2022年2月に始まったロシアによるウクライナ侵略は長期化し、中台関係の緊張、北朝鮮によるミサイル実験など日本を取り巻く安全保障環境は厳しさを増しています。2022年12月、政府は国の安全保障に関する防衛3文書を改定しましたが、日本維新の会としては、岸田総理に提言書を提出するなど積極的な働きかけを行なっています。また、生成AIなどの新しい技術も安全保障に大きな影響を与えています。
今回のインタビューでは、日本維新の会の防衛部会長の経験を持ち、現在は生成AIデジタル社会タスクフォース座長でもある三木圭恵議員に、日本の安全保障政策についてどのように捉えているのかをお伺いしました。
(取材日:2024年9月5日)
(文責:株式会社PoliPoli 秋圭史)
三木 圭恵(みき けえ)議員
1966年兵庫県西宮市出身。関西大学社会学部卒業。
2人の子育てを経て、2004年三田市議会議員(2期)。
2012年衆議院議員選挙初当選、2021年再選。好きな言葉は「無私の奉仕」。
(1)三田市長選挙をきっかけに政治の道へ
ーまず、三木議員が政治家を志したきっかけを教えてください。
きっかけは父が三田市市長選挙で後援会の会長を務めていたことです。2003年の三田市長選挙では、三田駅前の再開発が論点になっており、父は再開発の見直しを訴える新人候補を応援していました。結果的に、ものすごく惜しいところまでいったのですがその候補は落選してしまって。ただ、次の年に市議会議員選挙があるので、そこで再度候補者を立てようということになったんです。誰を候補者にするか、となったときに、父が後援会の会長だったということで私に白羽の矢がたちました。
当時、私は小学生の子ども2人の子育て中だったので、とても私には無理ですと一度はお断りしました。ただ、みなさんがすごく熱心に取り組んでいたのを承知していたので、私で役に立てるのなら、と立候補することにしました。
ー出馬を依頼された際一度お断りしたとのことですが、最終的に出馬を決めた背景は何だったんでしょうか。
誰かがやらなければ変わらないと思ったからですね。三田市長選挙に関わるなかで、改めて三田市について考えさせられました。財政は目に見えて悪くなっているにも関わらず、新しい箱物を作っていくことは本当に良いことなのか、駅前の再開発はこれでいいのか、いろいろな疑問がありました。
ただ、もともと自分の人生の選択肢に政治家という道をまったく想定していなかったので、立候補にはためらいました。政治家が身近にいたわけではなく、私は三田市長選挙で初めて選挙に関わりました。街宣車で市議会議員の方が演説している様子も見ていたのですが、果たして自分に同じことができるのか、正直、不安はありました。
しかし、せっかくみなさんが集まって活動している、三田を変えようというエネルギーがあるなかで、誰かがやらなくてはいけない。誰もやらないなら自分がやるしかない、と思ったのが出馬を決意した背景です。
ー当選後、市議会議員として活動されるなかでどのようなことを感じましたか。
駅前再開発の件で、新人ながら百条委員会(自治体の事務に関する疑惑や不祥事などを調査するため、地方自治法100条に基づいて設置される特別委員会)のメンバーに選ばれました。百条委員会に参加したことで、市民の税金を集めて市政を運営していくことについて真剣に考えることができましたし、とてもよい経験になりました。
ー三田市議会議員を2期務めたあとは国政に進出されました。どのような思いがあったのでしょうか。
国会を目指したのは、教育を変えるためです。私の子どもは今30歳なんですが、ゆとり教育世代だったんです。ゆとり教育はよい面もあったと思いますが、親の立場からは本当に子どものためになっているのか疑問がありました。土曜日が休みになって授業時間が減り、学習内容も減らされました。少ない時間のなかで教えられる内容を子どもがきちんと理解できているのか、学力低下を心配したお母さん方が子どもを塾に通わせるようになるのを目の当たりにして、公教育がこれでいいのかと思ったんです。
また、日本の教育が左寄りになっていることも懸念の一つでした。今では考えられないのですが、学校で国歌を歌うこと、国旗を掲げることも軍国主義的だといって反発を受けるような時代もあったんです。
(2)技術革新を進めながら、生命・財産を守るルールづくりを
ー三木議員は、日本維新の会の防衛部会長を務められていました。防衛部会長となった背景について教えてください。
安全保障にはもともと関心があり、国政にきたからには外交と安全保障をやらなくてはと思いました。なので、所属する委員会の希望を聞かれた際には安全保障委員会を希望し、日本維新の会の防衛部会長も務めました。私は、地方議員のときから、日本の防衛予算が少なすぎること、また能動的サイバーディフェンスと呼ばれる、他国のサイバー攻撃から日本を守るための対策が不十分であることに課題を感じていました。
ー2022年12月には日本維新の会として「国家安全保障戦略等の改定に対する提言書」を岸田総理に手渡しました。提言のポイントはなんでしょうか。
