市場の失敗とは、需要と供給のバランスで維持されている経済が、あるきっかけによってそのバランスが崩れ、不況や格差など、市場の混乱を引き起こす状態を指します。
「市場なんてよく分からないし、経済は難しい・・・」と感じる人も多いと思いますが、市場とは私たちの生活そのものであり、仕組みを理解できれば安心して暮らせることでしょう。
そこで今回の記事では、
- 市場とは何なのか
- 市場の失敗について
- 市場の失敗が起きたらどうすれば良いのか
についてわかりやすく簡単に解説していきたいと思います。
本記事がお役に立てば幸いです。
1、市場とは
私たちの経済は「売る」「買う」の両方があって成立しています。
「自営業じゃないし、私は買うだけかも・・・」と思った人もいるかもしれませんが、企業に雇われ仕事をしていれば市場で自分の能力(労働力)を売り、その対価として給料をもらっていることになります。
そして、市場とはこれらの売り買いが行われる場所のことで、商品やサービスの価格を決める役割も持っています。
つまり、私たちがもらっている給料もこの市場で決められています。
市場で価格が決まるメカニズムを見てみましょう。
価格を考える際は需要と供給のバランスがポイントになります。
簡単にいえば需要とはその商品を欲しい!と思う人数、供給とは生産量を指します。
需要が供給を上回れば価格は上昇し、供給量が需要を上回れば価格は下がります。
このメカニズムはコロナ禍におけるマスクの事例をイメージするとわかりやすいかもしれません。
コロナ禍で需要が一気に高まったマスクの価格は高騰し(2020年3月時点)、供給が安定すれば価格が下がりました。
このように私たちが買う商品やサービスの価格は市場の需要と供給によって決まります。
この市場の需要と供給のバランスを保っているのが市場のメカニズムと呼ばれるもので、このバランスが失われた状態を「市場の失敗」と呼びます。
市場のメカニズムが働いている状態では需要と供給のバランスが保たれ、適正な価格で取引ができる一方で、市場の失敗が起きている状態では、需要と供給のバランスが崩れ、その影響で貧困や格差の発生、失業、環境破壊などが起きるとされています。
2、市場の失敗とは
市場の失敗とは前述の通り、市場の需要と供給のバランスが崩れ、その影響で不況や環境汚染などの問題が発生する状況を指します。
(1)外部性の問題
外部性の問題とは、売り手でも買い手でもない第3者に市場のネガティブな影響が向かうことで、外部不経済とも呼ばれます。企業による公害や環境汚染などがこの外部性に当てはまり、外部性の問題の対策としては
- 企業が排出する汚染(外部)に税金をかける「ピグー税」
- 排出する権利を企業に購入させる「排出権取引」
- 環境汚染を軽減する補助金
などがあります。
環境に配慮しつつ企業がものを生産していけるようなシステムが求められています。
外部性の問題に対応するのは企業だけではなく消費者も含まれ、ガソリン購入時の「ガソリン税」は車の排出ガス削減や価格の適正化に繋がっています。
外部性の問題(外部不経済)については以下の関連記事でもご紹介しています。
外部不経済とは?外部経済との違い・問題点と対策・事例を紹介
(2)独占及び寡占
独占及び寡占(かせん)とは、特定の企業や複数の企業が市場を独占することを指します。
これらの独占及び寡占が起きるとどうなるかというと、
- 価格が故意的に上げられる
- 不完全な競争が起きるため品質が低下する
などの問題が起こり、価格で競争できない企業が「非価格競争」に走ることで、市場の価格調整機能が損なわれ、市場の失敗が起きやすくなります。
これらの独占及び寡占の対策には、公正取引委員会による独占禁止法の取り締まりが挙げられ
- 競争相手を市場から排除しようとする私的独占
- 複数の企業で価格や生産量を決めるカルテル
- 企業同士が水面下で約束を作る入札談合
などが禁止されています。
(3)情報の非対称性
情報の非対称性とは、商品を売る側と買う側の知識に差がある状態を指します。
具体的には
- 病院受診時に医師から説明された専門知識以外のことを患者は知ることができない
- 中古車の購入時に見た目以外の性能の欠陥を消費者は知ることができない
などのケースが挙げられ、この情報の非対称性が過度に進むと消費者はリスクを恐れ、購入を控えるようになり、市場が停滞します。
また、情報の非対称性から消費者が適正価格を判断できず低価格に走る状況が起き、企業は利益を狙ったつもりが最終的には市場が落ち込む「逆選択」も起こりやすくなります。
この情報の非対称性には消費者の問題も含まれ、
