です。
「合成燃料を推進する議員連盟」の創設メンバーで、副幹事長としてカーボンニュートラルを実現する上でのキーマンである今枝宗一郎議員(以下、今枝議員)に、合成燃料の最前線の議論、さらに政治への思いなどを聞きました。
(聞き手・文責:株式会社PoliPoli 中井澤卓哉)
今枝宗一郎氏
1984年生まれ(39歳)。衆議院議員(4期)。医師。
2012年、愛知14区から出馬し、当時史上最年少の28歳で初当選。
財務大臣政務官などを務める。
好きなものはコンビニスイーツ。苦手なものは激辛。
(1)医療難民がきっかけで政治家に。理想は政策ジェネラリスト議員。
ー2012年に当時28歳、史上最年少で衆議院議員に初当選しました。なぜ政治家を志したのでしょうか?
「医療難民」を経験したことが大きなきっかけでした。
小学校の時に大きな病気をして、入院と退院を繰り返していました。その最中、治療の途中で担当していた小児科の先生がいなくなってしまって、代わりの医者が来るものだと思っていたのですが、結局来ずに治療を続けることができなくなってしまいました。いわゆる地域の「医療崩壊」を当事者として目の当たりにしました。幸い病気はその後快方に向かって、おかげさまで今はとても元気なのですが、当時は正直、絶望しました。
「なぜこんなことが起きるのだろう」と思っていろいろと調べてみると、医師の数を抑制したり、地方の医療機関を抑制していることなどが分かりました。これは政策や法律の問題なので、その時「国会議員になって、国民誰もが安心安全に医療や社会保障にアクセスできる日本にしなければならない」と思いました。それが、15歳の時でした。
その後、高校や大学では、自分なりにその時に実感した社会問題に取り組みました。
例えば、高校生の時はリストラの嵐が吹き荒れ、家族がリストラに遭った先輩が学校を辞めてしまうことがありました。それをなんとか助けたいと思って、生徒会の連合体のようなところで募金活動を始め半年で3,000万円ほどの募金を頂いたりしました。大学入学後は、地域の活性化を行うためのNPOを立ち上げてさまざまな活動に奔走しました。
そのときに現場感をもってできる最大限の経験をいろいろなところで積ませてもらい、大学卒業後5年間は医者として務めて、その後初当選させていただいきました。
ー今枝議員は現役の医師でもありながら、さまざまな分野で役職を担われていますが、いわばジェネラリスト的な形が理想なのでしょうか?
その通りです。私の理想はジェネラリストですね。正直、あまり医師という肩書きは押していないんです(笑)。
現場の厳しさや辛さ、楽しさも含めて、ずっと実感値として持っておきたいという理由から、いまでも地元で医者を続けています。ただ、自分の力が必要だと思われる分野全てで、自分の力を発揮してよりよい日本にしていきたいという思いの方が強いので、特段医療関係に拘っているわけではありません。例えば、最近特に力を入れているのは、カーボンニュートラルの実現やモビリティなどの分野です。
(2)気候変動に対する危機感と経済成長のアウフヘーベンによって注目した「合成燃料」
ー今枝議員が力を入れているカーボンニュートラルを実現する上で、近年「合成燃料」が注目を集めています。合成燃料について簡単にお伺いできますか?
合成燃料(e-fuel)とは、二酸化炭素(CO2)と水素(H2)を合成してできる人工的な燃料のことです。石油と同じ炭化水素化合物の集合体で、ガソリンや灯油など、用途に合わせて自由に利用できます。
将来的には、大気中にある二酸化炭素を直接分離・回収する技術を使って資源として使うことが想定されています。二酸化炭素から作ったもので二酸化炭素が出てくるので、「脱炭素燃料」ということになります。
ー注目したきっかけは何だったのでしょうか?
