「政治をもっと身近に。」
政治に関する情報をわかりやすくお届けします。

政治ドットコムインタビュー【厚生労働省インタビュー】ヘルスケアにイノベーションを!現場発の新しい政策議論のかたち

【厚生労働省インタビュー】ヘルスケアにイノベーションを!現場発の新しい政策議論のかたち

投稿日2024.9.18
最終更新日2024.09.19

2024年6月に閣議決定された「経済財政運営と改革の基本方針(骨太の方針)」では、医療・介護サービスの創出やスタートアップの新興・支援が盛り込まれ、ヘルスケア産業をめぐる政策の議論が活発化しています。

厚生労働省の「ヘルスケアスタートアップ等の振興・支援策検討プロジェクトチーム(ヘルスタPT)」では6月27日に最終提言がまとめられ、MEDISO(医療系ベンチャー・トータルサポートオフィス)を通じたスタートアップ支援の拡充などの施策が盛り込まれました。

今回は、厚生労働省 大臣官房会計課の鈴木敦士課長補佐に、ヘルスタPTの議論と最終提言のポイント、今後の展望をお伺いしました。

【関連記事】
・ヘルスタPT立ち上げ(塩崎彰久厚労大臣政務官インタビュー)
https://say-g.com/interview-shiozaki-akihisa-7620
・ヘルスタPT中間提言(大阪大学 八木雅和准教授インタビュー)
https://say-g.com/interview-yagi-masakazu-8196

(取材日:2024年7月12日)
(聞き手・文責:株式会社PoliPoli 井出光)

厚生労働省鈴木敦士課長補佐インタビュー

鈴木敦士(すずき あつし)厚生労働省 大臣官房会計課 課長補佐

2009年厚生労働省入省。主に、介護保険、年金事業、新型コロナウイルス対策、副大臣秘書官などの業務に従事。

「ヘルスタPT」での新しい政策議論のかたち

「ヘルスケアスタートアップ等の振興・支援策検討プロジェクトチーム(以下、ヘルスタPT)」立ち上げの背景として、厚労省としてはどのような課題を持っていたのでしょうか。

日本の医療・介護分野のスタートアップ市場は、アメリカに比べるとその規模に大きな差があります。ユニコーン企業(企業価値10億ドル以上の未上場企業)はまだゼロです。

高齢化によって大きなニーズがあり、医療DX・デジタル化によるデータの蓄積もあるため、日本発のヘルスケアスタートアップは社会課題を解決するのみならず、世界の中で競争優位を持てうる産業領域です。ただ、その分野の特性上、ルールメイキングとは切っても切り離せない関係にあります。こうしたことから、プロジェクトチームでは医療・介護分野の特徴に特化した形で振興策を改めて検討することにしました。

厚生労働省鈴木敦士課長補佐インタビュー

スタートアップ施策については既に5カ年の育成計画を政府全体として2022年11月に設けており、成長を促すための人材や資金面の支援策を講じています。この「ヘルスタPT」では「スタートアップが実際に成長をしていく中でどのような課題に直面するのか、現場目線・当事者目線で検討していく必要があるんじゃないか」という視点も取り入れました。

「ヘルスタPT」での議論は、どういう点で新しいものだったのでしょうか。

PTの立ち上げ時から、チームリーダーである塩崎彰久厚労大臣政務官より「骨太の方針や、新しい資本主義のグランドデザイン及び実行計画にこのPTの議論の結果を反映させる」という方針をいただき、そのスケジュール感に沿って議論を進めたことで短期間ながら多数の施策を同時に作ることが出来たと考えています。

「骨太の方針」に間に合うよう、4月に重点的な課題を中心に中間取りまとめを発表し、それ以外の課題も含めて6月末の最終とりまとめに入れる2段階形式にしたことが良い進め方だったと思います

(参考:塩崎彰久厚労大臣政務官インタビュー
https://say-g.com/interview-shiozaki-akihisa-7620

施策について有識者の先生方が御発案をされたことも大きな特徴です。「ヘルスタPT」では12人の有識者の先生が入り、座長の本荘修二さん(本荘事務所 代表/日本、米国、アジアのスタートアップ、大企業、投資家のアドバイザー)をはじめ、実際にヘルスケア領域で事業を展開・支援してきた方々に音頭をとっていただきました。現場を知る人だからこそ見えている視点があることを実感しました。

(参考:大阪大学 八木雅和准教授インタビュー
https://say-g.com/interview-yagi-masakazu-8196

また、「ヘルスタ・アイデア・ボックス!」を開設し、国民のみなさまから広く意見を反映させようとしたことも国民の政策作りへの参加を進める意味では新しい形と言えるのではないでしょうか。

具体的に、省庁では把握しきれていなかった課題としてどのようなものが挙がったのでしょうか。

たとえば、医療法人の役員である医師がスタートアップの役職員も兼ねる場合、開発したスタートアップの製品を自らの医療法人に導入できないという制約があります。これは利益相反的な形にならないようにするという意味で必要なルールなのですが、慎重になりすぎている部分があって、せっかくいい製品を作って自らの医療機関でも用いたいという時の制約になっているという声をいただきました。