まず、「積極的防衛能力」が大きなポイントです。積極的防衛能力とは、他国の侵略を未然に防ぐための十分な軍事・非軍事能力のことです。例えば、ミサイルを打ち込まれた際に、逆に日本も打ち返すことができるようにしておく。そういった反撃能力を持つことで侵略に対する抑止力を高めようとする考え方です。また、日本には武力放棄を定めた憲法9条があるため、自衛隊の位置付けについて憲法と合わせて整理が必要かと思っています。
ー2022年12月、国家安全保障戦略、国家防衛戦略、防衛力整備計画の3文書が閣議決定されました。これに基づき、防衛力を抜本的に強化するため、今後5年間で43兆円の防衛力整備計画を実施し、2027年度までにGDP(国内総生産)の2%の予算を確保することとしています。
この防衛3文書改定に対する三木議員の受け止めについて教えてください。
日本の防衛費はGDP比率で約1%と非常に少ない状況だったので、まず防衛費の引き上げを決定したことは評価できます。
また、防衛費の引き上げによって、自衛隊員の職場環境改善が徐々に進んでいることも評価しています。先日、私が青森の自衛隊隊舎を拝見してびっくりしたのが、隊舎にエアコンがないことです。もともと寒冷地ということで設置されていなかったそうですが、近年の気温上昇が著しく、また交代制で昼間に眠る隊員もいるなかでエアコンがないのはいかがなものかと思いました。また建物自体も築40年、50年と非常に古く、トイレが和式であったりWi-Fiが整備されていなかったりしました。今まで自衛隊のみなさんに我慢を強いてきていましたが、防衛費の引き上げによって隊舎の立て替えなどが進み、徐々に待遇が改善されています。
ー現在は日本維新の会の生成AIデジタル社会タスクフォースの座長を務められています。AIと国家安全保障について、どのような関連があるのでしょうか。
まず、生成AIが普及するなかで、人間の判断を生成AIが方向づける、または狂わせる危険性が指摘されています。例えば、ロシアのウクライナ侵攻においてはすでに情報戦が行われており、生成AIで作成したゼレンスキー大統領の偽の動画が発信されました。また、プラットフォーマーが非常に大きな力を持つ中で、利用者がどのような性格で、どのような情報に反応し、どのような判断を行うのかが分析されています。これは、プラットフォーマーがその気になれば、表示する情報を操作することで利用者の判断を方向づけることができることを意味します。最悪、敵対国がある国の選挙に対して操作的に介入することも可能となり、AIが国家安全保障に与える影響は小さくありません。
ーそのほか、AIに関するリスクや懸念にはどのようなものが挙げられるでしょうか。また、リスクに対し、どのような対策が必要となるのでしょうか。
生成AIが完璧ではないということに留意が必要だと思っています。現在、生成AIの中身がブラックボックス化している、つまり生成AIがなぜこの答えを出しているのかがわからないそうです。アメリカでは、摂食障害協会の提供していたチャットボットが有害な情報を利用者に提供し使用停止になりました。
また、ロボットにAIを搭載する動きが進む中で、AIの誤作動による死亡事故がすでに海外では起こっています。今後、車の自動運転などが実現していくと思いますが、人間の運転が完璧ではないように、AIの判断も完璧ではない、事故は起きるという前提に立つ必要があります。
EUはすでにAI規制法を成立させましたが、日本ではまだAIに関する包括的な法規制はありません。EUの事例も参考にしつつ、日本はどういった対策を行っていくのかの検討が必要です。技術革新を促していきながら、国民の生命と財産を守るための規制のバランスは難しい部分ですね。
(3)若者が夢や希望を持てる社会に
ー今後、三木議員が取り組みたい政策について教えてください。
第一に、憲法改正です。憲法改正は地方議員のときからの目標です。日本にあった憲法をつくるということは必ずやりたいと思っています。
第二に、若者が夢や希望を持てる日本社会を作ることです。私が国土交通委員会に所属して取り組んだことの一つが、「2024年物流問題」です。日本のトラックドライバーが長時間労働、低賃金であることは早急に改善されなければなりません。また、海外のトラックドライバーの初任給がとても高いという事実もあります。これまでは日本は海外から労働者を受け入れる立場でしたが、円安や低成長のために、むしろだんだんと若者が出稼ぎに行く国になってしまっている。日本経済をなんとか立て直し、若者が日本で夢や希望を持てる国にしたいです。
そのためには、研究開発、新規事業開発を国策として行っていく必要があります。現在、北海道で次世代半導体の国産化を目指すラピダスの工場が建設中です。さまざまな分野で、国を挙げて産業育成に取り組む必要があります。現在、生成AIはアメリカ企業が独占的な立場ですが、日本がどの部分だったら一番になれるのか、どんなことをやればいいのか模索して実現しなければならないと思います。
また、若者が日本社会に夢や希望を持てるようにするには、最終的に社会保障制度改革が必要です。高齢化、少子化が進み、労働人口が激減するなかで、現役世代と高齢世代の負担のバランスが崩れています。若い方が老後を心配して、明るい人生設計が描けなくなっているなかで、社会保障改革をきちんとやり遂げなければならないと考えています。