資本主義とは資本家(資本金を出して企業を経営する人)が労働者を雇い、商品の製作や第三者へのサービスの提供を行うことで利潤を得る経済の仕組みです。
本記事では
- 資本主義の概要
- メカニズム
- 問題点、比較
などについてわかりやすく解説しています。
この記事がお役に立てば幸いです。
1、資本主義とは何か
資本主義についてより詳しく見ていきましょう。
(1)資本主義とは
そもそも「資本主義」とはどのようなことを指すのでしょうか?
資本主義で言う「資本」とは、一般的には「お金」を指すと思われがちです。
しかし本来はもっと広い意味を持ちます。
知的資本や社会関係資本、自然資本など「思いやり」や「社会貢献」も含めた「企業などの経済活動で価値を生み出す源泉」と考えるとわかりやすいです。
したがって資本主義とは、「個人や企業の利潤を追い求めることを推奨される社会・経済・政治システム」と定義できます。
(2)資本主義の原則
資本主義の基本原則では、生産手段を持つ資本家が、生産手段を持たない賃金労働者を使用して利潤を追求します。
理解を深めるために、以下の経済学用語について意味を把握しておきましょう。
①資本備蓄
生産活動で生み出された価値がたまり、その蓄積を基盤として、さらに生産活動の規模が拡大されるというマルクス経済学に基づく考え方です。
②生産手段の私的所有(私有財産制)
労働と結合して生産物を生み出すために使われる機械や道具、原材料などの生産手段は、社会ではなく私的に所有するというマルクス経済学の考え方です。
③賃金労働(労働以上の価値を生む)
労働の対価として賃金が支払われる行為のことです。
④利益(利潤)を求める投資
利潤を追求するために、資本を投資に回して利益を最大化させるという考え方です。
⑤競争的市場における資源確保のための価格決定メカニズム
競争社会では、売り手と買い手が自由に取引を行っても、市場全体の需要と供給のバランスによって価格が決まるという仕組みです。
(3)資本主義成立の経緯
資本主義が成立したのは、18世紀後半のイギリス産業革命がきっかけです。
産業革命以前のヨーロッパでは、君主と家来の関係をもとに、領土を統治する「封建主義」が中心でした。
国王や上級貴族など一部少数だけが富を得て栄える時代だったのです。
しかしイギリスの産業革命を皮切りに、アメリカ独立革命やフランス革命などいわゆる「市民革命」が相次ぎました。
市民を支配するのが当たり前だった王政を打破し、市民が自由に職業を選んで富を得るチャンスを広げたのです。
すると今度は、17世紀頃に生まれた「資本を持つ者」「提供する者」を意味する「資本家(ブルジョワジー)」と呼ばれる人たちが権力を持ち始めました。
莫大な富を持つ資本家が、生産手段を持たない者に賃金を与える代わりに労働力を得る様になり、こうして資本主義が確立していきました。
このように資本主義社会は、市民革命(ブルジョア革命)によって成立したことから、
- 「市民社会」
- 「近代社会」
- 「ブルジョア社会」
などと呼ばれることもあります。
近代では、資本主義を否定する経済システムも同時に台頭しています。
第一次世界大戦やロシア革命をきっかけにソビエト連邦などの社会主義国が誕生し、産業の公有化や計画経済が行われるようになりました。
1929年の世界恐慌では、世界中で大量の失業者が発生して社会不安が増大しました。
従来の資本主義経済への疑念が拡大し、アメリカではニューディール政策が、イギリスやフランスではブロック経済が広がりました。
またイタリアのファシズム、ドイツのナチズムも台頭し、第二次世界大戦につながっていきます。
(4)資本主義のメカニズム
資本主義は自由競争のもと、より良い商品・サービスを提供する個人・企業の利益が拡大される仕組みです。
企業が拡大して雇用を増やし、労働者も潤沢な賃金を得て、経済活動が回っていくようなサイクルが理想的です。
労働者は自由に職業を選択でき、階級や身分に縛られることなく、自由に経済活動に参加できます。
自由競争が起これば、企業間で切磋琢磨し合うようになるため、自然と商品やサービスのクオリティーが上がり、消費者の選択肢が広がって人々の生活水準は高まります。
市場価格も不用意に釣り上げることができなくなり、常に適正価格で提供できるメリットも大きいです。
また誰もが大きな利益を追求できる権利を得ているため、「努力すれば大成できる」という競争社会が自然と構築されます。
すると個人の働くモチベーションが上がり、より強い社会基盤をつくりあげることも可能です。
(5)資本主義社会の問題点
しかし、資本主義社会にも問題点があります。
不況による失業や貧富格差の問題です。
第一次世界大戦後の世界恐慌に代表されるように、資本主義社会では経済情勢の悪化によって受ける反動が大きいのも事実です。
不況になると企業活動が停滞し、やがて失業者があふれ出てしまいます。
貧富格差が広がりやすい点もデメリットです。
成功すれば莫大な富を得られる反面、一度経済活動の歯車が狂うと、最低限度の社会生活すら送れなくなるリスクを抱えています。
カール・マルクスも自著『資本論』で、「資本家による富の増加にともなって、民衆が貧困にあえぎ、革命が生じて資本主義から社会主義のシステムへ移行するだろう」と指摘しています。
2、反資本主義の台頭
こうした資本主義の問題点を補うように、反資本主義が次々と生まれてきました。
主な反資本主義は以下の通りです。
(1)社会主義
社会主義とは、より平等で公正な社会を目指す思想です。
19世紀前半頃にフランス革命の流れの中で発生したと言われています。
社会主義の国では、工場での生産量、個人の職業、土地など経済活動に関するものすべてを政府が管理し、個人の自由が制限されます。生産業では競合相手がいないため、商品を改良する努力がなくなります。そして生産性が低下し、経済の停滞や国力低下につながる可能性があります。
しかし、社会主義には、貧富の格差がないという利点があります。
一方、資本主義の国では、人々が自由に生産、販売、消費をすることができ、職業選択の自由があります。ただし、個人の能力によって貧富の差が生まれてしまいます。
社会主義とは?目的や種類・日本に存在した社会主義について
(2)共産主義
共産主義は社会主義の発展系です。
財産の一部または全部を共同所有することで平等な社会を目指す思想です。
19世紀後半に生まれた「マルクス主義」が大きな影響を与えました。
社会主義から何が発展したのでしょう?
