「政治をもっと身近に。」
政治に関する情報をわかりやすくお届けします。

政治ドットコムインタビュー政治家インタビュー日本がリードする「人間の安全保障」鈴木貴子議員に聞くグローバルヘルス政策とは

日本がリードする「人間の安全保障」鈴木貴子議員に聞くグローバルヘルス政策とは

投稿日2022.10.7
最終更新日2023.12.22

新型コロナウイルスの拡大により、世界的に注目を集めつつある「グローバルヘルス・イシュー」。
2022年5月発表の「グローバルヘルス戦略」には、強固な保健医療体制を構築するための支援を強化する方針が記されています。日本でもグローバルヘルスの重要性が高くなっていると考えられます。
今回は、自由民主党 衆議院議員の鈴木貴子議員(以下、鈴木議員)に、日本がグローバルヘルスの支援を行う意義や概念の重要性について伺いました。

鈴木 貴子 氏

1986年生まれ。衆議院議員(4期)。2008年にカナダ オンタリオ州トレント大学卒業後、2009年に日本放送協会(NHK)入局。2012年、第46回衆議院議員総選挙 初出馬、2013年に繰り上げ当選。外務副大臣(第1次岸田内閣・第2次岸田内閣)、自由民主党副幹事長、防衛大臣政務官(第4次安倍内閣)を歴任。

1、グローバルヘルスは「地球規模の公衆衛生」であり国民の「命」

―まずは、グローバルヘルスの定義やビジョンなどについてお伺いできればと思います。

鈴木議員:

グローバルヘルスの定義は、ないと思っています。

そもそも日本で「グローバルヘルス」という用語が使われる前は「国際保健」という用語が使われていました。
「グローバルヘルス」というカタカナ用語が使われるようになった背景には、グローバルヘルスと国際保健の概念に違いがあるからだと考えています。

「国際保健」では「政府が主導となって行われる地球規模の保健や福祉」の意味合いが強い印象があります。

一方で、「グローバルヘルス」は、NGO(非政府組織)やNPO(非営利団体)などのようなボランタリーな団体と政府が「現場で協調しながら協働で動く地球規模の保健や福祉」といった意味合いが強い用語だと理解しています。また、インフラの発達などで人的交流が活発になればなるほど、対策を1国で講じることはほぼ不可能であり、これまで以上に国や機関を巻き込んだ協力が求められているという背景もあると思います。言葉の変化の裏には、こうした状況変化があるのではないでしょうか。

―多様なステークホルダーが出てきたことが、国際保健からグローバルヘルスへと概念が変わった理由として考えられるのですね。
グローバルヘルスに開発途上国を含む全世界が取り組むことで、結果的に日本の感染症対策につながると理解しています。
そこで日本政府がグローバルヘルスへ出資している意義やメリットについて、教えていただけますか。

鈴木議員:

日本には昭和・平成・令和と元号があります。それぞれ、昭和は世界大戦など「見えるものとの戦いの時代」、一方で平成は「平和の時代」と言えると思います。
令和が始まるころ「令和はどのような時代になるのだろう?」とたびたび言われていましたが、私としては「見えざるものと戦う時代」それが令和だと思っています。

平成から令和へ移行した2019年は年始早々の地震、夏には豪雨や台風が相次ぎました。2019年末に中国で発生した新型コロナウイルスは2020年に入ると日本国内でも感染が拡大しました。2022年の現在もコロナ感染症は収束せず、影響が続いています。

自然災害も感染症もいつ何時発生するかわかりません。必ずしも始まりを肉眼で確認することはできません。だからこそ、対応も難しいものです。令和が始まってまだ数年しか経っていませんが、世界ではこのような“見えざるものとの闘い”が続いています。

だからこそ、グローバルヘルスは「地球規模の公衆衛生」であり、日本国民1人1人の生活や人生に密接に関わっており、切っても切り離せない課題であると認識してもらえれば、理解度も上がるのではないでしょうか。

―鈴木議員が、グローバルヘルス政策に取り組み始めたきっかけとは、どのようなものでしょうか。

鈴木議員:

