「カーボンニュートラル」とは、温室効果ガスの排出量と吸収量を同じにするという目標です。
そして「2050年カーボンニュートラル」とは、2050年までに温室効果ガスの排出を全体としてゼロにするということです。
本記事では、以下についてわかりやすく解説します。
- 2050年カーボンニュートラルとは
- 2050年カーボンニュートラルを目指す理由
- 2050年カーボンニュートラル実現のための政府の取り組み
- 企業のカーボンニュートラルへの取り組み事例
- カーボンニュートラルに向けた世界の取り組み
本記事がお役に立てば幸いです。
1、2050年カーボンニュートラルとは
2005年カーボンニュートラルとは、2050年までに温室効果ガスの排出をゼロにする、という目標です。
日本では菅前総理が、2020年10月の所信表明演説で、2050年カーボンニュートラルに関する宣言をしました。
宣言内容は以下の通りです。
「菅政権では、成長戦略の柱に経済と環境の好循環を掲げて、グリーン社会の実現に最大限注力してまいります。日本は、2050年までに、温室効果ガスの排出を全体としてゼロにする、すなわち2050年カーボンニュートラル、脱炭素社会の実現を目指すことを、ここに宣言いたします。」
引用元:三 グリーン社会の実現 第二百三回国会における菅内閣総理大臣所信表明演説 首相官邸
2、2050年カーボンニュートラルを目指す理由
2050年カーボンニュートラル実現を目指す理由には、地球温暖化の問題があります。
2050年カーボンニュートラルについての理解を深めるために、以下について解説します。
- 地球温暖化とは
- カーボンニュートラルとは
(1)地球温暖化とは
地球温暖化とは、地球の平均気温が上昇する現象です。
グラフ引用元:世界の年平均気温偏差の経年変化(1891〜2020年)世界の年平均気温 気象庁
地球の気温が上がることによって、生態系に悪影響を及ぼす可能性があります。地球温暖化の原因は、二酸化炭素等の温室効果ガスです。
温室効果ガスの大部分を占める二酸化炭素の排出をなくすこと(=脱炭素)が、地球温暖化対策につながると考えられています。
グラフ引用元:第1章 低炭素社会の構築 第2部 各分野の施策等に関する報告 環境省
地球温暖化について詳しく知りたい方は下記の記事もご覧ください。
地球温暖化とは?原因・影響・日本と世界の対応を簡単解説
(2)カーボンニュートラルとは
カーボンニュートラルとは、「排出」される二酸化炭素と「吸収」される二酸化炭素の量が、同じであるという状態です。
画像引用元:「カーボンニュートラル」って何ですか?(前編)~いつ、誰が実現するの?
経済産業省 資源エネルギー庁
カーボンニュートラルの実現には、主に以下2つの方法があります。
- 化石燃料の代わりに、植物由来の燃料を利用する
- 排出された二酸化炭素を、森林保護や植林によって相殺する
また、カーボンニュートラルに似た単語として「脱炭素社会」が挙げられます。脱炭素社会は「温室効果ガスの排出量をゼロにする」という目標です。
「温室効果ガスの排出量から吸収量を差し引いて合計をゼロにする」というカーボンニュートラルとは意味合いが異なります。
脱炭素社会について詳しく知りたい方は下記の記事もご覧ください。
脱炭素社会とは?環境省の取り組みとカーボンニュートラルとの違い
3、2050年カーボンニュートラル実現ための政府の取り組み
2050年カーボンニュートラル実現に向けて、政府はどのような取り組みを行っているのでしょうか?