気候変動に対する危機感がきっかけでした。
この夏も毎週のように各地で大雨が降り、かつてないほどの線状降水帯が発生していることからもわかるように、地球規模の課題として、気候変動に直面しています。まずは、国民の生命と安全を脅かすこの気候変動をどうにかしないといけないと思っていたことがあります。
一方で、国民の生活を豊かにしていくという観点からすると、日本の経済や少子化対策も重要です。系座については、少子化傾向が続く中で低成長が続き、特に若い世代を中心に所得が30年間上がらなかったり、それが少子化に繋がっていたりする課題にも直面しています。
その経済について、日本の産業の大黒柱は自動車産業であるわけですが、自動車は温室効果ガスである二酸化炭素を排出しますから、地球環境にとってはよくないわけです。それで、電気自動車の導入が国際的に推進されており、将来的にはガソリン車の新車販売を全て禁止にして、電気自動車に移行することを表明する国も出てきています。
しかし、日本の得意分野である自動車産業が、まるまる電気自動車に移行するとなると、日本経済にとっても深刻な影響があります。エンジンを持つ自動車は日本の先行メーカーの技術力が国際的にも高い分野ですが、ここがまるっとなくなると日本の産業や雇用が被る影響は計り知れません。
かといって、このまま二酸化炭素を排出し続けて気候変動の問題を無視し続けるわけにも行かないわけで、「どうにか気候変動の問題と日本の自動車産業の活性化を同時に実現できないか」と考えていました。そこで「合成燃料」に行き着いたのです。
合成燃料についてはかなり前から知っていたのですが、最近とりあえず自動車が走れる、ということになってきて、「これはいいな」と思いました。日本の経済の大黒柱は自動車産業ですし、自動車が今入れているガソリンを合成燃料にすると脱炭素になるので、これを進めれば気候変動対策も自動車産業の振興も両立できるのではないかと思ったのです。アウフヘーベン的な考え方です。
経済産業省 第3回合成燃料(e-fuel)の導入促進に向けた官民協議会(2023年6月)より
ー合成燃料の活用を推進する上で、現在直面している課題はありますか?
目下の課題は、生産量と生産コストの2つです。
生産量については、大量生産できるかということがポイントです。大量生産ができるようになれば、当然生産コストも下がります。値段はガソリン並みを目指していかなければ普及せず、普及しないと大量生産もできないということになってしまうので、いかに生産コストを下げるかという点も重要です。
今の合成燃料は、1リットル当たり約700円です(注1)。ガソリンは1リットル100円台なので、まずは4分の1ほどに下げないといけません。
(注1)日本で水素を生産した場合の値段。
ー生産コストを下げる上で、解決策はあるのでしょうか?
見通しはついています。合成燃料を作る際の収率(注2)が、今は4割から5割と言われていますが、これを8割にする技術がもうでき始めています。単純計算ですが、この技術を使ってプラントで生産すれば従来に比べて2倍生産できることになります。この技術の研究開発及び実用化を、グリーンイノベーション基金(注3)を使って進めようとしているところです。
(注2)「収率」とは、ある物質を得るための化学反応の過程において、理論上得ることができるその物質の最大の量に対して、実際どの程度その物質が得られたかを表す比率のこと。
(注3)グリーンイノベーション基金とは、「2050年カーボンニュートラルに伴うグリーン成長戦略」を後押しするための2兆円の基金のこと。
(3)前倒しされた合成燃料の商用化目標の狙いとは?
ー世界ではEV(電気自動車)を推進する流れがあり、日本もEVを作ってきている中で、合成燃料を進めるのは厳しい側面もあるという指摘も一部見受けられます。この点について、今枝議員はどのように考えていますか?
合成燃料は、日本のこれまでの自動車産業で最大限の脱炭素をする中では一番効果的でいい方法だと考えています。
実は、EVは新興勢力が入りやすいんです。今まで日本のメーカーが強みを持っていたエンジン車のシェアを奪っていこうという目論見が大きくあります。これに対抗するためにも、日本としては合成燃料を進めていく必要があると考えています。
ー国際的に見て、日本の合成燃料の政策の特徴は何でしょうか?
今国会(*2023年1月〜6月の通常国会)で、合成燃料の商用化の目標が、従来の2040年から2030年代前半に前倒しされました。いい流れができてきていると思います。
今まで政府は「2040年頃に商用化できればいい」というスタンスだったのですが、これには問題がありました。それは、2035年に新車販売について、ガソリン車の販売を禁止し、すべて電気自動車にすることを日本政府がかかげていることです。2035年にガソリン車の新車販売ができなくなるのに、合成燃料の商用化が2040年だと、合成燃料自体が無用になってしまう可能性が非常に高いです。すでに電気自動車が増えている状況で合成燃料を作っても意味がありません。
これでは駄目だと、私は何度も政府に説明してきました 。「2035年より前に、最低5年以上、できれば10年ほど前倒しすべき」と訴えかけました。その結果、国会でも正式に「2030年代前半を目指す」と答弁してもらうことができました。これは非常に大きかったと思います。
ー商用化を前倒した今、次に目指すものは何でしょうか?
