「外部不経済」とは、市場の外部に市場の取引によって生まれた不利益が影響を及ぼすことで、工場による空気汚染や旅客機の騒音などが外部不経済に当てはまります。
対義語には「外部経済」があり、外部経済とは市場の商品やサービスのおかげで関係のない第3者がメリットを受けることを意味します。
たとえば、家の近くに新しい駅が開通すれば土地の値段も上がり外部経済が発生しますが、人が増えることでゴミが増えたり騒音に悩まされる外部不経済も生まれます。
今回はこの「外部不経済」および「外部経済」についてわかりやすく簡単に解説します。経済について詳しく知りたい方は以下の記事もご覧ください。
1、そもそも外部性とは
外部性とは、売り手でも買い手でもない第3者に及ぶ市場取引の影響を指し、
- ポジティブな影響を「外部経済(正の外部性)」
- ネガティブな影響を「外部不経済(負の外部性)」
と呼びます。
外部性=市場の外まで及んだ市場取引の影響である、と覚えるとわかりやすいかもしれません。
外部性の歴史を見てみましょう。
外部性という言葉は、イギリスの経済学者アルフレッド・マーシャル(1842年~1924年)によって生み出されました。
ケンブリッジ大学の教授としても活躍していたアルフレッド・マーシャルの教え子には「大きな政府」で有名な経済学者のケインズ、「ピグー税」を提案したアーサー・セシル・ピグーも在籍し、アフレッド・マーシャルは後の経済学に多大な影響を与えた人物でもあります。
2、外部経済(正の外部性)とは?
外部経済(正の外部性)とは、ポジティブな市場の影響を指します。
外部経済(正の外部性)の代表例として挙げられるのは、養蜂家と果樹園農家の関係です。
蜂蜜を作る養蜂家と果物を作る果樹園農家が隣同士に位置していたとします。
ミツバチは本能的に植物(果樹)の受粉を行うため、養蜂家がミツバチの生育をしているかぎり、果樹園農家は受粉の手間が省け、より多くの果樹を栽培、生産することができます。
- 最初から養蜂家が果樹園農家を手助けする目的はなかったこと
- 果樹園のために飼われたミツバチではないこと
以上から、これは正の外部性が働いたということになります。
3、外部不経済(負の外部性)とは?
外部不経済(負の外部性)とは正の外部性の対義語でもあり、ネガティブな市場の影響を指します。
外部不経済(負の外部性)の代表例として挙げられるのは「公害」です。
水俣病の例を見てみましょう。
水俣病は熊本県水俣市の工場排水に含まれる水銀が海に流失し、その水銀を含んだ魚介類を住民が食べたことによって水俣病を発症しました。
この工場ではビニールに必要なアセトアルデヒドが製造され、最終的には水俣湾が埋め立てられることによって問題は解決しました。
参考: 環境省
- 工場(企業)が汚染を把握していなかったこと
- 被害に遭った住民は工場に関係のない人々だったこと
- 広範囲の環境汚染を行ってしまったこと
などから、この事件には負の外部性が働いたといえます。
工場から排出されるゴミの場合は企業が排出量を認識し、破棄についても国の法律下で管理することができますが、水俣病のような予期していない水質汚染の場合は、企業が気づかない間に汚染を広め、負の外部性がより強く作用してしまうことがあります。
また外部不経済は市場の失敗という市場の混乱を指す大きな括りの1つでもあります。
4、外部不経済の問題点とは
外部不経済とは市場のネガティブな影響を指す言葉ですが、近年問題になっている地球温暖化や異常気象も外部不経済が関係していると言われています。
外部不経済の問題点として挙げられる「環境汚染」、そしてその問題の対策として挙げられる「内部化」と「ピグー税」について解説していきたいと思います。
(1)環境汚染
外部不経済には大気汚染や水質汚染など、公害に繋がる外部性が含まれ、これらの負の外部性を解決するためには汚染物質を排出する企業への規制が必要になります。
