近年、日本では母親の育休取得が当たり前になってきていますが、父親の育休の取得率が少ないのが課題でした。そこで、より父親が育休を取りやすくなる社会を目指し、2022年10月1日から「産後パパ育休」が創設されました。
産後パパ育休とは、産後8週間以内に28日間(4週間)を限度とし、2回に分けて摂取できる新しい育児休業の制度です。男性が育児休業をより取得できるように設けられました。
本記事では、産後パパ育休について下記の4つを踏まえて詳しく解説します。
- 育児休業について
- 世界と日本の父親の育休取得の差
- 日本において父親が育休を取得が困難な理由
- 産後パパ育休を取るために知っておきたい収入などの知識
1、育休(育児休業)とは?
育休(育児休業)とは、国が定めている制度です。原則として、子供の1歳の誕生日を迎える前日までの取得が可能で、会社の制度とは関係なく一定の基準を満たした父親と母親のいずれも取得が可能な制度です。
育休を取得する場合、男性は子供が生まれてから取得、女子は産後休業を終えてから取得が可能となっています。2022年10月から、育休は原則2回まで分けての取得が可能となりました。
育休中は会社から給料が支払われませんが、手順に基づき申請を行うと子供が生まれた生後半年までは給料の67%が、生後半年以降は給料の50%が受取れるため、働いていない間収入が途切れることはありません。
育休とは、育休を取る前に所属していた会社に戻ることを前提に取得が可能な休業制度となっています。
原則として、子供が1歳の誕生日を迎えると育休が終了となり、保育園などに預けて仕事に復帰します。しかし、保育園に入れなかったなどの理由がある場合は申請を行い、1歳半まで、または2歳になる前日まで育休取得が可能です。
参考:厚生労働省 育児・介護休業法 改正ポイントのご案内
参考:厚生労働省 育児休業給付の内容と支給申請手続
(1)日本の育休制度は先進国で1位
日本は、育休中の社会保険料の免除や子の1歳の誕生日の前日まで育休が取得できるなどの理由から、2021年にユニセフによる評価では育休制度の充実さが先進国中1位となりました。1位となった理由は、上記の理由の他にも「父親が取得できる育休の期間が他の先進国と比べて最も長期」という理由も含まれます。
参考:ユニセフウェブサイトより「子育て支援策 新報告書」
(2)世界1位の育休制度の課題は取得率の低さ
ユニセフで認められた世界1の育休制度を誇る日本の課題は、育休取得率の低さです。
日本の6歳未満の子供を持つ父親の1日の家事・育児関連時間は1時間程度と、国際的に見ても低水準です。
画像引用:厚生労働省「育児・介護休業法の改正について」
父親の家事・育児関連時間が伸びに比例して、母親の就業時間が伸びているとの結果もあり、政府は父親の育児休業の積極的な取得を支援しています。
また、平成8年の父親の育休取得率は0.12%でしたが、令和3年までは13.97%まで上昇しました。しかし、世界的に見ても依然低い水準のため、政府目標として令和7年までに育休取得率を30%まで引き上げようとしています。
画像引用:厚生労働省「育児・介護休業法の改正について」
「こどもまんなか社会」の実現へ。小倉大臣に聞く日本の少子化対策・男女共同参画
(3)産後パパ育休と通常の育休の違い
通常の育休は、休業中の就業が認められていません。しかし、産後パパ育休は会社と本人が合意した範囲内であれば休業中の就労が認められています。
しかし、就業は可能ですが、休業中の就労は休業前の所定労働日と所定労働時間の半分までという決まりがあります。
産後パパ育休も条件を満たすと育児休業給付金が支給され、社会保険料も免除されます。
2、父親の育休取得率と世界の現状
(1)日本の父親の育休取得率は約14%
日本の父親の育休取得率は、年々増加しているものの、令和3年時点での育休取得率は約14%に留まっています。母親の育休取得率が85%という水準を見ると、まだまだ父親の育休取得率が低い水準であることがわかります。
この現状を踏まえて、日本政府は2030年度には男性の育休取得を85%へと伸ばす目標を打ち出しています。
少子化を食い止め、全ての夫婦が働きながら子供を育てられる環境にするためには、男性の育休取得や家事や育児への参加の必要性が高まっているということが伺えます。
引用:「男女で育休取得なら手取りの10割」 岸田首相表明|日本経済新聞
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(2)世界の父親の育休の現状について
ここからは、世界の父親の育休の現状について詳しく解説を行います。
父親の育休取得を推進している国は多くあります。
- スウェーデンの育休取得率…88%
- ドイツの育休取得率…35%
- フランスの育休取得率…100%
- ノルウェーの育休取得率…90%
①スウェーデンの育休取得率は88%
スウェーデンは、業種に関わらず育休取得率が母親は8割強、父親は8割弱と、母親・父親共に高い水準となっています。
