年金とは、老後や怪我による障害などある一定の要件のもと、国から定期的に支給されるお金のことです。
昨今、少子高齢化の影響もあり、2020年5月に年金の制度を見直した「年金制度改正法」が成立しました。そして2022年4月から施行されています。
今回の記事では、以下についてわかりやすく解説していきます。
- 年金とは
- 年金制度の改革の背景
- 年金制度改革法で改正されたこと
本記事がお役に立てば幸いです。
1、年金とは|年金制度の改革について知る前に
年金制度の改革について説明する前に、まずは年金について簡単に解説しておきましょう。
年金とは
- 老衰
- 怪我
- 病気
などによる、生活上のサポートが必要な人に対して、国から定期的に支給されるお金のことです。
一般的には、老後のイメージが強いかもしれませんが、
- 怪我や病気などで障害を被った方
- 遺族の方
に支払われる年金も存在します。
日本における公的な年金制度は
- 1階部分:20歳以上60歳未満の全国民が入る「国民年金」
- 2階部分:会社員や公務員が入る「厚生年金」
という「2階建て」の構造になっています。
画像出典:日本の公的年金は「2階建て」|厚生労働省
年金についてより詳しく知りたい方は以下の関連記事をご確認ください。
年金とは?1から簡単解説|三階建ての仕組みや課題について
2、年金制度の改革の背景
国民が安心できる年金制度を維持するため、政府は5年ごとに制度改革をしています。
2020年度に行われた制度改革の背景には、主に以下2つのことがあります。
- 少子高齢化による社会への影響
- 持続可能な年金制度の強化
それぞれについて、確認していきましょう。
(1)少子高齢化による社会への影響
少子高齢化が進行する日本では、現役世代が現在の年金システムを支えることは、難しくなるだろうと言われています。
その要因には、従来の年金システムが、「現役世代の人口比率が高齢者世代よりも多い」という前提のもと構築されたものだからだと言われています。
また、医療技術の発達によって、「健康寿命」が長くなっていることも、従来の年金制度に負荷をかけている要因と言われています。
厚生労働省の報告によると、健康寿命は年々上昇し、2016年時点では
- 男性:約72年
- 女性:約74年
となっています。
こうした中で、シニア世代を「人手不足を補う新たな力」として活用することへの期待が高まっています。
加えて、
- 女性の社会進出
- 訪日外国人の増加
などによる労働力の拡大も期待されています。
女性の社会進出とは?男女共同参画社会実現を目指す日本の現状と課題
外国人労働者とは?外国人労働者の受け入れ拡大と注意点について
(2)持続可能な年金制度の強化
従来の日本では、「世代を超えて支え合う」ことができるというピラミッド型の人口構造に基づいて、国民年金をはじめとする年金制度が機能してきました。
1950年時点では、「1人の65歳以上の高齢者を現役世代(15~64歳)12.1人で支える」という計算が成り立っていました。
しかし、2020年時点9月の総務省統計局による人口統計によると、11年連続で人口は減少傾向にあり、総人口は約1億2575万人となっています。
さらに、約3600万人以上が65歳以上の高齢者となっているのです。
画像出典:なぜ今、改革が必要なの?|厚生労働省
このまま人口減少に歯止めがきかなければ、2065年には人口が約8800万人になると予想されてます。
この想定が現実のものとなると「1人の高齢者を現役世代1.3人で支える」という社会になる可能性があります。
政府はこうした危機的事態を解消するため、
- 加入対象者(年金を支える人)の拡大
- 年金保険料の引き上げ
- 受給年齢の繰り下げ
- iDeCoといった非課税の年金制度の促進
などの取り組みを段階的に採用し、持続可能な年金制度の実現を目指しています。
このような経緯を経て、今回の年金制度の改正があります。
参考:年金制度改正法(令和2年法律第40号)が成立しました|厚生労働省
参考:人口推計(令和2年9月確定値)|総務省統計局
