年金について理解することは、将来の生活においてとても大切なことです。しかし、年金制度の複雑さにより、全体像を把握している人は稀です。
年金制度をよく理解せずにおくと、老後に大きな後悔をすることになりかねません。
この記事では、以下の年金の基礎知識についてわかりやすく解説いたします。
- 年金制度の概要
- 3階建ての仕組み
- 公的年金と私的年金の違い
この記事を機に年金について理解を深め、将来の生活に備えましょう。
1、年金とは
年金は保険の一種です。
保険とは、将来のリスクに備えて「毎月少額の保険料(掛け金)」を支払い、そのリスクが現実のものになったら「多額のお金である保険金」を受け取る仕組みです。
年金制度が想定するリスクには、
- 障害
- 死亡
- 老化
があります。
これに対応して日本の年金には、
があります。
本記事では「老齢年金」について解説します。
年金制度の改革について詳しく知りたい方は下記の記事もご覧ください。
年金制度改革法とは?年金受取の開始年齢の改正・背景を簡単解説
(1)公的年金と私的年金
年金には、公的年金と私的年金があります。
公的年金とは、行政機関や公的機関が運営する年金制度です。
国民年金や厚生年金保険などは、公的年金です。
公的年金の財源には、税金が投入されます。
また、国内に居住している20歳以上60歳未満の人は原則全員、公的年金(国民年金)に加入しなければなりません。
ただし「国民基礎年金」に関しては別です。
詳しくは後ほど解説します。
公的年金以外の年金を、私的年金といいます。
企業が運営している年金や、加入が義務化されていない年金が私的年金になります。
(2)「3階建て」構造
年金は「3階建て」構造になっています。下の概念図に沿って解説します。
3階 | 保険会社が運営している私的年金 | |||
個人型確定拠出年金(iDeCo、イデコ) | ||||
・厚生年金基金
・確定給付企業年金 ・企業型確定拠出年金 |
年金払い退職給付 | |||
2階 | 国民年金基金 | 厚生年金保険 | ||
1階 | 国民年金(基礎年金) | |||
被保険者 | 自営業者、個人事業主、フリーランス、学生、農家、フリータ、無職者
(1号被保険者) |
会社員
(2号被保険者) |
公務員
(2号被保険者) |
専業主婦や専業主夫
(3号被保険者) |
(参考 投資信託協会)
被保険者とは「年金に加入している人」のことです。
被保険者は職業や立場によって1~3号にわかれます。
20歳~60歳未満の人は全員、1~3号に割り振られて、被保険者になります。
1階は国民年金で、すべての被保険者が加入することから基礎年金と呼ばれることもあります。
2階部分は、人によって異なります。
1号被保険者である自営業者や学生などは2階部分の国民年金基金(国民年金と紛らわしいのでご注意下さい)に加入することができます。
こちらは加入しなくても問題ありません。加入しておくことにより老後基礎年金に上乗せして年金を受け取れる、という仕組みになっています。
2号被保険者である会社員と公務員は厚生年金保険に加入します。
会社員と公務員は、必ず厚生年金保険に加入します。
3号被保険者である専業主婦・主夫には、2階部分はありません。
「階」は老後の保障の手厚さを示します。
1階だけの被保険者より、2階や3階を持つ被保険者のほうが、老後の保障が手厚くなります。
以上、2階までが公的年金になります。
私的年金である3階部分は、2号被保険者には
が用意されています。
そのため、最も老後の保障が手厚いのは2号被保険者である、といえます。
ただ、個人型確定拠出年金(iDeCo、イデコ)と保険会社が運営している私的年金には、すべての被保険者が加入することができます。
自営業者など(1号被保険者)や専業主婦・主夫(3号被保険者)は、会社員や公務員(3号被保険者)より保障が薄くなっているので、個人型確定拠出年金(iDeCo、イデコ)や保険会社の私的年金に加入して、老後の安心を補強することもできるのです。
2、公的年金とは
公的年金について、さらに詳しく見ていきましょう。
(1)国民年金とは
国民年金は「20歳~60歳未満の全員が加入しなければならない」「税金が投入されている」という2つの性質があります。
