障害年金とは、病気やケガによって生活や仕事に支障がある場合に支給される年金の一種です。
政府が呼びかけているように、障害年金制度は、生活者にとって万が一のときの重要な収入源となります。
この記事では、以下について紹介します。
- 障害年金の基礎知識
- 制度課題
内部疾患の方も対象になる障害年金について、より詳しく知っておくことで、将来に備えることができます。
1、障害年金とは
障害年金は、3種類の公的年金の1つです。3つの年金をそれぞれ一言で説明するとこのようになります。
- 老齢年金:高齢になって仕事を引退しても、経済的に困らないための保険
- 遺族年金:家計を支えている人が死亡しても、遺族が経済的に困窮しないための保険
- 障害年金:障害を負っても、経済的に困窮しないための保険
年金は、毎月お金を支払って万が一の事態に備える保険の一種です。
そして障害年金は、保険事故の種類が障害である年金になります。保険事故とは、保険金(ここでは年金)を受け取ることができる出来事(深刻な怪我を負う事故など)のことです。
障害年金には、次の2つの特徴があります。
- 障害基礎年金と障害厚生年金がある
- 障害年金の額(受け取れる金額)は、加入していた制度、障害の程度(等級)、配偶者や子供の有無などによって変わる
今回は障害年金についてご紹介しますが、以下の関連記事では老齢年金について取り扱っています。
年金とは?1から簡単解説|三階建ての仕組みや課題について
また、こちらの記事では遺族年金についてご紹介しています。
遺族年金とは?受給要件や年金額についてわかりやすく解説
2、障害年金の種類
障害年金は障害基礎年金と障害厚生年金があります。ここではその2つの違いなどをご紹介します。受給要件と年金額は複雑な説明が必要になるので、次章でご紹介します。
(1)障害基礎年金(国民年金)
障害基礎年金は、国民年金の制度のなかで運用されています。
受給対象者は、国民年金の被保険者(個人事業主など)です。加入期間中に、障害の原因となった病気やケガが起き、医療機関を受診すると、障害基礎年金を受け取ることができます。
また、被保険者以外でも障害基礎年金の対象になります。20歳未満の人や、60歳以上65歳未満の人は、国民年金の被保険者になることはできませんが、条件を満たすと、障害を負ったとき障害基礎年金を受給できます。
障害基礎年金を受け取ることができるのは、障害等級表の1級または2級に該当する方です。等級は、障害が起きている場所や程度によって定められています。
例えば上肢(腕)の場合、1級は「両上肢(両腕)の機能に著しい障害を有する」場合で、2級は「1上肢(片方の腕)の機能に著しい障害を有する」場合です。
視力では、両眼の矯正視力(眼鏡やコンタクトレンズをした状態)で0.04以下は1級ですが、0.05~0.08は2級です。
(2)障害厚生年金(厚生年金)
障害厚生年金は、厚生年金の制度のなかで運用されています。受給対象者は、厚生年金の被保険者(会社員や公務員)です。
加入期間中に、障害の原因となった病気やケガを負うと、「障害基礎年金」に加えて「報酬比例の年金」を受け取ることができます。ポイントは、障害厚生年金を受け取る人でも、障害基礎年金を受給できることと、障害基礎年金より保障が手厚いことです。
障害基礎年金は、1級または2級の障害を負ったときに支給されますが、障害厚生年金では3級の方にも支給されます。つまり厚生年金の被保険者は、障害基礎年金の対象から外れても、障害厚生年金だけ受給できることもあります。
なお、公務員向けに障害共済年金という制度がありましたが、現在は厚生年金に統合されています。
3、詳しい受給要件について
障害基礎年金も障害厚生年金も、受給要件はかなり複雑です。
(1)障害基礎年金の受給要件
障害基礎年金の受給要件を箇条書きで紹介します。以下の条件を満たすと年金が支給されます。
- 国民年金に加入している間に、「障害の原因となった病気やケガの初診日」(以下、初診日)がある
- 一定の障害の状態にある(1級または2級)
- 20歳未満と60歳以上65歳未満の場合は、国民年金に加入していなくても、初診日があれば対象になる
- 保険料の納付要件:次の、AまたはBいずれかの要件を満たしている必要があります
A:初診日のある月の前々月までの公的年金の加入期間の2/3以上の期間、保険料を納付しているか、免除されている
B:初診日に65歳未満であり、初診日のある月の前々月までの1年間に保険料の未納がない
