社会保障とは、国民の生存権を確保するための公的な保障です。
今回の記事では
- 社会保障とは
- 社会保障制度の目的
- 具体的な社会保障制度
- 高齢化で増大する社会保障費
- 社会保障関係費と社会保障給付費の違い
について、わかりやすく解説します。
本記事がお役に立てば幸いです。
1、社会保障とは
社会保障とは、日本国憲法第25条の「生存権」を確保するための保障です。
日本国憲法25条を確認してみましょう。
第二十五条 すべて国民は、健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する。
条文引用元:日本国憲法 e-Gov
条文から社会保障には、「国民の健康で文化的な最低限度の生活を営む権利」を保障する役割があることがわかります。
国民の生活を支える社会保障は、主に以下4つの分野に分けられます。
- 年金
- 医療
- 介護
- 育児
それぞれについて見ていきましょう。
(1)年金
日本には、老後の社会保障として「国民年金制度」があります。
国民年金制度とは、老後に必要な生活費を国が保障する社会保障です。
国民年金制度には、老齢年金の他に「障害年金」と「遺族年金」があります。
年金とは?1から簡単解説|三階建ての仕組みや課題について
障害年金とは?病気やケガで後遺症が残ったときの生活保障について
遺族年金とは?受給要件や年金額についてわかりやすく解説
(2)医療
日本では、すべての国民が医療保険に加入します。
保険料の負担額は、各個人の所得に応じて決まります。医療にかかる負担金額は、原則3割です(1,000円の医療費の場合、国民負担額は300円)。
また、個人の労働形態によって、主に4つの種類の医療保険に分けられます。
- 国民健康保険
- 協会管掌健康保険
- 組合管掌健康保険
- 共済組合
画像引用元:図表3-4-3 各種医療保険制度の概要 第3章 日本の社会保障の仕組み 厚生労働省
(3)介護
日本では、2000年から「介護保険制度」が始まりました。
介護保険制度とは、介護が必要な場合に、介護費用の一部を国が負担する制度です。
介護保険に加入できるのは、40歳以上の国民です。
保険料は所得に応じて決まり、65歳以上の高齢者の介護保険料は公的年金から天引きされます(天引きには条件があります)。
参考:年金Q&A (年金からの介護保険料などの徴収) 日本年金機構
(4)育児
育児に対する社会保障には
- 保育所の設置
- 児童手当、児童扶養手当の支給
- 乳児院、児童養護施設、自立支援施設の運営
などがあります。
参考:第3章 日本の社会保障の仕組み 第1部 社会保障を考える 厚生労働省
2、社会保障制度の目的
社会保障制度には、主に
- 生活の保障、生活の安定
- 個人の自立支援
- 家庭機能の支援
の3つの目的があります。
(1)生活の保障、生活の安定
個人では対応できない不測の事態が発生した場合、社会の支え合いという考えのもと、社会保障によって安定した生活の維持を図ります。
(2)個人の自立支援
障害の有無や年齢によって差別されることなく、尊厳ある自立した生活を送るために、社会保障によって、個人の自立を支援します。
(3)家庭機能の支援
親の介護や老親扶養など、変化する家庭環境に対応するために、社会保障によって社会的支援を行います。
3、具体的な社会保障制度について
社会保障における
- 社会保険制度
- 社会福祉制度
- 公的扶助制度
- 保健医療、公衆衛生
についてご紹介します。
(1)社会保険制度
社会保険制度には、
- 医療保険
- 年金保険
- 介護保険
- 雇用保険
- 労災保険
などが含まれます。
ここでは
- 雇用保険
- 労災保険
について解説します。
①雇用保険
雇用保険とは、失業や再就職に手当や給付を行う保険です。
雇用保険は、
- 雇用期間が31日以上
- 1週間の所定労働時間が20時間以上
などの条件を満たす労働者に適用されます。
育児休業給付金、介護休業給付金も雇用保険の1つです。
参考:適用基準及び加入手続 厚生労働省
参考:雇用保険制度の各種給付の概要 厚生労働省
②労災保険
労災保険とは、業務または通勤中に負傷・疾病・障害を抱える又は死亡した場合に、労働者及び遺族に給付を行う保険です。
労災保険には
- 休業補償給付
- 療養補償給付
- 遺族(補償)給付
- 葬祭給付
などもあります。
(2)社会福祉制度
社会福祉制度には
- 子ども
- 障害者
- 高齢者
などへの支援があります。
ここでは、
- 障害者
- 高齢者
に対する社会福祉制度について解説します。
①障がい者向けの社会福祉制度
障がい者向けの社会福祉制度には
- 介護給付
- 訓練等給付
の2つがあります。
画像引用元:障害福祉サービスの概要 障害福祉サービスについて 厚生労働省
介護給付とは
- 居宅介護
- 訪問介護
などの生活に必要な介護をサポートする給付です。
訓練等給付とは、自立訓練や就労支援など、就労を希望する人をサポートする給付を指します。
②高齢者向けの社会福祉制度
高齢者向けの社会福祉制度には
- 年金
- 医療保険
- 介護保険
があります。
上記の他に、社会福祉制度には
- 高齢者の住まいを支援する「シルバーハウジング」
- 高齢者向け優良賃貸住宅
- 高齢者専用賃貸住宅
なども含まれます。
参考:シルバーハウジング・プロジェクト 厚生労働省
