政治ドットコム経済国家戦略特区とは?構造改革特区と総合特区との違いも簡単解説

国家戦略特区とは?構造改革特区と総合特区との違いも簡単解説

投稿日2020.9.25
最終更新日2020.09.25

国家戦略特区とは、ビジネスのしやすい環境の構築を目的として、大規模な規制緩和といった、経済的にメリットがある特定の区域を指します。

国が地域制度を根本的に変え、経済効果を測る実験地区のようなものと考えるとわかりやすいでしょう。

今回は

  • 国家戦略特区の概要
  • 国家戦略特区創設の背景
  • 国家戦略特区の仕組みの利用法
  • 国家戦略特区の活用事例

について分かりやすく解説していきます。
本記事がお役に立てば幸いです。

1、国家戦略特区とは?

国家戦略特区
国家戦略特区(こっかせんりゃくとっく)とは、「世界で1番ビジネスがしやすい環境」を創出するという目的で始まった政策で、アベノミクスの第3の矢の中核を担う成長戦略でもありました。

“規制を緩和することで新しい可能性を生み出す”これが国家戦略特区の最大の強みです。

2013年に「国家戦略特別区域法」が制定され、観光・教育・農業など計11分野の92事業で改革が始まりました。

そもそもアベノミクスについてよく分からない方も多いと思いますので簡単に解説していきましょう。

アベノミクスは安倍元首相の苗字の「アベ」と「エコノミクス(経済)」を合わせた言葉で、これはアメリカのレーガン大統領の「レーガノミクス」にも由来しています。

(令和2年9月16日、安倍内閣は安倍元首相の健康上の事由により総辞職しました)

参考:首相官邸 安倍内閣総辞職

2012年第2次安倍政権で掲げられたアベノミクスは

  1. 大胆な金融政策
  2. 機動的な財政出動
  3. 民間投資を喚起する成長戦略

の3本の矢によって経済成長を狙う政策です。

アベノミクス

画像出典:アベノミクス「3本の矢」 首相官邸

国家戦略特区は、第3の矢である「民間投資を喚起する成長戦略」の1つです。

特定地域での規制を緩和することで民間や個人の実力を発揮できる環境を創出することが目的です。

従来のボトムアップ型(地方から国への提案)ではなく、国が主導するトップダウン型が国家戦略特区の特徴でもあります。

参考:国家戦略特別区域基本方針 首相官邸
参考:国家戦略特区の制度概要 首相官邸

(1)「国家戦略特区」「構造改革特区」「総合特区」の違いは?

国が定める「特区」には、国家戦略特区以外にも「構造改革特区」と「総合特区」があることをご存知でしょうか?

名前が似ているため意味を混同してしまう方も多いと思います。

  1. 構造改革特区
  2. 総合特区
  3. 国家戦略特区

それぞれの3つの特区の特徴を見てみましょう。

① 構造改革特区

構造改革特区は3つの中で最も古い特区です。

2002年小泉政権の「構造改革特別区域法」に基づいて定められた特区であり、自治体や企業からの発案を政府が認定するボトムアップ型の制度です。

改革が認定されれば全国展開が可能になる特徴を持っています。
国家戦略特区

画像出典:構造改革特区制度の仕組み 首相官邸

② 総合特区

総合特区は2011年の菅(かん)政権における「総合特別区域法」に基づいて定められた特区です。

ほかの特区とは異なり、

  • 国際戦略総合特区
  • 地域活性化総合特区

の2つの特区に分かれています。

「国家戦略総合特区」では、農業や次世代エネルギーなど経済成長の原動力となる産業を、「地域活性化総合特区」では、観光・医療・教育など地域活性化への取り組みをサポートします。

