時代が移り変わるにつれて『新しい人権』という言葉を耳にする機会が増えました。
新しい人権は現代において、必要不可欠な考え方です。
そのため国会やニュース番組などで頻繁に議論が行われているものの、抽象的なため本質を理解しづらいのが難点です。
そこで今回は新しい人権の全体像を分かりやすく解説していきます。
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1、新しい人権とは
新しい人権とは、憲法に直接書かれていない人権のことをいいます。
日本国憲法に直接明記されていませんが、現代では欠かせないため、憲法上の人権として保障される必要があると考えられています。
新しい人権は我々にとって重要なのにもかかわらず、なぜ憲法で規定されていなかったのでしょうか。
端的に述べると、以前は規定する必要がなかったからです。
つまり時代の変化によって必要な人権が増えたのです。
例えば、新しい人権のひとつである『プライバシー権』は以下の2つによって欠かせない権利となりました。
- 都市化
- インターネットの普及
昔は地域のコミュニティが強く、その村にいる全員が知り合いで家族のような付き合いをしているのが一般的でした。
しかし現代では各地方から多くの人が都市に集まり、知らない人間が周りに増えたことから、よりプライバシーが尊重されるようになったのです。
このように、時代の流れを経て誕生した人権は少なくありません。
参考:知る権利・アクセス権とプライバシー権に関する基礎的資料(衆議院)
2、主な新しい人権の種類
それでは次に新しい人権の種類をこちらの衆議院の資料をもとに確認していきましょう。
(1)知る権利
知る権利には多くの理解がありますが、大きく分けて2つの性格があります。
①情報を受け取る権利
こちらは読んだ通り、情報収集ができる権利です。
国民は何者かに干渉されることなく、様々な情報を読み、聞き、見る自由があります。
②情報を請求する権利
国民は情報の受け手ですが、一方でこちらから情報を請求することもできます。
というのは政府が保有する情報の公開を求める『政府情報公開請求権』の公使のことです。
この情報を請求する権利が一般的に『知る権利』と呼ばれています。
国民は多くの情報を任意に集めることができるのです。
受動的にだけでなく、能動的に情報公開を求めることができるのも知る権利の特徴でしょう。
(2)自己決定権
自己決定権は自分のことを自分で決められる権利です。
政府などの公権力に干渉されることなく、個人は人生における自己決定ができるよう保障されています。
例えば、自分の髪型や服装、受験する学校などは自身で選べますよね。
一見、当たり前だと思われることも実は権利として保証されているのです。
(3)肖像権
肖像権とは無断で自分の写真などが使われることを拒める権利のことです。
こちらはプライバシー権の一部で一般人に加えて、芸能人も対象となります。
こちらも新聞や雑誌などのメディアの普及により、欠かせないものとなりました。
(4)環境権
環境権は、健康かつ快適な環境のもとで生活する権利のことです。
良好な環境を実現するために、公害の除去ないし減少を重要視しています。
かつての高度経済成長期に大気汚染などの公害が数多く発生したため、誕生した新しい人権が環境権です。
(5)日照権
日照権とは、建物の日当たりを確保するための権利です。
あまり聞いたことがないかもしれませんね。
近年では都市開発が進み、マンションやオフィスビルが建てられた結果、日当たりが阻害されるリスクが出てきました。
そのため一定の基準を設けて、基準に反する阻害については損害賠償請求などが行えるようになっています。
参考資料:「新しい人権等」に関する資料
3、新しい人権と幸福追求権との交わり
続いては新しい人権の法的性格を見ていきましょう。
(1)憲法13条とのかかわり
そもそも新しい人権は憲法13条の幸福追求権が根拠となっています。
日本国憲法の第3章あるいは第14条以下は「人権カタログ」と呼ばれており、人権の規定が細かく書かれていました。
しかし、現代において必要になってきた保障規定が網羅されておらず、幸福追求権を根拠に、これらを『新しい人権』として定義する必要が生じています。
(2)幸福追求権とは
まず幸福追求権の内容を確認してみます。
第十三条【個人の尊重、生命・自由・幸福追求の権利の尊重】
すべて国民は、個人として尊重される。生命、自由及び幸福追求に対する国民の権利については、公共の福祉に反しない限り、立法その他の国政の上で、最大の尊重を必要とする。
引用:日本国憲法
つまり、他の個人に損害を及ぼさない範囲で、誰もが損失を被ることなく自分の幸せを追求できるということです。
(3)幸福追求権の存在意義
「誰もが損失を被ることなく自分の幸せを追求できる」という幸福追求権から派生した新しい人権は先ほど説明したものを含め数多くあります。
憲法13条がなければ数多くの権利が法的根拠を得られないままだったかもしれません。