(ただし、20歳未満の人は「保険料の納付要件」を満たしていなくても、その他の受給要件をクリアしていれば、受給できます)
年金額については後述します。
(2)障害厚生年金の受給要件
障害厚生年金は原則、厚生年金の被保険者が(加入者が)、障害基礎年金を受給している場合、受給することができます。さらに、障害基礎年金を受けていなくても、障害厚生年金だけが支給されることがあります。
障害厚生年金の受給要件を箇条書きで紹介します。以下の条件を満たすと年金が支給されます。
- 厚生年金に加入している間に、初診日がある
- 一定の障害の状態にある(1、2、3級)
- 保険料の納付要件:次の、AまたはBいずれかの要件を満たしている必要があります
A:初診日のある月の前々月までの公的年金の加入期間の2/3以上の期間、保険料を納付しているか、免除されている
B:初診日に65歳未満であり、初診日のある月の前々月までの1年間に保険料の未納がない
年金額については後述します。
4、障害年金の対象者
障害年金の対象者は、厚生年金や国民年金に加入している方で、病気やけがによって生活や仕事などが制限されるようになった場合に受け取ることができます。
障害の程度によって障害等級が設定され、日本年金機構の認定基準以上の障害があることが条件となります。
詳しい障害認定基準は「日本年金機構の障害認定基準」をご覧ください。
対象の病気やケガは、主に以下のものがあげられます。
①外部障がい
眼、聴覚、肢体(手足など)の障がいなど
②精神障がい
統合失調症、うつ病、認知障がい、てんかん、知的障がい、発達障がいなど
③内部障がい
呼吸器疾患、心疾患、腎疾患、肝疾患、血液・造血器疾患、糖尿病、がんなど
5、障害年金の年金額(受け取れる額)
障害基礎年金と障害厚生年金の額(受け取れる額)を紹介します。
(1)障害基礎年金の場合
障害基礎年金の額は以下のように算出します。これは年額です。
- 1級の方:781,700円×1.25+子の加算
- 2級の方:781,700円+子の加算
- 子の加算:第1、2子は1人当たり224,900円、第3子以降は1人増えるごとに75,000円
ここでいう「子」は、18歳到達年度の末日(3月31日)を経過していない子、もしくは、20歳未満で障害等級1または2級の障害者のことです。
そして20歳以下の人の障害基礎年金については、所得制限が設けられています。本人がこれまで一度も保険料を納付していないからです。
障害基礎年金の対象になる本人の所得額が年3,984,000円(2人世帯の場合)を超えると、支給額は半額になります。そして本人の所得額が5,001,000円を超えると、全額支給停止されます。
(2)障害厚生年金
障害厚生年金の額は以下のように算出します。こちらも年額です。
- 1級の方:報酬比例の年金額×1.25+配偶者の加給年金額(224,900円)
- 2級の方:報酬比例の年金額+配偶者の加給年金額(224,900円)
- 3級の方:報酬比例の年金額(最低保障額は586,300円)
報酬比例の年金額は、以下のように計算します。
- 平均標準報酬月額×7.125/100×2003年3月までの被保険者期間の月数+平均標準報酬額×5.481/100×2003年4月以後の被保険者期間の月数
6、障害年金の課題
一般的に年金といえば、現役を退いて収入が減った高齢者の生活を保障する老齢年金のことを指しますが、日本の公的年金には、障害という保険事故を扱った障害年金があります。
また、年金に加入していない20歳未満の人にも、条件はありますが、障害年金は支給されます。
しかし障害年金にも、次のような課題があります。
- 障害年金の額は「等級」という医学的な観点から決められるが、本来はハンディキャップのレベルの観点が必要である
- 仕組みが複雑
- 「等級」の基準が複雑で、障害を負った方がすぐに「いくらもらえるのか」がわからない
いずれも、解決するには財源が必要なので、改善は簡単ではありませんが、よりわかりやすい制度にしていく必要があるかもしれません。
まとめ
障害も老齢も、公的年金の保険事故ですが、障害は老齢と異なり、いつ起きるかわかりません。そして、障害による家計へのダメージは大きく、個人が自分自身で備えることは簡単ではありません。
そのため障害年金は、国民が安心して働くことができる、重要なセーフティーネットということができます。