成年後見制度とは、認知症、知的障害、精神障害などによって、判断能力が十分でない成年者に後見人を付ける制度です。
今回の記事では
- 成年後見制度の概要・背景
- 成年後見制度の事例
- 成年後見制度を利用するための手続き
- 成年後見登記制度とは
について解説します。
本記事がお役に立てば幸いです。
1、成年後見制度とは
画像引用元:Q1~Q2 「成年後見制度について」 法務省
成年後見制度とは、
- 認知症
- 知的障害
- 精神障害
などによって判断能力が不十分とされる成年者を保護する制度です。
保護が必要とされる成年者に対して、後見人を付け、適切な保護と支援を行います。
成年後見制度は、本人の判断能力の有無によって、
- 法定後見制度
- 任意後見制度
の2種類にわかれます。
(1)法定後見制度
法定後見制度とは、本人の判断能力がすでに低下している場合に利用できる制度です。
申立書の一部例 画像引用元:後見・保佐・補助開始申立セット(書式)東京家庭裁判所
法定後見制度には
- 後見
- 保佐
- 補助
の3つの種類があります。
①後見
後見とは、判断能力がほとんどない本人に対して、家庭裁判所が「後見人」を選出する制度です。
後見人は
- 代理権
- 取消権
を持つことができます。
代理権とは、本人の代わりに法律行為を行うことができる権利です。
介護サービスの契約、介護施設入所の契約などを本人の代わりに締結できます。
取消権とは、本人の法律行為を後から取り消すことができる権利です。
取消権により、不利益な契約を取り消すことができます。
参考:後見とは 後見・保佐・補助制度の概要について 世田谷区福祉協議会
②保佐
保佐とは、判断能力が低下した本人に対して、家庭裁判所が「保佐人」を選出する制度です。
判断能力の低下とは、「日常生活の事柄はできるものの、財産管理などはできない状態」を指します。
保佐人は、
- 同意権
- 取消権
を持つことができます。
同意権とは、本人の行為に保佐人の同意が必要になる権利です。
同意が必要な行為は、民法第13条1項各号に定められており、
- 借金(金銭消費貸借契約の締結)
- 保証人の受諾(債務保証契約の締結)
- 不動産の売却
- 通信販売(インターネット取引を含む)及び訪問販売等による契約の締結
などの行為が含まれます。
代理権については、希望した場合、家庭裁判所が定めた範囲で与えられることがあります。
参考:保佐人の仕事と責任 裁判所
参考:同意権の行使 裁判所
③補助
補助とは、判断能力がやや低下している本人に対して、家庭裁判所が「補助人」を選出する制度です。
判断能力がやや低下している状態とは、「物事によって1人で判断できない、財産管理など重要な事柄を1人で判断することに不安を感じている状態」を指します。
補助人は、代理権、同意権、取消権を持ちません。
ただし、家庭裁判所に申立てを行うことで、家庭裁判所が定めた範囲で権利が与えられることがあります。
参考:補助開始 裁判所
下記は新宿区社会福祉協議会がまとめている後見・保佐・補助の一覧です。
表引用元:法定後見制度の3つの類型 法定後見制度 社会福祉法人 新宿区社会福祉協議会
(2)任意後見制度
任意後見制度とは、申請時に本人の判断能力がある場合に利用する制度です。
本人は、自分の判断能力がなくなる前に
- 誰を後見人にするのか
- 何を任せるのか
を公正証書による契約で定めます。
本人と後見人(任意後見人)は公証人のもと、任意後見契約を結びます。
また、任意後見制度では「任意後見監督人」と呼ばれる監督人が付きます。
任意後見監督人とは、任意後見人が契約をきちんと履行しているかを監督する人です。
任意後見人は、家庭裁判所によって、親族以外の専門家から選出されます。
参考:Q16:任意後見制度とは、どんな制度ですか? Q16~Q20 「任意後見制度について」 法務省
画像引用元:Q16:任意後見制度とは、どんな制度ですか? Q16~Q20 「任意後見制度について」 法務省
2、成年後見制度ができた背景
成年後見制度は、2000年の民法改正から開始された制度です。
ここでは
- 成年後見制度ができた背景
- 禁治産制度との違い
などについて解説します。
(1)成年後見制度ができた背景
成年後見制度が始まる前には、
- 禁治産制度
- 準禁治産制度
という2つの制度がありました。
禁治産制度とは、心神喪失にある人を保護するために後見人を付ける制度です。
準禁治産制度とは、
- 心神耗弱にある人
- 浪費癖のある人
などに対して、保佐人の同意がない財産行為を禁じる制度です。
両制度を家庭裁判所から宣告された人は、戸籍に禁治産者、準禁治産者と記載されることから、差別や偏見を生みかねないという問題が指摘されました。