これらのサポートには構造改革特区では対象外とされていた経済的支援も含まれています。


画像出典:総合特区制度について 首相官邸

③ 国家戦略特区

国家戦略特区は前述の通り、2012年の安倍政権におけるアベノミクスから始まりました。

構造改革特区、総合特区との大きな違いは、「国が主体」であるということです。
地方から国に提案する従来の特区とは違い、国が主導するトップダウン型の特区です。

構造改革特区や総合特区よりも地域を絞り込み、大規模な改革を起こしやすい特徴があります。

国家戦略特区
画像出典:特区の違いについて 首相官邸

(2)国家戦略特区に指定されている10地区

国家戦略特区に指定されている10地区では、359個の認定事業と64個の規制改革メニュー(規制改革)が活用されています(2020年6月時点)。

国家戦略特区の10地区と事業内容は以下の表の通りです。

地区 事業内容
1.東京圏 国際ビジネス、イノベーションの拠点
2.関西圏 医療等イノベーション拠点、チャレンジ人材支援
3.新潟市(新潟県) 大規模農業の改革拠点

 

4.養父市(兵庫県) 中山間地農業の改革拠点
5.福岡市、北九州市(福岡県) 創業のための雇用改革拠点
6.沖縄県 国際観光拠点
7.仙北市(秋田県) 農林、医療の交流のための改革拠点
8.仙台市(宮城県) 女性活躍、社会起業のための改革拠点
9.愛知県 産業の担い手育成のための教育、雇用、農業等の総合改革拠点
10.今治市(広島県) 観光、教育、創業などの国際交流、ビックデータ活用特区

国家戦略特区
画像出典:国家戦略特区の認定状況と各規制改革事項について 首相官邸

(3)規制改革の内容

全国10地区で展開されている国家戦略特区ですが、特区では主に以下の分野での規制改革が行われています。

  • 都市の再生
  • 創業
  • 外国人材
  • 観光
  • 医療
  • 介護
  • 教育
  • 農林水産業
  • 近未来技術やサンドボックス

これらの分野での事業は「規制改革メニュー」とも呼ばれます。
例えば、「都市の再生」の分野では、都心への居住促進のための容積率・用途などの土地利用規制の見直し、「近未来技術やサンドボックス」の分野においては、自動車の自動運転やドローンの飛行実験などが行われています。

参考:規制改革メニュー(特区措置71、全国措置39) 首相官邸

2、国家戦略特区創設の背景「岩盤規制」とは?

国家戦略特区が創設された背景には、日本に存在する「岩盤規制」の問題があるという意見があります。

岩盤規制とは、規制を担当する省庁・議員・業界が改革などに強く反発し、規制の緩和が行われにくい規制を指します。

こうした岩盤規制への対策としての制度が、国家戦略特区と言われています。

特に、岩盤規制が多い医療・教育の分野において

  • 医学部の新設
  • 公立学校の運営を民間が行う公設民営

などの改革が進行中です。

日本において岩盤規制がはびこる要因には

  • 省庁の許認可数の多さ
  • 縦割り行政

などが挙げられていますが、国家戦略特区では首相が主導で規制緩和を行っていくことでスピーディーな改革が期待されています。

参考:日本の「規制緩和」が遅々として進まない事情 東洋経済
参考:岩盤規制の打破へ二の矢、三の矢を放て 日本経済新聞
参考:首相官邸 国家戦略特区の運営について

3、国家戦略特区の仕組みを利用するには?

さまざまな改革が進められている国家戦略特区ですが、自治体や民間が利用するためにはどのような手続きが必要なのでしょうか?

国家戦略特区の手続きには

  1. 特例措置の創設
  2. 個別の事業認定

の2つの種類があります。
それぞれの仕組みを見ていきましょう。

(1)特例措置の創設

特例措置の創設とは名前の通り、国家戦略特区で実施される特例措置を新しく設ける手続きです。

国家戦略特区は国主導のトップダウン特区ですが、規制改革の内容については自治体や民間事業者、個人からの提案に重点が置かれています。

特例措置が創設されるまでの流れは以下の通りです。

  1. 自治体、事業者等からの特例措置案が提案される
  2. 民間有識者が主導する特区ワーキンググループが調査と検討を行う
  3. 国家戦略特別区域諮問会議で審議され、各所管大臣の同意を得た上で対応方針が決定される
  4. 国家戦略特別区域法または関係法令等の改正等で特例措置を実現