次は国際的なルールメイキングをやるべきだと考えています。電気自動車の推進は、カーボンニュートラルを目指すという大義名分もさることながら、経済面で力を得たいと内心思っている国々と本気の勝負です。その勝負を優位に進める上で、グローバルでもルールメイキングをしていく必要があります。
今は目標を作ったばかりなので、そこに向けたロードマップを作り、本当に商用化ができるか、高収率のものができるか、投資しながらうまくいっているのかPDCAを回しながら進めていくことが重要です。
(4)「分散型国づくり」の推進を
ー最後の質問ですが、今枝議員が政治家として成し遂げたいことを教えてください。
人口減少をできるだけ食い止め、それでも減る人口でも持続的に成長できる「分散型国づくり」を推進することです。
人口減少はコロナ禍で拍車がかかってしまいましたが、まずは何とかして食い止めるためにあらゆる手立てを最大限使うべきだと思っています。何よりもまず、経済的な不安なく子どもを育てられるように、賃金を上げられる経済環境を作ることを推進していきます。ここ1年で、大企業は過去30年では最高の3.6%の賃上げ、中小企業は3.3%の賃上げができました。リスキリングで個人として賃金を上げていく環境を作っていくことも必要です。
さらに、若者世代が「結婚したい」と思える環境を作っていくことも重要です。次元の異なる子育て支援策をしっかり作り、経済的な支援をしていきます。地域で子育てしやすい環境を作っていくことも徹底的にやっていきます。これはわが政権の政策の柱でもあります。
「分散型国づくり」については、人口密集によるリスク管理と、地域にしかない価値を発見して付加価値を高めていく、という2つの観点が基本的な考え方です。東京一極集中だと災害の観点からもリスクが高く、また都市化が著しくなると地域のコミュニティ機能が活性化しにくくなるため、子育てもしにくくなるという指摘もあります。実際、地方から都市部に出てきた若者世代は、都市部での子育ては親世代の力を借りにくいことから、子育てにおける負担感が地方よりも大きいという声もあります。
また、地域の文化や伝統をはじめとして、その地域にしかないものを磨き上げて付加価値を高めていくことも重要です。「観光」も、ただ「楽しむ」だけでなく、「ワーケーション」など環境の良い地方で仕事をすることで新しいアイデアや製品・サービスも生まれやすくなるということを考えると、国として一極集中ではなく分散していた方がいいと思っています。
ーその「分散型国づくり」のために必要なことはなんでしょうか?
2つキーワードがあると考えています。1つは「責任ある積極経済財政」です。
賃金を上げるためには、まず投資をしていかなければなりません。その上で、単年度的な計画ではなく、中長期的に考えていく必要があります。使えるお金をしっかり考えていく、ということです。一方で、財源は大事な税金ですから、無駄なものへの投資は撲滅すべきです。我々のような国会議員の処遇も一つの議論になると思います。
2つ目のキーワードは、「生産性の向上」です。人口減少が進む中で経済成長を実現するためには、個人の生産性をあげていくことが喫緊の課題です。
生産性の向上を実現する上で、リスキリングが注目されています。しかし、このリスキリングについては、教育として文部科学省が担う部分もあれば、働き方という文脈で厚生労働省も担当していたり、さらに人材育成という意味では経済産業省も担当しています。複数の省庁にまたがっていると縦割りでなかなか議論が進みません。
そこで、「人的資本省(ヒューマンリソース省)」というようなものを作って一元化すると、省庁自体の生産性も上げられるのではないかと考えています。これは一つの例でしかないので、いわゆる「令和の省庁の大編成」があってもいいと考えています。
ーありがとうございます。合成燃料の話をしていたと思ったら、最後はリスキリングの話で終わりました。改めて、「政策ジェネラリスト議員」としての今枝議員の魅力をたくさん知ることができました。
ありがとうございます。少しでも私がどんな人か見てもらえたらありがたいなと思っています。