企業による環境汚染(外部不経済)の例をいくつか見てみましょう。
酸性雨
原因:排気ガスや工場のけむり
影響:硫酸や硝酸の雨を降らし、農作物を枯らしたり、生態系を壊したりする
光化学スモッグ
原因:排気ガスや工場のけむり
影響:太陽光を浴びて光化学オキシダントという物質に変化し、目の痛みや喉の不調を起こす
PM2.5
原因:排気ガス、工場のけむり、喫煙、ストーブなど
影響:呼吸器や循環器に悪影響を及ぼす
このように水俣病のような大きな公害にかぎらず、私たちが生活していく上で外部不経済の影響を受ける可能性は十分にあります。
また、企業による環境汚染にはフリーライダーの問題も関係しています。
フリーライダーとは日本語に訳すと「タダ乗り」を意味しますが、自分の利益ばかりを追求し、その地域を利用するコストを考えない企業などのことをフリーライダーと呼びます。
これは個人にも当てはまることで、清掃費を考えずに公道にゴミをポイ捨てをする人、救急車をタクシー代わりに使う人もフリーライダーと呼べます。
(2)内部化|ピグー税
企業による環境汚染(外部不経済)の対策として挙げられるのは、
- 「内部化」
- 「ピグー税」
です。
内部化とは、外部で発生しうる環境汚染(外部不経済)への負担を市場の内部に取り込むことで、環境汚染の責任を政府ではなく企業に負担させることが特徴です。
一方で、政府には企業がきちんと環境に配慮できるように整備を進め、監視を行うことが求められます。
たとえば、水質汚染をしている企業に対して政府が浄水器の設備を義務付けたり、汚染に対して税をかけて徴収したりすると、企業はそのコストに見合った商品価格を考えるようになります。
この流れも外部に及ぶ影響を内部で解決する内部化のひとつといえるでしょう。
また、政府主導ではなく当事者同士(企業と周辺住民)で話し合い、外部不経済を解決する方法もあります。
これは「コースの定理」と呼ばれ、企業が住民に賠償金を払う、住民(国民)が企業に補助金を払う、どちらの方法でも最適な資源の配分ができるという理論に基づいています。
そして、外部不経済の内部化で欠かせないものはイギリスの経済学者アーサー・セシル・ピグーが生んだ「ピグー税」です。
ピグーは外部性という概念を見つけたアルフレッド・マーシャルの教え子だということは冒頭でも説明しました。
ピグー税とは環境汚染を行う企業へ課される税金を指し、排出に対して課税する考え方です。そして、課税によって生産コストを上げ排出量を操作する「ボーモル・オーツ税」という考え方もあります。
また、ピグー税には企業や消費者に対して政府から支給される「ピグー補助金」もあり、エコカー補助金や太陽光発電の補助金がこれに当てはまります。
参考:環境省
外部不経済に関するQ&A
Q1.外部性とは?
外部性とは、売り手でも買い手でもない第3者に及ぶ市場取引の影響を指し、以下の種類に分けられます。
- ポジティブな影響を「外部経済(正の外部性)」
- ネガティブな影響を「外部不経済(負の外部性)」
Q2.外部不経済(負の外部性)の代表例は?
外部不経済(負の外部性)の代表例として挙げられるのは「公害」です。熊本県水俣市で起こった水俣病もそのひとつです。
Q3.企業による環境汚染(外部不経済)の対策は?
企業による環境汚染(外部不経済)の対策として以下が挙げられます。
- 内部化
- ピグー税
まとめ
今回は「外部不経済」について解説しました。
2020年7月からはじまったレジ袋の有料化もビニール袋によるプラスチックごみの増加という外部不経済の解決を図るものです。
外部不経済は企業だけの問題のように感じますが、環境汚染や地球温暖化からもわかるように私たちの消費行動のひとつひとつにも正の外部性と負の外部性が働いています。
オーガニックの商品を買う、エコバッグを持つ、環境に配慮している企業から商品を買うなど、外部不経済を生み出さない消費に気を配りたいですね。