この章では、経済産業省の「2050年カーボンニュートラルに伴うグリーン成長戦略」の一部をご紹介します。
※政策内容は令和2年12月の資料に基づく
参考:2050年カーボンニュートラルに伴うグリーン成長戦略 内閣官房
(1)電力部門における改革
2020年12月の経済産業省の資料によると、二酸化炭素の排出割合は、
- 電力由来:37%
- 産業:25%
- 運輸:17%
- 業務家庭:10%
- その他:11%
となっています。
グラフ引用元:1(2).2050年カーボンニュートラルに伴うグリーン成長戦略 2050年カーボンニュートラルに伴うグリーン成長戦略 内閣官房
排出される二酸化炭素の大部分を占める、電力部門における脱炭素化は、温暖化対策において非常に重要な取り組みです。
従来の化石燃料を用いた、火力発電の利用を最小限にし、
- 再生可能発電
- 水素発電
- 原子力発電
などの、化石燃料を使わない発電方法に注目が集まっています。
参考:1(2).2050年カーボンニュートラルに伴うグリーン成長戦略 2050年カーボンニュートラルに伴うグリーン成長戦略 内閣官房
(2)予算や税制について
政府は、企業の脱炭素化を促進するために、企業へ税制支援を行う予定です。
政府による、3つの税制支援についてご紹介します。
①カーボンニュートラルに向けた投資促進税制の創設
「カーボンニュートラルに向けた投資促進税制の創設」とは、企業のカーボンニュートラル投資に対する税制支援です。
- 脱炭素効果を持つ製品が利用された設備の導入
- 炭素生産性(付加価値額など)を向上させるための設備の導入
といった、設備投資が支援対象になります。
画像引用元:カーボンニュートラルに向けた投資促進税制の創設 省エネ関連設備が活用可能な税制措置 経済産業省 資源エネルギー庁
産業競争力強化法の計画認定制度に基づき、以下どちらかの税制優遇を利用できます。
- 最大10%の税額控除
- 50%の特別償却
この税制の有効期限は、2023年度末です。
②繰越欠損金の控除上限を引き上げる特例の創設
「繰越欠損金の控除上限を引き上げる特例の創設」とは、カーボンニュートラル実現等を含めた、経営改革に取り組む企業を対象とした、税制支援です。
産業競争力強化法の計画認定制度に基づき、コロナ禍で生じた欠損金の繰越控除の上限を、投資額の範囲で、50%から最大100%に引き上げることができます。
期間は最長5事業年度までです。
③研究開発税制の拡充
「研究開発税制の拡充」とは、2050年カーボンニュートラル実現を含めた、イノベーションの創出拡大に対する税制支援です。
コロナ前に比べて売上金額が2%以上減少していても、研究開発税制の控除上限を、法人税額の25%から30%までに引き上げることができます。
参考:(2)カーボンニュートラルに向けた税制 4.分野横断的な主要政策ツール 2050年カーボンニュートラルに伴うグリーン成長戦略 内閣官房
画像引用元:研究開発税制概要(令和3年4月1日~)研究開発税制の概要と令和3年度税制改正について 経済産業省産業技術環境局
(3)規制改革
カーボンニュートラルに対する投資を促進するために、市場における規制改革を行う予定です。
政府による3つの規制改革をご紹介します。
①クレジット取引
クレジット取引とは、CO2を削減する活動に「価値」を付け、市場ベースで行う取引です。
政府は、小売電気事業者に、一定比率以上のカーボンフリー電源の調達を義務づける予定です。
これにより、
- カーボンフリー価値の取引市場
- Jクレジットによる取引市場
の整備を目指しています。
②炭素税
炭素税とは、使用する化石燃料内の炭素含有量に応じて、企業や個人に課される税金です。日本では「地球温暖化対策のための税」の導入が進められています。
政府では、カーボンニュートラル実現のために、より深い議論が必要であると考えられています。
③国境調整措置
国境調整措置とは、気候変動対策国が、気候変動対策をしていない国からの、輸入品に対する課税措置です。
自国輸出品に、炭素コスト分の還付をすることもあります。
国境調整措置は、ヨーロッパやアメリカで議論が進んでおり、政府は諸外国と連携した対応を検討しています。
参考:(4)規制改革・標準化(カーボンプライシング)4.分野横断的な主要政策ツール 2050年カーボンニュートラルに伴うグリーン成長戦略 内閣官房
(4)国際連携
前述の国境調整措置を含め、政府は2050年カーボンニュートラル実現に向けて、諸外国との国際連携を重要視しています。
画像引用元:(5)国際連携 4.分野横断的な主要政策ツール 2050年カーボンニュートラルに伴うグリーン成長戦略 内閣官房
米国・欧州との間では、
- イノベーション政策における連携
- 第3国支援を含む個別プロジェクトの推進
- 要素技術の標準化とルールメイキングの連携
の強化を図っています。
新興国との間では、
- 脱炭素化に対する幅広い解決策の提示
- 市場獲得を踏まえた2国間及び多国間の協力
が進められる予定です。
参考:(5)国際連携 4.分野横断的な主要政策ツール 2050年カーボンニュートラルに伴うグリーン成長戦略 内閣官房
4、企業のカーボンニュートラルへの取り組み事例
