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住生活基本計画とは?8つの目標や政府の取り組みについて簡単解説

投稿日2021.5.12
最終更新日2021.05.12
この記事の監修者
山口和史
20年にわたって法律、税務、経営等の業界専門誌の編集長を歴任。
2020年から政治ドットコムの理念「政治をもっと身近に。」を実現するため、編集長に就任。
独自の視点と切り口で、政治にまつわる最新情報を発信する。

住生活基本計画とは、日本の住宅政策の基本となる重要な計画のことです。
2021年3月には、新たな「住生活基本計画」が閣議決定され、注目が高まっています。

今回の記事では

  • 住生活基本計画の概要、目標
  • 住生活基本計画が見直された背景
  • 住生活基本計画への具体的な取り組み

についてわかりやすく解説します。
本記事がお役に立てば幸いです。

1、住生活基本計画とは

住生活基本計画
住生活基本計画(全国計画)とは、「良い家に長く住む」というコンセプトのもと、政府が定める、国民の住生活の確保や向上を目的とした基本方針です。
 

2006年に制定された「住生活基本法」に基づき、策定されています。
計画は約5年ごとに見直され、2021年3月18日には、10年間の住生活基本計画が閣議決定されました。

人口減少社会の到来や頻発する自然災害を見据え、「国民の豊かな住生活」を実現するため、様々な目標や施策が掲げられています。

参考:国土交通省

2、住生活基本計画の目標

 住生活基本計画では

  • 居住者
  • 住宅ストック
  • 産業・地域

の3点から、以下8つの目標が設定されています。 

  1.   子育て世帯のニーズを満たす住生活の実現
  2.   高齢者が自立できる住生活の実現
  3.   外国人や障害者など住宅の確保が難しい人のための住居確保
  4.   新しい住居形態の構築
  5.   脱炭素社会に基づいた良質な住宅ストックの形成
  6.   空き家の除去や利活用の推進
  7.   住生活産業の発展
  8.   魅力ある住宅地の形成

それぞれの目標について確認していきましょう。 

(1)子育て世帯のニーズを満たす住生活の実現 

共働きが多い近年では、住宅を選ぶ際に子育てのしやすさを重視する人が増えています。

こうした子育て世帯のニーズに応えるため、「子育て世帯のニーズを満たす住生活の実現」が目標として設定されたのです。

子供を教育しやすい住生活を提供することは、人口減少対策にもつながると考えられています。 

(2)高齢者が自立できる住生活の実現

総務省統計局によると、2020年9月における日本の65歳以上の高齢者人口は、3617万人です。

総人口に占める高齢者の割合は28.7%となっており、4人に1人が65歳以上という「高齢化社会」を迎えています。

健康寿命も伸びており、自立した高齢者が安心して暮らせるような、福祉サービスの拡充が必要です。 

参考:高齢者人口|総務省統計局

(3)外国人や障害者など住宅の確保が難しい人のための住居確保

内閣府の調査によると、2020年の障害者の推計総数は、約964万人です。
2016年時と比べると約105万人増加しており、特に身体障害をもつ高齢者が増加傾向にあるようです。

また、新型コロナウイルスによる影響はあるものの、外国人労働者も増加傾向にあります。
2020年10月時点で外国人労働者数は、約172万人です。

この外国人労働者数は2007年に届け出が義務化されて以降、過去最高記録となっています。

外国人を含めた、住宅確保が難しい人たち向けの、

  • 住宅の提供
  • 家賃の低価格化

によって、多くの世帯が安心して暮らせる環境整備が求められています。

住生活基本計画

画像出典:「外国人雇用状況」の届け出状況まとめ|厚生労働省
参考:令和2年版障害者白書「障害者の全体的状況」|内閣府

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(4)新しい住宅形態の構築

シェアリング住宅や、月額で全国どこにでも住めるサブスクリプション住宅など、新しい住宅形態の構築が進められています。

また新型コロナウイルスや働き方改革を受け、

  • テレワークの整備
  • コワーキングスペースの確保
  • 宅配ボックスの設置

などの「非接触型の環境整備策」も講じられています。

(5)脱炭素社会に基づいた良質な住宅ストックの形成

世界的なCO2削減の動きに伴い、政府では脱炭素社会の実現に向け、住生活に対する様々な施策を掲げています。 

具体的な脱炭素化に向けた住宅には、

  • CO2排出量が少ない「長期優良住宅ストック」
  • 再生可能エネルギーを利用し、エネルギー収支ゼロを目指した住宅「ZEH(ネット・ゼロ・エネルギー・ハウス)」
  • ライフサイクルにおいて、CO2の排出量の収支をマイナスにする「LCCM(ライフ・サイクル・カーボン・マイナス)住宅」