スウェーデンで育休制度が浸透している理由は、以下が挙げられます。
- 所得補償制度で最初の390日は賃金の80%を補填し、その後の90日は定額の手当が受給できます。育休の最初の390日間は、両親2人分併せての日数であり、その中で「パパクオーター」「ママクオーター」という両者に譲れない休みが60日ずつ存在します。その後の135日は両者に譲り合える日数という仕組みとなっています。
- スウェーデンには、両親保険という育児休業中の収入補填制度に加え、スウェーデンの企業では独自の上乗せ給付を行っているケースが多くあります。このため、育休中の収入の減少の心配がありません。
- スウェーデンでは、育休取得に合わせて臨時契約社員を雇うというケースが74.4%を占めているため、育休中に会社の労働人数が減って残された人の業務量が多くなってしまうという心配もありません。
- スウェーデンでは、育休に対する否定的な意見がほとんどなく、妊娠・出産を経験する夫婦が安心して育休を取得できる環境が整っているといえます。
引用参考:内閣府 仕事と家庭の両立支援
②ドイツの育休取得率は35%
ドイツは、2006年までの父親の育休取得率はわずか3.3%でした。しかし、2007年に育休中の給付金制度である「両親手当」という制度が設けられ、2016年には34%まで上昇しています。
ドイツの両親手当とは、育休中に賃金が支払われない期間でも給料の67%が給付される制度をいいます。片方の親が育休を取得する場合は、最長12か月もの間、両親手当が支給されます。さらに、もう片方の親が育休を取得すると追加で2か月分給付期間が伸び、最長14か月の給付となります。
更に、2015年には「両親手当プラス+」という制度が導入されました。時短勤務で職場復帰をした親の収入が減らないようにする補填や、最長3年間取得できる育休を8歳までの間なら分割で取得ができるようになりました。
ドイツは育休の取得率は低い過去がありましたが、有給の取得率は100%に近い水準を保っています。両親手当の新設により、父親も育休を取得しやすい社会へと変化を遂げています。
③フランスの育休取得率は100%
フランスでは、元々父親の70%が育休を取得していました。しかし、ジェンダーレスの観点や、母親ばかりが育児の負担を担わないようにといった理由から、2021年7月より父親の育休取得を義務化しました。
収入が全額保証される25日間の育休のうち7日間を義務化としています。また、子供の誕生日の前後に取得できる3日間の誕生休暇と合わせて、有給として1か月間の取得が可能です。
そのため、期間の違いはありますが男性の育休取得が100%へと変化し、父親が育休制度を利用するのが当たり前の社会へと変化しています。
引用:朝日新聞GLOBE+
引用:独立行政法人 労働政策研究・研修機構
④ノルウェーの育休取得率は90%
ノルウェーでは、「パパ・クオータ制」という育児休業が存在します。
ノルウェーでは、育休は最高で3年間取得が可能です。子供が1歳になる1年間の間に、父親には4週間の育休期間が設けられています。
ただ割り振られているだけでなく、父親が育休を取得しない場合は支払われる出産・育児休暇手当の支給期間がその分短縮されてしまうので、育休を取得した方がお得ということになります。
3、日本の父親の育休取得が困難な理由3つ
ここからは、日本の父親の育休取得が困難な背景や理由について解説します。
現代の日本も、夫婦で家事や育児を一緒に行おうという意識が徐々に強くなり、父親が保育園の送り迎えや育休の取得、家事と育児の折半が当たり前の風景になりつつあります。しかし、まだまだ難しい背景があるのも事実です。
(1)男性は外で働き、女性が家を守るという日本の考え方
日本では、昔は男性が外で働いてお金を稼ぎ、女性は家庭を守るという考え方が当たり前でした。昭和初期では、女性は中学を卒業したら花嫁学校と呼ばれる学校に通っていた人もいるほどです。
時代は令和となり、女性の高校進学率は95%、大学進学率は50%を超えています。
引用:内閣府 教育をめぐる状況
しかし、妊娠・出産を機に体調や夫婦の考え方により退職を選択する女性も多く存在し、その結果、父親が育休を取得せず継続して働くという選択をする家庭が多いのです。
画像出典:内閣府 女性就業率の推移
引用:内閣府 教育をめぐる状況
女性の社会進出や就業率は年々上昇していますが、第一子出産により退職を選択する家庭が約3割いるという現実も知っておく必要があります。
女性の社会進出とは?男女共同参画社会実現を目指す日本の現状と課題
(2)夫婦共に収入が減ると生活が苦しくなる
育休中も生活が困窮しないために給付金が振り込まれますが、最初の半年は67%、その後は50%と就業していた頃と同じだけの賃金は手に入りません。
中には、夫婦ともに育休を取得すると生活が苦しくなってしまうため、育児をメインで行う母親のみが育休を取得し、父親は育休を取らないか、産後の1~2週間を育休ではなく、有給を取得するという家庭も存在します。