国は、国民に国民年金への加入義務を課すことで、国民の老後を守ろうとしています。
これは老化に伴い、若い頃の様にフルタイムで働くことが困難になるからです。
そして年金財源には税金が投入されているので、加入者(被保険者)は原則、支払った保険料の総額を上回る年金を受け取ることができます。
「加入義務」と聞くと、ネガティブなイメージを持つかもしれませんが、国民年金は、ほぼ確実に「お得」になる制度なので、安心して加入できます。
厚生年金に加入している人は、自動的に国民年金の被保険者(国民年金に加入している人)になります。
会社員や公務員は、わざわざ自分で国民年金に加入する手続きをしなくても、厚生年金に加入して、同時に国民年金に加入します。
厚生年金に加入している夫または妻に扶養されている配偶者(妻または夫)は、厚生年金には加入しませんが、3号被保険者として国民年金に加入します。
国民年金は政府が運営しており責任者は厚生労働大臣です。
ただし、国民年金の運営事務は、日本年金機構が行っています。
(2)厚生年金保険
かつては、会社員は厚生年金保険に加入し、公務員は共済年金に加入していましたが、2015年10月に両者が一元化され、厚生年金保険制度が残りました。
そのため今は、公務員も厚生年金保険に加入します。
(3)国民年金基金
国民年金基金は、1号被保険者(自営業者など)の老後の保障を手厚くする年金制度です。
国民年金基金を運営している組織は「国民年金基金」で、この組織は国の認可を受けた公的機関といえます。
そのため、年金制度としての国民年金基金は公的年金といえます。
しかし、国民年金基金への加入は任意です。任意とは、「加入しても加入しなくても、どちらでもよい」という意味です。
したがって、国民年金基金には、私的年金の性質もあります。
国民年金基金に加入すると、毎月の保険料は高くなりますが、老後にもらえる年金額が上がります。
3、私的年金とは
私的年金について更に詳しく解説します。ここでは次の3つを紹介します。
- 企業年金(厚生年金基金、確定給付企業年金、企業型確定拠出年金)
- 公務員の私的年金(年金払い退職給付)
- 個人で加入する私的年金(個人型確定拠出年金(iDeCo、イデコ)
(1)企業年金とは
企業年金は、企業が自社を定年退職した社員たちの生活保障をするために始めた仕組みですが、その後、国が正式な制度として認めました。
企業年金では、さまざまな制度が現れたり消えたりしていますが、
- 「厚生年金基金」
- 「確定給付企業年金」
- 「企業型確定拠出年金」
の3種類が主にあります。
①厚生年金基金
厚生年金基金は、「厚生年金」と付いていますが、公的年金の厚生年金とは別の制度で、私的年金です。
各企業が独自に「厚生年金基金」という基金をつくり、自社の社員を加入させます。
そのため、自分が勤める会社に厚生年金基金がなければ、厚生年金基金に加入することはできません。
②確定給付企業年金
確定給付企業年金は、会社が、従業員から徴収した保険料を資金にして運用し、その益金を従業員に年金として還元する仕組みです。
③企業型確定拠出年金
企業型確定拠出年金は、企業が従業員にお金を出して(掛け金を拠出して)、従業員がそのお金を資金にして自分で運用して利益を生み出す仕組みです。その利益は年金として受け取ることができます。
(2)公務員の私的年金
公務員の私的年金には、年金払い退職給付があります。
これは、公務員ひとりひとりが、将来の自分の私的年金の原資を、在職中に保険料(掛け金)として積み立てていく仕組みです。利子がつくので、保険料の総額より、将来に年金として受け取る額のほうが多くなります。
(3)個人で加入する私的年金
個人で加入する私的年金には個人型確定拠出年金があり、これは「iDeCo(イデコ)」と呼ばれることがあります。
イデコは自分で申し込み、保険料を支払い(掛け金を拠出し)、自分で運用方法を選択してお金を増やし、将来に年金として受け取ります。
自分のお金で運用する点では、株式投資や不動産投資と似ていますが、イデコには税制上の優遇措置があります。
4、国民年金の加入義務と未加入・未納のリスク
繰り返しにはなりますが、国民年金(基礎年金)には加入義務があります。
20歳になれば、すべての人が強制的に加入させられるのです。「加入義務」「強制加入」とは、国民年金の保険料を必ず支払わなければならない、ということでもあります。