そうした指摘を受け、2000年に民法が改正され、現在の成年後見制度が施行されたのです。
(2)禁治産制度との違い
成年後見制度は、禁治産制度よりも個人の意思を尊重します。
成年後見制度では
- 自己決定の尊重
- 残存能力(現有能力)の活用
- ノーマライゼーション
を理念として掲げ、個人に合わせた3つの制度(後見・保佐・補助)や本人の考えを尊重した任意後見制度が新設されました。
3、成年後見制度の事例
法務省が公開している成年後見制度における
- 後見
- 保佐
- 補助
の事例についてご紹介します。
(1)後見の事例
後見の事例の概要は以下の通りです。
- 状況:遠方に住む親族が統合失調症を発症し入院
- 結果:司法書士が成年後見人に選出
これ事例では、遠方に住む親族が精神疾患で入院し、申立て人の親族が後見人になることが難しいと判断されました。
後見の事務として不動産関係の手続き(亡母から相続した自宅の登記手続)が想定されたことから、司法書士が成年後見人に選ばれました。
参考:Q5「後見」制度を利用した事例を教えてください。 法務省
(2)保佐の事例
保佐の事例の概要は以下の通りです。
- 状況:認知症の母親の代わりに息子が自宅を売却したい
- 結果:家庭裁判所から居住用不動産の処分許可を受ける
息子が認知症の母親が所有する自宅を売却するために、代理権付与の申立てをしました。
通常、保佐人は代理権を持ちませんが、この事例では、特定の法律行為(自宅の売却)を目的に、家庭裁判所から保佐人(長男)に代理権が与えられました。
参考:Q7「保佐」制度を利用した事例を教えてください。 法務省
(3)補助の事例
補助の事例の概要は以下の通りです。
- 状況:認知症の母親が貸金業者からの借金を繰り返している
- 結果:長男が補助人に選出される
認知症の母親が貸金業者からの借金を繰り返すため、長男がお金の貸し借りに対する同意権付与を申立てました。
この事例では、長男が家庭裁判所から補助人に選出され、母親の金銭の貸し借りに対する同意権が与えられました。
参考:Q9「補助」制度を利用した事例を教えてください。法務省
4、成年後見制度を利用するための手続き
成年後見制度を利用するために
- 法定後見制度
- 任意後見制度
の手続きについてご紹介します。
(1)法定後見制度を利用したい場合
法定後見制度を利用したい場合は、住民票を管轄する家庭裁判所に申立て(申請)を行います。
申立てには、
- 申立書
- 親族関係図
- 親族の意見書
- 財産目録
- 後見人等候補者事情説明書
- 診断書
などが必要です。
必要書類をそろえたら、申立て先の裁判所に電話し、面接日を予約します。
その後、必要書類に
- 面接日時
- 予約番号
を記入し、申立て先の裁判所に郵送します。
参考:第2 申立ての手順(成年後見・保佐・補助)申立てをお考えの方へ(成年後見・保佐・補助)東京家庭裁判所後見センター 裁判所
(2)任意後見制度を利用したい場合
任意後見制度を利用したい場合も、住民票を管轄する家庭裁判所に申立て(申請)を行います。
申立てには、
- 申立書
- 申立事情説明書
- 任意後見受任者事情説明書
- 親族関係図
- 財産目録
- 診断書
などが必要です。
申立て後は、
- 裁判所による本人調査
- 任意後見受任者調査
- 親族への照会
などが行われます。
裁判所による調査が終わると、
- 本人
- 任意後見受任者
- 任意後見監督人
に対して、任意後見監督人を選任する旨の審判書が郵送されます。
任意後見制度は、
- 本人が死亡した場合
- 法定後見が開始された場合
- 任意後見契約を解除した場合
に終了します。
参考:《手続の流れ》 任意後見監督人選任の申立ての手引 裁判所
5、成年後見登記制度とは
成年後見登記制度とは、成年後見人や任意後見契約の内容を書類で確認できる制度です。
成年後見登記に係る証明書には
- 登記事項証明書
- 登記されていないことの証明書
の2種類があります。
成年後見制度を利用する人は、弁護士や医師など特定の職業に就けないため、資格登録時には、成年後見登記に係る証明書の提出を求められることがあります。
参考:Q26 成年後見登記制度とは、どんな制度ですか? 法務省
参考:成年後見登記制度とは 公益社団法人 成年後見センター
まとめ
今回は成年後見制度について解説しました。
成年後見制度は、判断能力が十分でない個人を守る制度です。
また、任意後見制度を利用することで、将来の「もしも」に備えることもできます。
家族関係や自分自身の老後のため、成年後見制度をうまく活用していきたいですね。