「政治をもっと身近に。」
政治に関する情報をわかりやすくお届けします。

政治ドットコム政治用語金融所得課税とは?投資と税金の関係をわかりやすく解説

金融所得課税とは?投資と税金の関係をわかりやすく解説

投稿日2025.2.14
最終更新日2025.02.14

「投資で得た利益には税金がかかる」。そんな話を聞いたことがある人も多いのではないでしょうか。でも、具体的にどんな税金がどれくらいかかるのか、詳しく知っている人は意外と少ないかもしれません。

実は、金融所得(投資で得た利益)は給与所得などとは違うルールで税金が計算されます。そして、この仕組みが「お金持ちほど税負担が軽くなるのでは?」という議論を引き起こしているのです。

この記事では、金融所得課税の仕組みや、なぜ問題視されるのか、をわかりやすく解説します。

金融所得課税とは?投資の利益にかかる税金

金融所得課税とは、投資で得た利益にかかる税金のこと。具体的には、次のような収入が対象になります。

  • 預金の利子(銀行の普通預金や定期預金の利息)
  • 株式の配当金(企業が株主に支払う利益の一部)
  • 投資信託の分配金(投資信託から支払われる利益)
  • 株や投資信託の売却益(買った価格より高く売れたときの利益)

これらの金融所得には、一律20.315%の税金がかかります。内訳は、所得税15%、住民税5%、復興特別所得税0.315%。この税率は所得の大小に関係なく同じです。

累進課税と金融所得課税の違い

一方で、会社員や個人事業主が得る給与所得や事業所得には「累進課税」が適用されます。これは、所得が増えるほど税率も上がる仕組みです。

例えば、以下のように課税所得が増えると税率も高くなります。

  • 195万円以下:5%
  • 330万円以下:10%
  • 900万円以下:23%
  • 4,000万円超:45%

この仕組みによって、高所得者ほど高い税率が適用され、税負担が大きくなります。

しかし、金融所得は一律20.315%。このため、高所得者ほど給与所得よりも金融所得を増やしたほうが、税率が低くなるという現象が生じています。

 

金融所得課税の落とし穴?「1億円の壁」

この税率の違いが、「1億円の壁」と呼ばれる問題を引き起こしています。

通常、所得が増えると税負担率(所得に対する税金の割合)も上がるはずです。ところが、ある程度の所得を超えると、逆に税負担率が下がるケースが出てきます。

特に、年収1億円を超える高所得者は、給与所得よりも金融所得の割合が増える傾向があります。そうなると、一律20.315%の金融所得課税が適用される部分が増え、全体の税率が下がってしまうのです。

例えば、会社員で年収1,000万円の人と、投資で1,000万円稼いだ人を比べると、後者のほうが税負担は軽くなります。この不公平感が問題視され、金融所得課税の見直しが議論されるようになりました。

金融所得課税に新ルール-「ミニマムタックス」とは

こうした問題を解決するため、2023年度の税制改正法案にはミニマムタックス(極めて高い水準の所得に対する負担の適正化)政策が含まれ、2025年(令和7年)分の所得から適用されることになりました。

ミニマムタックスとは、特に高所得者に対して最低限の税負担を求める仕組み。具体的には、年間の合計所得が約30億円を超える納税者が対象となります。

計算方法は以下の通りです。

  1. 合計所得金額から特別控除額3.3億円を差し引く
  2. その金額に税率22.5%を掛ける
  3. この金額が通常の所得税額を超える場合、その差額を追加で納税

例えば、合計所得が10億円の場合、

  • ミニマムタックス適用前:10億円 × 15% = 1億5,000万円
  • ミニマムタックス適用後:(10億円 - 3.3億円)× 22.5% = 1億5,075万円
  • 追加納税額:75万円

(わかりやすくするため、所得のすべてが金融資産であると仮定)

この制度の狙いは、高所得者の税負担を適正化し、「1億円の壁」問題を解消することです。金融所得課税の一律税率による負担の偏りを是正し、税の公平性を高める目的があります。

参照:財務省

金融所得課税の見直しで懸念される点

ただし、金融所得課税の強化にはいくつかの懸念もあります。

  1. 投資意欲の低下
    税負担が増えると、投資を控える人が増える可能性があります。特に、個人投資家にとって税率アップは大きな影響を与えるでしょう。
  2. 資産家の国外流出
    高所得者に対する増税が進むと、日本から海外へ資産を移す動きが加速するかもしれません。シンガポールやドバイなど、税制が優遇されている国へ移住する投資家が増える可能性もあります。
  3. 資産所得倍増プランとの矛盾
    政府は「資産所得の倍増」を掲げ、NISA(少額投資非課税制度)などを拡充しています。しかし、一方で金融所得課税を強化すると、投資を促進する政策と矛盾することになります。

こうした点から、金融所得課税の見直しには慎重な議論が求められています。

参照:総務省

海外の金融所得課税制度はどうなっている?

金融所得課税の仕組みは国によって異なります。例えば、

  • アメリカ:累進課税を適用し、所得が増えるほど金融所得の税率も上がる
  • ドイツ・フランス:金融所得に対して、分離課税と総合課税の選択制を採用(納税者が有利な方を選べる)

日本の一律20.315%の税率は、国際的に見ても独特な仕組みです。今後、どのような方向で税制改革が進むのか注目が集まります。

参照:財務省

 

まとめ:金融所得課税はどう変わる?

金融所得課税は、投資で得た利益にかかる税金のこと。一律20.315%の税率が適用されるため、高所得者ほど税負担が軽くなる「1億円の壁」が問題視されています。

これを解決するため、2025年から「ミニマムタックス」が導入予定。高所得者への課税強化が進む一方で、投資意欲の低下や資産の海外流出などの懸念もあります。

税制の変更は、投資家にとって重要な問題。今後の議論の行方に注目していきましょう。

この記事の監修者
政治ドットコム 編集部
株式会社PoliPoliが運営する「政治をもっと身近に。」を理念とするWebメディアです。 社内編集チーム・ライター、外部のプロの編集者による豊富な知見や取材に基づき、生活に関わる政策テーマ、政治家や企業の独自インタビューを発信しています。