参考:令和2年版高齢社会白書(全体版)|厚生労働省
3、年金制度改革法で改正されたこと
年金制度改革法とは、パートタイムや高齢の労働者の生活を充実させることを目的とした制度改革法です。
2020年5月に成立し、6月5日に交付されました。
年金改革法の主な4つの改正ポイントである
- 年金受け取り開始年齢の延長
- 在職老齢年金に対する見直し
- iDeCoの加入・受け取り開始年齢の延長
- 厚生年金加入の対象拡大
について解説していきます。
(1)年金受け取り開始年齢の延長
従来では、公的年金を受け取れる年齢は、60~70歳の間で自由に選ぶことができました。
今回の年金改革法によって、繰り下げ受給の範囲が75歳まで延長され、年金受給のタイミングが60~75歳の間で選択できるようになったのです。
また、「受け取り方」についても改正が行われました。
2021年3月時点では、65歳より早く年金を受け取った場合、「0.5%×繰り上げた月数分」が減額されましたが、2022年4月1日から「0.4%×繰り上げた月数分」に緩和されています。
ちなみに、65歳より遅らせて年金を受け取る場合は、変わらず「0.7%×繰り下げた月数分」の増額のままとなっています。
年金繰上げ受給・繰下げ受給について詳しく知りたい方は以下の記事もご覧ください。
年金繰上げ受給・繰下げ受給とは?違いや仕組みを簡単解説
(2)在職老齢年金に対する見直し
在職老齢年金とは、厚生年金に加入しながら(働きながら)、受け取る老齢厚生年金のことです。
改正前では、60~64歳の「賃金+厚生年金」が月28万円を上回る場合、受給予定分の厚生年金が減額されました。
今回の改正によって、この制度が見直され、その基準が月47万円に引き上げられることになりました。
ちなみに、65歳以上で老齢年金を受給している人については、「月47万円」という基準のまま変更はありません。
(3)iDeCoの加入・受け取り開始年齢の延長
iDeCoとは、確定拠出年金法に基づいて行われている「個人型」の確定拠出年金のことです。
掛け金や運用益が、非課税となるメリットがあります。
2017年より、加入対象者の制限がほぼ無くなったこともあり、年々加入者が増加傾向にあります。
画像出典:年金制度の機能強化のための国民年金法等の一部を改正する法律の概要(参考資料集)|厚生労働省
今回の改正では、iDeCoへの加入年齢を従来の「20~60歳未満」から「20~65歳未満」へ引き上げることが決まりました。
これにより、iDeCoの利用をさらに促進し、老後の資産形成につなげてもらう狙いがあるようです。
その他にも
- 受け取れる年齢の選択肢を「60~75歳」に延長
- 申し込みなどの手続きのオンライン化
などが行われる予定です。
(4)厚生年金加入の対象拡大
従来では、パートなどで働く短時間労働者は、「従業員501人以上の企業での勤務」という条件を満たさなければ厚生年金に加入できません。
そのため、パートタイマーは厚生年金を受け取れない場合が多く、「将来受け取る年金額が十分ではない」との声が多くありました。
今回の改正により、上記の企業条件の段階的な緩和が決定し、厚生年金の適用対象が短時間労働者も含むよう拡大されることになりました。
具体的には
- 2022年10月から「101人以上」
- 2024年10月から「51人以上」
というように企業規模の条件が緩和されていく予定です。
この拡大によって、厚生年金の新規加入者が
- 2022年の時点:約45万人の増加
- 2024年の時点:約20万人の増加
することが見込まれています。
参考:年金制度改正法(令和2年法律第40号)が成立しました|厚生労働省
参考:年金制度の機能強化のための国民年金法等の一部を改正する法律の概要|厚生労働省
まとめ
2020年における年金制度の改革は、60歳以上の就労意欲を高めることで、現役世代にかかる負担を解消することを目的としたものです。
人生100年時代といわれる近年、「定年」という固定観念を越えて、新たなライフスタイルや働き方を目指す姿勢が必要なのかもしれません。