子供が生まれると思いがけない出費が増えるため、子供と家庭の生活のためにも父親の収入をキープするという判断をしている家庭も多く存在します。
(3)会社で育休の制度が整っていない
2022年4月より、企業から従業員への育休取得の促進が義務化されていますが、まだ新しい政策のため浸透しきれていなかったり、父親が前例がないからと取得に対して消極的になっているケースが存在します。
しかし、男女共に育休は希望を出せば誰もが取得できる休暇制度です。産後の1か月は母親の身体の回復に努めるための大切な期間でもあるため、父親が積極的に育休を取得し夫婦で育児を支え合っていく必要があります。
4、育休による収入や雇用保険の変化
育児休業中の収入や社会保険の支払いについて、どのくらい収入が減ってしまうのか疑問を抱いている方は多くいます。
ここからは、育児休業中の収入の変化や雇用保険の支払いについて詳しく解説します。
(1)育休中の給付金は給料の67%を支給
育休中は、所属している会社から給与は支払われませんが、雇用保険から育休の手当が支給されます。育休の開始日〜初めの6か月は月の賃金の67%が支給され、7か月目からは月額賃金の50%が支給されます。
ここでの注意点は、育休手当には上限と下限が存在するという点です。
育休手当は、上限449,700円、下限は74,440円と定められており、この上限を超えたり、下回ったりすることはありません。
育休手当(67%) | 育休手当(50%) | |
上限 | 449,700円(支給額:301,299円) | 449,700円(支給額:224,850円) |
下限 | 74,400円(支給額:49,700円) | 74,400円(支給額:37,200円) |
育休の手当は、育休開始後すぐに支給されるものではなく、育休開始からおよそ2~3か月が経過したタイミングで振り込まれます。初回振り込みからは2か月毎に申請し、2か月分が振り込まれる流れとなります。
原則、育休手当は子供が1歳の誕生日の前日までが給付期間となっていますが、以下の条件に当てはまる場合は、育休手当の給付期間が延長されます。
- 配偶者の死亡、または病気により養育費が賄えない、目途が立たない場合
- 保育所への入所待ちの発生
- 離婚などにより配偶者が赤ちゃんと生活の場を共にしない
(2)育休中の社会保険料は条件を満たせば免除
育休中は、同じ月の中で14日以上(土日含む)の育休取得で当該月の月額保険料が免除となります。
また、賞与にかかる保険料は賞与支給月の末日を含め、且つ1か月以上の育休を取得した場合に免除されます。
引用:厚生労働省
(3)父親は希望すれば育休中も就業が可能
産後パパ育休は、パパと雇用主が合意をすれば育休中の就業も可能です。
育休を取りたいけど丸々休むのは難しいと悩む父親は、所定労働日数・時間の半分まで育休取得が可能なので、無理なく仕事と家事・育児の両立が可能です。
(4)期間内であれば2回に分割しての取得も可能
2022年9月までは、育休は分割で取ることは原則認められていませんでした。しかし、2022年10月1日からは分割して2回の摂取が可能となりました。産後パパ育休と、通常の育休を組み合わせると、父親は最大で4回に分けて育休の取得が可能となります。
まとまった育休の取得が難しい場合も、新しい制度を利用してより多くの親が育休を取得して安心して子育てに専念できる環境を整えられます。
PoliPoliで公開されている育休関連の取り組み
誰でも政策に意見を届けることができる、政治プラットフォームサービス「PoliPoli」では、ママもパパも!望めばみんなが育休取得!政策について、以下のように公開されています。
あなたの願いや意見が政策に反映されるかもしれないので、是非下記のリンクからコメントしてみてください。
PoliPoli|ママもパパも!望めばみんなが育休取得!
(1)ママもパパも!望めばみんなが育休取得!政策の政策提案者
議員名 | 伊藤 孝恵 |
政党 | 参議院議員・国民民主党 |
プロフィール | https://polipoli-web.com/politicians/UjZ0MPl8EOj5dUugcw2M/profiles |
(2)ママもパパも!望めばみんなが育休取得!政策の政策目標
政策目標は主に以下の通りです。
- 男性育休が当たり前の日本に
(3)実現への取り組み
実現への取り組みは以下の通りです。
- 「育休中の収入補填」「家事育児はママという無意識の偏見の払拭」「男性が育休取得できる職場環境の創出」
この政策の詳細をより知りたい方や、政策の進捗を確認したい方は下記リンクからご確認ください。
まとめ
今回は、育休制度について解説しました。
日本の父親の育休取得率は上昇はしているものの、まだまだ浸透しきれていない現状があります。そのため、より育休の取りやすい環境を作るために社会の意識が求められています。
父親の育休取得率が上がると、母親の離職率や少子化を食い止める一歩に繋がるとされているので、今後も育休の取得のしやすい社会にすべく注目・行動をしていく必要があります。