社会主義下では実はまだ資本家と労働者が存在しています。
共産主義の世界ではそれもいなくなりあらゆる面で共同体になろうという思想なのです。
(3)国家主義
国家を第一(国益を第一)に考える保守的な思想です。
20世紀前半のナチス・ドイツや戦前・戦中の日本がその代表とされています。
(4)国家社会主義
国家主義に基づいて、国家を全面的に統制しようとする思想です。
19世紀後半にドイツを統一したビスマルクの社会保障政策が国家社会主義とされることがあります。
(5)ファシズム
イタリアのムッソリーニが率いた結束主義のことです。
独裁的な権力者のもと、新しい国家をつくるという概念が基本で、1920年代頃に発生しました。
ナチスドイツなどもこの系統に当てはまります。
(6)第3の道
資本主義と社会主義の利点を組み合わせる思想です。
20世紀始めにオーストリアで発生し、21世紀でもイギリス労働党のブレア政権などで提唱されました。
3、日本の資本主義
日本における資本主義について見ていきましょう。
(1)日本の資本主義の歩み
日本の資本主義国としての歩みは欧米と比べると遅く、明治時代からです。
明治維新をきっかけに、政府は「文明開化」「殖産興業」「富国強兵」をスローガンに採用しました。
西洋の文明を積極的に受け入れる「文明開化」は、国民の意識も変革し、産業の近代化も加速させました。
そして以下の面で西洋化が進み、「上からの資本主義」と言われるドイツ型を採用した日本資本主義が成立します。
- 企業制度
- 財政
- 金融制度
- 運輸
- 通信
- 教育
- 法律
(2)戦時の帝国主義
明治時代の日本では、「大日本帝国憲法」に代表される「帝国主義」がかかげられ、またたく間に欧米列強と肩を並べるまでに発展しました。
しかし、1929年の世界恐慌などを経て、第二次世界大戦での敗戦をきっかけに戦後改革に着手します。
帝国主義を捨て、民主化が進められました。
(3)小泉改革
戦後の日本は高度経済成長を経て、世界有数の資本主義国になりました。
しかし、1990年代前半のバブル崩壊をきっかけに、新しい資本主義のあり方が議論されるようになります。
2004年に誕生した小泉純一郎内閣は「小さな政府」を掲げ、市場原理主義を貫いて「低福祉低負担」「自己責任」をベースとした国営事業の民営化を進めました。
景気回復を最優先し、企業の収益向上ばかりに目を向けた結果、一部の大企業を除いて業績が悪化する中小企業が続出しました。
結果として現在まで続く「格差社会」の問題が解消されていないという側面もあります。
4、現代の資本主義
現代ではほとんどの国が採用している資本主義ですが、最近になって疑問の声が上がっているのも事実です。
日本でも、2018年の平均給与は440万円で、1997年と比べると27万円も低いままです。
しかし物価や社会保険料などは上がり続け、消費税も増税するなど生活に苦しむ人は増えています。
一方で「勝ち組」と言われる富裕層はますます栄え、貧富の格差が埋まる見込みはありません。
国外でも議論の輪が広がっています。
2013年には、フランスで刊行されたトマス・ピケティの『21世紀の資本』が世界的にベストセラーになりました。
ピケティは同著で「長期的に見ると資本は資本家に集約され、格差は拡大する。富が再分配されないことにより、貧困が社会や経済の不安定を起こす」と指摘します。
「富の再分配を促進し、富裕層に対する課税を強化すべき」と主張しています。
現在では「金融資本主義」や「共有する資本主義」など様々な新しい資本主義の考え方も生み出され、社会主義国も一定の水準で経済活動を維持しています。
しかし、資本主義も社会主義も、根本的には何らかの問題を抱えており、未だに完璧な経済制度が生まれていないのが現状です。
まとめ
今回は資本主義について、誕生から現代まで時系列に沿って解説してきました。
経済制度は時代によって主流が変わってきますが、いつの時代も「国民生活」の幸福度を最大化することが目的です。
長く続く資本主義も時代に応じた変化を求められており、現在も各国でより良い経済を模索する日々が続いています。
私たちも常に動向を注視し、振り回されすぎないようにすることが大切です。