があり、普及を進めています。

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(6)空き家の除去や利活用の推進 

放置された空き家は、

  • 地域の環境悪化
  • 老朽化に伴う事故

により、周辺の地価に悪影響を及ぼしかねません。

深刻化する空き家問題に対処するには、空き家の適切な管理や除去が必要です。
近年では空き家を撤去せず、

  • セカンドハウス、シェアリングスペースへの改築
  • ICTを利用した試み

により、活用する取り組みも進められています。

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(7)住生活産業の発展

少子高齢化に伴う労働人口の減少により、住宅産業でも人手不足が問題となっています。

2016年の建設業の就業者数は492万人であり、ピークである1997年の685万人と比べると、約28%減となっているのです。

AIを利用した設計支援など、技術面での発展が期待されている住生活産業ですが、産業の維持向上のため、担い手の確保や育成が求められています。

参考:住宅・リフォーム業界を巡る現状と社会環境の変化|経済産業省
参考:建設業及び建設工事従事者の現状|国土交通省

(8)魅力ある住宅地の形成

個々の住宅だけでなく、居住環境やコミュニティを豊かにすることで、住宅地の魅力を高めることも街づくりにおいては重要です。

たとえば、地震や台風・豪雨などの自然災害への防災力を高める取り組みが挙げられます。

住宅の安全性はもちろん、

  • 地域の防災対策
  • 住民へのハザードマップの浸透
  • 自治体と住民のムーズな連携

を進めることで「災害に強い街づくり」に繋がります。

参考:新たな住生活基本計画の概要|国土交通省

3、住生活基本計画が見直された背景

2021年に住生活基本計画が見直された背景には

  • 気候変動問題
  • 増加する空き家数
  • 既存(中古)住宅の流通の少なさ

が影響しています。

それぞれについて、確認しましょう。 

(1)気候変動問題

世界中で強い台風や干ばつなど、規模の大きな気象現象が観測されています。
日本においても、記録的な猛暑や震災、洪水などのニュースを耳にすることは多いでしょう。

特に世界中での取り組みが進められているのは、地球温暖化への対策です。

気候変動に関する政府間パネル(IPCC)は、「地球温暖化による気温上昇を1.5℃に抑制するためには、2050年前後に、世界のCO2排出量を正味ゼロにする必要がある」とした特別報告書を発表しました。

この報告書を受けて、日本政府は「2050年カーボンニュートラル、脱炭素社会の実現」を宣言しました。

長期優良住宅やCO2の排出量が少ない住宅など、持続可能な社会を実現するための取り組みが求められているのです。

参考:IPCC特別報告書|環境省

(2)空き家の増加

増加傾向にある空き家も、見直しに大きく影響しています。

2018年10月1日における、日本国内の空き家は846万戸であり、1998年からの20年間で、約1.5倍に増加しています。

住生活基本計画画像出典:平成 30 年住宅・土地統計調査(住宅数概数集計)|総務省統計局

都道府県別に空き家率をみると、最も高いのは21.3%の山梨県。
次いで和歌山県、長野県、徳島県、高知県、鹿児島県となっています。

住生活基本計画

画像出典:平成30年住宅・土地統計調査(住宅数概数集計)|総務省統計局

空き家には老朽化による、崩落の危険性といった問題もあります。
治安の悪化や地域の資産価値の低下を招くため、空き家の増加に対する早急な対応が求められているのです。

(3)既存(中古)住宅の流通の少なさ

国土交通省の「既存住宅流通シェアの推移」によると、2018年の住宅流通量は

  • 新築:約94万戸
  • 既存住宅:約16万戸

でした。

新築の住宅が好まれやすい日本では、既存住宅のシェアは約14%と、あまり流通していないことが分かります。

住生活基本計画

画像出典:既存住宅流通市場の活性化について|国土交通省

一方、アメリカやイギリスでの既存住宅の流通シェアは、全体の80%以上となっています。
人口が減少する日本で、新築住宅が増え続ければ、前述の空き家問題にもつながります。

こうした状況を受け、既存住宅の価値向上への新たな取り組みが提言されているのです。

住生活基本計画

画像出典:既存住宅流通市場の活性化について|国土交通省
参考:既存住宅流通市場の活性化について|国土交通省

4、住生活基本計画に基づいた政府の取り組み 

住宅政策の指針となる「住生活基本計画」に基づき、政府ではさまざまな取り組みを進めています。

最後に、主な政府の取り組みである

  • 安心R住宅制度
  • 長期優良住宅認定制度

について見ていきましょう。

(1)安心R住宅制度(特定既存住宅情報提供事業者団体登録制度)

安心R住宅制度とは、国によって建物販売の仲介業者を認定することで、物件選びに役立つ情報をわかりやすく安全に提供する仕組みです。 

国土交通省が2017年に制度を創設し、2018年4月からスタートしました。
以下の要件を満たす優良物件を「安心R住宅」と定めています。

  • 耐震性などの基礎的な品質を備えている
  • リフォーム済みもしくはリフォーム提案がついている
  • 点検記録などの保管状況について情報提供が行われている

安心R住宅制度の目的の1つは、既存(中古)住宅に対する消費者の意識を、

  • 中古でも高品質な物件はある
  • 中古ならではの良さがある

といったプラスのイメージに変えることです。

こうした意識改革によって、これまで新築物件がメインである住宅市場において、既存(中古)住宅の流通シェアを広げることが期待されています。

(2)長期優良住宅認定制度

長期優良住宅認定制度とは、国による特定の基準をクリアした住宅を「長期優良住宅」として認定する制度です。

2009年に施行された「長期優良住宅の普及の促進に関する法律」に基づいています。
「長期優良住宅」として認定されるためには、以下の条件を満たさなければなりません。

  • 耐久性能
  • 耐震性(地震に強い)
  • 維持管理・更新がしやすい
  • バリアフリー性
  • 省エネルギー性
  • 居住環境
  • 住宅面積
  • 維持保全計画

マンションなど共同住宅の場合には、居住者の変化に応じて間取りが変えられる「可変性」も含まれてきます。

長期優良住宅は、「安心して長く暮らせる」というメリット以外にも、

  • 住宅ローン減税
  • 固定資産税などの軽減

があります。

一方で建築・手続きに関するコスト面が、これからの課題といえます。

参考:既存住宅流通市場の活性化について|国土交通省

まとめ

今回は住生活基本計画について解説しました。 

住生活基本計画は住宅政策の基本であるため、これからの日本住宅事情を理解する助けとなるかもしれません。

本記事が少しでもお役に立てば幸いです。