ただし、実現された特例措置は国家戦略特区のエリア内でのみ活用することが可能です(後に全国展開する場合もあり)。

(2)個別の事業認定

個別の事業認定とは、国家戦略特区内での事業者を認定する手続きです。

(1)の特例措置の創設では、特区で実施される具体的な規制改革が決定され、(2)の個別の事業認定では実施する事業者が選ばれます。

個別の事業認定までの流れは以下の通りです。

  1. 事業者を公募し、専門家や関係省庁を交えた各区域の分科会を開催する
  2. 国、自治体、公募事業者で構成された区域会議で区域計画案を策定する
  3. 国家戦略特別区域諮問会議が区域計画案を審議し、総理が認定する
  4. 認定の結果によって規制の特例措置等を活用することが可能になる

参考:国家戦略特区のしくみ 首相官邸

国家戦略特区

画像出典:国家戦略特区制度の仕組み 首相官邸

4、国家戦略特区の活用事例

生活に身近な

  • 医療分野
  • 教育分野

における国家戦略特区の活用事例をいくつか見てみましょう。

(1)医療事例:テレビ電話を使った薬剤師の服薬指導

活用自治体としては

  • 千葉県千葉市
  • 兵庫県養父市(やぶし)
  • 福岡県福岡市
  • 愛知県

などが活用事例集にて取り上げられています。

コロナ禍で病院に行きづらさを感じている人も多いのではないでしょうか。
このような状況を考慮し、国家戦略特区では非対面式の薬剤師の服薬指導が始まっています。

テレビ電話による医療受診を通して、薬が自宅に送付されるので、診察も処方もオンラインで完了することができます。

病院が少ない離島や過疎地域での患者、薬剤師の移動の負担を軽減し、継続的な健康管理を実現します。

オンライン診療は地方だけではなく、子育て世代や就業者層からもニーズがあるため、都市部へと展開することも検討されています。

参考:国家戦略特区の活用事例 首相官邸

(2)教育事例:都市公園内への保育所等設置

活用自治体としては

  • 東京都
  • 神奈川県
  • 大阪府
  • 兵庫県
  • 福岡県福岡市
  • 宮城県仙台市

などが活用事例集にて取り上げられています。
待機児童解消のための保育所設置は、早急に対処すべき課題です。

国家戦略特区では、都市公園内に保育所等を設置することで、スペースが足りない都市部での土地問題に対応しています。

保育士による相談や一時預かりなどの子育て支援を充実させることで、気軽に利用できる環境にしていくことも重要です。

また、最近では園庭を設けられない保育所園児の散歩中の交通事故が増加しており、公園内に保育所等を設置することで事故を予防できるメリットもあります。

参考:国家戦略特区の活用事例 首相官邸

5、規制改革の提案募集

特区で実施される規制改革は首相官邸ホームページの「内閣府 国家戦略特区」のページから誰でも提案が可能です。

「2019年度国家戦略特別区域等における規制改革事項に係る提案募集要項」を見てみると

  • 提案者は地方公共団体、民間事業者、個人など所属は問わない
  • 複数主体による共同提案もOK
  • 特区だけではなく全国での規制改革を求める提案でもOK
  • 「ビジネスのしやすい環境を整備し、経済成長につなげる」テーマが必要

などの応募基準があります。

地域の課題や生活の不便さを改善するきっかけとして応募してみても良いかもしれません。

参考:規制改革事項の提案募集について 首相官邸
参考:国家戦略特別区域等における規制改革事項に係る提案募集要項 首相官邸

まとめ

今回は「国家戦略特区」について解説しました。

国家戦略特区とは、経済を活性化させる実験的な区域のようなものです。
大胆な規制緩和で現状の課題を打破します。

コロナ禍でテレワークやオンライン飲み会など新しい生活様式が広まる中、規制緩和による多様性のある社会は今後より需要が高まるでしょう。

適切な規制緩和による快適な社会の実現を期待していきたいですね。