ドーナツ化現象とは、ビジネスの中心となった都心地域から郊外へ移り住む人が増加し、中心部の居住人口が減少する、空洞化現象です。
近年では、東京や大阪などの大都市以外の中規模都市でも、空洞化が進んでいます。
今回の記事では
- ドーナツ化現象の概要、背景
- ドーナツ化現象の問題点
- スプロール現象との違い
- ドーナツ化現象への取り組み
についてわかりやすく解説したいと思います。
本記事がお役に立てば幸いです。
1、ドーナツ化現象とは
ドーナツ化現象とは、都心部での家賃高騰などが原因で、より住みやすい郊外地域に人や施設が移る現象です。
人口分布図における都心部の空洞状態が、ドーナツの形にみえることから、その名がつけられました。
特に1930年後半の高度経済成長期から、1990年代頃までの車社会の発展によって、昼間は都心で働き、夜は周辺の郊外に帰るという「人口の空洞化」が進みました。
多くの商店街がシャッターを下ろす一方で、
- 巨大ショッピングセンターの郊外での立地
- 公共施設や病院などの郊外移転
が増加する傾向にありました。
近年では大都市のみならず中規模都市にも見られ、日本が抱える社会問題の1つとなっています。
2、ドーナツ化現象が進む背景
ドーナツ化現象が進む背景には
- 都市中心部の土地や住居費の高騰
- 都市部の住環境の悪化
- 排出ガスや騒音問題
- 自動車社会の進展
が大きく関係しています。
高度経済成長期には、都市にオフィスを集め、郊外を宅地化していきました。
その結果、都心がビジネスの中心地として成長するにつれ、一般住宅は減少しました。
昼間は都心に通勤し、夜間は安くて住みやすい郊外に住む生活スタイルが人気を集め、都市部の居住人口が減少したのです。
2017年の国勢調査によると、ドーナツ化現象が著しい地域での昼夜間人口比率は
- 東京都心7区:308%
- 大阪都心5区:279%
となっています。
昼夜間人口比率とは、夜間人口に対する昼間人口の割合です。
たとえば、東京都新宿区では
- 昼間人口:約77万人
- 夜間人口:約33万人
となっていました。
この昼夜間人口比率の増大は東京周辺だけでなく、
- 北海道
- 愛知県
- 大阪府
- 広島県
- 福岡県
といった地方の主要都市でも発生しています。
画像出典:各大都市圏・大都市都心部の機能集積状況の比較|国土交通省
また自動車社会の進展によって、郊外から都心への移動が容易になったことも、ドーナツ化現象を加速させた要因の1つと考えられています。
このような現状を考慮し、政府は中心市街地に暮らしやすい環境を整える「コンパクトシティ」の推進に取り組んでいます。
コンパクトシティについては、5章で解説します。
3、ドーナツ化現象がもたらす悪影響
ドーナツ化現象が進むと、都市部の居住人口減少だけでなく
- 地方自治体のコスト増加
- 都心部における老年人口比率の増加
などの問題も発生します。
それぞれについて、くわしくみていきましょう。
(1)地方自治体のコスト増加
郊外の居住人口増加は、
- 道路整備などのインフラ整備費用
- 公共施設の維持管理費用
- 耐用年数を過ぎた設備の更新費用
などの自治体にかかるコストが増えることに繋がります。
しかし地方の都市では、
- 社会インフラの老朽化への対応
- 住民の高齢化に伴う社会保障費などの増大
などによって、財政は悪化傾向にあります。
こうした負担を抱えた上での都市機能の維持は、年々厳しさを増しているといわれています。
(2)都心部における老年人口比率の増加
都心部の老年人口比率が高まるほど、働く世代が減り、支えられる世代が増えていきます。
内閣府による2020年の高齢社会白書では、大都市ほど65歳以上人口比率が増えていくことが見込まれました。
一方人口が5万人未満の都市では、2035年の老年人口比率は、2015年時点よりも減少すると考えられています。
画像出典:地域別にみた高齢化|内閣府
ドーナツ化減少は、上記のような「都心部における少子高齢化問題」につながります。
実際にドーナツ化現象と重なった中心部では、増加傾向にある高齢者と比べ、小中学校は著しく減少しています。
これにより、学校規模の格差も広がりつつあるようです。
また、ドーナツ化現象による
- 都心の税収減少
- シャッター商店街の増加
- 地域コミュニティの希薄化
- 夜間の治安悪化
なども問題視されています。
一方、郊外では
- 児童数の増加による学校施設の不足
- 開発に伴う森林破壊
- インフラ整備
などの問題が危惧されています。
4、スプロール現象との違い
ドーナツ化現象と似た言葉に、「スプロール現象」があります。
スプロール現象とは、郊外の人口増加に対して、無計画・無秩序(スプロール)に開発を進めてしまうことで、機能性の低い住宅街が点在してしまう現象です。
スプロール現象によって
- 道路
- 上下水道
- 病院
などの整備が後追いになります。
整備されていない住宅街が増えることで、広範囲に渡って都市機能が低下するのです。
居住人口が都心から郊外に流れてしまう現象が「ドーナツ化現象」であるのに対して、郊外の居住人口の増加に対して、十分なインフラ整備が追いつかない無計画な都市化現象が「スプロール現象」です。
どちらも日本の大きな社会問題であるとして改善策が求められています。
5、ドーナツ化現象への取り組み|コンパクトシティについて
国や地方自治体はドーナツ化現象に対処ですべく、各地でさまざまな施策を講じています。
その主な取り組みの1つが「コンパクトシティ構想」です。
コンパクトシティ構想とは、郊外の居住人口を抑えるために、生活圏を小さくまとめる「まちづくり」施策です。
まとまった税収が得にくいドーナツ化現象の問題点を解決する手段として注目されています。
最後に、「コンパクトシティ」に基づく取り組みを行っている
- 富山県富山市
- 青森県青森市
の事例について紹介します。
(1)富山県富山市
コンパクトシティ構想に基づく施策にいち早く取り組んだ自治体の1つが、富山市です。
公共交通を活性化させ、その沿線に居住や商業などの都市の機能を集積させるまちづくりを推進しています。
具体的には
- 路面電車の設置
- バス路線の充実
などがあります。
富山市の取り組みは全国的にも評価されており、2008年には政府から環境モデル都市、2011年からは環境未来都市に選定されました。
また、2012年には OECD( 経済協力開発機構)から世界的な先進モデル5都市の1つに、2014年には世界のレジリエントシティ100のうちに選ばれるなど、世界からも注目される都市となっています。
(2)青森県青森市
青森市では
- 除雪費用の負担軽減
- 新青森駅との交通強化
などを目的とした、コンパクトシティ施策に取り組みました。
青森市では、街を「インナー・ミッド・アウター」という3つのエリアに区切り、エリアごとにまちづくりを推進する計画を立てました。
また多額の資金を投じて、
- 図書館などの公共施設
- テナントを合わせた複合商業施設
を建築しました。
ただし、一時は活気を取り戻したものの赤字が続き、運営会社が経営破綻するなどの課題も残っています。
まとめ
今回は、ドーナツ化現象について解説しました。
中心市街地が空洞化するドーナツ化現象は、都市としての機能低下だけでなく、国全体にも影響を及ぼす問題です。
従来の「都心に通勤する生活スタイル」をベースとしたまちづくりは、高齢化が進むにつれて厳しいものになるかもしれません。
社会的問題となっているスプロール現象と合わせて、国や地方自治体によるさまざまな取り組みについて注目していきたいですね。