参考:II.社会福祉 知るぽると 金融広報中央委員会
(3)公的扶助制度
公的扶助制度には、「生活保護制度」と「生活福祉資金貸付制度」が含まれます。
①生活保護制度
生活保護制度とは、最低限の生活に必要な8つの扶助に対して支給がされる制度です。
8つの扶助には
- 生活扶助(食費、光熱費等)
- 住宅扶助
- 教育扶助
- 医療扶助
- 介護扶助
- 出産扶助
- 生業扶助
- 葬祭扶助
があります。
参考:生活保護制度 厚生労働省
②生活福祉資金貸付制度
生活福祉資金貸付制度とは
- 低所得世帯
- 障害者世帯
- 高齢者世帯
- 失業者世帯
などに必要な貸付を行う制度です。
資金の種類には、以下4つがあります。
- 総合支援資金
- 福祉資金
- 教育支援資金
- 不動産担保型生活資金
参考:2.生活福祉資金貸付制度 知るぽると 金融広報中央委員会
(4)保健医療、公衆衛生
保健医療、公衆衛生には、
- 予防接種や健康診断などの疾病の予防
- 母子の保健
- 食品や医薬品の安全性の確保
などが含まれます。
参考: 社会保障制度とは 厚生労働省
4、高齢化で増大する社会保障費
日本の社会保障費は、国の一般会計歳出の約1/3を占める、1番大きい項目です。
社会保障費は年々増加し、国の財政を圧迫しています。
2021年度の予算案では、一般会計歳出総額106兆6097億円のうち、社会保障費は35兆8421億円となり、過去最高額となりました。
ここでは
- 社会保障費とは
- 社会保障費が増大している理由
- 社会保障費増大に対する政府の見解
- 持続可能な社会保障への取り組み
について解説していきたいと思います。
(1)社会保障費とは
社会保障費とは、前述の「社会保障」にかかる費用を指します。
下記は社会保障給付費の内訳グラフです(2020年度予算ベース)。
年金、医療、福祉の順に費用が大きくなっていることがわかります。
グラフ引用元:社会保障の給付と負担の現状(2020年度予算ベース) 厚生労働省
(2)社会保障費用が増大している理由
社会保障費増大の原因の1つは、人口の高齢化です。
日本の高齢者が総人口に占める割合は、2020年時点で過去最高の約28%を記録しています。
他国と比較しても、急速に高齢化が進んでいると言えます。
グラフ引用元:8 なぜ社会保障費は増えるのか 財務省
こうした高齢化に伴い社会保障費は増大し、1人あたりの社会保障給付費も増加しています。
グラフ引用元:2 社会保障負担等の増加 内閣府
(3)社会保障費用増大に対する財務省の見解
財務省では、2022年に団塊世代(1947~50年に生まれた、他の世代よりも人口が多い世代)が後期高齢者(75歳以上)になっていくため、今後も社会保障費は増大し続ける可能性があるという見解を示しています。
グラフ引用元:図2 日本の人口ピラミッド 「人口ピラミッド」から日本の未来が見えてくる!?~高齢化と「団塊世代」、少子化と「団塊ジュニア」~ 総務省統計局
また、75歳以上になると、医療や介護の費用も増えることから、今後社会保障制度をどのように維持していくのかが課題となっています。
画像引用元:9 社会保障費は今後も増えるのか 財務省
(4)持続可能な社会保障制度構築に向けた取り組み
政府では、持続可能な社会保障制度のために「社会保障と税の一体改革」を行っています。
社会保障と税の一体改革とは
- 全世代型の社会保障制度の実現
- 社会保障費の財源の安定
を目的とした改革です。
全世代型の社会保障制度とは、従来の高齢者中心の社会保障から、子育て世代への社会保障を充実させる制度です。
この制度により、今までよりも子供を育てやすい環境の実現を図っています。
画像引用元:10 消費税引上げによる増収分はどのように使われるのか[1]
また、社会保障費の財源を安定化させるため、段階的な消費税率の引き上げを導入しました。
これにより、消費税率は2019年10月に、8%から10%に引き上げられました。
5、社会保障関係費と社会保障給付費の違い
社会保障費には
- 社会保障関係費
- 社会保障給付費
があります。それぞれについて見ていきましょう。
参考:平成30年度 社会保障費用統計 国立社会保障・人口問題研究所
(1)社会保障関係費
社会保障関係費とは、国の一般会計歳出のうち、年金・医療・介護などの社会保障にかかる費用の総額を指します。
社会保障関係費は、
- 「年金医療介護保険給付費」
- 「生活保護費」
- 「社会福祉費」
- 「保健衛生対策費」
- 「雇用労災対策費」
などに分類されます。
社会保障関係費の財源は、国の税収と公債金収入です。
2018年度の社会保障関係費は、約32兆 9,732億円でした。
参考:1 日本における社会保障の規模を表す指標 資料4 社会保障給付費の範囲について 厚生労働省
(2)社会保障給付費
社会保障給付費とは、実際に社会保障に使われた金額(給付)の総額です。
国立社会保障・人口問題研究所が、ILO(国際労働機関)の基準に沿って毎年発表しています。
社会保障給付費の財源は、保険料や国や都道府県市町村の税収です。
2018年度の社会保障給付費は、約121兆5,408億円でした。
まとめ
本記事では社会保障について解説しました。
高齢化に伴い、持続可能な社会保障制度の実現が求められています。
安心して老後を迎えるためにも、1人1人が社会にとって何ができるのかを考えていく必要もあるかもしれません。