社会主義とは富を平等に分配するためにその生産手段を社会のものにする制度です。
現代の日本人には比較的なじみが薄い社会主義ですが、国際政治を理解する上で学んでおくと役に立つ部分でもあります。
本記事では
- 社会主義の成り立ちや歴史
- 国民生活への影響
について考察しています。
この記事がお役に立てば幸いです。
1、社会主義とは何か
まずは社会主義とはなんなのかより詳しく解説していきます。
社会主義は、「みんなが平等で公正な社会を実現しよう」という思想です。
会社や工場などの「生産手段」をみんなの共有物とし、そこから生み出された利益は働いた成果に応じて分け与える、という考え方が社会主義の原則です。
お金持ちの「資本家」が会社や工場を所有し、労働者を雇って利益を出すことを目指す「資本主義」とは、労働や生産に対する考え方が根本的に異なります。
社会主義が掲げる理想は、階級格差をなくし人々が皆幸せな社会を実現することです。
会社や工場などの生産手段自体が社会全体のものになれば、資本主義における「資本家」のように、莫大な利益を得る人が出なくなる代わりに、失業や低収入で苦しむ人もいなくなる、という考え方です。
現在の日本を始め、多くの国では「資本主義」を採用していますが、中国など一部の国では社会主義で成り立っています。
社会主義が生まれたのは18世紀です。
諸説ありますが、フランス革命の流れの中で発生したと言われています。
当時は一国の王政に反発した市民が反乱を起こす「市民革命」が各地で起きていて、誰でも自由に経済活動ができる「資本主義」が台頭していました。
その結果、一部の資産家が莫大な富を得る結果となった一方で、「持たざるもの」との貧富の差が浮き彫りになりました。
そこで生まれた思想が、「誰でも平等で公正な社会を実現しよう」という社会主義です。
特に有名なものが19世紀中頃にドイツで生まれた思想「マルクス主義」です。
労働者の悲惨さを訴え、階級のない協同社会を目指すと宣言しました。
第一次世界大戦後にはレーニンによるロシア革命が起き、「ソビエト連邦」という世界で初めての社会主義国家が誕生しました。
このソビエト連邦は世界恐慌の真っ只中で目覚ましい経済発展を遂げました。
第二次世界大戦ではソ連が大躍進して世界的な影響力を強めたことで、東ヨーロッパやアジア、アフリカでも社会主義を採用する国が増えることになったのです。
しかし、戦後の米ソ対立、いわゆる「冷戦」が深まるにつれ、ソ連を始めとする社会主義国の経済情勢悪化が表面化しました。その後ソ連では民主化を目指すゴルバチョフによる「ペレストロイカ政策」が進められました。
ロシア語で「立て直し」を意味するペレストロイカは、経済発展を目的として一部に自由市場を取り入れるものでした。
基本的には市場を政府の支配下に置きながら、資本主義の要素も採用しました。
結果としては上手くいかず、崩壊する産業が相次ぎソ連経済は大不況になりました。
1991年にはソ連の崩壊を招き、自由経済を前提としたロシアが誕生したのです。
資本主義とは?日本における資本主義の歩み
(1)社会主義の種類(思想)
一口に社会主義と言っても、厳密にはいくつかの種類が存在します。
この項目では社会主義の思想について解説していきます。
①空想的社会主義
19世紀前半のシャルル・フーリエやアンリ・ド・サン=シモンに代表される初期の社会主義の総称です。
資本主義の対抗策として掲げられました。
②社会民主主義
議会政治を通して社会主義を実現させる思想です。
暴力革命やプロレタリア独裁を否定し、あくまで議会制民主主義に則った社会主義の実現を目指します。
③無政府主義
権力が国家や政府に集中することを嫌い、地域コミュニティや労働組合に重きを置いた思想です。
アナーキズムと呼ばれます。
④共産主義
産業を共有化することで、搾取も階級もない国家の実現を目指します。
シンボルに赤色や赤旗が使われることで有名です。
⑤国家社会主義
国家を第一に考え、社会全体を統制しようとする思想です。
第二次世界大戦前後のナチス・ドイツや戦前の日本を指すことが多いです。
(2)共産主義
社会主義の中では最も本流と言える共産主義ですが、これも厳密には細かく分けることができます。
①マルクス主義
マルクスとエンゲルスが19世紀中頃に展開した思想です。
これまでの社会主義を「空想的だ」と批判し、詳細なデータや根拠に基づいた「科学的社会主義」を主張しました。
②マルクス・レーニン主義
マルクスとレーニンの主張をスターリンが定式化させた思想です。
マルクス主義を基本としていて、ロシア革命の基礎となりました。
③トロツキダム
トロツキーによるマルクス主義理論です。
スターリンの一国社会主義を批判し、世界革命による世界社会主義の達成を目指していました。
④スターリン主義
スターリンの発想と実践の総称です。
スターリン自体は自らを「マルクス・レーニン主義」と呼称していたため、第三者目線での呼び名になります。
一国社会主義論を展開しました。
⑤毛沢東の共産主義思想
毛沢東を中心とした中国共産党の思想です。
マルクス・レーニン主義を掲げながら、農民中心のゲリラ戦術など武力革命を展開しました。
⑥主体思想
北朝鮮独自の思想です。
「マルクス主義を基礎としつつもそれを超越した」としており、国家には強力な軍事的姿勢と国家的資源が必要になると主張しています。
⑦資本主義と共産主義の違いについて
資本主義と共産主義は、根本的に考えが違います。