私自身のライフワークとして「包括的性教育(※)」を常に掲げているのですが、グローバルヘルスと包括的性教育の2つの政策は、つながっていると認識しています。なぜならば、包括的性教育の柱の一つに子ども達のウェルビーイング(幸福感)や尊厳の尊重と実現とは、平たく言えば「命を大切にする」ことで共通しているからです。

(※)包括的性教育とは、生殖器官や妊娠についての知識の教育だけでなく、人間関係、人権、ジェンダー、多様性、性暴力の防止なども含めた性教育であり、ユネスコが提唱している。

2、日本はグローバルヘルスの「生みの親」であり「育ての親」

―次に、グローバルヘルスの現状を中心にお伺いできればと思います。
日本では、若者をはじめとしてグローバルヘルスへの認知度がまだまだ低いと感じますが、グローバルヘルスの関心がないのはなぜだと考えられますか。

鈴木議員:

日本で生活していると、保険医療へのアクセスに関して不自由が少ないからではないでしょうか。公衆衛生のレベルも高く、課題はあれど必要なサービスが存在します。コロナ禍も、混乱や課題も浮き彫りにはなりましたが日本全国ひろくあまねくワクチンも届き、希望する人が接種できました。

―確かに、私自身も日本に生まれて、健康について不安を感じたことは少ないように思います。日本での認知度が低い一方で、グローバルヘルスの重要度は、世界的に上がってきているのでしょうか。

鈴木議員:

そうですね。地球規模で考えると、人の交流は、10年20年30年…と、時代とともに間違いなく右肩上がりに増えています。その観点からも、例えば感染症は人から人へひろがるので、国や地域を超えたグローバルヘルスの重要度も上がっているといえるでしょう。

―世界でグローバルヘルスの重要度が高まっているなかで、日本では具体的にどのようなグローバルヘルス支援を行っているのでしょうか。

鈴木議員:

日本がグローバルヘルスの牽引役であることが明確になった1つのイベントは、2000年に行われたG8(当時)の九州・沖縄サミットです。

当時の森首相が、議長国のホストとして「感染症をG8の議論の主たる柱の1つにしよう」と掲げました。

例えば、HIV・エイズ、結核及びマラリア等の感染症の問題について、具体的目標値を掲げ、取り組みを強化することで合意しています。この時も、我が国の支援策は高く評価され各国も支援を強化していくこととなりました。その年の秋には、引き続き、具体的な対策検討のために 途上国を含む政府、そして市民社会や国際機関を集めた会議を開催することまで決めました。この時の日本のメンバー国の取り込み方に対し、感謝と敬意を表したいです。

このように日本はグローバルヘルスのいわば「生みの親」です。しかし、「生みの親」だけで終わるのではなく、「育ての親」にもならなければならないと考えています。

実際、日本ではグローバルヘルスに関する取り組みを続け、「国際社会の舞台において日本がグローバルヘルスを柱に掲げてくれた」との認識が世界的にも広まっています。

コロナ禍の日本による具体的な支援内容として、コロナワクチンの「ラスト・ワン・マイル支援」が挙げられます。

ラストワンマイル支援とは、コロナワクチンを必要な人のもとに確実に届けられ、接種できるよう冷蔵施設や配送、医療従事者の技術支援など最後のあと一歩(ラストワンマイル)まで目を向けるという取り組みです。

マイナス70度で保管したまま、道なき道を経て過疎地の集落に届けるといった、難しい条件を乗り越えながら、コロナワクチンを必要とする人々に、最後あと一歩(ラストワンマイル)のところをどのように運ぶかが課題でした。

日本の民間企業であるツインバード工業(新潟県燕市)が開発したワクチン運搬庫があります。これは、精密な温度制御が可能なポータブル超低温冷凍冷蔵庫です。揺れにも強いなど、ワクチンの質を担保しながら遠隔地への運搬が可能で、悪路の多い途上国の地方部でも活躍しました。また、豊田通商が新生児用ワクチン輸送用としてワクチン保冷輸送車を開発していましたが、コロナワクチンの輸送のためにも使用されています。