4、新しい人権の解釈
繰り返しになりますが、新しい人権は憲法で直接明記されているわけではありません。
そのため、解釈が分かれており現在も議論が交わされています。
どのような考え方があるか、実際に見てみましょう。
(1)肯定説
肯定説は、新しい人権をそのまま認める説です。
つまり憲法に直接書かれていなくても、憲法上の人権として機能することを承認している立場です。
これからも時代の変化によって必要な権利は増えていくため、明文化された権利が全てではないということが肯定説の主張となっています。
(2)否定説
否定説と言っても2つあり、両方が新しい人権そのものを否定しているわけではありません。
彼らは条文主義であり以下のいずれかの方法によって対応するべきだとしています。
- 既存の条文の中に挿入する
- 既存の条文を組み合わせる
順番に解説します。
①既存の条文の中に挿入する
「新しい人権を既存の憲法に挿入し明文化を行うべき」といった主張です。
これにより間接的に保障されていた新しい人権は直接的に憲法上の権利となります。
②既存の条文を組み合わせる
一方こちらは「現行の憲法にある条文を組み合わせるだけで十分」だとする解釈です。
つまり新しい人権がなくても、それと同様の保障は今の憲法だけで担保できるということ。
前者は新しい人権の明文化を主張し、後者はそうではありません。
(3)通説はどちらか
現在は肯定説が通説とされています。
第一に、現行の憲法で保障されておらず、かつ今、必要な人権であることが主な理由となっています。
さらに新しい人権の根拠として憲法13条の幸福追求権が挙げられるため、直接憲法に明記されていなくても権利性は有効といえるでしょう。
参考:新しい人権
5、判例によって認められた新しい人権
判例によって認められた新しい人権もあります。
こちらではプライバシー権と人格権の2つを紹介します。
(1)宴のあと事件
プライバシー権とは私的な生活や情報を他者に公開されない権利のことです。
このプライバシー権はいわゆる「宴のあと事件」がきっかけとなっています。
宴のあと事件とは、当時の外務大臣である有田八郎氏が、自身が作品のモデルにされ「プライバシーを侵害された」として小説家の三島由紀夫氏を訴えた事件です。
東京地裁ははじめてプライバシーに関する権利を認めました。
裁判所は表現の自由は認めつつも「他人の私事を公開していけないのは当然」とし原告の損害賠償を容認しました。
当時はプライバシーという概念がまだ未発展であり、個人のプライベートを保護する判決が下されたのは歴史的な出来事となりました。
参考:知る権利・アクセス権とプライバシー権に関する基礎的資料(衆議院)
(2)北方ジャーナル事件
人格権は個人の人格的な利益を保障するための人権といわれています。
人格的な利益とは、以下の4つなど多岐に渡ります。
- 身体
- 名誉
- 信用
- 氏名
いわゆる「北方ジャーナル事件」をきっかけに、この人格権が取りあげられるようになりました。
北方ジャーナル事件は、当時の北海道知事選挙の候補者が、ある出版社の雑誌『北方ジャーナル』の事前差し止めを求め、出版社側はそれによる損害賠償を求めた事件です。
北方ジャーナルでは候補者への痛烈な批判が掲載される予定でした。
ですが判例は侵害行為として、人格権に基づき差し止めを認めたのです。
候補者に関する情報は有権者にとって公益性があるため、原則として表現の自由に守られますが、この事例では真実性が十分でなく、個人に重大な被害を与える恐れがあったため差し止めが成立しました。
以上のように判例が効力をより強めた例がある点も覚えておきたいですね。
6、新しい人権の課題
先ほど新しい人権については肯定説が通説と述べました。
しかし肯定説の中で新しい人権の定め方に争いがあり、この点が課題となっています。
具体的には「人間に欠かせない保証の全てを新しい人権として追加すべき」といった主張に賛否両論があり、未だ結論が出ていません。
また、憲法などの条文に明記しないまま新しい人権を増やしていくことで生じる弊害もあるため、今後は基本法の整備など、誰もが納得できる対応が求められるでしょう。
参考:参議院憲法審査会
新しい人権に関してのQ&A
Q1.新しい人権とは?
新しい人権とは、日本国憲法に直接明記はされていないが、憲法上の人権として保障されるべきとされる権利のことです。
Q2.新しい人権の例は?
新しい人権の代表例としては、プライバシー権や環境権などが挙げられます。
Q3.なぜ、新しい人権が必要になっているのか?
時代の流れとともに必要な権利が変化してきたからです。
まとめ
時代の流れとともに必要な権利が変わってきたため、生まれたのが新しい人権です。
誰もが他人に邪魔されることなく個人の幸せを求めるため幸福追求権が法的な根拠となっています。
実態はなくとも効力はありますが、今後新たな人権が追加される方法が定まっていないため、法整備がなされていくことでしょう。