大きく違うのは「個人が資本(生産のための土地、資金、施設・設備など)」を持てるか持てないかという点です。
共産主義では資本は国有とするか、国民全体の共有物とします。
個人が自由に資本を持つことはできません。
個人間や企業間で自由な競争はできず、生産行動は全て国の方針に従います。
結果として大きな経済格差が生まれない代わりに、競争がない分、経済発展がしにくいというデメリットもあります。
資本主義のもとでは個人や企業が自由に資本を持つことができます。
自由に競争することで、商品やサービスの価値を高め合うことができ、技術刷新も起こりやすいのがメリットです。
一方で、資本を持つ「資本家」と、雇われている「労働者」との間で大きな貧富の差が生まれるという側面もあります。
2、戦後の社会主義
第二次世界大戦でソ連が躍進したことをきっかけに、社会主義国が次々と誕生しました。
主な社会主義国は以下の通りです。
(1)ベトナム
マルクス・レーニン主義とホーチミン思想を基礎にしています。
(2)キューバ
マルクス・レーニン主義を採用。
チェ・ゲバラによるキューバ革命後、アメリカと対立を深め、一方でソ連との関係を深めました。
(3)東ドイツ
マルクス・レーニン主義を採用しました。
第二次世界大戦後の1949年、「ドイツ民主共和国」による社会主義国家の樹立を宣言しました。
その後、石油危機などの影響で経済が停滞し、西ドイツに流れる国民が続出します。
世界的に相次いだ社会主義国崩壊の流れをくむ形で「ベルリンの壁崩壊」を契機に西ドイツと統合、消滅しました。
(4)北朝鮮
第二次世界大戦後はマルクス・レーニン主義を採用していましたが、次第に軍事力を高めていく「主体思想」に変化していきました。
3、日本における社会主義
日本では資本主義が採用されていますが、社会主義的な考え方を支持する人々もいます。
(1)日本の社会主義の歩み
日本では、明治時代の日清戦争後に、労働組合運動や社会主義運動が本格化されるようになりました。
1898年には社会主義研究会が発足します。
これを母体として社会民主党が誕生し、平民主義や平和主義を掲げるようになります。
戦後は日本社会党が台頭し、1947年には民主党・国民協同党との3党連立で片山哲内閣が成立しました。
その後いくつかの社会主義政党に分裂しましたが、1955年に社会党として統一されてからは、1993年に「55年体制」が崩れるまで野党第一党に君臨し、与党・自民党の対抗馬として存在感を示しました。
今でこそ世界有数の資本主義国として名を馳せる日本ですが、一部からは「成功した社会主義国」と呼ばれることもあります。経済学者の高橋正雄は、独裁的なソ連と対比すると平和的でありながらも、どこか横並び的な日本を指して「日本型社会主義」と呼称しました。背景は以下の通りです。
戦後の日本はGHQの意向を受け、国力を立て直すために財閥解体や政教分離、農地改革などが推し進められました。
その結果、これまで力を持っていた資本家や地主が急速に力を失いました。
一方で、池田内閣の「所得倍増計画」などの政策により、中流層が大多数を占める社会構造へと変化します。
高度経済成長期には終身雇用を前提とした日本型企業が次々と登場し、資本主義を採用しながらも横並び的で特徴のない日本人の社会構造を揶揄する言葉として「日本型社会主義」と指摘したのです。
(2)社会主義政党
現代における社会主義系の政党は、大きく分けると日本共産党と社会民主党です。
①日本共産党
1922年に設立された最左派の政党です。
現存する政党としても日本最古です。
憲法第9条の改定は平和の流れに逆行するとして断固反対し、自衛隊は戦力不保持を定める憲法に反する存在だと指摘しています。
②社会民主党
中道左派の政党であり、社会民主党の基本理念はあくまで資本主義です。
社会民主主義思想をもとに資本主義を改良していく、としているため、厳密には社会主義や共産主義を目指しているわけではありません。
日本共産党と同じように憲法9条の改定には反対の立場ですが、日米安全保障条約や自衛隊の容認など、政策ではかなり違いがあります。
(3)消えない社会主義
ソ連崩壊を節目に、東ヨーロッパの社会主義国が次々と崩壊し、世界的な影響力を失った社会主義ですが、現代でも様々な形に変化して生き残っています。
中国やベトナムは、経済政策では市場経済を導入しているものの、政治的には共産党による一党独裁政権が続きます。
核保有国として国際社会の脅威である北朝鮮も、独自の社会主義的思想を貫いています。
南米でも、キューバを筆頭に
- ベネズエラ
- ボリビア
- エクアドル
- ニカラグア
などが社会主義を掲げて独自路線を歩んでいるのが現状です。
近年では、中国がアメリカと2大巨頭と並び称されるまでの目覚ましい経済発展を遂げました。
今や「社会主義国=貧しい国」という概念は完全に覆されたと言えます。
以下の関連記事では民主主義について詳しく解説しています。
民主主義とはどのような考え方?3つの原則や日本の政治体制まで簡単に解説
まとめ
日本を始め、現在の国際社会では資本主義が王道だとされています。
しかし、ほんの数十年前まで日本でも社会主義政党が政権を握っていたように、いつ時代の潮流が変わるのかは誰にもわかりません。
社会主義と聞くと他人事のように聞こえてしまいがちですが、私たちも社会主義や資本主義の成り立ちを改めて見直して、これからの変化に対応できる準備をしておく必要があると言えるでしょう。