このようにコロナワクチンを1人1人に接種するところまで、責任を持って運ぶための支援こそがラスト・ワン・マイル支援です。

―コロナウイルスとの関係で、日本が「COVAXファシリティ(※)」に出資を決定し、岸田総理がサミットに参加した背景について教えてください。

鈴木議員:

COVAXファシリティは、菅義偉前首相から現在の岸田首相まで、日本政府が人間の安全保障の理念の下、ユニバーサル・ ヘルス・カバレッジの達成に向け、安全で効果的なワクチンを公平かつより多くの人々に 届けることを全面的に支援するとの決意で取り組んでいます。

新型コロナウイルス感染症ワクチン・治療・診断の開発、生産及び公平なアクセスを加速化させるための国際的な枠組み(ACTアクセラレータ)は、日本を含む8か国およびゲイツ財団が共同提案で発足など、日本は不断の貢献をしています。

(※)COVAXファシリティとは、新型コロナウイルスのワクチンを複数国で共同購入し、公平に分配するための国際的な枠組みのことです。

―生みの親となったからには、責任を持って育てるということにつながっているのですね。
ODA支援(政府開発援助)のなかに、さまざまなグローバルヘルスの分野があると思いますが、今後のODA支援はどのように変化していくのでしょうか。

鈴木議員:

「ODA」と聞くとインフラをイメージする方が多いかと思います。

インフラが整うと経済が回るようになりますよね。その根底には、やはり「ヘルス」があるのかなと思います。

ODAによって橋や道、鉄道などインフラを整備する過程において、それらインフラを人々が利活用できるかどうかを考えなければなりません。

人々が、自分のものにできるかどうかというところだと思うので、ODAとグローバルヘルスは表裏一体で、どちらかが欠けてもうまく回らないものだと思います。

3、日本とアフリカの関係を「支援」から「投資」へ

―2022年8月に行われたアフリカ開発会議(以下、TICAD)で、岸田首相が「アフリカに今後3年間で官民合わせて300億ドル(約4兆1000億円)を投資する」と表明しました。
グローバルヘルスを通じてアフリカとよい関係を築くビジョンについてお聞かせください。

鈴木議員:

冷戦が終結し、国際社会のアフリカに対する関心が薄れつつある1990年代初頭、諸外国のアフリカへの注目を今一度呼び戻すきっかけとなったのが日本であり、TICADです。
TICADは来年2023年に30周年を迎えます。中国やアメリカ、EUがそれぞれ主体となっているアフリカ開発会議もありますが、これらの取り組みの歴史は15年や20年ほど。30年もの歴史を持っているのは日本だけです。

今後日本がアフリカ諸国とよい関係を築くためには、国際社会におけるプレゼン力や発信力を高めていくことが必要です。それはアフリカ諸国の中に「仲間」を作っていくための努力に他なりません。

日本は国際社会の中で民主主義の尊重や基本的人権の擁護、国際的な法秩序の重要性を訴えています。これらの価値観をアフリカ諸国とも共有していくことが良好な関係を構築する上で重要であると考えています。

国連にはアフリカ大陸に位置する国々が50ヶ国以上が参加しています。日本が重視する価値観をアフリカの国々と共有することで国際社会の中で民主主義が重視される体制を構築していきたいです。

―日本は他国からアフリカとの関わり合いにおいてどのように見られているのでしょうか。

鈴木議員:

アフリカのみならず、間違いなく世界から日本への期待は高いと感じています。日本はアジア唯一のG7参加国であり、アジア全体のまとめ役としての役割を期待されています。

またアフリカ諸国とヨーロッパ諸国との歴史的な背景を考えても日本が果たせる役割があるのではないでしょうか。

それは、ヨーロッパによる植民地支配という歴史です。アフリカ諸国にはかつて植民地支配を受けたヨーロッパ諸国に対して複雑な感情を抱いている場合もあります。そのため西欧諸国が国連の場で人権政策などを推進しようとしてもアフリカ諸国から同意を得ることは簡単ではありません。