企業による、カーボンニュートラルへの取り組み事例について、ご紹介します。
(1)阪急電鉄の事例
阪急電鉄は、摂津市駅を、日本初の「カーボン・ニュートラル・ステーション」としました。カーボン・ニュートラル・ステーションとは、駅から排出されるCO2量を、ゼロにする駅を指します。
省エネ設備によって、CO2を削減し、直接的に削減が困難なCO2については、排出枠購入等の方法を取っているのです。
画像引用元:環境対策 摂津市駅の取り組み 阪急電鉄
摂津市駅では、省エネ設備として以下を導入しました。
- 太陽光発電
- 無水トイレ
- 雨水利用設備
また、駅周辺に緑を植えることで、CO2の吸収を促しています。
(2)三菱重工の事例
三菱重工は、2020年11月に、「エナジートランジション」というプロジェクトを発表しました。
エナジートランジションとは、以下4つのステップで、ネットゼロカーボンの達成を目指す取り組みです。
- 第1ステップ:火力発電の脱炭素化と原子力によるCO2削減
- 第2ステップ:産業用エナジーの効率的な活用
- 第3ステップ:カーボンリサイクルの推進
- 第4ステップ:水素バリューチェーンの構築
参考:三菱重工、2050年カーボンニュートラルに向けた戦略「エナジートランジション」を発表 原子力産業新聞
5、カーボンニュートラルに向けた世界の取り組み
カーボンニュートラルに向けた、主要国での取り組みや指針についてご紹介します。
(1)アメリカ
バイデン大統領は、2021年4月の気候変動サミットで、温室効果ガス排出量の削減目標を発表しました。2030年までに、温室効果ガスの排出量を2005年より、50%~52%削減することを宣言しました。
バイデン大統領の選挙公約では、「気候変動対策関連に2兆ドルの投資」という公約も掲げられているため、今後の政策に注目が集まっています。
参考:米 温室効果ガス排出量“2030年までに半減” 新たな目標表明へ NHK
バイデン政権発足で変革する気候変動政策(米国) 日本貿易振興機構(ジェトロ)
(2)ヨーロッパ
ヨーロッパでは、欧州連合(EU)が2050年カーボンニュートラル実現を目指し、2019年に「欧州グリーンディール」を発表しています。
欧州グリーンディールとは、2050年までに、EU域内の温室効果ガス排出をゼロにするという政策です。EUでは、欧州グリーンディールを推進するために、2021年3月に「欧州気候法」を制定しました。
また、将来的な指針となる「欧州気候協約」に対する意見の公募も始めています。
参考:脱炭素と経済成長の両立を図る「欧州グリーンディール」 EU MAG 欧州委、気候中立を盛り込んだ気候法案発表 日本貿易振興気候(ジェトロ)
(3)中国
習近平主席は、2020年9月の国連総会で、2060年カーボンニュートラル目標を発表しました。
2060年カーボンニュートラル目標とは、2030年までに、CO2排出量を減少に転じさせ、2060年までに、CO2の排出量を実質ゼロにする、という目標です。
中国は2020年12月の「気候野心サミット2020」で、2030年までに、GDPに対するCO2排出量を2005年より、65%以上減らすことを宣言しています。
参考:中国 2060年までにCO2排出「実質ゼロ」 習主席が国連総会で発表 毎日新聞
PoliPoliで公開されている環境関連の取り組み
誰でも政策に意見を届けることができる、政治プラットフォームサービス「PoliPoli」では、再エネで地域も経済も活性化する気候危機政策について、以下のように公開されています。
あなたの願いや意見が政策に反映されるかもしれないので、是非下記のリンクからコメントしてみてください。
PoliPoli|再エネで地域も経済も活性化する気候危機対策!
(1)再エネで地域も経済も活性化する気候危機政策の政策提案者
議員名 | 田嶋 要 |
政党 | 衆議院議員・立憲民主党 |
プロフィール | https://polipoli-web.com/politicians/JskZ6HJLEgwWJZkKTVZN/policies |
(2)再エネで地域も経済も活性化する気候危機政策の政策目標
政策目標は主に以下の通りです。
- 再エネを中心とした分散型エネルギーシステムに移行し、そのプロセスを促進するグリーンリカバリーによる投資と海外に支払っていた燃料費を国内で循環させることにより、脱炭素社会の実現と経済・社会の活性化を両立させます。
(3)実現への取り組み
実現への取り組みは以下の通りです。
- 分散型エネルギー社会を実現するための基本法をはじめとした環境整備を行い、エネルギーの地産地消や原発依存からの脱却、エネルギー転換の過程で起こる雇用の公正な移行を実現します!
この政策の詳細をより知りたい方や、政策の進捗を確認したい方は下記リンクからご確認ください。
まとめ
今回は2050年カーボンニュートラルについて解説しました。
2050年カーボンニュートラルとは、2050年までに温室効果ガスの排出を実質ゼロにするという目標です。日本だけではなく、世界各国がカーボンニュートラルを掲げています。
従来のように、直接的なCO2削減だけではなく、直接的に削減できないCO2をどのように、実質ゼロにしていくのかが、重要な点になってくるでしょう。