- 保険の加入後に事故や病気への注意力が低下する
- 保険を悪用し故意的に事故を起こし請求する
などの自然発生的、故意的どちらも含めて情報の非対称性ゆえに起きる損害を「モラルハザード」と呼びます。
情報の非対称性への対策には、
- 情報の公開
- 品質の保証
- わかりやすい説明
- 評価制度の導入
などが挙げられ、第3者によって従業員を評価してもらう、会社自体を評価(検査)してもらう企業も増えています。
(4)不確実性
不確実性とは、市場の先行きが見えなくなるような不確実な要因(災害、事故など)を指します。
市場は良好なバランス(パレート最適)で保たれているものの、「この先、どうなるかわらかない」という不確実な要因が発生すると市場のバランスが乱れやすくなります。
いつ感染が終わるか分からないコロナ禍にも不確実性があります。
(参考 パンデミック:時間軸と不確実性 独立行政法人経済産業研究所)
この不確実性と関係のあるメカニズムが流動性選好(りゅうどうせいせんこう)です。
流動性選好とはお金(貨幣)を貯蓄することで安心を得ようとする人間の性質のことで、
流動性選好が高まれば
- 需要が低くなる
- 金利が低下する
- 物価が下落する
- 不完全雇用(雇用の不足)が発生する
などの問題が発生し、仮に貨幣の供給を増やしたとしても「貨幣を持つことで安心したい」人々の気持ちが勝つため、どんな金融政策でも効果が起きづらい状態を引き起こします。
(5)公共財
公共財とは、公園、公衆トイレ、道路、警察、消防など公的な施設やサービスを指します。
この公共財には
- 誰でも利用できる、つまり誰の利用も拒絶することはできない(排除不可能性)
- 誰でも利用できるため消費者が競合することがない(消費の集団性)
という2つの特徴があり、公共財を使うためにお金を払おうという意識を持つ人はあまり多くありません。
公共財の需要は高いものの、その公共財の対価を払おうと考える人が少ないため、需要が高いのに供給ができないという市場の失敗を引き起こします。
また、対価を考える人が少ないため、利益によって運営を行う民間に託すこともできず、税金を使って維持し続ける必要もあります。
対価を払わずに利用しようとする人々を「フリーライダー」と言いますが、近年は救急車をタクシー代わりにタダ乗りしようとする人が問題になりました。
地球温暖化や海洋のゴミ問題も、このフリーライダーの意識が原因なのではという議論も起きています。
(参考 貢献か、フリーライドか? 公共財経済における自主的参加 独立行政法人経済産業研究所)
3、市場の失敗が起きるとどんな悪影響がある?
冒頭でも説明した通り、市場の失敗が起きれば、
- 失業
- 貧困
- 格差
- 自殺
- 自然破壊
などの悪影響が及びます。
経済とは一見関係のないこれらの出来事は市場の失敗とは見なされないと考えられていましたが、経済と社会は裏表のような関係のため、昨今ではこれらの出来事が起きた場合にも市場の失敗が起きていると考えられる傾向にあります。
そして、最近注目を集めているのは市場の失敗と環境問題の関係です。
従来の市場では、生産過程で企業が環境破壊を行っていても咎められることはなく、多くの企業が環境汚染を行い続けた結果、地球温暖化や気候変動を進行させる原因になったと考えられています。
「市場の悪影響が取引に関係のない第3者に自然災害として降りかかる」
これは先述の通り市場の失敗に挙げられる外部性の問題に繋がり、環境のことを考えずに自分たちの利益のみを優先する企業の意識はフリーライダー問題にも通じます。
これらの状況を鑑みて、世界の国々では環境を守るための環境税を導入するなど、世界規模の取り組みが始まっています。
4、市場の失敗が起きた際の政府の役割
市場の失敗が起きた際には、政府にはその状態を立て直すという役割があります。
政府の役割には
- 独占禁止法などの法整備と実施
- 公共財の供給
- 富の再配分(税や社会保障を使って所得を分配する)
などがあり、市場を健全な状態に保とうとする政策を「競争政策」といいます。
しかし政府が市場に介入すれば市場の失敗はすぐに解決できるのかというとそうでもなく、政府の経済政策によって利益よりも損失が上回ることを「政府の失敗」と呼びます。
また、政府の役割をどこまで求めるのかという線引きは、「大きな政府」と「小さな政府」の議論にも繋がります。
まとめ
今回は「市場の失敗」について解説しました。
市場の失敗とは、市場の需要と供給のバランスが崩れる状態を指します。
また、市場の失敗は人々や環境に悪影響を及ぼします。