日本はこれまで「アフリカが自らが主導する持続可能な開発」を支援してきました。日本は物心の提供だけでなく、人づくりや技術移転など、アフリカ諸国が主体的に開発を進められるサポートを行ってきました。
この姿勢が他国の支援とは根本的に違う特徴です。

―日本はどの国よりも早くアフリカに強い思いを持って、アフリカ開発支援を進めてきたのですね。

鈴木議員:

そうです。
ただ、私はアフリカ開発支援のあり方について見直しが必要だとも思っています。
これからは「政府と政府」の関係だけではなく、より民間の活力を取り入れていくことが必要だと考えているからです。

政府が発表した300億ドル規模の投資を実行する上でも民間企業の力を活かすことは重要です。その際に注目すべきは日本はアフリカ諸国に対して「支援」ではなく「投資」を行う点にあります。

これからのアフリカ諸国との関係で大切なことは、民間企業への「投資」を通じて日本とアフリカ諸国が相互にWin-Winになる関係を構築していくことです。 岸田総理も、アフリカを若年層を中心とした人口増が期待される「可能性の宝庫」と称し、「共に成長するパートナー」として持続可能な開発を全力で支えていくことを明言されています。

4、グローバルヘルスにおける日本の存在感を

―最近では、ビル・ゲイツ氏などの著名人もグローバルヘルスの重要性を発信しています。グローバルヘルスにおいて、日本の国会議員が強いリーダーシップを発揮しようと思ったのは、どのような考えに基づいているのでしょうか。

鈴木議員:

グローバルな世界の中ですべての人が安心・安全な生活を送る基盤として「グローバルヘルス」があるとの考えがあります。

命が脅かされていないからこそ、人々は安心して生活し、自らのやりたいことを実現することができるからです。

―最後に、グローバルヘルス政策を通じて、今後どのような社会にしていきたいと考えていらっしゃるか教えてください。

鈴木議員:

感染症の流行拡大を防ぐためには、感染症の流行を発生させないという「予防」の観点からのアプローチも非常に重要だと考えています。

感染症は「見えざる敵」です。どこで発生してどのように感染が拡大するかわかりません。今後は感染拡大を防ぐために、スピード感ある対応を行う「機動力」も求められます。

実際にビル・ゲイツ共同議長(ビル&メリンダ・ゲイツ財団)も先日「(感染症対策には)迅速に対処できる力が重要である」とおっしゃられていました。

感染症対策における国際連携が必要不可欠となる中、日本が主導権を発揮していくことは非常に重要です。また、海外における感染症対策を推進することは日本国内での感染症対策にもつながります。

日本が進める政策の強みは「人間の安全保障」(※)を重視している点です。

(※「人間一人ひとりに着目し、生存・生活・尊厳に対する広範かつ深刻な脅威から人々を守り、それぞれの持つ豊かな可能性を実現するために、保護と能力強化を通じて持続可能な個人の自立と社会づくりを促す考え方です。外務省HPより)

これからも「人間の安全保障」の考え方に基づき、広く包摂的なアプローチでグローバルヘルス対策を進める必要があると考えています。

来年、日本がG7の議長国となります。国連安保理常任理事国であるロシアのウクライナ侵略により、今ほど国際社会が平和と安定にいかに貢献していくか、実現していくかが問われています。日本が国際場裡で存在感を示す上でも、グローバルヘルスは日本外交力の大きな可能性です。

例えばコロナによって、いかにグローバルヘルスが社会、経済、食料など各種安全保障と密接な関係にあるか痛みと共に実感をしました。あらゆる分野を横断するこのテーマを動かすには、各国リーダーの理解と決断が重要です。来る日本開催のG7サミットを、グローバルヘルスの飛躍の機会とすべく、私も引き続き仲間と共に党内はもとより、政府にも働きかけてまいりたいと思います。

この記事の監修者
政治ドットコム 編集部
株式会社PoliPoliが運営する「政治をもっと身近に。」を理念とするWebメディアです。 社内編集チーム・ライター、外部のプロの編集者による豊富な知見や取材に基づき、生活に関わる政策テーマ、政治家や企業の独自インタビューを発信しています。