では、国民年金の保険料を支払わなかった場合一体どのようなリスクがあるのでしょう。
(1)保険料が問題になるのは1号被保険者
2号被保険者(会社員や公務員)は、保険料が勤務先の給料から天引きされるので、事実上「保険料を支払わないこと」は不可能です。
また3号被保険者(2号被保険者に扶養されている妻または夫)は、保険料を支払わずに国民年金に加入できるので、「保険料問題」は発生しません。
保険料が問題になるのは1号被保険者である自営業者や学生たちです。
(2)将来不安
国民年金の未加入者と未納者は、全体の5%ほどいます。
しかし、国民年金の未加入者と未納者は、罰則よりもつらい状況が待っているでしょう。
それは「老後、お金に苦労すること」です。
老後に年金を受け取るには、国民年金の納付済み期間と免除期間を合わせた期間(受給資格期間)が10年以上なければなりません。
自分の老後のお金の苦労を減らすためにも、国民年金に加入して保険料を支払いましょう。
(3)免除制度や納付猶予制度などを賢く使おう
保険料の支払いが難しい場合、国民年金の保険料には
- 「免除制度」
- 「納付猶予制度」
があるので、ぜひそれらを利用しましょう。
所得が少ない人は、免除制度や納付猶予制度を使うことで、受給資格期間(最低10年)を増やすことができます。
免除制度では、保険料の支払いが免除されます。保険料を支払わなくてよくなったり、保険料を減額してもらったりすることができます。
納付猶予制度は、「今は」保険料を支払わなくてよくなり、「あとから」追納という形で保険料を支払う仕組みです。
学生には、在学中の保険料の納付が猶予される「学生納付特例制度」というものも存在します。
これはハガキが届きますので、届け出をしっかりと行いましょう。
免除制度、納付猶予制度、学生納付特例制度を使うと、年金の額が減る場合があります。
免除制度、納付猶予制度、を利用する場合には
- 最寄りの税務署
- 役所の税務課
などに相談してみて下さい。
5、年金制度の現状・問題点
実は日本の年金制度には、さまざまな問題があります。
例えば、金融庁が「公的年金以外に、老後資金が2000万円必要」と報告して社会問題になった「2000万円問題」があります。
国はこれまで、「公的年金があるから老後は安心」というイメージをつくり出していましたが、2000万円問題は、そのイメージを否定したと受け取られました。
実際、公的年金だけで、現役時代と同じ水準の生活レベルを老後に送ることは難しいかもしれません。
また、政府は2020年3月に、公的年金を受け取る年齢を引き上げる方針を固めました。
現状は、公的年金は「60~70歳」の間で受け取ることができますが、これを「60~75歳」に広げようというのです。
その代わり年金を遅く受け取ると、年金受給額が増えるようにします。
「2000万円問題」も「受け取り75歳問題」も、年金財政の逼迫が招いたものです。
そして年金財政の逼迫は、
- 高齢者人口の増加
- 労働人口の減少
- 税収の落ち込み
などが招いたものなので、打開策として消費税が10%に引き上げられましたが解決は容易ではありません。
6、年金制度のリスクについて
公的年金も私的年金も「保険」である以上、リスクがあります。
極端な話になりますが、国民年金も厚生年金も、国の財政が破綻すれば一緒に破綻します。
ただ日本の財政が早急に破綻する可能性も少ないので、「国民年金や厚生年金はとても安全」ということができます。
それでも「絶対安全」とはいえません。
一方、企業年金やイデコには「運用」という作業が含まれています。
運用は投資によって行われるので、小さくないリスクがあります。
私的年金は、加入者自身がリスク管理をする必要があります。
まとめ
年金は老後の所得を保障する制度です。
高齢になると働いて多くのお金を得ることが今よりも困難になるので、年金に頼って生活することになります。
ニュースなどで「年金制度が危ない」と思わせる報道が流れることがあるので、「年金に加入したくない」「保険料を支払いたくない」と思うこともあるでしょう。
しかし、年金に頼らない老後にも危険性が潜んでいます。
年金の仕組みを理解して、納得して保険料を支払うことで、未来の保険をかけておきましょう。