この結果、医療機関の非営利性に影響を与えない範囲であれば取引を行うことを可能としており、具体的には今後子細の検討が進められることになっています。

厚生労働省鈴木敦士課長補佐インタビュー

(「ヘルスケアスタートアップの 振興・支援に関するホワイトペーパー」2024年6月27日より)

また、医療機関はサイバー攻撃を近年受けることも一定数あることから、サイバーセキュリティ対策非常に厳しくしているところが多くなっています。そのこと自体はもちろん評価できることでありますが、スタートアップにとって自ら開発した製品を医療機関に導入して欲しいという際に、どうしてもハードルが高くなりがちです。そこで、そのような製品がセキュリティ要件を満たしていたら、公的機関が認証してあげればいいではないかということで、検討が始まっています。

こうした発案は、いずれも我々が行政を平素担う上では把握しづらい論点です。有識者の方が現場で起きていることを積極的に共有していただき、省庁側もそれらをさまざまな観点から分析・議論し、最終的なアウトプットを出すことができました。どれもスタートアップの売上に直結する重要な論点で、政策の検討スタイルの一つとして評価できると思います。

「ヘルスタPT」最終提言のポイント

6月27日に公表した最終提言のポイントは何でしょうか。

「医療・介護分野のヘルスケアSU(スタートアップ)の振興・支援を強力に推進する」、この部分は「ヘルスタPT」の大きな成果だと考えています。この文言はそのまま「骨太の方針」に盛り込まれていて、文字通り強力に推進していく政府の姿勢を示しています

厚生労働省鈴木敦士課長補佐インタビュー

(「ヘルスケアスタートアップの 振興・支援に関するホワイトペーパー」2024年6月27日より)

ヘルスケアスタートアップの振興はまだスタート地点に立ったばかりです。アカデミアの研究が実用化に向けた研究を成功させ商業化していく道筋を立てられるようになること(トランスレーショナルリサーチ)がとても重要ですが、世界的にはスタンフォード大学の産学連携プログラム「SPARK」が著名で、先端的な研究成果を実用化していくために学内で審査が行われ、審査に通過すると大学から関連領域の専門家の支援や資金援助などを受けることができます。

昨年度、「MEDISO」においてもSPARKと連携したプログラムを筑波大学の協力を得て展開し、様々なアカデミア発のスタートアップの方々にこのプログラムを受けていただいています。今回の最終とりまとめにおいてはMEDISOの機能・体制を充実・強化が挙げられていて、このようなプログラムの更なる展開を目指しています。

生労働省鈴木敦士課長補佐インタビュー

スタートアップが世界トップレベルのVCとつながるようになることは、スタートアップが資金面で充実した投資を受けられるようになるだけでなく、経営や事業実施の最適な助言を受けられるようになるという意味でも極めて重要です。

スタートアップ自身がより投資を受けられる魅力的なものになっていくことと、レベルの高い投資を受けられるためのアクセスが向上していくことが実現できれば、この組み合わせにより、これからスタートアップが置かれる環境は景色が変わることが期待できます。

この「ヘルスタPT」での議論はこの最終提言で終わったのでしょうか。

いえ、これからも続いていきます。最終とりまとめにおいて、工程表に基づき施策を進めることとしています。

社会変革のための政策策定のやりがい

厚生労働省鈴木敦士課長補佐インタビュー

市場が変化する中で政策を作り上げるモチベーションを教えてください。

自らの頭を使って考えて問題解決をすることによって、国民の皆様に提供される行政サービスそのものであったり、行政サービスが提供される現場が良くなったりという成果が出る瞬間です。

そのためには、現場で起きていることを把握し、仮説を立てて徹底的に考え抜き、その仮説があっているかを現場に照らしてみるというサイクルが必要です。以前、新型コロナウイルス対策に従事していたときも保健所業務の現場に徹底的に寄り添って考え抜き、オミクロン株が来る前に運用改善を行えた経験があります。

施策の実現にあたっては、様々なステークホルダーも含めた合意形成も非常に重要です。真剣な議論の場ではそれぞれの立場にある人の意見や利害が衝突することもしばしばありますが、省庁はその間に立って答えを出していくことができる立場でもあります。今回の「ヘルスタPT」でも、省庁がスタートアップ企業の目線から様々なアイデアをいただき、社会実装する上で注意すべき論点を洗い出し、対案や落とし所を見つけていくというプロセスが多くの検討課題においてありました。多くの要素を取りまとめ、政策という成果物が出来上がっていく。これが霞ヶ関における仕事の醍醐味ではないかと思います。

この記事の監修者
政治ドットコム 編集部
株式会社PoliPoliが運営する「政治をもっと身近に。」を理念とするWebメディアです。 社内編集チーム・ライター、外部のプロの編集者による豊富な知見や取材に基づき、生活に関わる政策テーマ、政治家や企業の独自インタビューを発信しています。